17 / 18
第16話 小さな希望
しおりを挟む
第16話 小さな希望
午後の病院は、少し混んでいた。
待合室の椅子に座ると、背中の奥がじんと痛む。
陽子はゆっくり姿勢を変えた。
「……はあ」
小さく息を吐く。
消毒液の匂い。
壁の時計の音。
受付の人の声。
「山本さーん」
遠くで誰かの名前が呼ばれる。
陽子は膝の上に置いた手を見つめた。
指先が少しこわばっている。
「今日はどうかな」
小さくつぶやく。
「痛い日か」
少し笑う。
「動ける日か」
そのとき診察室のドアが開いた。
「山本さん」
医師の声だった。
「どうぞ」
陽子はゆっくり立ち上がる。
足は少し重い。
でも歩ける。
診察室の椅子に座る。
医師がカルテを見ながら言った。
「その後どうですか」
陽子は肩をさすった。
「痛いですね」
少し笑う。
「相変わらず」
医師はうなずく。
「どのあたりが強いですか?」
「背中と肩です」
「朝が特につらいですね」
医師はペンを動かしながら聞く。
「歩けていますか?」
陽子は言った。
「少しなら」
「コンビニくらい」
「それでも十分です」
医師は顔を上げた。
「そうですね」
少し穏やかな声で言う。
「線維筋痛症は波があります」
陽子は聞き返す。
「波?」
医師はうなずく。
「はい」
「痛い日もあります」
「でも」
少し間を置く。
「動ける日もあります」
陽子は静かに聞いていた。
医師は続ける。
「良い日と悪い日が繰り返されるんです」
「だから」
「無理をしないことが大切です」
陽子は小さく笑った。
「私、無理するほど元気じゃないです」
医師も少し笑う。
「それが一番です」
カルテを閉じる。
「ゆっくりでいいんですよ」
その言葉が、静かに胸に落ちた。
ゆっくりでいい。
診察室を出る。
待合室の窓から光が入っている。
外は晴れていた。
陽子は病院を出た。
空気が少し暖かい。
春の風が頬に触れる。
「ゆっくりでいい」
小さくつぶやく。
「そうよね」
歩き出す。
足は少し痛い。
でも、歩ける。
空を見る。
青い空。
白い雲。
「痛い日もある」
少し笑う。
「動ける日もある」
角を曲がると、コンビニが見えた。
赤と緑の看板。
陽子は思わず言った。
「寄っていこうかな」
自動ドアが開く。
パンの甘い匂いがする。
店員が言う。
「いらっしゃいませ」
パンの棚を見る。
並んでいるパン。
値札を見る。
「百円」
陽子は小さく笑った。
「今日の楽しみ」
丸いパンを手に取る。
レジに持っていく。
「百円になります」
硬貨を出す。
チャリン。
袋を受け取る。
外に出る。
ベンチに座る。
袋を開ける。
パンの香り。
「いただきます」
一口かじる。
ふわっとした生地。
ほんのり甘い。
「おいしい」
思わず笑う。
「百円なのに」
風が吹く。
桜の花びらが一枚、足元に落ちた。
陽子はそれを見ながら言った。
「ゆっくりでいい」
空を見る。
「年金十三万でも」
パンをもう一口食べる。
「痛みがあっても」
少し笑う。
「いいじゃない」
そして静かに言った。
**「私はまだ生きている」**
その言葉は、春の風の中でやわらかく広がっていった。
午後の病院は、少し混んでいた。
待合室の椅子に座ると、背中の奥がじんと痛む。
陽子はゆっくり姿勢を変えた。
「……はあ」
小さく息を吐く。
消毒液の匂い。
壁の時計の音。
受付の人の声。
「山本さーん」
遠くで誰かの名前が呼ばれる。
陽子は膝の上に置いた手を見つめた。
指先が少しこわばっている。
「今日はどうかな」
小さくつぶやく。
「痛い日か」
少し笑う。
「動ける日か」
そのとき診察室のドアが開いた。
「山本さん」
医師の声だった。
「どうぞ」
陽子はゆっくり立ち上がる。
足は少し重い。
でも歩ける。
診察室の椅子に座る。
医師がカルテを見ながら言った。
「その後どうですか」
陽子は肩をさすった。
「痛いですね」
少し笑う。
「相変わらず」
医師はうなずく。
「どのあたりが強いですか?」
「背中と肩です」
「朝が特につらいですね」
医師はペンを動かしながら聞く。
「歩けていますか?」
陽子は言った。
「少しなら」
「コンビニくらい」
「それでも十分です」
医師は顔を上げた。
「そうですね」
少し穏やかな声で言う。
「線維筋痛症は波があります」
陽子は聞き返す。
「波?」
医師はうなずく。
「はい」
「痛い日もあります」
「でも」
少し間を置く。
「動ける日もあります」
陽子は静かに聞いていた。
医師は続ける。
「良い日と悪い日が繰り返されるんです」
「だから」
「無理をしないことが大切です」
陽子は小さく笑った。
「私、無理するほど元気じゃないです」
医師も少し笑う。
「それが一番です」
カルテを閉じる。
「ゆっくりでいいんですよ」
その言葉が、静かに胸に落ちた。
ゆっくりでいい。
診察室を出る。
待合室の窓から光が入っている。
外は晴れていた。
陽子は病院を出た。
空気が少し暖かい。
春の風が頬に触れる。
「ゆっくりでいい」
小さくつぶやく。
「そうよね」
歩き出す。
足は少し痛い。
でも、歩ける。
空を見る。
青い空。
白い雲。
「痛い日もある」
少し笑う。
「動ける日もある」
角を曲がると、コンビニが見えた。
赤と緑の看板。
陽子は思わず言った。
「寄っていこうかな」
自動ドアが開く。
パンの甘い匂いがする。
店員が言う。
「いらっしゃいませ」
パンの棚を見る。
並んでいるパン。
値札を見る。
「百円」
陽子は小さく笑った。
「今日の楽しみ」
丸いパンを手に取る。
レジに持っていく。
「百円になります」
硬貨を出す。
チャリン。
袋を受け取る。
外に出る。
ベンチに座る。
袋を開ける。
パンの香り。
「いただきます」
一口かじる。
ふわっとした生地。
ほんのり甘い。
「おいしい」
思わず笑う。
「百円なのに」
風が吹く。
桜の花びらが一枚、足元に落ちた。
陽子はそれを見ながら言った。
「ゆっくりでいい」
空を見る。
「年金十三万でも」
パンをもう一口食べる。
「痛みがあっても」
少し笑う。
「いいじゃない」
そして静かに言った。
**「私はまだ生きている」**
その言葉は、春の風の中でやわらかく広がっていった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる