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4話
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どうやら、僕が警察に行くか、行かないかをダラダラと迷っている内に警察の方からやってきてしまったらしい。
まだ、心の準備が。
そう思う隙もなく、警察官はこちらの方向へと歩いてきた。
「早喜署の三村です」
続けて他の二人が、「三門です」、「雲下です」と言った。
三人のスーツ姿の男に僕は硬直してしまった。たぶん今の僕の反応は限りなく犯人に近かっただろう。
「あなたは、水山東一さんで宜しかったですか?」
「は、はあ」
「いきなりですけれど、水山さんは今朝の事件はご存じですか?」
「知っていますけれど……それが何か」
「それがですね、神社の境内に設置された防犯カメラを確認しましたら、事件発生直前にあなたの姿が映っていたんですよ。しかも事件発生まで、あなた以降は誰も来ていません」
「それは——」
事実だった。
実際僕は毎朝参拝する習慣があるから当然だが。
「そうですが」
「そうですか。でもなんで」
「なんでって、そりゃあ、参拝に行くためですよ。毎朝の参拝は日課です」
言ったら横から狸川が喋った。
「警察の方ですか。なら、こいつ被害者の顔、最後に見たって言ってますよ」
ゆくゆくはそれも言わなきゃいけなかったんだろうが——なんというか、いきなり言われるとさすがに焦ってしまう。その焦った態度は、疑い深げだった警官たちの目をさらに疑い深げにした。
「被害者の顔を見た? それは、どういうことですか」
警官の圧に追い詰められる。
「そ、それはニュースの服装と全く同じ服装の人が石を持ち上げようとしているのを見たんですよ。でも、僕に気づくなり逃げてしまって……」
警察官は顔を見合わせた。そして軽く頷きあい、
「とりあえず、署までご同行願えますか」
と言った。
◉
署まで行き、取り調べを受けた、という事は今ここで話さなくても分かるだろう。だが、その取り調べの辛さはとても察し得ないようなものだった。
警察官達は別に脅迫など、して来なかったが(時代的にしたらクビだ)、僕の緊張のせいで、取り調べ中は終始圧迫面接並の緊張が僕を襲った。つまり自分で自分の首を絞めたと言うか、僕が僕をより苦しめたような形になってしまった。
取り調べは監視カメラに映っていたのと、被害者の顔を最後に見た、という発言が原因なのか、異常に長引き、会社に戻るのは午後四時になってしまった。おかげで僕はくたくたのぐだぐだに疲れてしまい、会社に戻ってからの記憶はほぼ狸川との会話しか覚えていない。
会社に戻るなり狸川は、
「ずいぶん長引いたじゃないか。それで、どうしたんだ、署で洗いざらい余す事なく、綺麗さっぱり自供したのか?」
と、言った。
「そんなわけあるか、大体、僕が会社の労働者として舞い戻った以上、まだ犯罪者にはなってないよ」
「でもこれから逮捕されるかもしれんぞ? だからお前はただの労働者じゃなくて、犯罪者の疑いがかけられている労働者だ」
「もう、酷いな。僕は本当にやってないよ」
「まあお前が犯人とは本気で思っちゃいないよ。だいたい、お前みたいな性格の奴は殺った所で事後の反応がおどおどするだろ? でもお前は別におどおどなんかしてねぇじゃん」
そんな事を言われたが、内心かなり、いや、すこぶる不安だったし、内側の自分は相当おどおどしていた。取り調べ中、いくら緊張したのは自分の性格のせいだとはいえ、警官達の態度もやはり穿ってかかるような態度で、本当に怖かった。
というか、実際、僕は疑いはかけられているわけで。いくらこの時代に冤罪が少なかろうと、所詮は見えない物事を解明する行為。時代が進んで間違いがいくら減っても、完璧に冤罪、手違いを減らせるわけではない。ということは僕に濡れ衣が着せられる可能性はゼロではないということ。
そう思うと、本当に恐ろしくて、少しだけ手が震えそうだ。
「おい、お前、大丈夫か? さっき俺ぁ、お前はおどおどしてないからやってないだろうなんて言ったが、その途端に手が震えてるじゃねぇか」
手は震えそう、なのではなく、震えていたようだった。
「まあ、お前も色々あるんだよな、悪かった」
謝られてしまった。狸川は散々馬鹿にしてくるが、最後はいつも、謝ってくるのだ。いつも僕はその謝罪を冗談で流すのだが、今回に限っては、何だか憐れまれているようでいたたまれなく、僕は曖昧に「だ、大丈夫……」と答えることしか出来なかった。
そして、今に至る。
今の僕は帰宅途中の疲れたサラリーマンである。僕は改札をくぐって越流駅東口に出る。人通りの多い駅前の交差点を通り、コンビニで酒を買う。そこまで済ませるともう自宅はすぐそこの神社のあたりに差し掛かった。
事件現場と化した神社にはトラ柄テープが貼られて、入れなくなっている。これでは日本国憲法第二十条信教の自由が達成されないじゃないかと思ったが、まあ、仕方がない。
そんな何も生み出さない、無価値な思考をしていると、そのトラ柄テープの奥で何かが動いた——気がした。
最近ではアライグマなど、住宅街で野生動物が増えていると聞く。全く迷惑な話だ。でも僕はアライグマなど、如何にもな野生動物はまだ見たことがない。
だから僕はその、動いた物をアライグマやらに決めつけて見ようとしてしまった。
それが間違いだった。
僕はトラ柄テープの貼られた境内を回り込んで、ちょうど社殿が左側に来るような位置に回り込んだ。
やはり、それは動いていたし、そこにいた。
姿はよく見えない。何か、黒い色をしている、いや、黒い格好をしている。そしてそれは紛れもない、生き物だった。
縦百七十センチほどのそれは、胸から上がびっしょりと、水のようなもので濡れている。顔は暗くて全く見えない。
そしてそれは、いつも石があった場所周辺をうろうろと、ふらふらと彷徨っている。
それは何なのか、僕にはよくわからない。が、それは僕のことを知っているらしい。
それは僕に気づくなり、うろうろ、ぶらぶらさせていた体をきゅっと硬直させ、だがだらしなく、木々奥へと走り去ってしまった。
僕はその状況に、それに、その場の空気に、目の前の林に、張り巡らされるトラ柄ロープに、あっけを取られ、ぽかんとしてしまった。
何が起こったか、理解するまでにたっぷり十秒と少し必要だった。
噛み砕いて、理解して、処理するその間、僕はその場に立ち尽くした。
そして脳の処理が終わったあと、次にやってきたのは猛烈な、生理的な、本能的な恐怖。脳からの危険信号だった。その危険信号を脳が発すると同時に、僕はもうよろめきながらも家に向かって走り出していた。
家に着いたのは時計の短針が十一時を、長針が十八分を指したところだった。
深夜も目前の室内はひんやりしていた。夏でもない、今は春だから夜は冷え込むのだ
そうして僕は部屋の温度を肌で感じるや否や大急ぎでシャワーを浴びて——特に洗わなければいけない部分だけを洗った——、歯を磨いて、髪も乱暴に乾かして布団に大急ぎで入った——らしい。
今の自分の状態——髪がボサボサで、でも口はさっぱりとしていて、布団に頭まで潜り込んでいる。そんな状況を確認して、予測しただけだから本当のところは不明だ。
我ながら恥ずかしいが、怖かったらしい。しかも、床に入るまでの過程を忘れてしまうほどに。
だがそんな客観的な、分かったような思考を脳内で繰り広げても、あの神社の中で見た、「何か」の姿形が頭から離れず、一向に怖い。
それは胸から上が水で濡れているように見えた。そして全身が黒かったようにも思う——いや、周りが暗くてそう見えただけ、かもしれない。そして顔はまるで虚のように暗くて、見えなかった。
そしてそれは僕に気づくと逃げていった。
——まさか、
幽霊じゃあ、ないだろうな。
さっき見た「あれ」の特徴は今朝見た石を盗もうとしていた人の特徴に、完全に合致しているようにも見える。
しかも被害者は頭から血を流していたと————いや、そんな事は、多分、多分無いだろう。
馬鹿馬鹿しい思考は打ち切ろう。早くそんな思考打ち切って、寝てしまおう。
僕はそう思うや否やすぐに眠る努力をした。だが、どう頑張ってもすぐには寝付けなかった。
布団に入ってから何分も何十分も経ったあと、そんな事を思ってから、眠りに落ちた。
まだ、心の準備が。
そう思う隙もなく、警察官はこちらの方向へと歩いてきた。
「早喜署の三村です」
続けて他の二人が、「三門です」、「雲下です」と言った。
三人のスーツ姿の男に僕は硬直してしまった。たぶん今の僕の反応は限りなく犯人に近かっただろう。
「あなたは、水山東一さんで宜しかったですか?」
「は、はあ」
「いきなりですけれど、水山さんは今朝の事件はご存じですか?」
「知っていますけれど……それが何か」
「それがですね、神社の境内に設置された防犯カメラを確認しましたら、事件発生直前にあなたの姿が映っていたんですよ。しかも事件発生まで、あなた以降は誰も来ていません」
「それは——」
事実だった。
実際僕は毎朝参拝する習慣があるから当然だが。
「そうですが」
「そうですか。でもなんで」
「なんでって、そりゃあ、参拝に行くためですよ。毎朝の参拝は日課です」
言ったら横から狸川が喋った。
「警察の方ですか。なら、こいつ被害者の顔、最後に見たって言ってますよ」
ゆくゆくはそれも言わなきゃいけなかったんだろうが——なんというか、いきなり言われるとさすがに焦ってしまう。その焦った態度は、疑い深げだった警官たちの目をさらに疑い深げにした。
「被害者の顔を見た? それは、どういうことですか」
警官の圧に追い詰められる。
「そ、それはニュースの服装と全く同じ服装の人が石を持ち上げようとしているのを見たんですよ。でも、僕に気づくなり逃げてしまって……」
警察官は顔を見合わせた。そして軽く頷きあい、
「とりあえず、署までご同行願えますか」
と言った。
◉
署まで行き、取り調べを受けた、という事は今ここで話さなくても分かるだろう。だが、その取り調べの辛さはとても察し得ないようなものだった。
警察官達は別に脅迫など、して来なかったが(時代的にしたらクビだ)、僕の緊張のせいで、取り調べ中は終始圧迫面接並の緊張が僕を襲った。つまり自分で自分の首を絞めたと言うか、僕が僕をより苦しめたような形になってしまった。
取り調べは監視カメラに映っていたのと、被害者の顔を最後に見た、という発言が原因なのか、異常に長引き、会社に戻るのは午後四時になってしまった。おかげで僕はくたくたのぐだぐだに疲れてしまい、会社に戻ってからの記憶はほぼ狸川との会話しか覚えていない。
会社に戻るなり狸川は、
「ずいぶん長引いたじゃないか。それで、どうしたんだ、署で洗いざらい余す事なく、綺麗さっぱり自供したのか?」
と、言った。
「そんなわけあるか、大体、僕が会社の労働者として舞い戻った以上、まだ犯罪者にはなってないよ」
「でもこれから逮捕されるかもしれんぞ? だからお前はただの労働者じゃなくて、犯罪者の疑いがかけられている労働者だ」
「もう、酷いな。僕は本当にやってないよ」
「まあお前が犯人とは本気で思っちゃいないよ。だいたい、お前みたいな性格の奴は殺った所で事後の反応がおどおどするだろ? でもお前は別におどおどなんかしてねぇじゃん」
そんな事を言われたが、内心かなり、いや、すこぶる不安だったし、内側の自分は相当おどおどしていた。取り調べ中、いくら緊張したのは自分の性格のせいだとはいえ、警官達の態度もやはり穿ってかかるような態度で、本当に怖かった。
というか、実際、僕は疑いはかけられているわけで。いくらこの時代に冤罪が少なかろうと、所詮は見えない物事を解明する行為。時代が進んで間違いがいくら減っても、完璧に冤罪、手違いを減らせるわけではない。ということは僕に濡れ衣が着せられる可能性はゼロではないということ。
そう思うと、本当に恐ろしくて、少しだけ手が震えそうだ。
「おい、お前、大丈夫か? さっき俺ぁ、お前はおどおどしてないからやってないだろうなんて言ったが、その途端に手が震えてるじゃねぇか」
手は震えそう、なのではなく、震えていたようだった。
「まあ、お前も色々あるんだよな、悪かった」
謝られてしまった。狸川は散々馬鹿にしてくるが、最後はいつも、謝ってくるのだ。いつも僕はその謝罪を冗談で流すのだが、今回に限っては、何だか憐れまれているようでいたたまれなく、僕は曖昧に「だ、大丈夫……」と答えることしか出来なかった。
そして、今に至る。
今の僕は帰宅途中の疲れたサラリーマンである。僕は改札をくぐって越流駅東口に出る。人通りの多い駅前の交差点を通り、コンビニで酒を買う。そこまで済ませるともう自宅はすぐそこの神社のあたりに差し掛かった。
事件現場と化した神社にはトラ柄テープが貼られて、入れなくなっている。これでは日本国憲法第二十条信教の自由が達成されないじゃないかと思ったが、まあ、仕方がない。
そんな何も生み出さない、無価値な思考をしていると、そのトラ柄テープの奥で何かが動いた——気がした。
最近ではアライグマなど、住宅街で野生動物が増えていると聞く。全く迷惑な話だ。でも僕はアライグマなど、如何にもな野生動物はまだ見たことがない。
だから僕はその、動いた物をアライグマやらに決めつけて見ようとしてしまった。
それが間違いだった。
僕はトラ柄テープの貼られた境内を回り込んで、ちょうど社殿が左側に来るような位置に回り込んだ。
やはり、それは動いていたし、そこにいた。
姿はよく見えない。何か、黒い色をしている、いや、黒い格好をしている。そしてそれは紛れもない、生き物だった。
縦百七十センチほどのそれは、胸から上がびっしょりと、水のようなもので濡れている。顔は暗くて全く見えない。
そしてそれは、いつも石があった場所周辺をうろうろと、ふらふらと彷徨っている。
それは何なのか、僕にはよくわからない。が、それは僕のことを知っているらしい。
それは僕に気づくなり、うろうろ、ぶらぶらさせていた体をきゅっと硬直させ、だがだらしなく、木々奥へと走り去ってしまった。
僕はその状況に、それに、その場の空気に、目の前の林に、張り巡らされるトラ柄ロープに、あっけを取られ、ぽかんとしてしまった。
何が起こったか、理解するまでにたっぷり十秒と少し必要だった。
噛み砕いて、理解して、処理するその間、僕はその場に立ち尽くした。
そして脳の処理が終わったあと、次にやってきたのは猛烈な、生理的な、本能的な恐怖。脳からの危険信号だった。その危険信号を脳が発すると同時に、僕はもうよろめきながらも家に向かって走り出していた。
家に着いたのは時計の短針が十一時を、長針が十八分を指したところだった。
深夜も目前の室内はひんやりしていた。夏でもない、今は春だから夜は冷え込むのだ
そうして僕は部屋の温度を肌で感じるや否や大急ぎでシャワーを浴びて——特に洗わなければいけない部分だけを洗った——、歯を磨いて、髪も乱暴に乾かして布団に大急ぎで入った——らしい。
今の自分の状態——髪がボサボサで、でも口はさっぱりとしていて、布団に頭まで潜り込んでいる。そんな状況を確認して、予測しただけだから本当のところは不明だ。
我ながら恥ずかしいが、怖かったらしい。しかも、床に入るまでの過程を忘れてしまうほどに。
だがそんな客観的な、分かったような思考を脳内で繰り広げても、あの神社の中で見た、「何か」の姿形が頭から離れず、一向に怖い。
それは胸から上が水で濡れているように見えた。そして全身が黒かったようにも思う——いや、周りが暗くてそう見えただけ、かもしれない。そして顔はまるで虚のように暗くて、見えなかった。
そしてそれは僕に気づくと逃げていった。
——まさか、
幽霊じゃあ、ないだろうな。
さっき見た「あれ」の特徴は今朝見た石を盗もうとしていた人の特徴に、完全に合致しているようにも見える。
しかも被害者は頭から血を流していたと————いや、そんな事は、多分、多分無いだろう。
馬鹿馬鹿しい思考は打ち切ろう。早くそんな思考打ち切って、寝てしまおう。
僕はそう思うや否やすぐに眠る努力をした。だが、どう頑張ってもすぐには寝付けなかった。
布団に入ってから何分も何十分も経ったあと、そんな事を思ってから、眠りに落ちた。
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