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140字掌編色々その④
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初体験は中一だった。快楽を私に教え込んだ先生は、懲戒免職でいなくなった。
あれから十年。「あの時、救えなくてごめんね」と、大人になった私は先生のアパートの前で呟く。
当時二番目だった私は、今日、あなたの一番になります。
ようやく突きとめた、一番のあの人を殺して。
*
卒業式の日、校舎をバックに友人と写真を撮った。ちょうど一年前、先輩を撮ってあげたのと同じ構図だ。
「卒業しました。先輩の歳、追い越しましたよ三日だけ」と先輩に向けてメールを送る。
今日もメールは届かない。「俺、年上がいいんだ」と無理難題を押し付けてきた先輩はもういない。
*
私の学校には、相手の誕生日に告白すると両想いになれるとの伝説がある。「頼む。委員長の誕生日を教えて欲しい」と幼馴染の彼が懇願してくる。私と委員長は友達だ。私にしか頼めないらしい。
いいよ、私は誕生日に詳しいからね。委員長のにも。もちろん君のにも。
#140字小説「誕生日とジンクス」
*
「地の文が多いとエタるらしい」
「マジか」
「え、本当に?」
「本当だ。タケシ、カスミ、という訳で会話を止めるな。その時点でエタってしまう」
「了解。俺は戦わないテリーマンと異名を持つ男。ここから喋り倒してやるぜ!」
「でもここ、たぶん140文字しか書けないよ」
「なに!?」と俺らの声が揃う。あ
*
「ねえ、誰か好きな人いるの?」と幼馴染の彼女が聞いてくる。
「いるよ」
「え?同じ学年?」
「そう」
「同じクラス?」
「違うよ」。内緒、と私がはぐらかすと、「誰だろー」と彼女は推理を始めた。
でも、絶対当たらないよ。勘の良い君も、私のこととなると、途端に鈍感になるのだから。
#140字小説「彼女の迷推理」
*
なあ、栃木って遠いかな?と友人が聞いてくる。遠距離恋愛の彼女に会いに行くらしい。
上野駅から東北本線で小山。そこから両毛線に乗り換えて、と無駄に理屈っぽく伝えると、もういいよと去っていった。
そうだね。結局行く必要が無くなった僕の気持ちはわからないだろうさと、写真の中の笑顔を見る。
*
星空の下、誰か好きな人いるの?と隣の親友に聞かれ「星が流れたら言うよ」と答えた。
彼女の一つ隣にいる彼を横目に見ながら。
その日空は曇っていて、結局星は流れなかった。
あれから十年。結婚式場を出て空を見上げる。あの日の記憶も、遠い空の彼方。
おめでとう、私の親友。さようなら、私の初恋。
#夏の星々140字小説コンテスト no.1 木立花音
*
バス停に毎日同じ少女がいる。「何歳になったの?」と僕は声をかけた。「15歳」「じゃあ同い年だ」「でも見ない顔だね」「僕は遠い場所に住んでいるからね」彼女が首を傾げる。
僕を覚えていないようだがそれでいい。この近くの道で、君を庇って死んだ高校生がいたなんてこと、忘れた方が絶対いいから
#夏の星々140字小説コンテスト no.2 木立花音
*
彼が新幹線に乗る。ドアが閉じて世界が二つに分かれた。交際が始まったのは高一の夏。そこからの三年間は宝物。だから大切にしまっておくんだ。余分な物だけそこから省いて。
どんなに遠く離れていても、心はずっと一緒だよ。また連絡するね。今度は友達として。
君が進む未来に、私は必要ないから。
#夏の星々140字小説コンテスト no.3 木立花音
*
七夕の夜。遠距離恋愛をしている彼からの電話。天の川ほどではないが、数百キロほど離れている私たち。
久しぶり。最近どう?
ぼちぼちかな、と平静を装って私は言う。
悩み事があったら何でも言ってね?
うん。
言えるはずなんてない。対岸よりも、こちら側が気になり始めている、織姫の話は。
*
狂気という言葉は小説で使えないらしい。
似ている言葉を遣えばいいんじゃ。
例えば?
気狂いとか。
狂うが入っているじゃん。
頭おかしい。
うーん。
どうかしている。
なんか違う。
基地外。
あー惜しい。
クレイジー。
横文字もありか。
ブサイク。
ん?違くね?
童貞。
なあ、途中からただの悪口になっていない?
140字小説「悪口」
*
去年二人で見上げた花火を、今年は一人で見る。
この一年間で、私の周囲も、私の隣の景色も大きく変わってしまった。
花火が綺麗なのも、私の姿も、去年とまったく変わらないのに。
私はまだ、この場所を離れることができない。あの日の未練が全部消えるその日まで。
*
「無言フォロー禁止って言われたんだ」「せめて一言ほしいよね」「お前も俺をフォローするときは一声かけてくれよな?」「了解」
こちらを向いているソイツの前に、路面が陥没している個所があった。
「なあ、フォローしてもいいかな?」「構わんぞ」「お前の目の前に穴が―」
ソイツは穴に落ちた。
140字小説「無言フォロー禁止」
*
今日の天気はあいにくの雨模様だ。
傘を忘れちゃってさ、花も恥じらう気分だよ。
この雨の中、どうやって帰れっていうのさ。これじゃ爆笑しちゃうよね。
どうしたらいいんだろう? 煮詰まって考えが浮かばない。
ところでさ、これで会話が成立するのまずいよね?
大丈夫。「ひとつだけ」正解だよ。
#140字小説「正解率25%」
*
読書は量より質だという言葉があるんだ。そうだなあ、でも、たくさん読んだ中から、いい本が見つかるんじゃないの? 一冊を丁寧に読み込んで、丁寧に感想を書くんだ。なるほど。それはいい。で? どんな感想を書いたんだ。感想を書くために、今精読をしているんだ。つまり、まだ書いていないのね?
#140字小説「質の良い読書」
あれから十年。「あの時、救えなくてごめんね」と、大人になった私は先生のアパートの前で呟く。
当時二番目だった私は、今日、あなたの一番になります。
ようやく突きとめた、一番のあの人を殺して。
*
卒業式の日、校舎をバックに友人と写真を撮った。ちょうど一年前、先輩を撮ってあげたのと同じ構図だ。
「卒業しました。先輩の歳、追い越しましたよ三日だけ」と先輩に向けてメールを送る。
今日もメールは届かない。「俺、年上がいいんだ」と無理難題を押し付けてきた先輩はもういない。
*
私の学校には、相手の誕生日に告白すると両想いになれるとの伝説がある。「頼む。委員長の誕生日を教えて欲しい」と幼馴染の彼が懇願してくる。私と委員長は友達だ。私にしか頼めないらしい。
いいよ、私は誕生日に詳しいからね。委員長のにも。もちろん君のにも。
#140字小説「誕生日とジンクス」
*
「地の文が多いとエタるらしい」
「マジか」
「え、本当に?」
「本当だ。タケシ、カスミ、という訳で会話を止めるな。その時点でエタってしまう」
「了解。俺は戦わないテリーマンと異名を持つ男。ここから喋り倒してやるぜ!」
「でもここ、たぶん140文字しか書けないよ」
「なに!?」と俺らの声が揃う。あ
*
「ねえ、誰か好きな人いるの?」と幼馴染の彼女が聞いてくる。
「いるよ」
「え?同じ学年?」
「そう」
「同じクラス?」
「違うよ」。内緒、と私がはぐらかすと、「誰だろー」と彼女は推理を始めた。
でも、絶対当たらないよ。勘の良い君も、私のこととなると、途端に鈍感になるのだから。
#140字小説「彼女の迷推理」
*
なあ、栃木って遠いかな?と友人が聞いてくる。遠距離恋愛の彼女に会いに行くらしい。
上野駅から東北本線で小山。そこから両毛線に乗り換えて、と無駄に理屈っぽく伝えると、もういいよと去っていった。
そうだね。結局行く必要が無くなった僕の気持ちはわからないだろうさと、写真の中の笑顔を見る。
*
星空の下、誰か好きな人いるの?と隣の親友に聞かれ「星が流れたら言うよ」と答えた。
彼女の一つ隣にいる彼を横目に見ながら。
その日空は曇っていて、結局星は流れなかった。
あれから十年。結婚式場を出て空を見上げる。あの日の記憶も、遠い空の彼方。
おめでとう、私の親友。さようなら、私の初恋。
#夏の星々140字小説コンテスト no.1 木立花音
*
バス停に毎日同じ少女がいる。「何歳になったの?」と僕は声をかけた。「15歳」「じゃあ同い年だ」「でも見ない顔だね」「僕は遠い場所に住んでいるからね」彼女が首を傾げる。
僕を覚えていないようだがそれでいい。この近くの道で、君を庇って死んだ高校生がいたなんてこと、忘れた方が絶対いいから
#夏の星々140字小説コンテスト no.2 木立花音
*
彼が新幹線に乗る。ドアが閉じて世界が二つに分かれた。交際が始まったのは高一の夏。そこからの三年間は宝物。だから大切にしまっておくんだ。余分な物だけそこから省いて。
どんなに遠く離れていても、心はずっと一緒だよ。また連絡するね。今度は友達として。
君が進む未来に、私は必要ないから。
#夏の星々140字小説コンテスト no.3 木立花音
*
七夕の夜。遠距離恋愛をしている彼からの電話。天の川ほどではないが、数百キロほど離れている私たち。
久しぶり。最近どう?
ぼちぼちかな、と平静を装って私は言う。
悩み事があったら何でも言ってね?
うん。
言えるはずなんてない。対岸よりも、こちら側が気になり始めている、織姫の話は。
*
狂気という言葉は小説で使えないらしい。
似ている言葉を遣えばいいんじゃ。
例えば?
気狂いとか。
狂うが入っているじゃん。
頭おかしい。
うーん。
どうかしている。
なんか違う。
基地外。
あー惜しい。
クレイジー。
横文字もありか。
ブサイク。
ん?違くね?
童貞。
なあ、途中からただの悪口になっていない?
140字小説「悪口」
*
去年二人で見上げた花火を、今年は一人で見る。
この一年間で、私の周囲も、私の隣の景色も大きく変わってしまった。
花火が綺麗なのも、私の姿も、去年とまったく変わらないのに。
私はまだ、この場所を離れることができない。あの日の未練が全部消えるその日まで。
*
「無言フォロー禁止って言われたんだ」「せめて一言ほしいよね」「お前も俺をフォローするときは一声かけてくれよな?」「了解」
こちらを向いているソイツの前に、路面が陥没している個所があった。
「なあ、フォローしてもいいかな?」「構わんぞ」「お前の目の前に穴が―」
ソイツは穴に落ちた。
140字小説「無言フォロー禁止」
*
今日の天気はあいにくの雨模様だ。
傘を忘れちゃってさ、花も恥じらう気分だよ。
この雨の中、どうやって帰れっていうのさ。これじゃ爆笑しちゃうよね。
どうしたらいいんだろう? 煮詰まって考えが浮かばない。
ところでさ、これで会話が成立するのまずいよね?
大丈夫。「ひとつだけ」正解だよ。
#140字小説「正解率25%」
*
読書は量より質だという言葉があるんだ。そうだなあ、でも、たくさん読んだ中から、いい本が見つかるんじゃないの? 一冊を丁寧に読み込んで、丁寧に感想を書くんだ。なるほど。それはいい。で? どんな感想を書いたんだ。感想を書くために、今精読をしているんだ。つまり、まだ書いていないのね?
#140字小説「質の良い読書」
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