Tantum Quintus

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1.Farewell to the Beginning

17:小さな新入生

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新延暦520年 4月 某日

 桜舞い散る中、早いもので入学して2回目の春が巡ってきた。
ここに至るまで、思えば長く苦しい戦いだった。


夏休みを終えた後、中間試験で俺とレオは惨敗。
体育祭で有終の美を迎えるも、学期末の試験で再び大敗。
冬休みは姉さんに扱かれつつ、
フロスとジェナスに家庭教師をお願いし、迎えた3学期。
返ってきた答案用紙の点数に涙を浮かべ、
レオと抱き合ったのが先月の出来事。
ようやく手に入れた進級だった。

そうして新たな春を迎えた俺たち3人は、
いつものようにコンソールルームにたむろしていた。

そういえば去年の2学期も終わろうかという時に、
レオと恋仲であるフロスを、ここへ誘ってみたことがあった。
普段から学園内の至る所で、イチャイチャしていた二人だ。
才色兼備のフロス様と、脳細胞は少ないがイケメンのレオだ。
いや、脳細胞に関しては、レオにとやかく言える立場じゃなかった。
二人は女子からもよく話題にされていた。
オシドリ夫婦みたいな扱いである。
そんなレオを放課後、占有することが多かったので、
申し訳なさからの提案だったが、杞憂に終わった。

彼女はどうやら 擬人装甲マプスを所持していないらしい。
なんでも親御さんの言いつけなんだとか。
だから彼女がここに来ることはあっても、
滅多に 接続コネクトすることはなかった。
時折、 フロスが”一緒に帰りましょう”と、
声を掛けに 仮想バーチャルに入ってくるくらいだ。
それをネタに 騎士レオをからかったりもしたが、
最近は本気で嫁にもらうつもりのようだ。
反応が一々本気で、面倒くさくなってすぐにやめた。
なのでフロスのいないこの部屋は、
去年の夏ごろから変わらず、むさいままだった。

「ジェナスー。これ見てみろよ。新規格のメダーラケーブル《UMC》だってよ」

レオが、腕のデバイスから投射されたディスプレイを、
ジェナスに見るよう促す。
呼ばれてない俺も、一緒になって覗き込む。

「へ~、すごいねこれ。今使ってるコンソール、完全に要らなくなるよ」

ジェナスは口をもぐもぐさせながら、新商品のレビューをしている。
相変わらずの大食漢だ。
食べ物を手にしていない時間のほうが、少ないんじゃなかろうか。
それに去年と比較して、身長が伸びてる気もする。
かといって横幅に、そこまでの変化は見られなかった。

レオが見せてくれた新商品。メンフィードが開発元の新商品で

UMC= Universalユニバーサル  Medullaメダーラ  Cableケーブル
というらしい。
ネオラボラトリー。そう、俺の生まれたヤイエスランドの、
海を挟んで隣国に位置する国が開発したようだ。
先進国と言えば先進国だったが、
そこまで技術力の高い国かというと、あまり聞いたことが無かった。

「200万だってさ。安すぎないか?」

ああ、ほんとだ。
レオの言葉を疑っていたわけじゃなかったが、値段が怪しすぎる。
今目の前にある、カプセルタイプのコンソール。
1台でマンション1棟分の値段と聞いたことがある。
それが一つ200万は、誰だって疑いたくなる。

そしてディスプレイに移っている新商品は、ケーブルのみである。
そこまでコンパクトに、というかカプセルで処理していた莫大な情報を、
ケーブル1本で可能にしたということになる。何より携帯可能な点も大きい。
使用方法を見ても、今までのメダーラケーブルと大差ない。
 頚椎けいついの辺りを挟むタイプだった。
技術革新と言っても、強ち間違ってはいないだろう。
そのうえ一般市民でも手の届くお手軽価格。
投げ売りして、大丈夫なのだろうか。

「レオは親父さんからこの話って聞いてないのか?」

一つ疑問に思ったことをレオに聞いてみる。
最初は国相手に相応の値段で売り、開発費の回収が終わる。
そしてある程度値段を抑えて、一般市場に流通させる。
流通させるにはある程度手ごろな値段にしないといけない。
それが200万という不自然にも安い金額、と思索してみる。

そもそもこの値段で市場に出回るということは、
既に各国の軍に配備されている可能性が高い。
 仮想バーチャル経由で機密データを盗む、
 ないしは破壊する事なんて、このご時世当たり前だ。
最近は音沙汰無しだが、
反AIから襲撃を受けたという話も、時折耳にする。
それらの機密を守るための一つの手段として、
軍人や 傭兵マーセナリーが 仮想バーチャルへ 接続コネクトし、
防衛にあたる。
つまりメダーラケーブルの量が、防衛能力に直結してくるのである。
故に国が一定数確保した今、市場に出回り始めたのではないか。

「いやー、聞いてないな。このサイトで初めて見たぜ?」

まあ軍属でもない息子に話すわけないか。
後で姉さんに聞いてみるか。親父はまだ戻ってないみたいだし。
そう言えば親父は去年の春からか、もう一年以上任務に着いている。
たぶん反AI関連だろう。
任務中だと姉さんからは聞かされているが、それ以上は答えてくれなかった。

「学園で備品として購入してくれないかな。
 いつもと違うところから 接続コネクト出来るって面白そうだし」

ジェナスが興味深々でディスプレイに見入っている。
今聞いたほうがいいか。


《姉さん、今空いてる?》

《どーしたの?今入浴中なんだけど♪》

うっふん♪とか聞こえてきそうだが、あえて無視した。

《UMCってわかる?3本ほど欲しいんだけど》

《・・・・・・・》

この間は絶対ふくれっ面になってる。
俺には見えなくても、手に取るようにわかる。

《あれね。いいわよ♪数日中に届くようにするわね♪》

《ありがとう。姉さん。今度何かお返しするよ》

《どういたしまして♪期待しないで待ってるわ♪》

姉さんとの 個別通信チャネルを終え二人に報告する。

「ジェナス。姉さんが買ってくれるって」

「「え?!」」

コントを始めた覚えはない。
二人でタイミング合わせてこっちを見るな。

「数日中に届くようにするって。届いたら寮からコネクトしてみようぜ」

コンソールルームはコンサートホールのように二人の歓声を響かせる。
大はしゃぎである。まあ俺も試してみたいし。


散々燥いでると部屋のドアが開く。珍しいな、フロスだ。
まだ帰るには早い時間だがどうしたんだろう。
不思議に思っているとフロスの後ろに何やら蠢くものがあった。
ジェナスもレオもきょとんとしている。

「ほら。挨拶なさい」

なんだ隠し子か、いや隠し子にしては大きすぎるな。
何よりレオも呆気に取られている。
なんて阿呆なことを考えている俺の目の前に、身長120㎝くらいだろうか。
フロスの前にでてきたのは一人の子供だった。
あ、いや。俺達もまだまだ子供なんだろうが。

しかしこれは、小学生の・・・男の子?いや男の娘?いやいや女の子か・・・?
一応制服は男子用のものだし男か。

ああ、これが美少年というやつか。

「は、ハじめまシテ。ペイディ・ソフォスと申しまス」

ん?なんだ今の雑音は。
何か引っかかる。が、よくわからない。

3人して動揺は隠せないが、ひとまず挨拶する。
二人は雑音に気づいていない、ようだ。

「で、今日はどういった用件で? 姫様」

「ちょ、ちょっとやめてよ。それは二人の時だけって///」

イチャイチャするなら余所でやってくれないでしょうか。
少しは人目も気にして欲しいもんだ。俺もジェナスも独身なんだぞ?

ペイディ・ソフォスと名乗った少年は、
ジェナスと一緒に二人の逢引に見入っていた。
お子様には刺激が強いか。

「そろそろいいか?フロス。
 何の気なしにここに来たわけじゃないんだろう?」

俺の一言に慌てるフロス。レオ、お前が慌ててもしょうがないんだが。

「ご、ごめんなさい。実はペイディ君ね、今年入学した新入生で、
  仮想バーチャルでの戦闘に興味があるんですって。
 それでレオたちの事を思い出して、連れてきてあげたのよ」

へえ~。珍しい。身長約120㎝。体重も20㎏を少し超えたくらいか。
身体能力は見るからに低い。なのに戦闘に興味がある。

変な奴を通り越して怪しすぎるな。
それになんと言うか。ペイディを象る造形が、美しすぎる。
嫉妬や妬みではなく、創られた美しさというか。

考えがまとまらなかったので、
ペイディを別の角度から攻めることにした。

「興味があるってことはそれなりに戦闘はいける口って事なのかな?
  擬人装甲マプスも持ってる?」

ペイディは俺の顔を見ると頬を紅潮させ頷いた。
ドキッとした。したが、全く意味が分からない。
俺はそっちのけは無いし、手を出した覚えもない。
全くの初対面の俺に、一目惚れとかじゃないことを願いたいが。
この反応は意味深すぎる。

レオは鈍感だからいいとして、ジェナスとフロスの視線が刺さる。

「じゃ、じゃあ君の実力も知りたいし模擬戦してみないか?
 幸い上位権限で、一定以上のダメージは無いから、怪我の心配もないし」

「ワかりまシた」

やっぱり 雑音が聞こえる気がする。
なんだろうこの喋り方。
今年入学してきたってことは、15歳以上・・・なんだよな?
なのにこのたどたどしい喋り方。ずっと引き籠りだったとか?
だったとしてこの雑音の乗った発声はなんだ?
わからないことだらけだ。

思考を巡らせているうちに準備が整ったジェナス、レオ、そしてペイディには、
先に 接続コネクトしてもらった。

「ふぅ」

一呼吸置いて、フロスに聞いてみることにした。
彼について知りたいことが多すぎる。

「ペイディの経歴って、詐称されてないか確認できるか?」

首を傾げたフロスはどういう意味?という顔をしている。
どう考えても怪しすぎるんだよペイディ。
見た目に騙されてはいけない。
何の、と言われても答えようがないが、
間違いなく黒だと、俺の直感が囁いている。

「怪しすぎるんだよね、彼」

そう言ってフロスが知らないであろう、
 擬人装甲マプスの形状や特性、能力が、
 どういう要素で構成されているか教えてやった。

寝ているペイディを凝視するフロス。そういう反応をして当然だ。
この体躯で戦闘がしたいというのが、怪しすぎるのだ。

「わ、わかったわ。不審な点が無いか確認はするけど、詐称されているかは」

「わかった。別にこいつが俺たちに害が無いとわかれば、
 詐称してようと構わないさ」

「それは学園側が困るのですけど?」

プンスカ聞こえてきそうな顔をされてしまったが、実際そうなのだ。
フロスには冗談だよと一言添えて、俺も 接続コネクトする。


―――確かめないとな、色々と―――
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