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第10話「部活という挑戦」
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第10話「部活という挑戦」
体育館の扉の前で、陽菜は立ち止まっていた。
中から重低音が響いてくる。
ドン、ドン、と床を震わせるビート。
誰かの笑い声。
スニーカーが滑る音。
「……帰ろうかな」
小さくつぶやく。
手のひらがじんわり湿っている。
(運動経験ゼロだし)
中学の体育はいつも平均以下。
リレーは補欠。
ダンスなんて、体育の創作ダンス以来だ。
でも。
“なりたい自分”。
その言葉が、胸の奥で静かに揺れる。
がら、と扉を開ける。
一気に熱気が流れ込んでくる。
汗と制汗剤の匂い。
床のワックスの匂い。
鏡張りの壁に、何人もの自分が映る。
「見学ですか?」
振り向いた先輩が声をかける。
「は、はい」
声が少し裏返る。
「初心者?」
「……はい」
先輩はにっと笑った。
「大丈夫大丈夫!ほぼ初心者だよ最初は」
ほぼ、って何。
でもその笑顔が、少しだけ緊張をほどく。
「とりあえず、後ろで一緒にやってみる?」
「え」
見学だけのつもりだった。
「見てるだけだとつまんないよ」
そう言って、先輩はタオルを投げてよこす。
「汗かくから」
タオルを受け取る。
柔軟剤の匂いが、ふわっとする。
音楽が流れる。
「5、6、7、8!」
掛け声と同時に、全員が動く。
腕が一斉に上がる。
足が揃う。
速い。
(無理)
一拍遅れる。
足がもつれる。
ドン、と自分のスニーカーが床にぶつかる。
「ご、ごめんなさい」
誰に謝っているのか分からない。
「いいよー!」
先輩の声が飛ぶ。
「最初はそんなもん!」
音楽が止まる。
息が荒い。
胸が上下する。
まだ数分なのに、汗が額を伝う。
「どう?」
さっきの先輩が笑う。
「きついです」
正直に言う。
「でしょ?でも楽しくない?」
楽しいか、と聞かれると。
「……悔しいです」
自分でも驚く答えだった。
先輩が目を細める。
「それ最高」
その日の帰り道。
脚が重い。
ふくらはぎがじんじんする。
「どうだった?」
莉子が聞く。
「死んだ」
「入る?」
「……入る」
言った瞬間、胸が熱くなる。
「まじで?」
「うん」
怖い。
でも。
逃げたら、たぶん後悔する。
初練習の日。
体育館はいつもより広く感じる。
「陽菜、ここね」
先輩が立ち位置を示す。
音楽が鳴る。
動く。
間違える。
止まる。
「違う違う!腕逆!」
「す、すみません!」
汗が目に入る。
しょっぱい。
呼吸がうまく整わない。
(向いてない)
何度も頭をよぎる。
鏡に映る自分は、ぎこちない。
他の子は軽やかだ。
休憩。
床に座り込む。
タオルで顔を拭く。
肌が熱い。
「大丈夫?」
莉子が隣に座る。
「私、やばくない?」
「やばい」
即答。
「ひど」
「でもさ」
莉子がペットボトルを渡す。
「本気じゃん」
冷たい水が喉を通る。
身体の中が冷える。
「顔、めっちゃ悔しそうだった」
「……悔しいよ」
「それいいよ」
音楽が再開する。
「もう一回!」
先輩の声。
立ち上がる。
脚が震える。
でも。
(やる)
カウントを数える。
5、6、7、8。
腕を上げる。
足を踏み込む。
まだずれる。
でも、さっきより少しだけ近い。
「お、今よかった!」
先輩の声が飛ぶ。
え。
一瞬、動きが止まる。
「止まらない!」
「はい!」
続ける。
心臓がうるさい。
汗が背中を流れる。
でも。
身体の奥から、熱が湧く。
練習後。
床に寝転ぶ。
天井がぼやける。
「……無理かもって思った」
陽菜がつぶやく。
「うん」
莉子が笑う。
「でもやってるじゃん」
指先が、まだ震えている。
「本気でやるとさ」
陽菜は天井を見つめる。
「こんなに疲れるんだね」
「うん。でも」
莉子が言う。
「本気でやると、ちゃんと変わるよ」
その言葉が、胸に残る。
帰り道。
脚は重い。
でも足取りは不思議と軽い。
(今日、逃げなかった)
それだけで、少し誇らしい。
家の鏡の前。
汗で崩れた顔。
髪は乱れている。
でも。
目が、強い。
「……悪くない」
小さく笑う。
運動経験ゼロ。
失敗だらけ。
周りより遅い。
でも。
本気でやると、
“できない自分”と真正面から向き合うことになる。
その怖さ。
その悔しさ。
でも、その中で。
少しずつ“できる”が増える。
それが、自信になる。
ベッドに倒れ込む。
筋肉がじんわり痛い。
「痛……」
でも、嫌じゃない。
「明日も、やる」
天井に向かって言う。
なりたい自分は、
急にはなれない。
でも。
汗だくで、失敗して、
それでも立ち上がる。
その繰り返しが、
少しずつ形を作る。
目を閉じる。
胸の奥が、静かに熱い。
陽菜は思う。
本気は、疲れる。
でも。
本気は、強い。
そして今、
自分はちゃんと“挑戦している”。
それだけで、
昨日より少しだけ、胸を張れた。
体育館の扉の前で、陽菜は立ち止まっていた。
中から重低音が響いてくる。
ドン、ドン、と床を震わせるビート。
誰かの笑い声。
スニーカーが滑る音。
「……帰ろうかな」
小さくつぶやく。
手のひらがじんわり湿っている。
(運動経験ゼロだし)
中学の体育はいつも平均以下。
リレーは補欠。
ダンスなんて、体育の創作ダンス以来だ。
でも。
“なりたい自分”。
その言葉が、胸の奥で静かに揺れる。
がら、と扉を開ける。
一気に熱気が流れ込んでくる。
汗と制汗剤の匂い。
床のワックスの匂い。
鏡張りの壁に、何人もの自分が映る。
「見学ですか?」
振り向いた先輩が声をかける。
「は、はい」
声が少し裏返る。
「初心者?」
「……はい」
先輩はにっと笑った。
「大丈夫大丈夫!ほぼ初心者だよ最初は」
ほぼ、って何。
でもその笑顔が、少しだけ緊張をほどく。
「とりあえず、後ろで一緒にやってみる?」
「え」
見学だけのつもりだった。
「見てるだけだとつまんないよ」
そう言って、先輩はタオルを投げてよこす。
「汗かくから」
タオルを受け取る。
柔軟剤の匂いが、ふわっとする。
音楽が流れる。
「5、6、7、8!」
掛け声と同時に、全員が動く。
腕が一斉に上がる。
足が揃う。
速い。
(無理)
一拍遅れる。
足がもつれる。
ドン、と自分のスニーカーが床にぶつかる。
「ご、ごめんなさい」
誰に謝っているのか分からない。
「いいよー!」
先輩の声が飛ぶ。
「最初はそんなもん!」
音楽が止まる。
息が荒い。
胸が上下する。
まだ数分なのに、汗が額を伝う。
「どう?」
さっきの先輩が笑う。
「きついです」
正直に言う。
「でしょ?でも楽しくない?」
楽しいか、と聞かれると。
「……悔しいです」
自分でも驚く答えだった。
先輩が目を細める。
「それ最高」
その日の帰り道。
脚が重い。
ふくらはぎがじんじんする。
「どうだった?」
莉子が聞く。
「死んだ」
「入る?」
「……入る」
言った瞬間、胸が熱くなる。
「まじで?」
「うん」
怖い。
でも。
逃げたら、たぶん後悔する。
初練習の日。
体育館はいつもより広く感じる。
「陽菜、ここね」
先輩が立ち位置を示す。
音楽が鳴る。
動く。
間違える。
止まる。
「違う違う!腕逆!」
「す、すみません!」
汗が目に入る。
しょっぱい。
呼吸がうまく整わない。
(向いてない)
何度も頭をよぎる。
鏡に映る自分は、ぎこちない。
他の子は軽やかだ。
休憩。
床に座り込む。
タオルで顔を拭く。
肌が熱い。
「大丈夫?」
莉子が隣に座る。
「私、やばくない?」
「やばい」
即答。
「ひど」
「でもさ」
莉子がペットボトルを渡す。
「本気じゃん」
冷たい水が喉を通る。
身体の中が冷える。
「顔、めっちゃ悔しそうだった」
「……悔しいよ」
「それいいよ」
音楽が再開する。
「もう一回!」
先輩の声。
立ち上がる。
脚が震える。
でも。
(やる)
カウントを数える。
5、6、7、8。
腕を上げる。
足を踏み込む。
まだずれる。
でも、さっきより少しだけ近い。
「お、今よかった!」
先輩の声が飛ぶ。
え。
一瞬、動きが止まる。
「止まらない!」
「はい!」
続ける。
心臓がうるさい。
汗が背中を流れる。
でも。
身体の奥から、熱が湧く。
練習後。
床に寝転ぶ。
天井がぼやける。
「……無理かもって思った」
陽菜がつぶやく。
「うん」
莉子が笑う。
「でもやってるじゃん」
指先が、まだ震えている。
「本気でやるとさ」
陽菜は天井を見つめる。
「こんなに疲れるんだね」
「うん。でも」
莉子が言う。
「本気でやると、ちゃんと変わるよ」
その言葉が、胸に残る。
帰り道。
脚は重い。
でも足取りは不思議と軽い。
(今日、逃げなかった)
それだけで、少し誇らしい。
家の鏡の前。
汗で崩れた顔。
髪は乱れている。
でも。
目が、強い。
「……悪くない」
小さく笑う。
運動経験ゼロ。
失敗だらけ。
周りより遅い。
でも。
本気でやると、
“できない自分”と真正面から向き合うことになる。
その怖さ。
その悔しさ。
でも、その中で。
少しずつ“できる”が増える。
それが、自信になる。
ベッドに倒れ込む。
筋肉がじんわり痛い。
「痛……」
でも、嫌じゃない。
「明日も、やる」
天井に向かって言う。
なりたい自分は、
急にはなれない。
でも。
汗だくで、失敗して、
それでも立ち上がる。
その繰り返しが、
少しずつ形を作る。
目を閉じる。
胸の奥が、静かに熱い。
陽菜は思う。
本気は、疲れる。
でも。
本気は、強い。
そして今、
自分はちゃんと“挑戦している”。
それだけで、
昨日より少しだけ、胸を張れた。
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