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1.Farewell to the Beginning
18:小さな新入生2
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出発地点に下り立つと、
既にレオとペイディが 擬人装甲を纏っていた。
レオと対峙している 擬人装甲は、予想通り小さかった。
おとぎ話の魔女が着ていそうな、丈の長いゴシックドレスと言ったところか。
白いメインカラーの合間を縫って、
銀箔のパターン化された紋様が浮き上がっている。
中身に負けない美しさ。
そして疑問がまた一つ増える。
”彼”のはずだが、 擬人装甲はどう見ても、
白銀の麗人にしか見えない。
同時にあの 擬人装甲の戦闘能力に、疑問符がまとわりつく。
見るからに華奢な 擬人装甲だ。まともに戦えるとは思えない。
とは言え油断する気はない。
得体の知れない 擬人装甲に、更に警戒心を強め、
念のため 擬人化しておく。
「はじめ!」
両者の中央に立っていたジェナスの掛け声とともに、
模擬戦の火蓋が切って落とされた。
が、結果は数秒ででた。
掛け声から数瞬。
膝を突き、白旗をあげたのはレオだった。
あげさせられたと言ったほうが正しい。
俺もジェナスも呆気にとられた。
何を仕掛けてくるかわからないペイディ。
出方、武器、思考、その全てを 擬人装甲からイメージするしかない。
レオにそれをやれと言うのは、酷なことは周知の事実。
それならば自分の射程圏内で、最大限実力を出すことに全力を尽くす。
間違ってはいないと思う。
まず開始の合図とともに、猪突猛進。
レオの十八番。定型文。テンプレ。
そんなレオのまっすぐなところを見るのは、俺たちにとって日常の光景だ。
しかし2、3歩踏み出したレオの脚は・・・止まる。
一瞬の乾いた音を合図に。
白銀の麗人は手にした筒から、少々の煙を昇らせていた。
恐ろしく速い 具現化。
具現化で生成したのはハンドガン。
ハンドガンから放たれた弾丸は、麗人の制御下で、
”維持されたまま”レオの眉間を射抜く。
昔、親父に刺さった苦無を思い出す。
そう言えば 具現化の維持について、
聞かずじまいだったな。
「そ、そこまで!」
慌てて声を発したジェナスは、
いつものことだが心配そうに、レオの元へ駆け寄っていく。
ジェナスの声に反応するレオの返事は、聞こえてこなかった。
弾丸の衝撃で脳震盪、気絶したってところか。
「殺す気か?」
ペイディに放った言葉に、若干の殺気が混じってしまった。
しかし冷静に分析する。
レオには悪いがペイディの手が、一手読めたのは大きい。
普段レオの使ってる 具現化とは、比較にならない生成速度。
生成前に狙いは定まっているので 具現化が終わった瞬間。
銃弾は射出される。
そしてペイディは引き金を引くことに、何の躊躇いも感じさせなかった。
かなり戦闘に慣れている。
ペイディの手にあった銃は、溶けだして手から流れ落ちていた。
「イエ。上位権限の庇護下にアる彼に、私の銃が彼を殺す事はアりエません」
”無ければ死んでいましたね。”
そう言いたいのか?
そしてこの喋るたびに聞こえる雑音が、更に俺の神経を逆撫でしてくる。
「次は僕が相手になろう」
レオは 出発地点の隅に運ばれていた。
まだ目を覚ましそうに無いので、ジェナスが巻き込まないよう運んだようだ。
近くに運ばれたレオを覗き込むと、
眉間の弾痕が 擬人装甲の装甲を貫き、
レオの褐色の肌を露出させていた。
上位権限のリミッターが外されていたら、間違いなく即死だろう。
擬人化したジェナスをみて俺は二人の合間に立つ。
擬人装甲を纏っているので表情は伺えないが、
静かな怒気を、ジェナスから感じていた。
「はじめ!」
俺の掛け声で先に動いたのはペイディだった。
一方のジェナスは構えは取っていたものの、足を動かす気配は無かった。
何か考えがあるのだろうか。
ペイディは先程同様ハンドガンを 具現化して、
ジェナスに向かって小刻みに弾丸を走らせる。
肉体強化もしているクレイペイオスは弾丸に対して、
装甲すら削らせていない。頑丈過ぎて変な笑いが込み上げてきそうだ。
傷一つないのを確認してペイディはハンドガンを捨てた。
別のものを 具現化したようだ。
だが何を 具現化したのかわからない。
具現化時の発光だけ確認できた。
そして彼の手より小さいものなのは確かなようだ。
まだ構えているがその場から動かないジェナスの頭上に、 具現化した何かを投げつける。
投擲された丸い玉は、 仮想と言えど 現実と変わらないはずの重力の影響を、
全く受けずに浮いている。
次の瞬間小さな光と共に、それは弾けた。
ほとばしった閃光は俺の視界を一瞬で奪っていった。
と同時に強烈な爆風が俺を吹っ飛ばす。10mくらいだろうか。
なんだ今のは。フラッシュグレネードとかの類か?
そんなわけないか。この爆風だ、火力を伴ったものなのは確かだ。榴弾か?
やっとまともにRGBを認識しはじめた俺の目は、ジェナスを探す。
かたや白銀の麗人は微動だにしない。
決着がついたのか?
先程までジェナスが居たであろう地点に駆け寄ると、
出発地点の床は3mくらいだろうか。へこんで小規模な穴が出来ていた。
中にはクレイペイオスが大の字で横たわっている。
「ジェナス!大丈夫か!」
駆け寄って、しなくてもいいバイタルチェックをする。
特に異常は見られない。
レオ同様気絶してるみたいだ。
何をしたんだ?見たこともない武器を前に思考が追い付かない。
「オ判リ頂けましたか?」
振り向くとペイディは 擬人装甲を解いていた。
今の言葉は、
”ペイディの実力が”なのか、
”あなた達では私に勝て無いことが”なのか。
ここで俺が模擬戦を続けて勝てるかわからなかったが、
なんかムカついたので勝手に後者と受け取ることにした。
やられっぱなしは性に合わない。
一発くらい殴らせろ。
とりあえず、このまま放置するわけにもいかなかった。
ジェナスを担ぐことが難しかった俺は、
両脇を抱えてレオの横まで引っ張っていく。
「ジェナスもやられたのか。」
声の主に顔は向けないが、レオが起きたようだ。
しかし重いな、ジェナスは。
「空中で爆弾かなんかが起爆したと思ったら、ジェナスが気絶してた」
「は?なんだそりゃ」
俺が聞きたい。あの閃光で何も見えなかったんだ。
「とりあえず二人が先に戦ってくれてわかったことが一つある」
「なんだよ」
一つ深呼吸を入れ、覚悟を決める。
「あいつ強いわ」
ジェナスを運ぶ間、俺の姿をずっと見ていたペイディ。
何を考えてるかわからなかったが、そんなことどうでもよくなっていた。
こいつは強い。レオにも言ったが勝率なんて結構低い。
今さっき見た爆弾もそうだが、なにより今までにないタイプ。
遠距離メインとか卑怯だろう。
その要因だけで、俺の勝率はガクンと落ちる。
姉さんと 仮想で訓練していた時も、9割9分近接戦闘だ。
ただ勝機があるとすれば、まだ見せていない近接戦だ。
なんとかこっちの射程である近接に持ち込めれば。あるいは。
ペイディ相対すると久々に自分が緊張しているのを感じた。
当然か。
親父と姉さん以外にこれほどの強者が居て、
且つ自分の実力を存分にぶつけることが出来そうだ。
武者震いの一つや二つ、しないほうがおかしい。
そして幸いなことに恐怖は感じなかった。
「アの・・・」
「ああ、悪いな。待たせちまって。
俺で最後だ。お手柔らかに頼むわ」
「そウじゃなくて、・・・」
ん?なんだろう。
「本気でオ願イします」
「・・・当然だ。むしろ胸を借りる側だろうしな」
ペイディは顔を赤くして俯くと、小走りに距離と取った。
なんなんだ、この可愛い生き物は。
おまけに強いし、この反応の意味がいまいちわからない。
擬人化したペイディを確認すると、後ろから声がした。
「負けんなよー!大将!」
精々やれるとこまでやってやりますよ、一番槍君。
構えると、麗人も両手にハンドガンを 具現化した。
戦闘中にいきなり出されても、対処の仕方は変わらなかったが、
相手もギアを一つ上げたということだろうか。
数秒の静けさが場を制圧する。
合図はいらなさそうだ、既に始まっている。
俺が一歩踏み出すと同時に、ペイディが即座に発砲してきた。
肉体強化出来ない俺でも、ギリギリ避けられる。
初見では難しかったもしれないが、
ガキの頃より親父たちに鍛えられてきた事が、
こうして実戦に活かせていることに感謝する。
銃口から弾道を予測。トリガーを引き切る前に弾道から外れる。
遮蔽物があればもっと楽に近づけるんだろうし、
ここまで回避に専念しなくても済んだんだろうが。
泣き言は言ってられない。
時間はかかったが、自分の射程にペイディを捉える。
ジェナスに使った爆弾を使用してこないのが気がかりだったが、
距離を取りたがるペイディを、壁際にうまく追い込む。
次弾発射までのコンマ数秒を見逃さず、
右ストレートを顔面に叩き込もうとして、気づく。
ペイディの左手にハンドガンがない。
消した意味が分からなかったが、俺の右の拳は止まらなかった。
そして当たると思った拳は壁を捉えていた。
ギリギリ目で追えたペイディは、背後に回り再びツーハンドで連射を始める。
どうやらハンドガンの維持を諦めたのは、
肉体強化を使って回避する為だったようだ。
勝機があるかも。銃弾を避けながら分析する。
つまりはこういうことだ。
具現化したハンドガンは、
チップの処理能力を圧迫することは無い。
だが銃弾を発射し、相手にあたるまで維持、制御しなければならない場合、
チップの処理能力を割かなければならない。
ハンドガンとして機能させたいんなら、処理能力割けよ。
そういうことだと思う。
そして両手のハンドガンが、ハンドガンとして機能を維持しながら、
肉体強化、するほどの処理能力は彼には無かった。
故に片方のハンドガンを維持しなかった。
たぶんそういうこと。だと思いたい。
推測が確信に変わらない、不安が残る。
こんなことならさっさと姉さんに聞いておけばよかった。
再びスタートラインに立たされた俺だが、
先程と同じ要領で距離を詰めていく。
しかしなんで爆弾を使わないのか。
あの範囲を近距離で避けるのは、至難な事この上ないんだが。
チップの処理能力の関係か?
警戒しながら自分の射程にペイディを収める。
2発の銃弾が待機している銃身に手を添え、弾道を外す。
俺の体を捉える前に右ストレートを、ペイディの顔面目掛けて放り込む。
予想通り左手からハンドガンは、消えている。
右ストレートを回避したペイディは、また俺の背後を取りに動く。
肉体強化されても、
目で追える速度なのは、これ幸いと言ったところか。
予想を的中させた俺は、上段回し蹴りを全力で叩き込む!
「ウグッ!!」
クリーンヒット。とはいかなかった。
既の所、ガードされはしたが、最低限の威力は出せたと思いたい。
地面と水平に吹っ飛んだペイディは 出発地点の壁に、
轟音と共に衝突する。
「ムルト!やるじゃん!」
背後を瞥見するとレオが喜んでいる。だがまだ終わっていない。
ジェナスも気が付いたのか、固唾を飲んで見守っている。
ペイディはへこんだ壁にもたれかかって動かない。気絶したのかもしれない。
警戒は解かずゆっくり歩を進めると、小さな新入生は徐に顔を上げた。
「負けました。オ強イんですね」
苦笑いで、相変わらず雑音交じりの発声だったが、
俺と目が合うとすぐ下を向いて、りんごのように赤くなっていた。
振り返ると 擬人装甲を脱いだ二人が抱き合っている。
抱き合っているように見えたが実際は、
ジェナスのベアハッグが決まっているだけだった。
レオが必死になってタップしている。
一先ず勝ったが紙一重だったな。
驚異的な 具現化の生成速度、あの爆弾。
手の内がわかっていなければここまでうまくいかなかった。
改めて二人には感謝だ。
「不合格、ですよネ」
雑音交じりの悲しそうな声が、背中に当たる。
ペイディに向き直ると 擬人装甲を解いた彼は、
俯いて涙を浮かべていた。
「いいや、合格だ」
頭を撫でると破壊力抜群の上目遣いが俺を襲った。
どうもこの顔に弱いな、俺は。
しかし、戦闘力に関しては合格だが、信用するかはまた別の話だ。
ペイディの頭を一通り撫で終えた俺は、
ジェナスとレオに、ペイディを訓練に加える意向を話した。
二人は快く了承してくれた。まあ手も足も出ないうちにやられちゃったし。
ペイディは良い訓練相手になるだろう。もちろん俺にとっても。
こうして俺たちはマスコットを新たな仲間に加え、 仮想を後にした。
既にレオとペイディが 擬人装甲を纏っていた。
レオと対峙している 擬人装甲は、予想通り小さかった。
おとぎ話の魔女が着ていそうな、丈の長いゴシックドレスと言ったところか。
白いメインカラーの合間を縫って、
銀箔のパターン化された紋様が浮き上がっている。
中身に負けない美しさ。
そして疑問がまた一つ増える。
”彼”のはずだが、 擬人装甲はどう見ても、
白銀の麗人にしか見えない。
同時にあの 擬人装甲の戦闘能力に、疑問符がまとわりつく。
見るからに華奢な 擬人装甲だ。まともに戦えるとは思えない。
とは言え油断する気はない。
得体の知れない 擬人装甲に、更に警戒心を強め、
念のため 擬人化しておく。
「はじめ!」
両者の中央に立っていたジェナスの掛け声とともに、
模擬戦の火蓋が切って落とされた。
が、結果は数秒ででた。
掛け声から数瞬。
膝を突き、白旗をあげたのはレオだった。
あげさせられたと言ったほうが正しい。
俺もジェナスも呆気にとられた。
何を仕掛けてくるかわからないペイディ。
出方、武器、思考、その全てを 擬人装甲からイメージするしかない。
レオにそれをやれと言うのは、酷なことは周知の事実。
それならば自分の射程圏内で、最大限実力を出すことに全力を尽くす。
間違ってはいないと思う。
まず開始の合図とともに、猪突猛進。
レオの十八番。定型文。テンプレ。
そんなレオのまっすぐなところを見るのは、俺たちにとって日常の光景だ。
しかし2、3歩踏み出したレオの脚は・・・止まる。
一瞬の乾いた音を合図に。
白銀の麗人は手にした筒から、少々の煙を昇らせていた。
恐ろしく速い 具現化。
具現化で生成したのはハンドガン。
ハンドガンから放たれた弾丸は、麗人の制御下で、
”維持されたまま”レオの眉間を射抜く。
昔、親父に刺さった苦無を思い出す。
そう言えば 具現化の維持について、
聞かずじまいだったな。
「そ、そこまで!」
慌てて声を発したジェナスは、
いつものことだが心配そうに、レオの元へ駆け寄っていく。
ジェナスの声に反応するレオの返事は、聞こえてこなかった。
弾丸の衝撃で脳震盪、気絶したってところか。
「殺す気か?」
ペイディに放った言葉に、若干の殺気が混じってしまった。
しかし冷静に分析する。
レオには悪いがペイディの手が、一手読めたのは大きい。
普段レオの使ってる 具現化とは、比較にならない生成速度。
生成前に狙いは定まっているので 具現化が終わった瞬間。
銃弾は射出される。
そしてペイディは引き金を引くことに、何の躊躇いも感じさせなかった。
かなり戦闘に慣れている。
ペイディの手にあった銃は、溶けだして手から流れ落ちていた。
「イエ。上位権限の庇護下にアる彼に、私の銃が彼を殺す事はアりエません」
”無ければ死んでいましたね。”
そう言いたいのか?
そしてこの喋るたびに聞こえる雑音が、更に俺の神経を逆撫でしてくる。
「次は僕が相手になろう」
レオは 出発地点の隅に運ばれていた。
まだ目を覚ましそうに無いので、ジェナスが巻き込まないよう運んだようだ。
近くに運ばれたレオを覗き込むと、
眉間の弾痕が 擬人装甲の装甲を貫き、
レオの褐色の肌を露出させていた。
上位権限のリミッターが外されていたら、間違いなく即死だろう。
擬人化したジェナスをみて俺は二人の合間に立つ。
擬人装甲を纏っているので表情は伺えないが、
静かな怒気を、ジェナスから感じていた。
「はじめ!」
俺の掛け声で先に動いたのはペイディだった。
一方のジェナスは構えは取っていたものの、足を動かす気配は無かった。
何か考えがあるのだろうか。
ペイディは先程同様ハンドガンを 具現化して、
ジェナスに向かって小刻みに弾丸を走らせる。
肉体強化もしているクレイペイオスは弾丸に対して、
装甲すら削らせていない。頑丈過ぎて変な笑いが込み上げてきそうだ。
傷一つないのを確認してペイディはハンドガンを捨てた。
別のものを 具現化したようだ。
だが何を 具現化したのかわからない。
具現化時の発光だけ確認できた。
そして彼の手より小さいものなのは確かなようだ。
まだ構えているがその場から動かないジェナスの頭上に、 具現化した何かを投げつける。
投擲された丸い玉は、 仮想と言えど 現実と変わらないはずの重力の影響を、
全く受けずに浮いている。
次の瞬間小さな光と共に、それは弾けた。
ほとばしった閃光は俺の視界を一瞬で奪っていった。
と同時に強烈な爆風が俺を吹っ飛ばす。10mくらいだろうか。
なんだ今のは。フラッシュグレネードとかの類か?
そんなわけないか。この爆風だ、火力を伴ったものなのは確かだ。榴弾か?
やっとまともにRGBを認識しはじめた俺の目は、ジェナスを探す。
かたや白銀の麗人は微動だにしない。
決着がついたのか?
先程までジェナスが居たであろう地点に駆け寄ると、
出発地点の床は3mくらいだろうか。へこんで小規模な穴が出来ていた。
中にはクレイペイオスが大の字で横たわっている。
「ジェナス!大丈夫か!」
駆け寄って、しなくてもいいバイタルチェックをする。
特に異常は見られない。
レオ同様気絶してるみたいだ。
何をしたんだ?見たこともない武器を前に思考が追い付かない。
「オ判リ頂けましたか?」
振り向くとペイディは 擬人装甲を解いていた。
今の言葉は、
”ペイディの実力が”なのか、
”あなた達では私に勝て無いことが”なのか。
ここで俺が模擬戦を続けて勝てるかわからなかったが、
なんかムカついたので勝手に後者と受け取ることにした。
やられっぱなしは性に合わない。
一発くらい殴らせろ。
とりあえず、このまま放置するわけにもいかなかった。
ジェナスを担ぐことが難しかった俺は、
両脇を抱えてレオの横まで引っ張っていく。
「ジェナスもやられたのか。」
声の主に顔は向けないが、レオが起きたようだ。
しかし重いな、ジェナスは。
「空中で爆弾かなんかが起爆したと思ったら、ジェナスが気絶してた」
「は?なんだそりゃ」
俺が聞きたい。あの閃光で何も見えなかったんだ。
「とりあえず二人が先に戦ってくれてわかったことが一つある」
「なんだよ」
一つ深呼吸を入れ、覚悟を決める。
「あいつ強いわ」
ジェナスを運ぶ間、俺の姿をずっと見ていたペイディ。
何を考えてるかわからなかったが、そんなことどうでもよくなっていた。
こいつは強い。レオにも言ったが勝率なんて結構低い。
今さっき見た爆弾もそうだが、なにより今までにないタイプ。
遠距離メインとか卑怯だろう。
その要因だけで、俺の勝率はガクンと落ちる。
姉さんと 仮想で訓練していた時も、9割9分近接戦闘だ。
ただ勝機があるとすれば、まだ見せていない近接戦だ。
なんとかこっちの射程である近接に持ち込めれば。あるいは。
ペイディ相対すると久々に自分が緊張しているのを感じた。
当然か。
親父と姉さん以外にこれほどの強者が居て、
且つ自分の実力を存分にぶつけることが出来そうだ。
武者震いの一つや二つ、しないほうがおかしい。
そして幸いなことに恐怖は感じなかった。
「アの・・・」
「ああ、悪いな。待たせちまって。
俺で最後だ。お手柔らかに頼むわ」
「そウじゃなくて、・・・」
ん?なんだろう。
「本気でオ願イします」
「・・・当然だ。むしろ胸を借りる側だろうしな」
ペイディは顔を赤くして俯くと、小走りに距離と取った。
なんなんだ、この可愛い生き物は。
おまけに強いし、この反応の意味がいまいちわからない。
擬人化したペイディを確認すると、後ろから声がした。
「負けんなよー!大将!」
精々やれるとこまでやってやりますよ、一番槍君。
構えると、麗人も両手にハンドガンを 具現化した。
戦闘中にいきなり出されても、対処の仕方は変わらなかったが、
相手もギアを一つ上げたということだろうか。
数秒の静けさが場を制圧する。
合図はいらなさそうだ、既に始まっている。
俺が一歩踏み出すと同時に、ペイディが即座に発砲してきた。
肉体強化出来ない俺でも、ギリギリ避けられる。
初見では難しかったもしれないが、
ガキの頃より親父たちに鍛えられてきた事が、
こうして実戦に活かせていることに感謝する。
銃口から弾道を予測。トリガーを引き切る前に弾道から外れる。
遮蔽物があればもっと楽に近づけるんだろうし、
ここまで回避に専念しなくても済んだんだろうが。
泣き言は言ってられない。
時間はかかったが、自分の射程にペイディを捉える。
ジェナスに使った爆弾を使用してこないのが気がかりだったが、
距離を取りたがるペイディを、壁際にうまく追い込む。
次弾発射までのコンマ数秒を見逃さず、
右ストレートを顔面に叩き込もうとして、気づく。
ペイディの左手にハンドガンがない。
消した意味が分からなかったが、俺の右の拳は止まらなかった。
そして当たると思った拳は壁を捉えていた。
ギリギリ目で追えたペイディは、背後に回り再びツーハンドで連射を始める。
どうやらハンドガンの維持を諦めたのは、
肉体強化を使って回避する為だったようだ。
勝機があるかも。銃弾を避けながら分析する。
つまりはこういうことだ。
具現化したハンドガンは、
チップの処理能力を圧迫することは無い。
だが銃弾を発射し、相手にあたるまで維持、制御しなければならない場合、
チップの処理能力を割かなければならない。
ハンドガンとして機能させたいんなら、処理能力割けよ。
そういうことだと思う。
そして両手のハンドガンが、ハンドガンとして機能を維持しながら、
肉体強化、するほどの処理能力は彼には無かった。
故に片方のハンドガンを維持しなかった。
たぶんそういうこと。だと思いたい。
推測が確信に変わらない、不安が残る。
こんなことならさっさと姉さんに聞いておけばよかった。
再びスタートラインに立たされた俺だが、
先程と同じ要領で距離を詰めていく。
しかしなんで爆弾を使わないのか。
あの範囲を近距離で避けるのは、至難な事この上ないんだが。
チップの処理能力の関係か?
警戒しながら自分の射程にペイディを収める。
2発の銃弾が待機している銃身に手を添え、弾道を外す。
俺の体を捉える前に右ストレートを、ペイディの顔面目掛けて放り込む。
予想通り左手からハンドガンは、消えている。
右ストレートを回避したペイディは、また俺の背後を取りに動く。
肉体強化されても、
目で追える速度なのは、これ幸いと言ったところか。
予想を的中させた俺は、上段回し蹴りを全力で叩き込む!
「ウグッ!!」
クリーンヒット。とはいかなかった。
既の所、ガードされはしたが、最低限の威力は出せたと思いたい。
地面と水平に吹っ飛んだペイディは 出発地点の壁に、
轟音と共に衝突する。
「ムルト!やるじゃん!」
背後を瞥見するとレオが喜んでいる。だがまだ終わっていない。
ジェナスも気が付いたのか、固唾を飲んで見守っている。
ペイディはへこんだ壁にもたれかかって動かない。気絶したのかもしれない。
警戒は解かずゆっくり歩を進めると、小さな新入生は徐に顔を上げた。
「負けました。オ強イんですね」
苦笑いで、相変わらず雑音交じりの発声だったが、
俺と目が合うとすぐ下を向いて、りんごのように赤くなっていた。
振り返ると 擬人装甲を脱いだ二人が抱き合っている。
抱き合っているように見えたが実際は、
ジェナスのベアハッグが決まっているだけだった。
レオが必死になってタップしている。
一先ず勝ったが紙一重だったな。
驚異的な 具現化の生成速度、あの爆弾。
手の内がわかっていなければここまでうまくいかなかった。
改めて二人には感謝だ。
「不合格、ですよネ」
雑音交じりの悲しそうな声が、背中に当たる。
ペイディに向き直ると 擬人装甲を解いた彼は、
俯いて涙を浮かべていた。
「いいや、合格だ」
頭を撫でると破壊力抜群の上目遣いが俺を襲った。
どうもこの顔に弱いな、俺は。
しかし、戦闘力に関しては合格だが、信用するかはまた別の話だ。
ペイディの頭を一通り撫で終えた俺は、
ジェナスとレオに、ペイディを訓練に加える意向を話した。
二人は快く了承してくれた。まあ手も足も出ないうちにやられちゃったし。
ペイディは良い訓練相手になるだろう。もちろん俺にとっても。
こうして俺たちはマスコットを新たな仲間に加え、 仮想を後にした。
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