私は弟のために生まれたんじゃない 〜「お姉ちゃんなんだから」と人生を搾取された私、弁護士になったのでクズ家族に返還請求します〜

かおるこ

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第8話 覚醒

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第8話 覚醒

冬の朝は暗い。

まだ空は夜の色を残したままなのに、目覚まし時計の電子音が机の上で鳴った。

紬はゆっくり目を開けた。

部屋の空気は冷たい。息を吐くと、白くはならないが胸の奥がきゅっと縮むような寒さだった。

「……五時」

小さくつぶやく。

布団から出ると、足の裏が床の冷たさにびくりとする。
台所からかすかにコーヒーの匂いがしていた。

紬はドアを開ける。

佐藤がキッチンに立っていた。

「起きたか」

「おはようございます」

佐藤はマグカップを差し出す。

「飲むか」

湯気がゆっくり立ち上る。
コーヒーの苦い香りが鼻に広がった。

紬は両手でカップを包む。温かさが指先に広がる。

「今日も仕事か」

「はい」

「そのあと学校」

「はい」

佐藤は少しだけ眉をひそめる。

「無理するな」

紬は小さく笑った。

「大丈夫です」

その笑いは弱かったが、消えてはいなかった。

昼。

紬はスーパーのレジに立っていた。

「いらっしゃいませ」

バーコードを通す音が続く。

ピッ。
ピッ。
ピッ。

袋詰めの音。
客の話し声。
店内のBGM。

レジを打つ指は速い。

「袋いりますか」

「いらない」

「ありがとうございました」

時間は流れる。

夕方、仕事が終わる。

制服を脱ぎ、鞄を持つ。

駅前の予備校へ向かう。

教室の空気は乾いていた。
蛍光灯の光が白く机を照らしている。

講師が黒板に書く。

民法。

保証。

債務。

その言葉を見るたび、胸の奥が少しだけ熱くなる。

紬はペンを握る。

ノートを埋める。

帰るのは夜。

家に戻ると、机に向かう。

「……第百四十五条」

小さく読む。

時計を見る。

「一時」

目が痛い。

肩が重い。

でもページをめくる。

佐藤がドアを開ける。

「まだ起きてるのか」

「もう少しだけ」

佐藤は机を見る。

ノート。条文。参考書。

「朝倉」

「はい」

「寝ろ」

紬は首を振る。

「あと一問」

佐藤はため息をつく。

「頑固だな」

でも笑っていた。

「でも」

静かに言う。

「いい顔してる」

紬は少しだけ驚いた。

佐藤は部屋を出る。

「頑張れ」

その言葉だけ残して。

季節が変わる。

春。

桜が咲く。

夏。

教室は蒸し暑い。

秋。

風が冷たくなる。

冬。

指先がかじかむ。

そして試験の日。

紬は机に座っていた。

答案用紙。
問題文。

心臓が速い。

でも恐怖ではない。

「……大丈夫」

小さく言う。

ペンを持つ。

書き始める。

数ヶ月後。

パソコンの画面が白く光る。

合格発表。

番号が並んでいる。

紬の指が震える。

スクロールする。

一つずつ見る。

「……ない」

胸が重くなる。

もう一度見る。

もう一度。

そして。

「あ……」

声が漏れた。

番号があった。

紬は画面に近づく。

何度も確認する。

「……ある」

声が震える。

「ある」

涙がにじむ。

後ろから声。

「どうだ」

佐藤だった。

紬は振り向く。

言葉が出ない。

ただうなずく。

佐藤の目が細くなる。

「そうか」

小さく笑う。

「やったな」

紬の頬に涙が流れた。

数ヶ月後。

法廷の前。

黒いスーツ。
新しい靴。

胸に小さなバッジが光る。

弁護士。

紬はそれを指で触れる。

金属の冷たい感触。

深く息を吸う。

その頃。

朝倉家。

「金は?」

父が怒鳴る。

母が言う。

「紬がいないから」

駿がテーブルを叩く。

「だから言っただろ!」

「働けよ!」

母が言う。

「仕事ないのよ」

駿が舌打ちする。

「クソ」

家の空気は重い。

冷蔵庫はほとんど空だった。

その夜。

紬はオフィスの窓から街を見ていた。

灯りが広がる。

人が歩く。

車が走る。

紬は小さく息を吐く。

胸の奥に静かな強さがあった。

もう奪われない。

誰にも。

紬はつぶやく。

「……ここから」

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