夢に繋がる架け橋(短編集)

木立 花音

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眼鏡しか勝たん(文芸・コメディ)

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「眼鏡がどれだけ似合っているか、を基礎点数として、それを(体重÷身長×身長)で割ったらどうかと思うんだ」

 それは、休み時間に入るなり始まった、バカな友人の一言で始まった。

「BMI係数?」
「早合点するな。いいか、俺の話をよく聞け」と言って彼は、この二年C組の教室を見渡した。いつになく真剣な声に気圧されて、「お、おう」と思わず間抜けな声が出る。でもそれ、BMI係数ですよね。
「このクラスに、眼鏡をかけた女子は五人いる」
「そうだっけ?」
「そうだ。そんなことも把握していないのか。ちなみに、一番眼鏡の女子が多いのはA組で、六人だ」
「いや、普通は把握しようとも思わない」

 クラス替えが行われてから数ヶ月。顔と名前は概ね覚えているものの、眼鏡が何人とか数えたこともない。そんなことをいちいち把握しているのは、重度の眼鏡っ子オタクであるコイツだけなんじゃ?

「そこでだ。最近ちょっと考えていたんだが、彼女らに俺なりの独自集計でランクづけをしてみようかと」
「それがさっきの公式というわけか」
「夜だけ寝て考えた」
「健康的で、文化的な生活」

 暦は七月に移り、蒸し暑い日々が続いていた。この暑さでついに頭がヤラれたのか。それともこれが奴の正常なのか。どうでもいいけどなぜ俺は巻き込まれているのだろう。そもそも、身長はともかくとしてどうやって体重のデータなんて仕入れる気なんだコイツは。むしろもう仕入れているのか?
 ん?
 体重といえば、クラスのマドンナ日向夏美ひなたなつみも眼鏡女子だ。これは、日向の身長と体重のデータを知るチャンスなのでは? お、悪くないぞ。

「なかなかどうして、よく考えられているじゃないか」
「だろう?」

 あとでこっそり教えて貰おうっと。
 小動物のような小顔。小柄だが出るところはしっかり出ていて、おさげ髪が物静かな文芸女子を思わせてその実快活で器量よし。赤ぶちの眼鏡はその魅力を半減させるどころか完全にバフアイテムだ。彼女のファンは俺含めて実際多い。まあ、どう考えても一位は彼女だろうがな。

「では五位からの発表だ。ドゥルルルルルルル……」

 もったいぶった発表手順きたこれ。

「日向夏美だ」
「なんでだよ!!」
「ちょっとそこの男子! なに大きな声で騒いでんの!」
「はい、すみません!」

 近くの席に居た女子に凄い顔で睨まれて、俺と友人の背筋が一緒に伸びた。

「おい、急にデカい声をだすなよ」
「いや、すまん。でもよ、どう考えても日向が五位はあり得ないだろう?」 
「ふふふ。甘いなあ。確かに日向の外観はクラスでも随一だ。赤ぶち眼鏡もよく似合っているしセンスがいい」
「なら」
「だが、彼女には致命的な欠点がある。学校でこそ眼鏡女子の彼女だが、デートに行くときだけはコンタクトなのだ」
「おい! 日向さんって彼氏いるのかよ!」
「声がデカい!」

 再びさっきの女子に睨まれた。どうもすいません。

「そうだ。それはさておき」

 さておきじゃねえよぉ。なんで俺このタイミングで失恋してんだよお。

「デートの時だけコンタクトに変えるということは、眼鏡よりも、コンタクトをしている方がスマートな見た目であると日向自身が認めてしまっているということだ。……間違いない。彼女のもとに、悪の秘密結社『コンタク党』の魔の手が伸びている証だ。おのれ、コンタク党め……。よって、裏切り者の日向は五位だ!」
「コンタク党?」

 基礎点数どこいったんだよ。どういう補正がかかってそうなるんだよ。というか、なんかまた変な名称が出てきたが、あまり突っ込まないでおこう。

「眼鏡をかけている女子を見つけては、度がぴったりのコンタクトレンズをプレゼントして回る悪の組織だ」

 勝手に説明をされてしまった。いや、思いの外いい奴らなんじゃ?

「というわけで、日向のことは忘れ、気を取り直して四位の発表といこう」
「お、おう」

 お前の妄想はどうでもいいけど、俺は日向に未練タラタラだぞ。悪いけどあと三日と十二時間くらい引きずるぞ。
 あと、クラスの女子で眼鏡をかけた美少女といえば宮園みやぞのか? 大方、彼女が一位ってところだろうが。

宮園春香みやぞのはるかだ」
「だから、なんでそうなる!! お前の目は節穴なのか!」
「確かに、黒髪ロングでクールな見た目通りに成績もよい彼女は間違いなく才色兼備。一見すると死角がない。俺の集計データでも、彼女のBMI係数は18だ」
「やっぱりBMI係数なんじゃねーか。というかシンデレラ体重じゃん素晴らしい! ……なぜそれで点数が低くなるんだ?」
 
 そうか、やっぱり宮園ってスタイルいいなーというかそのデータどうやって入手しているの?

「だがしかし。彼女はさして視力が悪くない、というデータがある。授業中黒板の文字が見えないから『しかたなく』眼鏡をかけているらしく、リラックスしているとき、もしくは部活動、あるいは家にいる時などプライベートタイムでは眼鏡を外すという情報がある」
「部活動はともかく、家での様子とかよく知っているな」
「風呂でも外すらしい」
「いや、風呂では普通外すだろ。……おい。お前、間違ってもストーカー行為とかしていないよな」
「するわけがなかろう。これは、その筋からの情報だ」

 その筋ってどの筋だよ。というか、なぜいま目を逸らした?

「彼女は、一日のうち眼鏡をかけている時間が全体の33%しかない。よって、最終計算式に0.33を掛け算してかなり減点されてしまうのだ。残念ながら話にならん」
「視力は悪くないんだから、むしろいいことなんじゃ」
「なんだと?」
「あ、すいません」

 ここから、三位高梨たかなしさん。二位桐生きりゅうさんと無難な順位発表が続いた。

「ん、ということは必然的に一位は……」
「そうだ。加藤玲奈かとうれいなだ」

 そうか。まだ加藤がいたか。茶髪のツインテール。快活そうな見た目通り明るい性格の彼女にオーバルタイプの黒ぶち眼鏡は一見するとミスマッチだが、むしろそのギャップこそが彼女の魅力を引き立てる。

「そうだよ! 加藤がいた! 日向がダメでも俺には加藤がいたぞブラボー!」
「ふふふ。どうやら、君にもようやく眼鏡女子の魅力というものが理解できてきたようだね?」

 なんだかこいつの口車に乗せられた気もするが、こうして改めて思うと、加藤ってめっちゃ可愛いよな。
 いま、この瞬間。新しい恋が始まる予感がした。俺さあ、こう見えて、恋しちゃってるんです。

『眼鏡しか勝たん!』

 二人でがっしり握手を交わしたそのとき、真横から女子の声がした。

「ん、私がどうかしたの?」
「か、加藤……!」

 しまった。今の話どこからどこまで聞かれていた? 

「いやね。加藤の黒ぶち眼鏡がやっぱり一番だなあって思ってな」
「お、おいバカ」
「ああ、これ?」

 と言った加藤の指が、眼鏡のレンズをスカっと通過する。え? 通過?

「この眼鏡伊達なの。わたしチャラいイメージに見られがちだからさ。イメージチェンジにいいかなって」
『失格だ!!』
「なにが!?」
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