繰り返される世界の中で、決して許されることのない恋をした

木立 花音

文字の大きさ
24 / 50
第三章「五周目の世界」

【ディケ・ルーイス】

しおりを挟む
「あの……先生?」
「ん? なんだい?」

 机に向かいかけていた顔を先生がもう一度上げる。

「ディケ・ルーイス、というのは、先生のお知り合いの名前ですか?」
「どうして、その名前を知っているんだ?」
「いえ……。先生が持っていた地図に、その名前が書かれていたものですから」
「ああ、そうか……。彼女はね、僕にとって恩師みたいなものなんだ」
「恩師ですか」
「そう。今から十年くらい前まで、僕の家は行商人をしていてね」
「リアンダー先生の家が行商人!?」

 今の彼の様子からは、想像もできないことだった。

「信じられないだろう? でも、本当のことなんだ。それなのに、今はこうして魔法使いになって、教師をしているのだからわからないものだよね。人生って、面白い」
「そうですね。それで、その方が持っていた地図を先生が持っているのは、またどうしてなのですか……?」
「彼女は亡くなったんだよ。今から五年ほど前にね」
「亡くなった? その、事故か何かでですか?」

 先生は首を横に振って否定する。

「流行り病だよ。それは突然のことだった」
「そうだったんですね……」

 ディケ・ルーイスさんという人が先生にとってどういう人なのかはわからなかったけれど、きっと、大切な友人の一人だったんだろうな、というのは伝わってきた。心の底から悲しんでいるのが表情からもわかる。
 十年ほど前まで、リアンダー先生の家族は行商人として各地を旅していた。
 各地で市の開かれる日を知っている行商人たちは、市に集まり、また、その付近を歩いて盛んに商売をする。移動が多く、多数の商材を運ばなければならない関係から、彼らの多くは馬車を利用する。馬車は荷物をたくさん積めて便利な反面、小回りが利かない。馬が動けなくなるとたちまちのうちに立ち往生してしまう。それゆえ、盗賊や山賊に狙われやすいのだ。
 その日は運の良くない日だった。街道で山賊による襲撃を受けた先生一家の馬車は、馬を殺されて移動ができなくなった。
 馬車を取り囲んでいる山賊たちの姿を見て、荷物を放棄して命乞いをしようと先生たちは思った。そのとき、助けてくれたのがディケ・ルーイスだった。
 山賊たちをたちまちのうちに撃退した彼女の強さに、魔法の威力に、リアンダー先生は驚嘆した。魅了されたといってもいい。
 魔法で馬の治療までをしてもらった先生の一家は、ディケ・ルーイスを馬車に乗せて街まで送った。
 その道中で、彼女から魔法の初歩を教わったリアンダー先生は、非凡な才能を見せる。すぐに魔法を発動させて見せたのだ。
 彼の飲み込みの早さに驚いたディケ・ルーイスは、先生を弟子に取ることを望み、また先生も魔法使いになることを望んだ。
 カレッジで魔法を教えていたディケ・ルーイスは、リアンダー先生をカレッジに入学させる。こうしてリアンダー先生は、魔法使いとしての一歩を踏み出すことになった。
 ところが、それから五年が経過して、リアンダー先生が教員免許を取得できる目処が立った頃に、彼女は急死してしまう。
 流行り病に罹患して。

「あっという間のことだったよ。魔法は万能ではないと、悟る出来事だった。病の前では、魔法も無力なのだと」
「ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまって……」
「いやいや、こちらこそすまないな。暗い話をしてしまって」
「いえ……こちらこそすみませんでした」

 本音を言えば、彼女に家族はいるのか。いるとしたらどこに住んでいるのか。シェルドとの関係はあるのか。いろいろ訊きたかった。
 だが、このタイミングで掘り下げて訊くのは不自然だ。それ以上に不謹慎だ。
 だから私は、ここで事務室をあとにした。「指輪のことを調べてくれて、ありがとうございました」と頭を下げて。

   * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?

みこと。
恋愛
 鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。 「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。 (あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)  現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。  そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。  なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?  この出会いが、クローディアに新しい道を拓く! ※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...