夢に繋がる架け橋(短編集)

木立 花音

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呪いの万年筆(文芸・コメディ)

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お題⇒ 月、悪魔、万年筆

* * *

 私の名前は万年筆子まんねんひつこ
 北海道札幌市。公立道北高校に通う二年生。
 私にはひとつだけ秘密がある。そう、考えるだけでも、眼帯の奥に隠した右目が疼いてしまうほどの秘密が。くくく……。

 まあ、眼帯などしていないのだけれど。

 あまり焦らすのも野暮というもの。ここで私の秘密を公開しようと思う。
 ほくそ笑んで私は、机の中から一冊のノートを取り出した。額にじんわりと汗が滲み、反射的に周囲を見渡した。大丈夫、昼休みも終わり近い今ならば、教室には殆ど誰もいない。
 そもそも、「ノロイ」等というあだ名で呼ばれている私に、話しかけてくるクラスメイトなんて殆どいないのだが。

 黒い背表紙のノートをさっと広げて鉛筆を手に取る。
 これは……名前を書いた人間を心臓発作で殺すことができるという呪いのノート。
 あれは一週間前の満月の夜だったか。私の部屋に突如現れた悪魔が私に授けたものだ。死神じゃないのはお題の都合なのであしからず。

「さあ、誰の名前を書いてやろうか?」

 展開が唐突なのは文字数の関係だから気にしないでください。
 
 ──先ずは一人目。

「数学教師の田中」

 がりがり。
 罪状。テスト範囲の詐称。
 お前は確かにあの日言った。次のテストはここから出すからな、と。
 だがしかし! 実際に出されたのは翌日授業で習った連立方程式だった。私が方程式を苦手と知っての狼藉か!? 呪われてシネ!

 ──二人目。

「英語教師の佐藤」

 がりがり。
 罪状。融通の利かない頭。心の狭さ。
 ああ、元を正せば確かに私が悪い。テストで「my name is mitiruootuka」と書いたのは私だ。
 最初の文字は大文字? 知ってるわそんなもん耳にタコができるわたわけ。だが別にいいじゃねえか大文字だろうが小文字だろうが、スペルは全て合っているんだから。
 それを聞く耳も持たずに不正解にして結果私は百点を逃した!
 人生最初で最後になるかもしれない百点だったのに! 
 この恨み絶対に忘れない。人相の悪い黒人に道を尋ねられ、狼狽うろたえてしまう呪いをうけてシネ!

 ──三人目。

「体育教師の渡辺」

 がりがり。
 罪状。女性差別。
 今も忘れない一ヶ月前の体育の授業。生理なのでプール授業を休ませてくださあい (はあと)と甘い声で言った私を、「冗談言ってないで、さっさと着替えてこい」とお前は一蹴した。
 分かるのか? 貴様に? 女の子の日の辛さを? どれだけの痛みなのかを?
 ……信じられん。
 美少女フィギュア収集の趣味がバレて生徒たちから総スカンされる呪いをかけてやる。シネ!

「おーいミツル。さっさと来いよ? 次の授業移動教室だから間に合わなくなんぞ?」

 その時突然聞こえた声に驚き、私は顔を上げた。
 視界の先、腰に手を当て仁王立ちしているのは、煮雪侑にゆきゆう。なにかと私に絡んでくる忌々しいクラスメイトの女子。本当にどういう訳か知らないが、こいつだけは話かけてくるのだ。八方美人も大概にせい、と言ってやりたい気分。
 こいつにはちょっとした秘密があって、本人いわく、三日間だけ時間を巻き戻す超能力があるとかなんとか。
 話が突飛すぎるだろうけれど、これは他作品の宣伝を兼ねている為なのであしからず。
 まったく、なによその設定?
 中二病もたいがいにして欲しいもんだわ。だいたい非現実的なのよ──

「まーた変なノート書いてる。なになに?」
「だいたいね、私の名前、万年」
「はいはい」

 華麗に聞き流し、手元を覗き込んでくる侑。肩口まで伸ばされた茶髪がふわりと落ちて、爽やかなミントの香りが漂った。運動部特有の、汗臭さを隠すためのまやかしね。その前に貧相な胸をどうにかしなさいな。
 とたん、アハハと笑い始める侑。

「な、なによ。失礼ね! このノートはね」
「あーはいはい。書いた人間が死ぬノートだっけ? そういう事にしておくから、中二病もたいがいにしなさい」

 アンタにだけは言われたくないわ! 私の密かな楽しみを邪魔しないでよね!

「でも、悪いのは、全て彼ら教師の方なのよ。そもそも」
「テスト範囲はさ、田中が言ってたじゃん。ここと、明日の授業の内容と、どちらかから出すって。勝手にヤマ張って外したのはアンタでしょ?」
「ぐあっ……」
「英語のスペルの件だってそう。間違ってるもんは間違ってるんだから、いい加減に認めなさいよ? そもそもそれ、去年の話じゃん? 根に持ちすぎ」
「ぐへっ」
「あと生理を理由に体育の授業を休むのはさすがに無理だわー」
「ど、どうしてよ! 生理の辛さなら侑だってよく知ってるでしょ──」
「だって」

 ここで侑は、神妙な面持ちで言葉を切った。

「そもそもお前の名前ミツルだし。それにお前、男の娘じゃん」

「ぐはっ」

「ほら、遅くなるよ。私先に行ってるかんね~」

 手をひらひらさせて去って行く侑の背中を見ながら、私──いや、僕は机の上につっぷした。

~おーしまい~

◇◇◇

煮雪侑は、「3日戻したその先で、私の知らない12月がくる」の主人公です。(宣伝)
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