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第五章「対峙するとき」
【再び、談話室にて】
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「おはようございます。レイチェル様」
「おはよう、ルーチェ」
ルーチェの声で目が覚めた。
ベッドを抜け出して窓から見上げた空は鈍色だ。私が抱えている不安をそのまま投影したような空の色だった。毎回同じ。この日はいつもこういったパッとしない天気なのだ。
ついに迎えた運命の日、六月一日。この日は午前中の早い時間までは雨は降らないが、昼前頃から激しい雷雨になる。
私はいつもより早く家を出た。シェルドのことが心配だった。彼が査察部に拘束されているというだけで、胸が締め付けられる思いだ。彼に会いたいと願っていたが叶わなかった。やはり彼は教室にはいなかった。
わかっていたことだが、落胆を禁じ得ない。これではいつも通りだ。今回も、ループを脱することはできないのだろうか。
教室に入ってすぐのタイミングで、プレアが話しかけてきた。
「おはよう、レイチェル。もう大丈夫なの? 体調はどう?」
「大丈夫だよ。熱が少し出ただけだから」
「そっか、良かった」
「シェルドは、やっぱり今も拘束されたままなのね」
「……そうだね。彼の無実を証明する証拠がないみたいだから……」
プレアはうなだれて、悲しげな顔をした。私も、同じ顔をしていそうだな。
どうやったらループを脱出できるのか、確実な方法なんてわからない。それでも、これならいけそうだという案ならあった。
このループが始まったあの場所で、あのときと同じシチュエーションを準備する。かなり危険な賭けだが、今回は指輪の力がある。このシチュエーションでしのぐことができたら、運命の輪を突破できる気がしていた。
いずれにしても、確実に流れは変わるはず。
「ねえ、レイチェル」
「……うん? なに?」
「今日の放課後なんだけど、少しだけ話できるかな?」
「……別にいいけど。これといって用事なんてないし」
ところが、こちらから話を振るまでもなく、プレアから申し出があった。あのときは、談話室で待っていてと私からプレアに伝えたのだが、今回は逆になっていた。
放課後。場所は西棟の最奥にある談話室で、と話はまとまった。くしくもそれは、一度目の世界で約束した場所と同じになった。
寮対抗魔法合戦が始まる。
午前中は、魔法の箒にまたがってのリレー。各種魔法の実技披露などが行われた。天候が崩れた午後からは、体育館に場所を変えて、魔法を使っての球技や演舞が行われた。それぞれ順位によって点数が決まり、得点の合計で、寮ごとの順位を競い合うというものだ。
体育館で競技をしているうちに、外の天候は悪化の一途をたどる。
闇夜を思わせるほどに暗い空。一寸先も見通せないような土砂降りでは、行えない競技が多数出てくる。魔法合戦は、十五時で打ち切りとなった。残った競技は来週へと順延だ。これもいつもの流れだった。
帰りのホームルーム活動はない。競技で使った小道具を倉庫にしまったあと、私は談話室を目指した。
歩きながら、これまでのことを考えた。
一度目は、何もわからないままに殺された。二度目は、場所を変えたが結果は同じだった。そして三度目。ついに奴と出会う。
シェルドが現れて、運命を変えられるとそう思った四度目は、五月の半ばで途絶えた。このときもまた、どうして死んだのかもわからないまま。
だが、今回は違う。右手の指輪をそっと撫でた。
魔族を退ける術を持っている。今度こそいける。今度こそ、運命の輪を打ち破るんだ。
談話室に入ると、プレアはすでに待っていた。
机に座っていて、読んでいた本から視線を上げた。
「早かったね」とプレアが言った。
「急いで来たからね。……たぶん、アイツが現れるまで、あまり時間がないから」
外は土砂降りだった。雷鳴の音が轟いていた。鈍くて重苦しいその音は、これから身に起こる不幸を暗示しているようだった。
「そうだね。じゃあ、すぐ本題に入ろうか。善は急げね」
「おはよう、ルーチェ」
ルーチェの声で目が覚めた。
ベッドを抜け出して窓から見上げた空は鈍色だ。私が抱えている不安をそのまま投影したような空の色だった。毎回同じ。この日はいつもこういったパッとしない天気なのだ。
ついに迎えた運命の日、六月一日。この日は午前中の早い時間までは雨は降らないが、昼前頃から激しい雷雨になる。
私はいつもより早く家を出た。シェルドのことが心配だった。彼が査察部に拘束されているというだけで、胸が締め付けられる思いだ。彼に会いたいと願っていたが叶わなかった。やはり彼は教室にはいなかった。
わかっていたことだが、落胆を禁じ得ない。これではいつも通りだ。今回も、ループを脱することはできないのだろうか。
教室に入ってすぐのタイミングで、プレアが話しかけてきた。
「おはよう、レイチェル。もう大丈夫なの? 体調はどう?」
「大丈夫だよ。熱が少し出ただけだから」
「そっか、良かった」
「シェルドは、やっぱり今も拘束されたままなのね」
「……そうだね。彼の無実を証明する証拠がないみたいだから……」
プレアはうなだれて、悲しげな顔をした。私も、同じ顔をしていそうだな。
どうやったらループを脱出できるのか、確実な方法なんてわからない。それでも、これならいけそうだという案ならあった。
このループが始まったあの場所で、あのときと同じシチュエーションを準備する。かなり危険な賭けだが、今回は指輪の力がある。このシチュエーションでしのぐことができたら、運命の輪を突破できる気がしていた。
いずれにしても、確実に流れは変わるはず。
「ねえ、レイチェル」
「……うん? なに?」
「今日の放課後なんだけど、少しだけ話できるかな?」
「……別にいいけど。これといって用事なんてないし」
ところが、こちらから話を振るまでもなく、プレアから申し出があった。あのときは、談話室で待っていてと私からプレアに伝えたのだが、今回は逆になっていた。
放課後。場所は西棟の最奥にある談話室で、と話はまとまった。くしくもそれは、一度目の世界で約束した場所と同じになった。
寮対抗魔法合戦が始まる。
午前中は、魔法の箒にまたがってのリレー。各種魔法の実技披露などが行われた。天候が崩れた午後からは、体育館に場所を変えて、魔法を使っての球技や演舞が行われた。それぞれ順位によって点数が決まり、得点の合計で、寮ごとの順位を競い合うというものだ。
体育館で競技をしているうちに、外の天候は悪化の一途をたどる。
闇夜を思わせるほどに暗い空。一寸先も見通せないような土砂降りでは、行えない競技が多数出てくる。魔法合戦は、十五時で打ち切りとなった。残った競技は来週へと順延だ。これもいつもの流れだった。
帰りのホームルーム活動はない。競技で使った小道具を倉庫にしまったあと、私は談話室を目指した。
歩きながら、これまでのことを考えた。
一度目は、何もわからないままに殺された。二度目は、場所を変えたが結果は同じだった。そして三度目。ついに奴と出会う。
シェルドが現れて、運命を変えられるとそう思った四度目は、五月の半ばで途絶えた。このときもまた、どうして死んだのかもわからないまま。
だが、今回は違う。右手の指輪をそっと撫でた。
魔族を退ける術を持っている。今度こそいける。今度こそ、運命の輪を打ち破るんだ。
談話室に入ると、プレアはすでに待っていた。
机に座っていて、読んでいた本から視線を上げた。
「早かったね」とプレアが言った。
「急いで来たからね。……たぶん、アイツが現れるまで、あまり時間がないから」
外は土砂降りだった。雷鳴の音が轟いていた。鈍くて重苦しいその音は、これから身に起こる不幸を暗示しているようだった。
「そうだね。じゃあ、すぐ本題に入ろうか。善は急げね」
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