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第4話:公開処刑の幕開け
第4話:公開処刑の幕開け
リビングの空気は、ぴんと張り詰めていた。
誰も座ろうとしない。
立ったまま、言葉を探している。
「……これから、って何をするの」
母の声が、かすかに震える。
「すぐ分かるよ」
主人公は短く答える。
その声だけが、妙に落ち着いている。
背後から、微かに水音が聞こえてくる。
ちゃぷん、ちゃぷん、と規則的に揺れる音。
「……風呂、使ってるのか?」
父が眉をひそめる。
「この時間に?」
義母も、戸惑ったように廊下の方を見る。
「……誰が?」
その問いに、主人公は答えない。
ただ、静かに踵を返した。
「こっちです」
それだけ言って、廊下へ歩き出す。
ためらう気配が、後ろに連なる。
それでも、全員ついてくる。
足音が重なる。
床を踏む音が、やけに大きく響く。
一歩、また一歩。
浴室の前に立つ。
ドアの向こうから、はっきりと声が聞こえる。
「ねえ、ほんとに大丈夫なんですか?」
女の声。
「大丈夫だって、しつこいな」
男の声。
聞き慣れた声。
「でも……奥さんにバレたら」
「だから、バレないって言ってるだろ」
軽い笑い。
「今頃ホテルで寝てるよ」
その一言で、空気が凍った。
「……は?」
父の低い声が、背後から漏れる。
義母が息を呑む音。
「今の……」
母が口元を押さえる。
主人公は、振り返らない。
ドアノブに手をかける。
冷たい金属の感触が、指先に伝わる。
「……開けるね」
小さく言う。
誰に向けてでもなく。
「ちょっと待て」
父の声。
「中にいるのは――」
「見れば分かる」
遮るように言う。
そして、ためらわずに回した。
カチ、と鍵の音。
そのまま、勢いよくドアを開ける。
ばっ、と。
湯気が一気に溢れ出した。
白く、濃く、視界を覆う。
湿った熱気が肌にまとわりつく。
甘い入浴剤の香りが、鼻を刺すほど広がる。
「え……?」
間の抜けた声。
湯気の向こうで、影が動く。
「ちょ、なに――」
視界がゆっくりと晴れていく。
そこにいたのは――
「……っ」
湯船の中で固まる、二つの人影。
夫と、女。
肌を寄せ合ったまま、動けずにいる。
「え、ちょ、待っ……」
女が慌てて体を隠そうとする。
でも、遅い。
全員の視線が、突き刺さっている。
「……おまえ」
父の声が、低く響く。
「何やってる」
その一言で、夫の顔色が変わる。
「な、なんで……」
目を見開く。
「なんでここに……?」
「それはこっちの台詞だ!」
怒号が浴室に反響する。
「ここがどこか分かってるのか!」
夫が口を開く。閉じる。
言葉が出てこない。
その隣で、女が震えている。
「す、すみません……」
小さく、か細い声。
その顔を見た瞬間、主人公の目がわずかに細くなる。
「……やっぱり」
見覚えがある。
職場で何度か見かけた顔。
夫の後輩。
「○○さん……?」
女が呟く。
「なんで……」
その問いに、主人公は答えない。
ただ、じっと見下ろす。
「……説明してもらおうか」
義父の声が、静かに落ちる。
怒鳴らない。
でも、その方がよほど重い。
「これは、どういう状況だ」
夫が震える。
「いや、これは……その……」
「言え」
一言。
逃げ場を許さない声。
「……」
沈黙。
湯気の中で、全員が立ち尽くす。
水音だけが、やけに大きく響く。
ぽたり、と雫が落ちる音。
女が、堪えきれずに言う。
「ち、違うんです……!」
「何が違う」
義父の視線が向く。
「その……誘われて……」
「は?」
主人公が、初めて声を出す。
低く、冷たい声。
「今、それ言う?」
女がびくっと肩を震わせる。
「だ、だって……!」
「全部、聞いてたよ」
静かに言う。
「さっきから、ずっと」
スマホを取り出す。
画面を見せる。
録音中の赤い点。
「え……」
夫の顔が、さらに青ざめる。
「まさか……」
「まさかじゃないよ」
小さく笑う。
「最初から、全部」
再生ボタンを押す。
――「今日は帰ってこないから」
――「平気平気」
――「今頃ホテルで寝てるよ」
浴室に、自分たちの声が響く。
生々しく。
逃げ場なく。
「やめろ……!」
夫が叫ぶ。
「やめてくれ……!」
「なんで?」
首を傾げる。
「楽しかったんでしょ?」
音声は止まらない。
笑い声。
水音。
全部が、そのまま流れる。
「……っ」
女が顔を覆う。
「いや……やだ……」
「やだ、じゃないだろ」
父の声が飛ぶ。
「何をしたか分かってるのか!」
「すみません……!」
女が泣き出す。
でも、誰も同情しない。
「謝る相手が違う」
義父が言う。
冷たく、はっきりと。
「まずは、彼女だ」
視線が、主人公に集まる。
その中心で、ただ立っている。
何も言わず。
感情も見せず。
ただ、見ている。
「……何か言えよ」
夫が、かすれた声で言う。
「頼むから……」
その言葉に、少しだけ目を細める。
「言うこと?」
一歩、近づく。
水気を含んだ床が、ぬるりと足裏に触れる。
「そうだね」
少し考えるふりをして、
そして、言った。
「終わりだね」
その一言で、すべてが崩れた。
夫の顔から、血の気が引く。
女が、声にならない声を上げる。
背後で、義母が崩れ落ちる音がした。
「……ああ」
小さく、息を吐く。
湯気の中で、その声だけがやけに澄んでいた。
「やっと、始まった」
リビングの空気は、ぴんと張り詰めていた。
誰も座ろうとしない。
立ったまま、言葉を探している。
「……これから、って何をするの」
母の声が、かすかに震える。
「すぐ分かるよ」
主人公は短く答える。
その声だけが、妙に落ち着いている。
背後から、微かに水音が聞こえてくる。
ちゃぷん、ちゃぷん、と規則的に揺れる音。
「……風呂、使ってるのか?」
父が眉をひそめる。
「この時間に?」
義母も、戸惑ったように廊下の方を見る。
「……誰が?」
その問いに、主人公は答えない。
ただ、静かに踵を返した。
「こっちです」
それだけ言って、廊下へ歩き出す。
ためらう気配が、後ろに連なる。
それでも、全員ついてくる。
足音が重なる。
床を踏む音が、やけに大きく響く。
一歩、また一歩。
浴室の前に立つ。
ドアの向こうから、はっきりと声が聞こえる。
「ねえ、ほんとに大丈夫なんですか?」
女の声。
「大丈夫だって、しつこいな」
男の声。
聞き慣れた声。
「でも……奥さんにバレたら」
「だから、バレないって言ってるだろ」
軽い笑い。
「今頃ホテルで寝てるよ」
その一言で、空気が凍った。
「……は?」
父の低い声が、背後から漏れる。
義母が息を呑む音。
「今の……」
母が口元を押さえる。
主人公は、振り返らない。
ドアノブに手をかける。
冷たい金属の感触が、指先に伝わる。
「……開けるね」
小さく言う。
誰に向けてでもなく。
「ちょっと待て」
父の声。
「中にいるのは――」
「見れば分かる」
遮るように言う。
そして、ためらわずに回した。
カチ、と鍵の音。
そのまま、勢いよくドアを開ける。
ばっ、と。
湯気が一気に溢れ出した。
白く、濃く、視界を覆う。
湿った熱気が肌にまとわりつく。
甘い入浴剤の香りが、鼻を刺すほど広がる。
「え……?」
間の抜けた声。
湯気の向こうで、影が動く。
「ちょ、なに――」
視界がゆっくりと晴れていく。
そこにいたのは――
「……っ」
湯船の中で固まる、二つの人影。
夫と、女。
肌を寄せ合ったまま、動けずにいる。
「え、ちょ、待っ……」
女が慌てて体を隠そうとする。
でも、遅い。
全員の視線が、突き刺さっている。
「……おまえ」
父の声が、低く響く。
「何やってる」
その一言で、夫の顔色が変わる。
「な、なんで……」
目を見開く。
「なんでここに……?」
「それはこっちの台詞だ!」
怒号が浴室に反響する。
「ここがどこか分かってるのか!」
夫が口を開く。閉じる。
言葉が出てこない。
その隣で、女が震えている。
「す、すみません……」
小さく、か細い声。
その顔を見た瞬間、主人公の目がわずかに細くなる。
「……やっぱり」
見覚えがある。
職場で何度か見かけた顔。
夫の後輩。
「○○さん……?」
女が呟く。
「なんで……」
その問いに、主人公は答えない。
ただ、じっと見下ろす。
「……説明してもらおうか」
義父の声が、静かに落ちる。
怒鳴らない。
でも、その方がよほど重い。
「これは、どういう状況だ」
夫が震える。
「いや、これは……その……」
「言え」
一言。
逃げ場を許さない声。
「……」
沈黙。
湯気の中で、全員が立ち尽くす。
水音だけが、やけに大きく響く。
ぽたり、と雫が落ちる音。
女が、堪えきれずに言う。
「ち、違うんです……!」
「何が違う」
義父の視線が向く。
「その……誘われて……」
「は?」
主人公が、初めて声を出す。
低く、冷たい声。
「今、それ言う?」
女がびくっと肩を震わせる。
「だ、だって……!」
「全部、聞いてたよ」
静かに言う。
「さっきから、ずっと」
スマホを取り出す。
画面を見せる。
録音中の赤い点。
「え……」
夫の顔が、さらに青ざめる。
「まさか……」
「まさかじゃないよ」
小さく笑う。
「最初から、全部」
再生ボタンを押す。
――「今日は帰ってこないから」
――「平気平気」
――「今頃ホテルで寝てるよ」
浴室に、自分たちの声が響く。
生々しく。
逃げ場なく。
「やめろ……!」
夫が叫ぶ。
「やめてくれ……!」
「なんで?」
首を傾げる。
「楽しかったんでしょ?」
音声は止まらない。
笑い声。
水音。
全部が、そのまま流れる。
「……っ」
女が顔を覆う。
「いや……やだ……」
「やだ、じゃないだろ」
父の声が飛ぶ。
「何をしたか分かってるのか!」
「すみません……!」
女が泣き出す。
でも、誰も同情しない。
「謝る相手が違う」
義父が言う。
冷たく、はっきりと。
「まずは、彼女だ」
視線が、主人公に集まる。
その中心で、ただ立っている。
何も言わず。
感情も見せず。
ただ、見ている。
「……何か言えよ」
夫が、かすれた声で言う。
「頼むから……」
その言葉に、少しだけ目を細める。
「言うこと?」
一歩、近づく。
水気を含んだ床が、ぬるりと足裏に触れる。
「そうだね」
少し考えるふりをして、
そして、言った。
「終わりだね」
その一言で、すべてが崩れた。
夫の顔から、血の気が引く。
女が、声にならない声を上げる。
背後で、義母が崩れ落ちる音がした。
「……ああ」
小さく、息を吐く。
湯気の中で、その声だけがやけに澄んでいた。
「やっと、始まった」
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