『パリビ、ザマァ』

かおるこ

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第3話「暴かれる過去」

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第3話「暴かれる過去」

昼の光は残酷だった。

雲ひとつない空。
容赦なく照りつける太陽。
汗は止まらず、塩が肌の上で白く結晶している。

砂浜に並んだテントは、昨日よりもくたびれて見えた。
布はしわくちゃに波打ち、風に叩かれて乾いた音を立てている。

ナナが言った。

「……ねえ、あれ何?」

テントの前に、白い封筒が置かれていた。

七つ。

きちんと、人数分。

誰も近づこうとしない。
波の音だけが、規則正しく、ざあ、ざあ、と響く。

ケンジが唾を飲み込む。

「昨日はなかったよな」

「なかった」

リナの声がかすれる。

ユウタが笑う。

「また演出? いい加減飽きたんだけど」

けれど、笑いは続かない。

封筒の表には、それぞれの名前が書いてあった。
黒いインク。見覚えのある自分の名前。

ナナの指先が震える。

「触っていいの?」

「触るしかないだろ」

ケンジが自分の封筒を拾う。
紙の感触はざらついていて、妙に生温かい。

封を切る音が、やけに大きく響いた。

中から、USBメモリが落ちる。

「は?」

ユウタも封を開ける。

中身は、プリントアウトされたスクリーンショット。

一瞬、誰も言葉を失う。

「……これ」

リナの喉が鳴る。

彼女の封筒の中には、動画のサムネイル画像が印刷されていた。

教室。
机。
笑い声。

中央で、うずくまる女子生徒。

その周囲で、スマホを向けて笑っている数人。

その中に、十代のリナ。

今より少し幼い顔で、ピースをしている。

「違う……」

リナの手から紙が落ちる。

「これ、昔のやつ……もう消したのに」

ユウタが低く言う。

「消えてなかったんだな」

「違うって言ってるでしょ!」

声が裏返る。目が赤い。

「みんなやってたじゃん、あの頃!」

「だからって」

ナナの声が小さく刺す。

「泣いてる子、いるよ」

リナが顔を上げる。

「ナナだって関係ない顔しないでよ」

ナナの肩がびくりと跳ねる。

「私のは……」

封筒の中身を広げる。

プリントアウトされたSNSの画面。

裏アカウント。

黒い背景に、白い文字。

《あの店、客層きも。底辺ばっか》
《外国人増えすぎ。空気悪くなる》

投稿主のアイコンは、猫。

しかし、画面の端に映る通知欄に、ナナの本アカ名が一瞬だけ映り込んでいる。

「……これ、合成だよ」

「ID一致してる」

ユウタが言う。

「ほら、ここ」

ナナの呼吸が荒くなる。

「違う。あれは……ただの愚痴で……」

「差別だろ」

「そんなつもりじゃ」

「じゃあどんなつもり?」

声がぶつかる。空気がひりつく。

ケンジが封筒の中身を見つめている。

そこには、投資セミナーのスクショ。

《今だけ限定。元本保証。絶対に損しません》

その下に、被害者と思しきDM。

《生活費なんです。本当に大丈夫ですよね?》

ケンジの顔から血の気が引く。

「これは……合法だった」

「元本保証って言ってるじゃん」

ユウタが吐き捨てる。

「嘘じゃん」

「市場が読めなかっただけだ!」

「じゃあ謝ったのかよ?」

「自己責任だろ投資なんて!」

ケンジの声が荒れる。

砂を蹴る音。

息が熱い。胸が痛い。

リナが叫ぶ。

「これ誰がやってんの!?」

誰も答えられない。

風が強くなる。テントがばさりと鳴る。

「内部だろ」

ユウタが低く言う。

「ここにいる誰か」

「は?」

ナナが睨む。

「私じゃない!」

「俺もだよ」

「じゃあ誰!?」

沈黙。

視線が、ゆっくりと互いを舐めるように巡る。

喉が鳴る音が、やけに大きい。

リナが震える声で言う。

「昨日、ドローン飛んでたよね」

「……ああ」

「外から?」

「でもさ」

ユウタが首を振る。

「これ、昔のデータだぞ。内部じゃないと無理だろ」

ケンジがリナを見る。

リナがナナを見る。

ナナがユウタを見る。

疑いが、じわじわと広がる。

まるで潮が満ちるみたいに。

「俺じゃねえからな」

ユウタが言う。

「動画だって、俺が晒したことない」

「でも炎上商法で人晒してたじゃん」

リナの言葉が鋭い。

「関係ないだろ!」

「関係あるよ!」

ナナが叫ぶ。

「人の人生ネタにしてきたじゃん!」

「お前だって!」

声が重なる。

頭がくらくらする。
太陽が視界を白く塗りつぶす。

「やめて……」

リナが膝をつく。

「こんなの……見たくなかった」

手のひらに砂が食い込む。
ざらざらとした感触。

遠くで、雷のような音が鳴った気がした。

全員が空を見上げる。

雲はない。

しかし、胸の奥に不穏な振動が残る。

ケンジが呟く。

「これ、裁きだよな」

「誰の?」

誰も答えない。

波が強くなってきている。
潮の匂いが濃い。

ナナが小さく言う。

「……私たち、嫌われてたのかな」

ユウタが笑う。

乾いた、ひび割れた笑い。

「今さら?」

その瞬間、テントの奥から風でめくれた紙が一枚、ひらりと舞った。

そこには、赤い文字で書かれていた。

《次は、公開。》

リナの背中に冷たいものが走る。

「公開って……どこに」

誰かが見ている。

誰かが知っている。

そして、まだ終わっていない。

疑いは、もう戻れないところまで膨らんでいた。

彼らは互いを見つめる。

仲間ではなく。

告発者でもなく。

ただ——

次に晒される“標的”を探す目で。

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