つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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 ゆらゆらと揺れる椅子を揺らしながら、のんびりと本を読む。
 緩やかな風が金色の髪を撫でる。
 木漏れ日が静かに揺れ動く。
 ゆったりとした時間。

(はぁ~~、これよこれ)

 幸せをかみしめるように目を閉じる。

「リディア様、少しお茶にしませんか?」
「ただいまー!全部今日も売り切れたよ!姉さま!」

 本を閉じる。
 あれから落ち着いた日々を過ごしている。
 この辺りも魔物は出るけれど、リディアの力で結界が張られこの家の周辺は穏やかだ。

「ん、やっぱりイザークのお茶は美味しいわね」
「お褒め頂きありがとうございます」
「姉さま、頼まれてたパンだけど…」
「どうしたの?」

 お守りを売りさばくついでに、帰りに食材のパンを頼んでおいた。
 リオが少し困った顔をしながら、袋を机に置く。

「え…、これだけ?」

 袋から出したパンの数に驚く。

「今日の売れた分で買えたのこれだけで‥‥」
「! 今日の売上全て使ってこれだけ?」

 リオが頷く。

「最近、この辺りも魔物が増えましたからね、畑もかなりひどい状況と噂を聞きます」
「それで小麦食品が暴騰したのね」
「小麦だけではありません、野菜も酷いものです、田畑だけではなく山も海も魔物が現れるようになり、食料全体が暴騰しているため、あちこちの街で餓死者が増えているとか…」
「姉さま、もっと遠くに行こう」
「何かあったの?」
「あちこちで暴動が起きてるんだ、この辺りもそろそろ危険かもしれない」
「暴動?!‥‥内乱が起きてるの?」

 驚きリオを見、イザークを見るもイザークも眉を潜めている。
 そこでその情報は本物なのだと知る。
 ここに来てから一歩も外に出ていなかったリディアには衝撃的だった。

「は~~、やっと手に入れたぐーたら生活がぁ~~」
「姉さま…」

(束の間の幸せってやつ?にしては短か過ぎる!!くぅっっ)

 頭を抱える。
 とはいえ、頭を切り替えなくてはいけないと一つ息を吐く。

「魔物が少ない場所を探さないとね、でないと食料もままならないわ」
「そうですね、この光の魔法が気づかれる前にここから移動した方が良いでしょうし、直ぐに情報を集めましょう」

 イザークの言葉に頷く。
 街はずれのこの場所に人はあまり通らない。
 それを良いことに光の結界を張っている。
 光魔法の事を知られれば、それを利用する輩が絶対に現れるのは世の常だ。

(そんな面倒ごとに巻き込まれてたまるもんですか)

 利用されそうになってやっと逃げだしてきたところだというのに、また巻き込まれるなんて死んでも嫌だ。

「まったく、ジークは何をしているのかしら?」

 あれで確実に政権はジークヴァルトに渡っただろう。
 ジークヴァルトの手腕ならこの国は統制が整っていき、落ち着いていくと思っていた。
 なのに一向に改善されないどころが、内乱まで起こっているってのは頂けない。

(それになんでこんなに魔物が増えるの?大団円エンドは終わったはずよ?大体…)

「魔物が増えたといっても策はあるでしょ?魔物をどこかに封じ込むとか、白魔術なら退けられるんだし、アナベルの邪魔も入らないでしょ?」
「そうですね…、我が国は聖女試験も行われる場所ですので白魔術使いも多いですし、権力争いもなくなり、ジーク派の隊長クラスも取り戻した今、ジークヴァルト陛下ならば何らかの策に講じててもおかしくはない筈です、教会や貴族、利権に気を使い準聖女や印を出た者を使わないなど、そんなことはなさらないでしょうし…」
「あー、それがヤバい事になってるんだよねー」
「ディーノ!」

 そこにひょっこりとディーノが現れる。
 見るといつもの暢気な表情が一つもない。

「‥‥その顔、何か問題でも?」

 ディーノが神妙な面持ちで頷いた。
 そして重い口を開いた。

「ジークヴァルト殿下の公開処刑が決まった」
「?!」
「はぁ?何を言って…」
「助けるにはすぐに出発しろっ、間に合わない」






「何これ…」

 急いで城下街へ向かう馬に揺られながら目を見張る。
 あちこちで暴力を帯びたデモが起きていた。

「街をこんなにしたジークヴァルトに我々はこんなにも声を上げている!なのにお前たちは何もしないのか!!」
「沈黙は暴力だぁ!!」

 デモ行進する者達が叫び街の人々に暴力を振るう。

「こんな酷い仕打ちを受けてなぜ何も言わない!なぜ黙っているんだ!!」
「お前らはなぜ俺達と一緒に運動しないんだ!だまってすましてるんじゃねぇ!!」
「ひっっうぐっ」

 お年寄りまで蹴飛ばす有様に、イザークの胸元をギュッと掴む。

「今は我慢してください、最優先はジークヴァルト殿下をお救いすること」
「解ってるわ、個人がどうこうできる問題でない事も」

 怒りを抑えながら次から次へと街を駆け抜けていく。

「見えました」
「凄い人…」

 ジークヴァルトの公開処刑という事で人々が城下へと押し寄せていた。
 街中に暗雲が立ち込めている。
 
「アナベル様とレティシア様になれば、国は安泰だ!!」
「アナベル様で国は蘇る!!」
「魔王ジークヴァルトに死を!!」

 大きな声で叫ぶ団体をチラリと見る。
 ガラの悪そうな姿で叫ぶそれを見、風に飛ばされてきた紙を手にし見る。
 そこにはあることない事書き連ねたジークヴァルトの悪事がこれでもかと書かれていた。
 現状の不況から民衆もそれを信じ込み、ジークヴァルトを殺せと声を上げる。

「本当にディーノの言った通りアナベルに政権が渡ったのね…」
「そのようですね」

(なぜ?)

 あの時、アナベルの悪事を暴いた。
 あれで大団円は完成し、ジークヴァルトが政権を取り、そしてジークヴァルトの息が掛かった聖女かレティシアになるだろうと予想していた。
 案の定、立つ前にディーノから聞いた情報で、レティシアが聖女になったらしい。
 レティシアが聖女になったとしても、アナベルがあの時敗れたことで、レティシアが聖女になろうとジーク派とアナベル派で拮抗を保てるはずだ。なのに今この状況。

(おかしい…ジークが政権を確かに握ったはず…)

 ジークヴァルトが敗れるなんて想像ができない。あのジークヴァルトとあのサディアスがいてこうなる理由が思いつかない。

(どこでこうなってしまったの?)

 時間がなく、ディーノに詳しい話を聞く前に公開処刑の場所へと向かってしまったため状況がつかめない。ディーノは他に行く場所があると別行動をとっている。だから一体全体どうしてこうなったか全く理解不能だ。
 目に映る街があまりにも様変わりしていて驚きしかない。

「姉さま、ここからは降りた方がいい」

 リオの言葉に頷くと馬を降り、処刑場へと向かう。

「これ以上は無理ですね」
「そうね、ここから届く?」
「ここからでも届きますが、もう少し近づく方が確実かと…」
「なら私に構わず行ってちょうだい」

 ジークヴァルトを助けるのに黒魔法で幻術を掛けその間にリオが攫うという段取りだ。
 だけど位置的にもう少し近づきたいが人だかりで前に進めない。
 リオとイザークならば何とかなるが、リディアには無理だ。
 仮に抱いて移動したとしても術や攫う時に邪魔になってしまう。

「もしはぐれたら馬の場所で落ち合いましょう」
「ですが…」
「これは命令よ」
「…解りました」
「本当に大丈夫なんだろうな?」

 リオがイザークに詰め寄る。

「大丈夫です、リディア様の周りは幻術が掛かっていて皆には姿が見えていません、襲うにも姿が見えていなければ襲えないでしょう」

 心配に眉間にしわを寄せているリオに見せるように真後ろの人の目の前で手のひらを振る。
 だが、何の反応もしない。

「凄いわね、本当に見えてないのね」
「…姉さま、直ぐに戻るから、無茶は絶対しないでね」
「解―――」
 
 不意にドッと会場が沸く。
 その中央の光景にリディアはギョッとし息を呑み込み閉口した。
 あの雄々しく光り輝いていた面影が微塵もなく酷くやつれ拷問された傷も生々しくボロボロになった姿のジークヴァルトが手錠を嵌められ登場してきたのだ。
 言葉をなくしジークヴァルトを凝視する。
 その姿に心が言葉が感情が止まる。
 死刑執行人がありもしない罪状を声高々に読み上げていく。
 無責任に叫ぶ人々。口々に罵声を浴びせ売国奴と罵る民。
 そして皆の前で膝を折りボロボロな状態で力なく首を擡げているその姿にリディアの全身がカーッと熱を帯びた。

「お前のせいで国はボロボロだ!!」
「魔物が増えたのもお前のせいだ!!」
「戦が終わらないのも金目当てだろ!」
「国民の命を何だと思ってるの!あんたの私利私欲のせいで私の家族は死んだのよ!!この悪魔!!」
「俺らが貧しいのも全てお前のせいだ!!殺せ!!」
「俺らの幸せを返せぇ!!」
「殺せぇ!!」
「死をもって償え!!」

(どうして、現実を見ないの?)

 さっきチラリと見たチラシに書かれた事をそのまま国民が罵ることに愕然とする。
 現状が維持できていたのはジークヴァルトのお陰であり、戦乱が落ちついているのもジークヴァルトのお陰だ。
 それを国民は知っているはずだ。見ているはずだ。
 なのに不意にたったあらぬ噂を信じ切り、今までの事はまるでなかったことのように怒り狂う民に嫌悪に胸がムカムカする。
 今のこの国の有様を自分の不幸を全てジークヴァルトのせいにする民に怒りが全身に込み上げる。

(冷静に見れば解るじゃん?てか、見てきたじゃん?大体、ちゃんと自分で情報を調べれば、どっちが悪かなんて一目瞭然なのにっ調べず聞いたことを鵜吞みにして知ったかして!!ああもう!!本物を大罪にし公開処刑で沸くなんて!!ふざけんな!!!!)

 ジークヴァルトの髪を避け首を露わにするその様に民が沸く。

「殺せぇぇ!」
「これでアグダスは安泰だぁ!!」
「この極悪人!思い知らせてやれぇぇえ!!」
「死ねっ!!」

 リディアの身体がわなわなと震える。

(この荒れた街や暴力で誘導するこの状況を見れば、どっちが悪かなんて解るじゃない!!もう!!現実を見ないで自分の辛さを貧しさをジークにぶつけているだけじゃない!!)

 横に立つ処刑人の剣が天高く見せしめるように上げる。



( 絶対にさせない!!!! )



「リオ、イザーク、行け!」
「はいっ」

 リオとイザークが疾風の如く中央へと飛ぶ。
 剣が降ろされる刹那――――、処刑場がぐにゃりと歪む。

「何だっ?!」
「何が起きたんだ?!」

 皆が動揺する中、剣を持った兵が倒れ、リオがジークヴァルトを肩に抱えるのが見えた。

(よし!成功ね――――― ?!)

 ガッツポーズを取ろうとした体がグイッと何かに掴まれ引き寄せられる。

「え‥‥?」

 見えない筈のリディアが腰を引き寄せられ、口をふさがれて焦り振り返ったそこには大きな男が自分を睨み下ろしていた。

(オズ?!)

 次の瞬間にはその場から疾走する。

(待ってっ!)

 慌てるリディアの目に革命軍のような人達が雪崩れ込んでいるのが見えた。

(あれはっサディアス!)

 ちらりと見えた布を被った男の顔に驚くも目の前は大きなマントに覆いかぶされたと思ったら首に鈍痛を感じると同時、意識を失った。





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