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5話
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その日は、ろくにタイマーもセットせずに寝てしまったが体内時計のお陰で何とか六時キッカリ、とまでは行かないまでも、六時前半らへんの時間に起きることができた。
普通そんな時間に自分の力だけで起きれたら朝から気分がいいのだろうが、僕は昨日の取り調べのことといい、事件現場の不審者といいで憂鬱なこと甚だしかった。
——とりあえず、レイに飯を
上げなくてはいけない。こんな憂鬱な気分でも、人がどんな気分だろうと、猫という生物である以上空腹になる。そして僕は猫の飼い主だ。
飼い主なんて止めたいが、他の人に譲渡したいが、できないのだ。なぜか、できないのだ。
だからこうやって、あくまでも「しょうがなく」食料をやる。
布団から出、台所の角に置いてある餌皿ケースから1枚皿を抜き取って、餌皿ケースの横に置いてあるドライフードを並々と、眠い目をこすって、入れる。
それを持ち、玄関を開けると、
——いない
そこに猫——レイは居なかった。
いつもレイは六時四十分に扉の前で餌を待っているのだが、今日は時間キッカリに扉を開けてもそこに猫の姿は確認できなかった。
——三百六十五日、一度もいなかった事なんて無かったのに
不思議に思う。しかし、不安にはならない。何故なら、神社で毎朝猫が死ぬように願っているくらいだ。死んだら死んだで、万々歳なのだ。
この猫に対する姿勢を客観的に評価するなら、人間の屑のそれだが、しかし僕は、いや、人間はそう簡単に思いを変えることはできないのだ。
だから僕は餌皿を家の扉の横に置いて、出勤の準備に取りかかった。
歯を磨き、顔を洗い、軽く保湿液を顔にはたいて、スマホでニュースをチェックする。
ざーっと、上から下まで羅列されているニュースを流し見る。芸能人がどうしただの、強盗が入っただの、そういう、自分の世界とは関係のないニュースばかりが目に入る。
——?
一つ、流し見るのを躊躇われるようなニュースが目に飛び込んできた。
『三粂神社の男性撲殺事件。証拠物件の石が消える』
そう、書かれていた。
僕はそのニュースを見た瞬間、異常な程の悪寒、恐怖が腰の辺りから背中に這い上がってくるのを感じた。
——取り調べ、疑い、証拠隠滅
そんな言葉が自分の中でぐるぐると回り、恐怖という感情の元へと吸い込まれていく。
その恐怖の正体は分かりきっていたことだった。
それは、
「ぬ、濡れ衣」
思わず、言葉が出た。その言葉はあまりにも頼りなく、今にもひしゃげてしまいそうな弱さを持って、僕の声帯から口内を通って発声された。
僕は状況を整理する。
昨日の朝、石が男に持ち上げられ、動かされているのを僕は見て、石を元の場所に戻した。そして会社に行って、おそらくその、朝に見た男が石で撲殺された。
もちろん、石を最後に触って、動かしたのは自分だ。もちろん、指紋も、残っているだろう。
そして僕はいま容疑者の様な立ち位置にいる。警察に見張りをつけられていない以上、容疑者ではないのかもしれないが、同じようなものだ。
——僕が犯人として成立しえる要素、証拠は十分にあるじゃないか。
監視カメラの映像は画角に石の所までが入っていないかったらしいから不十分としても、指紋は絶対に残っているはずだ。
いや、僕以外に絶対に犯人は居るのだろうが。果たしてその犯人が手袋をして犯行に及んだとしたら? そしたら指紋は被害者の男と僕のだけになる。
そうなれば、僕に濡れ衣が——
そう考えると怖くなって、恐ろしくなって、気が違ってしまいそうだった。
——そしたら僕の人生は終わりだ。
いくら手違いなど今の時代無いと言っても、自分に言い聞かせても、やっぱり、不安だ。恐ろしい。
僕は、昔からそうだった。ほんの小さな、塵のような不安要素も自分の中で大きくしてしまったら、いくら自分を励まそうがどうしようが、その悩みが取り除かれるまではずっと悩み続ける、厄介な人間だった。
そんな自分に、濡れ衣が着させられるかされないかの不安。
ただでさえ巨大な不安要素。それを自分の中でどんどんどんどん、どんどん大きくして、今に至っているということを、再確認した。
不安で、たまらない。
そう思った時、もう僕の意思は不安で支配されていて、次の行動は不安に操られたが故の行動だった。
「今日はお休みします」
『え?は? なんで——』
直属の上司の返事も聞き入れず、僕は電話を無理やり終了させた。
こんな事したら、後日なんて言われるか分からないし、なにより自分のメンタルがやられて明日会社に行けないかもしれない。だが、今の僕にそんな事、考えられるはずがなかった。
◉
どこでもいいから、なるべく遠くまで。
そんな愚かで甘すぎる考案の末、思いついた移動手段は電車だった。
車の免許は持っていない、自転車では遅い、二輪の免許さえ持っていない、そんな自分にできる、一番速い移動手段は電車だったのだ。
大体、僕は何もしていないんだから堂々としていればいいものを、何故仕事をサボって、家を飛び出し、逃げるなんて行為に至ったか、自分自身でもよくわからない。
まあ頭が冷えて、そう冷静に考えられるようになった時、僕はもう会社に連絡を入れ、電車に乗り込んでいたからどうしようも出来ないのだが。
実際、朝の不安に駆られた状態から電車に乗るまでの間の意識はまるでトランス状態にでも陥ったかのように、まるで記憶は夢の中の出来事のようだったし、今となってはその衝動的な、逃走という選択を実行している途中で方向転換して家に戻り、大人しく会社に行くという選択もできたんじゃないかと思ってしまう。
だがそれはおそらく無理だった。
本当に衝動的だったのだ。深い考えはない。それ故に何も頭では考えていないのだ。衝動に突き動かされ、操られている間は抵抗など無理な話だ。
だから、僕はこの状況を受け入れるしか無いのだろう。
別に今から会社に電話でもかけて戻ることもできるが、あくまで物理的にできるだけであって僕自身の中で考えるとそんなこと、不可能だった。電話口で何を言われるか、不安だった。怖かった。
明日の会社が怖いのだ。いや、僕に明日など無いのかもしれない。このあと、僕はまたもや衝動という怪物に操られ、自殺してしまうかもしれない。
思考が飛躍して、思いがけず自殺なんてワードの所まで飛んでいってしまう。
いつもの事だ。
毎日、いや、数時間おきに、僕は思考を飛躍させて不安を大きく育ててしまう。
ちょっとしたミス——先輩に挨拶するのを忘れたとか——を、大きな事柄に結びつけて大きくしてしまう。
そんな僕を気にかけて、気になんてしなくていい、と、励ましてくれる人もいるが、内心、いや、僕の別の思考回路の部分が、なんてこいつは無責任なやつなんだと、せっかく励ましてくれた人を罵倒する。
でも僕はどうなのかというと、そんな人、僕のような人を励ますなんて、気にするなぐらいしか言葉が出てこないだろう。
ああ、嫌になる。自己嫌悪が僕の穴という穴、洞という洞に溜まって行くような気がする。僕はもしかしたら、本当に、僕の知らない所で僕はあの男を殺しているのかもしれない。自分で自分を教唆したのかもしれない。
頭が重くなって、重力に屈服して頭が下がる。僕はそんな自分の頭をあやしてやる様にスマホを眺める。
もちろん、小さな町で起きた事件だ。人一人死んでいるとはいえ、でかでかとネットニュースに出るような事件でもない。僕が眺めている、スクロールしている範囲でその事件についての記事は見つけられなかった。
——こうしている間にも、指紋検出で僕の指紋が。
検出されているのか。どうなのだろう。
指紋検出には1週間ほどかかると聞いたことがある。でも、水山東一という名の容疑者が近くに住んでいるとなれば、捜査機関も本気を出して一日二日で指紋を検出して、とっとと僕の指紋と照らし合わせてしまうのではないか。
いつも、ニュースを見ていて残忍な犯罪者の判決が軽いもので済んでしまう時、僕はなんて今の法律、裁判所、調査機関、警察はぞんざいで、粗末なんだろうと思うが、いや、思ってしまうのだが、今回ばかりはそんな有象無象の法的機関が酷く綿密で、恐ろしいものだと心の底から思う。
僕は、これからどうすれば良いのだろう、そんなネガティブな気持ちにネガティブな言葉で区切りをつけたその時、電車の扉が開いて、春の朝の、涼しい、寒い冷気が体にぶつかった。
いつもは清々しい冷気が、悪寒となって体にへばりつく。
寒さを紛らわすために周囲をチラチラ見やる。
座席、人、みんなスマホの奴隷。
窓、家、空。雲が膜のように空を覆って、ぼーっとしてしまう。
電車、接合部、隣の車両。接合部にある蛇腹の様な布。あれがなんというか知らないが、隣車両の光景がその薄汚い布越しに見える。
なんとなく、隣車両の人間を見てみる。やっぱり、みんな、スマホを見ている。
そんな人の群れの中に、一人だけ目立つ人がいた。その人はスマホも本も、視点を落ち着かせる場所を持たず、ただ視線を中空に放浪させている。
大体、スマホを見ていないだけで電車内から浮いて見えるなんて、よくよく考えたら物凄く違和感を感じることである。スマホを見ないで座席に座っているのが元々の人間の、電車内での過ごし方だろうに。
でもまあ、その人が周りと浮いているのには決定的な違いがあった。それは、
本人の体の震えと、既視感。
本人から発せられる周りとの違いと、僕の主観から感じ取る周りとの違い。この微妙に違うようで、全く違う二つの違和感が一つの大きな違和感、周りとの差別的要素になって、僕の網膜と、脳を刺激した。
呆気にとられ、僕が彼女を見ていると彼女がこちらを向いた。
そして、立ち、座席から離れ、その汚らしい蛇腹の向こうから体をのぞかせた。
それは、その人は、僕の、少し前、三十一日前に別れた、彼女——猫守柳だった。
普通そんな時間に自分の力だけで起きれたら朝から気分がいいのだろうが、僕は昨日の取り調べのことといい、事件現場の不審者といいで憂鬱なこと甚だしかった。
——とりあえず、レイに飯を
上げなくてはいけない。こんな憂鬱な気分でも、人がどんな気分だろうと、猫という生物である以上空腹になる。そして僕は猫の飼い主だ。
飼い主なんて止めたいが、他の人に譲渡したいが、できないのだ。なぜか、できないのだ。
だからこうやって、あくまでも「しょうがなく」食料をやる。
布団から出、台所の角に置いてある餌皿ケースから1枚皿を抜き取って、餌皿ケースの横に置いてあるドライフードを並々と、眠い目をこすって、入れる。
それを持ち、玄関を開けると、
——いない
そこに猫——レイは居なかった。
いつもレイは六時四十分に扉の前で餌を待っているのだが、今日は時間キッカリに扉を開けてもそこに猫の姿は確認できなかった。
——三百六十五日、一度もいなかった事なんて無かったのに
不思議に思う。しかし、不安にはならない。何故なら、神社で毎朝猫が死ぬように願っているくらいだ。死んだら死んだで、万々歳なのだ。
この猫に対する姿勢を客観的に評価するなら、人間の屑のそれだが、しかし僕は、いや、人間はそう簡単に思いを変えることはできないのだ。
だから僕は餌皿を家の扉の横に置いて、出勤の準備に取りかかった。
歯を磨き、顔を洗い、軽く保湿液を顔にはたいて、スマホでニュースをチェックする。
ざーっと、上から下まで羅列されているニュースを流し見る。芸能人がどうしただの、強盗が入っただの、そういう、自分の世界とは関係のないニュースばかりが目に入る。
——?
一つ、流し見るのを躊躇われるようなニュースが目に飛び込んできた。
『三粂神社の男性撲殺事件。証拠物件の石が消える』
そう、書かれていた。
僕はそのニュースを見た瞬間、異常な程の悪寒、恐怖が腰の辺りから背中に這い上がってくるのを感じた。
——取り調べ、疑い、証拠隠滅
そんな言葉が自分の中でぐるぐると回り、恐怖という感情の元へと吸い込まれていく。
その恐怖の正体は分かりきっていたことだった。
それは、
「ぬ、濡れ衣」
思わず、言葉が出た。その言葉はあまりにも頼りなく、今にもひしゃげてしまいそうな弱さを持って、僕の声帯から口内を通って発声された。
僕は状況を整理する。
昨日の朝、石が男に持ち上げられ、動かされているのを僕は見て、石を元の場所に戻した。そして会社に行って、おそらくその、朝に見た男が石で撲殺された。
もちろん、石を最後に触って、動かしたのは自分だ。もちろん、指紋も、残っているだろう。
そして僕はいま容疑者の様な立ち位置にいる。警察に見張りをつけられていない以上、容疑者ではないのかもしれないが、同じようなものだ。
——僕が犯人として成立しえる要素、証拠は十分にあるじゃないか。
監視カメラの映像は画角に石の所までが入っていないかったらしいから不十分としても、指紋は絶対に残っているはずだ。
いや、僕以外に絶対に犯人は居るのだろうが。果たしてその犯人が手袋をして犯行に及んだとしたら? そしたら指紋は被害者の男と僕のだけになる。
そうなれば、僕に濡れ衣が——
そう考えると怖くなって、恐ろしくなって、気が違ってしまいそうだった。
——そしたら僕の人生は終わりだ。
いくら手違いなど今の時代無いと言っても、自分に言い聞かせても、やっぱり、不安だ。恐ろしい。
僕は、昔からそうだった。ほんの小さな、塵のような不安要素も自分の中で大きくしてしまったら、いくら自分を励まそうがどうしようが、その悩みが取り除かれるまではずっと悩み続ける、厄介な人間だった。
そんな自分に、濡れ衣が着させられるかされないかの不安。
ただでさえ巨大な不安要素。それを自分の中でどんどんどんどん、どんどん大きくして、今に至っているということを、再確認した。
不安で、たまらない。
そう思った時、もう僕の意思は不安で支配されていて、次の行動は不安に操られたが故の行動だった。
「今日はお休みします」
『え?は? なんで——』
直属の上司の返事も聞き入れず、僕は電話を無理やり終了させた。
こんな事したら、後日なんて言われるか分からないし、なにより自分のメンタルがやられて明日会社に行けないかもしれない。だが、今の僕にそんな事、考えられるはずがなかった。
◉
どこでもいいから、なるべく遠くまで。
そんな愚かで甘すぎる考案の末、思いついた移動手段は電車だった。
車の免許は持っていない、自転車では遅い、二輪の免許さえ持っていない、そんな自分にできる、一番速い移動手段は電車だったのだ。
大体、僕は何もしていないんだから堂々としていればいいものを、何故仕事をサボって、家を飛び出し、逃げるなんて行為に至ったか、自分自身でもよくわからない。
まあ頭が冷えて、そう冷静に考えられるようになった時、僕はもう会社に連絡を入れ、電車に乗り込んでいたからどうしようも出来ないのだが。
実際、朝の不安に駆られた状態から電車に乗るまでの間の意識はまるでトランス状態にでも陥ったかのように、まるで記憶は夢の中の出来事のようだったし、今となってはその衝動的な、逃走という選択を実行している途中で方向転換して家に戻り、大人しく会社に行くという選択もできたんじゃないかと思ってしまう。
だがそれはおそらく無理だった。
本当に衝動的だったのだ。深い考えはない。それ故に何も頭では考えていないのだ。衝動に突き動かされ、操られている間は抵抗など無理な話だ。
だから、僕はこの状況を受け入れるしか無いのだろう。
別に今から会社に電話でもかけて戻ることもできるが、あくまで物理的にできるだけであって僕自身の中で考えるとそんなこと、不可能だった。電話口で何を言われるか、不安だった。怖かった。
明日の会社が怖いのだ。いや、僕に明日など無いのかもしれない。このあと、僕はまたもや衝動という怪物に操られ、自殺してしまうかもしれない。
思考が飛躍して、思いがけず自殺なんてワードの所まで飛んでいってしまう。
いつもの事だ。
毎日、いや、数時間おきに、僕は思考を飛躍させて不安を大きく育ててしまう。
ちょっとしたミス——先輩に挨拶するのを忘れたとか——を、大きな事柄に結びつけて大きくしてしまう。
そんな僕を気にかけて、気になんてしなくていい、と、励ましてくれる人もいるが、内心、いや、僕の別の思考回路の部分が、なんてこいつは無責任なやつなんだと、せっかく励ましてくれた人を罵倒する。
でも僕はどうなのかというと、そんな人、僕のような人を励ますなんて、気にするなぐらいしか言葉が出てこないだろう。
ああ、嫌になる。自己嫌悪が僕の穴という穴、洞という洞に溜まって行くような気がする。僕はもしかしたら、本当に、僕の知らない所で僕はあの男を殺しているのかもしれない。自分で自分を教唆したのかもしれない。
頭が重くなって、重力に屈服して頭が下がる。僕はそんな自分の頭をあやしてやる様にスマホを眺める。
もちろん、小さな町で起きた事件だ。人一人死んでいるとはいえ、でかでかとネットニュースに出るような事件でもない。僕が眺めている、スクロールしている範囲でその事件についての記事は見つけられなかった。
——こうしている間にも、指紋検出で僕の指紋が。
検出されているのか。どうなのだろう。
指紋検出には1週間ほどかかると聞いたことがある。でも、水山東一という名の容疑者が近くに住んでいるとなれば、捜査機関も本気を出して一日二日で指紋を検出して、とっとと僕の指紋と照らし合わせてしまうのではないか。
いつも、ニュースを見ていて残忍な犯罪者の判決が軽いもので済んでしまう時、僕はなんて今の法律、裁判所、調査機関、警察はぞんざいで、粗末なんだろうと思うが、いや、思ってしまうのだが、今回ばかりはそんな有象無象の法的機関が酷く綿密で、恐ろしいものだと心の底から思う。
僕は、これからどうすれば良いのだろう、そんなネガティブな気持ちにネガティブな言葉で区切りをつけたその時、電車の扉が開いて、春の朝の、涼しい、寒い冷気が体にぶつかった。
いつもは清々しい冷気が、悪寒となって体にへばりつく。
寒さを紛らわすために周囲をチラチラ見やる。
座席、人、みんなスマホの奴隷。
窓、家、空。雲が膜のように空を覆って、ぼーっとしてしまう。
電車、接合部、隣の車両。接合部にある蛇腹の様な布。あれがなんというか知らないが、隣車両の光景がその薄汚い布越しに見える。
なんとなく、隣車両の人間を見てみる。やっぱり、みんな、スマホを見ている。
そんな人の群れの中に、一人だけ目立つ人がいた。その人はスマホも本も、視点を落ち着かせる場所を持たず、ただ視線を中空に放浪させている。
大体、スマホを見ていないだけで電車内から浮いて見えるなんて、よくよく考えたら物凄く違和感を感じることである。スマホを見ないで座席に座っているのが元々の人間の、電車内での過ごし方だろうに。
でもまあ、その人が周りと浮いているのには決定的な違いがあった。それは、
本人の体の震えと、既視感。
本人から発せられる周りとの違いと、僕の主観から感じ取る周りとの違い。この微妙に違うようで、全く違う二つの違和感が一つの大きな違和感、周りとの差別的要素になって、僕の網膜と、脳を刺激した。
呆気にとられ、僕が彼女を見ていると彼女がこちらを向いた。
そして、立ち、座席から離れ、その汚らしい蛇腹の向こうから体をのぞかせた。
それは、その人は、僕の、少し前、三十一日前に別れた、彼女——猫守柳だった。
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