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140字掌編色々その③
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あの葉っぱが全部落ちたら、私死ぬのかな。
病室の窓から楓の木を見て姉が呟く。
悲しい事言うなよ、と僕は憤ったが、皮肉にも彼女の宣言通りになった。
あれから一年。
同じ病室から散りゆく枝の葉を数えている。楓の木が看取るのは、今度は僕になったらしい。
遺伝性の病って本当なんだ。
*
窓から見上げた空は曇天。降っているのは冷たい雨。
ああ、あの方は何処に行ってしまわれたのかしら?
幸せだった日々を思い出し、矢も盾もたまらず私はレインコートを羽織り外に飛び出した。
こんな事をしても無駄だというのに。
私、本当に諦めの悪い女。
ああ、思い出した。爺さんなら去年死んだわ。
*
文化祭。演劇の主役をつとめる僕。
緊張気味にステージ袖から顔を出し、観覧席を見渡した僕の背中を、幼馴染の彼女が笑いながら叩いた。
「大丈夫、やれるよ。ずっと君の背中だけを見てきた私が言うんだから間違いない」
*
風呂上り。下着姿で仁王立ちする娘。
顔を背けると、もしかして、実の娘に欲情しちゃった? とからかってくる。
そんな訳あるかと弁解するが、しっかり体は反応していた。
だって君は、ミライから来た娘。今は俺と、七つしか歳が違わない。
※「冴えない俺と、ミライから来たあの娘」のサイドストーリーです。
*
仕事終わり。悴んだ手に息を吐きかけ自宅を目指す俺。
今日も上司に怒られた。うだつのあがらない五年目の商社マン。
溜め息を落とし顔を上げたその時、視界の隅に色とりどりの電飾が映る。
そうか、今日はクリスマス。こんな俺でも、家に帰ればヒーローだ。
娘が欲しがっていたものなんだったかな?
*
「ハイ、じゃあこれで終わり」
勉強道具を片付け始めた先生に、僕は声をかけた。
「僕は過去から来た人間で、本当は先生より年上なんだって言えば付き合ってくれますか?」
「なにそれナンパ? 家庭教師に手を出すとか最低な生徒ね」
でも、と彼女は悪戯に笑う。
「私、未来から来た君の娘なの」
*
「さようなら」下界を覗き込んだ時、誰かの指先が僕の頬に触れた。
羽音と共に、死んだはずの彼女が其所にいた。
いい? 君はまだこちらに来てはいけない。
生きて、私が存在していた証を、伝え続けてください。
大丈夫。
私はずっと、あなたの心の中にいる。
だから、おじいちゃんになったら会いにきてね。
※まかろんK様のイラストからイメージして作ったSSです。
*
「私の名前忘れないでね」
そう言って君が旅だってから、もう何年が過ぎただろうか。
今日俺は、妻と娘に看取られて、君の所に向かう。
漸く会えるね。今度は対等な立場で。
そちらの空は何色ですか? こちらは──
窓の外見える宮古の空は、あの日と変わらず青かった。
※「あの日見た空の色も青かった」のアフターストーリーとして作ったSSです。
*
幼馴染の彼と一緒に初詣。
今年で五回目。賽銭を入れ手を合わせた。
今年もいいことありますように。
「でも俺、神様って信じてないんだよね。お前も?」
なんて訊いてくる彼。
「神様なんて、いる訳ないじゃん」
と調子を合わせ、恋愛成就のお守りと嘘をそっと隠した。
今年こそいいことありますように。
※第三回140字小説コンby1分小説で、ピックアップして頂きました。
*
あの日見上げた空は、青だったのか曇天だったのか。
それすらももう、思い出す事は叶わない。
卒業して二年。
お互いの事を忘れ、私たちは日々必死に生きている。
仕事を終え、自宅アパートのポストを覗くと二通の手紙。
一つめは友人から届いた同期会の誘い。
もう一つは……ああ、今年も春が訪れる。
※「見上げた空は、今日もアオハルなり」のアフターストーリーとして作ったSSです。
*
先輩ネコが、路上にごろんと寝転がる。
熊とでくわした時はこうするんだ。
なんですかそれは?
知らんのか。死んだ振りだ。
でもここ、港ですよ?熊出ませんよ?
バカもん。油断は禁物だ。常にこうして身構えていないと。
あ、クルマ来ましたよ。
ひぎゃっ!!
*
あ~あ、こうして思うと、あっと言う間の三年間でした。
──大学合格おめでとう。
ありがとう。志望校ダメだったけど、浪人生にならなくて良かったよ。
──でも国立じゃん。たいしたもんだよ。
褒めても何もでませんよ?
学び舎に背を向け私は歩き始める。
卒業報告。こんな感じであの人に届くといいな。
*
火事になった時さあ、何持って逃げる?
枕。
いや、もう起きてるならいらんだろ。それに、枕だけじゃ寒い。
パンツ。
ああ、替えは必要だもんな。いや、別の持とうよ。
魚介類。
ああ、燃えちまったら商売にならねえもんな。
いいからさっさとネタ握れ!
大将の叫び声が聞こえた。
ハイ、すいません。
*
まだかな~
ん~まだかな~
バスを待っている一人の少女。
雨の日も風の日も待っている少女。
ところが今日は彼女がいない。
引っ越ししたんですかね? とバイト先の先輩に尋ねると、そんな子はいなかったぞと言う。 ああ、あのバス停付近で、暴走車に轢かれた子の命日今頃だな。 きっと成仏したんだろ。
ああ、あのバス停付近で、暴走車に轢かれた子の命日今頃だな。 きっと成仏したんだろ。
*
ひと気のない昇降口を潜り、誰もいない廊下を進み、教室に入ると彼が使っていた席に突っ伏した。
春らしい日差しを頬で感じ、薄れ始めた足を見つめた。
事故があった夜から、置き去りにしてきた記憶が脳裏を過る。
「大好き」と呟く声は、誰の元にも届かない。でも、
これでやっと成仏できそう。
140字小説「卒業」
*
空はまるで蓋を閉じたような曇天。
卒業間近、失恋をした僕の心もまた。
「どうしたの」
と頬杖をつき、問い掛けてくる幼馴染。
「告白したけどフラれた」
「バカだねえ。手近な女にしておけばいいのに。私の隣、何時でも空いてる。ところで春から同じ大学だね宜しく」
その時、僕の心の扉が開いた。
140字小説「手近な女」
*
画像は、ミカスケ様のフリーイラストと、フリー素材を使っています。
病室の窓から楓の木を見て姉が呟く。
悲しい事言うなよ、と僕は憤ったが、皮肉にも彼女の宣言通りになった。
あれから一年。
同じ病室から散りゆく枝の葉を数えている。楓の木が看取るのは、今度は僕になったらしい。
遺伝性の病って本当なんだ。
*
窓から見上げた空は曇天。降っているのは冷たい雨。
ああ、あの方は何処に行ってしまわれたのかしら?
幸せだった日々を思い出し、矢も盾もたまらず私はレインコートを羽織り外に飛び出した。
こんな事をしても無駄だというのに。
私、本当に諦めの悪い女。
ああ、思い出した。爺さんなら去年死んだわ。
*
文化祭。演劇の主役をつとめる僕。
緊張気味にステージ袖から顔を出し、観覧席を見渡した僕の背中を、幼馴染の彼女が笑いながら叩いた。
「大丈夫、やれるよ。ずっと君の背中だけを見てきた私が言うんだから間違いない」
*
風呂上り。下着姿で仁王立ちする娘。
顔を背けると、もしかして、実の娘に欲情しちゃった? とからかってくる。
そんな訳あるかと弁解するが、しっかり体は反応していた。
だって君は、ミライから来た娘。今は俺と、七つしか歳が違わない。
※「冴えない俺と、ミライから来たあの娘」のサイドストーリーです。
*
仕事終わり。悴んだ手に息を吐きかけ自宅を目指す俺。
今日も上司に怒られた。うだつのあがらない五年目の商社マン。
溜め息を落とし顔を上げたその時、視界の隅に色とりどりの電飾が映る。
そうか、今日はクリスマス。こんな俺でも、家に帰ればヒーローだ。
娘が欲しがっていたものなんだったかな?
*
「ハイ、じゃあこれで終わり」
勉強道具を片付け始めた先生に、僕は声をかけた。
「僕は過去から来た人間で、本当は先生より年上なんだって言えば付き合ってくれますか?」
「なにそれナンパ? 家庭教師に手を出すとか最低な生徒ね」
でも、と彼女は悪戯に笑う。
「私、未来から来た君の娘なの」
*
「さようなら」下界を覗き込んだ時、誰かの指先が僕の頬に触れた。
羽音と共に、死んだはずの彼女が其所にいた。
いい? 君はまだこちらに来てはいけない。
生きて、私が存在していた証を、伝え続けてください。
大丈夫。
私はずっと、あなたの心の中にいる。
だから、おじいちゃんになったら会いにきてね。
※まかろんK様のイラストからイメージして作ったSSです。
*
「私の名前忘れないでね」
そう言って君が旅だってから、もう何年が過ぎただろうか。
今日俺は、妻と娘に看取られて、君の所に向かう。
漸く会えるね。今度は対等な立場で。
そちらの空は何色ですか? こちらは──
窓の外見える宮古の空は、あの日と変わらず青かった。
※「あの日見た空の色も青かった」のアフターストーリーとして作ったSSです。
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幼馴染の彼と一緒に初詣。
今年で五回目。賽銭を入れ手を合わせた。
今年もいいことありますように。
「でも俺、神様って信じてないんだよね。お前も?」
なんて訊いてくる彼。
「神様なんて、いる訳ないじゃん」
と調子を合わせ、恋愛成就のお守りと嘘をそっと隠した。
今年こそいいことありますように。
※第三回140字小説コンby1分小説で、ピックアップして頂きました。
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あの日見上げた空は、青だったのか曇天だったのか。
それすらももう、思い出す事は叶わない。
卒業して二年。
お互いの事を忘れ、私たちは日々必死に生きている。
仕事を終え、自宅アパートのポストを覗くと二通の手紙。
一つめは友人から届いた同期会の誘い。
もう一つは……ああ、今年も春が訪れる。
※「見上げた空は、今日もアオハルなり」のアフターストーリーとして作ったSSです。
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先輩ネコが、路上にごろんと寝転がる。
熊とでくわした時はこうするんだ。
なんですかそれは?
知らんのか。死んだ振りだ。
でもここ、港ですよ?熊出ませんよ?
バカもん。油断は禁物だ。常にこうして身構えていないと。
あ、クルマ来ましたよ。
ひぎゃっ!!
*
あ~あ、こうして思うと、あっと言う間の三年間でした。
──大学合格おめでとう。
ありがとう。志望校ダメだったけど、浪人生にならなくて良かったよ。
──でも国立じゃん。たいしたもんだよ。
褒めても何もでませんよ?
学び舎に背を向け私は歩き始める。
卒業報告。こんな感じであの人に届くといいな。
*
火事になった時さあ、何持って逃げる?
枕。
いや、もう起きてるならいらんだろ。それに、枕だけじゃ寒い。
パンツ。
ああ、替えは必要だもんな。いや、別の持とうよ。
魚介類。
ああ、燃えちまったら商売にならねえもんな。
いいからさっさとネタ握れ!
大将の叫び声が聞こえた。
ハイ、すいません。
*
まだかな~
ん~まだかな~
バスを待っている一人の少女。
雨の日も風の日も待っている少女。
ところが今日は彼女がいない。
引っ越ししたんですかね? とバイト先の先輩に尋ねると、そんな子はいなかったぞと言う。 ああ、あのバス停付近で、暴走車に轢かれた子の命日今頃だな。 きっと成仏したんだろ。
ああ、あのバス停付近で、暴走車に轢かれた子の命日今頃だな。 きっと成仏したんだろ。
*
ひと気のない昇降口を潜り、誰もいない廊下を進み、教室に入ると彼が使っていた席に突っ伏した。
春らしい日差しを頬で感じ、薄れ始めた足を見つめた。
事故があった夜から、置き去りにしてきた記憶が脳裏を過る。
「大好き」と呟く声は、誰の元にも届かない。でも、
これでやっと成仏できそう。
140字小説「卒業」
*
空はまるで蓋を閉じたような曇天。
卒業間近、失恋をした僕の心もまた。
「どうしたの」
と頬杖をつき、問い掛けてくる幼馴染。
「告白したけどフラれた」
「バカだねえ。手近な女にしておけばいいのに。私の隣、何時でも空いてる。ところで春から同じ大学だね宜しく」
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