『首輪を贈られた花嫁は、本物の聖女でした ~奪われた魔力と心を取り戻します~』

かおるこ

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第4話 ゼロの花嫁

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第4話 ゼロの花嫁

大聖堂は、祝福の日よりも冷たく感じた。

白い石床は朝の光を弾き、
高い天井から垂れ下がる燭台の炎が揺れている。

今日は公開魔力測定の日。

王家の婚約者として、
正式に魔力量を発表する儀式。

逃げ場はない。

「準備はよろしいですか、花嫁殿」

司祭の声が響く。

喉が渇く。

「……はい」

首輪が、やけに重い。

赤い宝石が、淡く光っている気がする。

彼が隣に立つ。

「しっかりしなさい。
 今日は大事な日だ」

「はい、殿下」

「昨日の失態を取り戻せ」

失態。

胸がちくりと痛む。

そのとき、柔らかな声が響いた。

「どうか緊張なさらないで」

聖女が微笑んでいる。

「きっと本来の力が出ますわ」

彼女の周囲には、すでに薄い光が漂っている。

まるで呼吸するように。

ざわめきが広がる。

「やはり聖女様は違う」
「花嫁殿はどうなのだろう」

水晶球が中央に置かれる。

透明なそれは、冷たい。

まずは聖女。

彼女が手を置く。

ぱあ、と金色の光が弾ける。

天井近くまで伸び、
花弁のように舞う。

歓声。

「素晴らしい!」
「王国の誇りだ!」

彼が満足げに頷く。

「さすがだ」

聖女は控えめに微笑む。

「殿下のお支えがあってこそです」

そして、私の番。

視線が刺さる。

喉が締まる。

首輪が、じわり、と熱い。

「花嫁殿、どうぞ」

司祭の声が遠い。

水晶に触れる。

ひやり。

冷たい。

待つ。

一秒。

二秒。

三秒。

……。

かすかな、淡い光がにじむ。

まるで息を止めた蛍のように。

そして、消える。

静寂。

誰かが、くすりと笑う。

「……今のが?」

「見えたか?」

「ほとんど、ゼロでは」

ゼロ。

その言葉が、石床に落ちる。

胸が、ぎゅっと縮む。

彼が小さく息を吐く。

「これは……」

聖女が一歩前に出る。

「どうか責めないでくださいませ」

涙ぐんでいる。

「きっと体調がお悪いのです。
 ここ数日、お疲れのご様子でした」

優しい声。

「わたくしが至らないばかりに、
 負担をおかけしてしまって……」

ざわめきが同情に変わる。

「聖女様はお優しい」
「花嫁殿は幸せ者だ」

幸せ者。

私は立っている。

けれど足元がふわふわする。

「減っていますね」

司祭が小声で言う。

「前回の測定よりも、明らかに」

減っている。

首輪が熱い。

じわり、と。

吸われている。

今、この瞬間も。

「申し訳……ありません」

言葉が勝手に出る。

彼の声が低く響く。

「自覚が足りない」

胸に突き刺さる。

「王家の婚約者として、
 この程度では困る」

「殿下、どうか……」

聖女が彼の袖をそっと引く。

「厳しいお言葉は、彼女を追い詰めてしまいます」

涙が頬を伝う。

完璧な角度で。

「わたくしが、祈ります。
 彼女の分まで」

その瞬間、彼女の周囲の光が強まる。

温かい。

眩しい。

人々が目を細める。

その光が、私の首元に触れる。

熱い。

焼けるように。

そして――

私の胸の奥から、何かが引き抜かれる。

一瞬、眩暈がする。

聖女の光が、さらに強くなる。

誰も気づかない。

私だけが知っている。

「やはり、聖女様こそ真の祝福だ」

誰かが言う。

「花嫁殿は、ただの名ばかりだな」

笑いが混じる。

喉がひりつく。

視界が滲む。

けれど泣けない。

泣けば、弱さの証明になる。

彼が冷たく言う。

「努力が足りないんだよ」

昨日と同じ言葉。

でも今日は、
皆の前で。

「聖女様を見習いなさい」

私はうなずく。

「……はい」

首輪が、ずっと熱い。

ゼロに近い数値。

減り続ける魔力。

涙ながらに擁護する聖女。

優しい仮面。

私は、立っている。

けれど。

確実に。

削られている。

祝福のはずの首輪が、
私の何かを、今日も奪っている。


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