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1.Farewell to the Beginning
30:その先にあるもの
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■セーシン学園内 出発地点■
セイジ視点
セイジは 出発地点に下り立つなり、すぐに 擬人化した。
少し離れたところで2体の 擬人装甲が、火花を散らす。
ムルトの Tantum Quintus。
相対するはクルダートの Scorpius Tenebris。
防御の比率は高めだが、レイピア相手に無手で互角にやりあっている。
ムルトの成長した姿にセイジは少し感心していた。
人が 接続中におっぱじめやがったか。
まあ、押され気味ではあるが、すぐにどうこうはならんだろ。
まずはムルトの威迫殺をどうにかしないとと思っていたセイジだったが、
クルダートを相手にしているのが影響しているのだろうか。
威迫殺は使っていないようだ。
そして一つの疑問が残る。
クルダートはディスプレイ越しにも、威迫殺の影響はなさそうだった。
ムルトとクルダートとの力量差を考えれば、
ムルトに跳ね返ることは容易に想像できた。
だが目の前の二人は意気揚々とせめぎ合っている。
ムルトが既にクルダートと互角の力量とは到底思えない。
確かに良い勝負にはなっている。
そう見えるだけで実際にはクルダートの遊びが混じっているし、
ムルトの反撃が少ないのは、遊び混じりの攻撃でも、
防御に手一杯だと言っているようなものだ。
セイジは二人のやり取りを冷静に分析すると、
まずレオの下に駆ける。
万が一にでも、との思いだったが。
奇跡は起きなかった。
バイタルチェックを掛けても、
DEADの4文字が虚しく視界に表示されるだけだった。
すまねえな、巻き込んじまって。
軽く手を合わせて、次はジェナスの下へ急ぐ。
接続前に装着していたはずの 擬人装甲は跡形もなかった。
擬人装甲を維持できないという事は、意識がない。
それは最悪の事態も考えられた。
レオ同様にバイタルチェックを掛け、
出血は多いが大事には至らない事を確認する。
ふぅ。ギリギリセーフってとこか。
意識はないが、呼吸はあるし大丈夫だな。
一先ず安心するセイジだったが、
同時に威迫殺を受けた症状によく似ていることに、溜息が出た。
つまりは仲間に威迫殺を使った。
その事実を鮮明にした。
マジで 仮想でやっちまうとはなあ。
しかし、何考えてんだ?ムルトのやつは。
一進一退の攻防を繰り返す二人を見ながらぼやく。
ムルトは徒手で華麗に突きを往なしながら、
隙を見て多種多様な攻撃を繰り出していく。
ん?あいつ・・・。
見慣れたはずのムルトに違和感を抱く。
ムルトが、あまりに自分が知っている動きをしていない。
まるで別人のような動きをしている。
高校に入ってから約2年にも満たない間、彼の動きは見ていない。
だがここまで変わるものだろうか。
少々の疑問も感じたが、先にもう一つ。
セイジには確認しなければならない事があった。
対象に近づくとセイジの 擬人装甲は、
足元から更に濃く血に染まっていく。
既に二人分の血を吸い上げていた 擬人装甲は、
元の色を忘れさせるほどだった。
近づいてもピクリともしないフロス。
微かに聞こえる吐息を確認し、バイタルチェックを掛ける。
《出血多量》
《心拍数低下》
《血圧低下》
《脈拍低下》
《頭蓋骨骨折》
《脳挫傷》
《・・・・》
《・・・・》
《・・・・》
ずらりと並ぶ異常の数々。
まだ息があることが、不思議に思えるくらいだ。
長くはもつまい状況下で、出来ることは限られている。
「フロス、何か言い残すことはあるか」
目、耳、鼻、口。至る所から出血している。
呼吸も浅く、虫の息だ。
敵対した道を取ったとはいえ、知らない中ではない。
情けを掛けてやる余裕くらいはあった。
軽く咳き込み、血を吐くフロス。
声を上げるのも辛いであろう彼女は、最後の力で言葉を口にした。
「レ、オ・・・ご、め・・ん・・・な、さ・・・」
やがてバイタルチェックの表示が、一行にまとめられる。
《DEAD》
最低の最後の言葉だよ、フロス。
俺がそれを伝えられるのは当分先の予定なんでな。
自分で面と向かって言ってくれや。
フロスがどんな立場でここに立っていたのか。
今となっては知る由もなかったが、
後味の悪さに、思わず溜息を吐いた。
軽く手を合わせ、セイジは次なる戦場を見る。
さてと。
さっさと終わらせてえところだが。
先程まで拮抗したやり取りをしていた二人は、徐々に均衡を崩していた。
最初から今の今まで全く構えの変わらないクルダートに対して、
肩で呼吸をしているムルト。
明らかに疲弊しいる。
「おや、いつのまに。ご無沙汰しております。御当主」
白々しい野郎だ。
紳士気取りの挨拶なんかしやがって。
「相変わらずの演出家だな。クルダート。
最初から気づいてたんだろ?」
十数年振りのやり取りは、お互いの殺気が入り混じる異様なものとなった。
片膝が折れたムルトに、これ以上の戦闘は危険かもしれない。
無言で二人の間に入ると、セイジは話を続けた。
「おめえ。あんときラボに居ただろ?」
「ラボ?はて。どこのラボの話ですかね?」
「ちっ、しらばっくれやがって。
どうせおめえがキョーコ達を殺ったんだろ?」
「何の話か存じませんが。ご想像にお任せしますよ」
口角が上がっているのが、声からも伝わる。
相変わらずやりにきいな。
十数年経っても性根は全然変わっちゃいねえ。
どちらかと言えば直情的脳筋タイプのセイジにとって、
クルダートは一番いけ好かない、やりにくい相手だった。
普段は当主のメンツもあって、クールを気取っているセイジ。
だが、本物の策士相手となれば分が悪い。
「すぐに手前の口から吐かせてやるよ」
強がったつもりは無い。
クルダートはセイジの一つ下。ランクはカーネル。
相性差はあるだろうが、ランクがジェネラルのセイジからすれば、
まず負けることはない。
それに分が悪かろうが、怒りの矛先はを納めることは出来なかった。
「残念ながら今日はここまでです。パーティの準備も整ったようですから」
そう言ってクルダートは 擬人装甲を解く。
「パーティだと?一体なんの―――」
「それではまだとこかで」
遮るように別れを切り出したクルダートは、
既に 接続解除した後だった。
嫌な予感しかしない招待状だな。
現実でなんか仕込んでやがんのか?
電磁妨害が解除された今。
現実での実力行使に出られるほうが面倒かもしれない。
一先ずペイディに合図を送り、その後の算段を立て始めるセイジ。
ふと後ろの物音に振り返ると、ムルトが立ち上がっていた。
「大丈夫か?」
返答はなかったが拳を作り、セイジに向かって構えるムルト。
おいおい、何の冗談だよ。
ムルトの拳が無言で頬をかすめる。
間一髪のところで躱し、一旦距離を取る。
やべえ。ペイディ君呼ぶの早すぎたかもしれねえ。
威迫殺の影響を考えてペイディを待機させていたが、
この展開は予想できなかった。
そしてクルダートとのやり取りが別人に見えた理由に納得がいった。
無意識か、別の人格でも入っているのか。
目の前のクルトが、自分の知っているクルトではないことは確認できた。
くっ。さっきより速くなってないか?おい。
対処がわからず防戦に回るセイジ。
そこへお構いなしに連撃を見舞うムルト。
早く対処しなければペイディが着てしまう。
また威迫殺を使用されれば、まだ息のあるジェナスはもちろんの事。
助けに来たペイディがその巻き添えなる可能性もある。
ミイラ取りがミイラになる事態は避けたい。
「セイジさん!避けて!」
遅かった。ペイディの声だ。
ペイディの実力はわかってはいたが、底知れない”このムルト”。
四肢の自由を奪ってから対処法を考えたいが、そんな余裕があるだろうか。
思慮を巡らせながらバックステップで距離を取る。
その前を、一発の弾丸が通り過ぎる。
ぺちゃ。
白銀の麗人から放たれた弾丸は、やる気の削ぐ音と共にムルトに着弾した。
避けなかったのか。避けられなかったのか。
定かではないがとにかくムルトにヒットしていた。
一瞬光ったと思うと、被弾した 擬人装甲は両ひざを地面に突き、
そのままうつ伏せに倒れ込む。
「なんだよ。いまの」
「企業秘密です。少しすれば意識を取り戻すと思いますので、
先にジェナス先輩を起こしますね」
なんだよ企業秘密って。
つーか動かねえけど。死んでねえよな?
念の為見張っておいてくださいと言われ、指示に従う中年男性。
対処法もわからず、右往左往と悩んでいた自分があほらしくなった。
と、沈み込んでもいられない。
《ミツコ、聞こえるか?》
《あら、ペイディちゃんが連絡してくれるものだと思ってたわ》
悪かったな。使えない中年男性で。
《そっちはどうだ?》
《今のところ異常はないわ。何かあった?》
《ジェナス君とムルトが 接続解除したら、
急いで学園から離れろ。事情は後で説明する》
どうもパーティの内容が気がかりだ。
ブラフにしては手際の良すぎる引きだ。
現実で今だ何もない事が、逆に不安を駆り立てる。
《わかった。レオ君の体も運ぶわね》
《そうしてくれ》
ミツコとの 個別通信を終えると、レオの体が光に分解されていく。
気付けばフロスの体も消えていた。
彼女もメダーラケーブルを抜かれたのだろう。
「ペイディ君、ジェナス君起きたらすぐに 接続解除しろ。
ムルトは俺が見とくから」
「わかりました。もし”別のムルト先輩”だったら 個別通信で呼んでください」
なんだよ、わかってて対処したのかよ。
単に自由奪ったわけじゃねえってわけね。
それを見越したうえでのってことか。
そうこうしているうちにジェナスが気が付く。
出血が多かった割にやたら機敏に起き上がる。
またペイディが何かしたのだろう。
2人はすぐに 接続解除していった。
流石に疲れたな。
主に脳が。
何とか終息に向かっていることを実感したセイジは、
擬人装甲に身を包んだまま腰を下ろす。
ろくに戦闘もしていないのにこの疲弊感。
年齢からくるものもあるのだろうか。
そろそろ世代交代も考えなければいけないのかもしれない。
ムルトを見ながら感慨に浸る。
そろそろ起きてくれねえかな。
パーティの参加は出来ればしたくねえ。
想いが通じたのか。
指が動くのが見え、声を掛ける。
「遅刻だぞ、ムルト」
「うぐ。お、親父?なんでここに」
正気に戻ったことを確認し 擬人装甲を解く。
「今は何も聞くな。説明してる暇はねえ。
接続解除したらミツコと一緒に家に来い。いいな」
ラボの事を昨日の事のように思い出したセイジは、少し冷たく言い放つ。
相変わらず慰めるのが下手だった。
だからタイムリミットと言う言い訳を盾に、最低限の事だけ。
それだけを今は伝える。
ムルトの 接続解除を確認し、セイジも 仮想を後にする。
誰も居なくなった 出発地点は、戦闘の跡を微塵も感じさせない。
そこには血も、肉塊も。戦闘の果てに残る産物は何一つ残っていなかった。
セイジ視点
セイジは 出発地点に下り立つなり、すぐに 擬人化した。
少し離れたところで2体の 擬人装甲が、火花を散らす。
ムルトの Tantum Quintus。
相対するはクルダートの Scorpius Tenebris。
防御の比率は高めだが、レイピア相手に無手で互角にやりあっている。
ムルトの成長した姿にセイジは少し感心していた。
人が 接続中におっぱじめやがったか。
まあ、押され気味ではあるが、すぐにどうこうはならんだろ。
まずはムルトの威迫殺をどうにかしないとと思っていたセイジだったが、
クルダートを相手にしているのが影響しているのだろうか。
威迫殺は使っていないようだ。
そして一つの疑問が残る。
クルダートはディスプレイ越しにも、威迫殺の影響はなさそうだった。
ムルトとクルダートとの力量差を考えれば、
ムルトに跳ね返ることは容易に想像できた。
だが目の前の二人は意気揚々とせめぎ合っている。
ムルトが既にクルダートと互角の力量とは到底思えない。
確かに良い勝負にはなっている。
そう見えるだけで実際にはクルダートの遊びが混じっているし、
ムルトの反撃が少ないのは、遊び混じりの攻撃でも、
防御に手一杯だと言っているようなものだ。
セイジは二人のやり取りを冷静に分析すると、
まずレオの下に駆ける。
万が一にでも、との思いだったが。
奇跡は起きなかった。
バイタルチェックを掛けても、
DEADの4文字が虚しく視界に表示されるだけだった。
すまねえな、巻き込んじまって。
軽く手を合わせて、次はジェナスの下へ急ぐ。
接続前に装着していたはずの 擬人装甲は跡形もなかった。
擬人装甲を維持できないという事は、意識がない。
それは最悪の事態も考えられた。
レオ同様にバイタルチェックを掛け、
出血は多いが大事には至らない事を確認する。
ふぅ。ギリギリセーフってとこか。
意識はないが、呼吸はあるし大丈夫だな。
一先ず安心するセイジだったが、
同時に威迫殺を受けた症状によく似ていることに、溜息が出た。
つまりは仲間に威迫殺を使った。
その事実を鮮明にした。
マジで 仮想でやっちまうとはなあ。
しかし、何考えてんだ?ムルトのやつは。
一進一退の攻防を繰り返す二人を見ながらぼやく。
ムルトは徒手で華麗に突きを往なしながら、
隙を見て多種多様な攻撃を繰り出していく。
ん?あいつ・・・。
見慣れたはずのムルトに違和感を抱く。
ムルトが、あまりに自分が知っている動きをしていない。
まるで別人のような動きをしている。
高校に入ってから約2年にも満たない間、彼の動きは見ていない。
だがここまで変わるものだろうか。
少々の疑問も感じたが、先にもう一つ。
セイジには確認しなければならない事があった。
対象に近づくとセイジの 擬人装甲は、
足元から更に濃く血に染まっていく。
既に二人分の血を吸い上げていた 擬人装甲は、
元の色を忘れさせるほどだった。
近づいてもピクリともしないフロス。
微かに聞こえる吐息を確認し、バイタルチェックを掛ける。
《出血多量》
《心拍数低下》
《血圧低下》
《脈拍低下》
《頭蓋骨骨折》
《脳挫傷》
《・・・・》
《・・・・》
《・・・・》
ずらりと並ぶ異常の数々。
まだ息があることが、不思議に思えるくらいだ。
長くはもつまい状況下で、出来ることは限られている。
「フロス、何か言い残すことはあるか」
目、耳、鼻、口。至る所から出血している。
呼吸も浅く、虫の息だ。
敵対した道を取ったとはいえ、知らない中ではない。
情けを掛けてやる余裕くらいはあった。
軽く咳き込み、血を吐くフロス。
声を上げるのも辛いであろう彼女は、最後の力で言葉を口にした。
「レ、オ・・・ご、め・・ん・・・な、さ・・・」
やがてバイタルチェックの表示が、一行にまとめられる。
《DEAD》
最低の最後の言葉だよ、フロス。
俺がそれを伝えられるのは当分先の予定なんでな。
自分で面と向かって言ってくれや。
フロスがどんな立場でここに立っていたのか。
今となっては知る由もなかったが、
後味の悪さに、思わず溜息を吐いた。
軽く手を合わせ、セイジは次なる戦場を見る。
さてと。
さっさと終わらせてえところだが。
先程まで拮抗したやり取りをしていた二人は、徐々に均衡を崩していた。
最初から今の今まで全く構えの変わらないクルダートに対して、
肩で呼吸をしているムルト。
明らかに疲弊しいる。
「おや、いつのまに。ご無沙汰しております。御当主」
白々しい野郎だ。
紳士気取りの挨拶なんかしやがって。
「相変わらずの演出家だな。クルダート。
最初から気づいてたんだろ?」
十数年振りのやり取りは、お互いの殺気が入り混じる異様なものとなった。
片膝が折れたムルトに、これ以上の戦闘は危険かもしれない。
無言で二人の間に入ると、セイジは話を続けた。
「おめえ。あんときラボに居ただろ?」
「ラボ?はて。どこのラボの話ですかね?」
「ちっ、しらばっくれやがって。
どうせおめえがキョーコ達を殺ったんだろ?」
「何の話か存じませんが。ご想像にお任せしますよ」
口角が上がっているのが、声からも伝わる。
相変わらずやりにきいな。
十数年経っても性根は全然変わっちゃいねえ。
どちらかと言えば直情的脳筋タイプのセイジにとって、
クルダートは一番いけ好かない、やりにくい相手だった。
普段は当主のメンツもあって、クールを気取っているセイジ。
だが、本物の策士相手となれば分が悪い。
「すぐに手前の口から吐かせてやるよ」
強がったつもりは無い。
クルダートはセイジの一つ下。ランクはカーネル。
相性差はあるだろうが、ランクがジェネラルのセイジからすれば、
まず負けることはない。
それに分が悪かろうが、怒りの矛先はを納めることは出来なかった。
「残念ながら今日はここまでです。パーティの準備も整ったようですから」
そう言ってクルダートは 擬人装甲を解く。
「パーティだと?一体なんの―――」
「それではまだとこかで」
遮るように別れを切り出したクルダートは、
既に 接続解除した後だった。
嫌な予感しかしない招待状だな。
現実でなんか仕込んでやがんのか?
電磁妨害が解除された今。
現実での実力行使に出られるほうが面倒かもしれない。
一先ずペイディに合図を送り、その後の算段を立て始めるセイジ。
ふと後ろの物音に振り返ると、ムルトが立ち上がっていた。
「大丈夫か?」
返答はなかったが拳を作り、セイジに向かって構えるムルト。
おいおい、何の冗談だよ。
ムルトの拳が無言で頬をかすめる。
間一髪のところで躱し、一旦距離を取る。
やべえ。ペイディ君呼ぶの早すぎたかもしれねえ。
威迫殺の影響を考えてペイディを待機させていたが、
この展開は予想できなかった。
そしてクルダートとのやり取りが別人に見えた理由に納得がいった。
無意識か、別の人格でも入っているのか。
目の前のクルトが、自分の知っているクルトではないことは確認できた。
くっ。さっきより速くなってないか?おい。
対処がわからず防戦に回るセイジ。
そこへお構いなしに連撃を見舞うムルト。
早く対処しなければペイディが着てしまう。
また威迫殺を使用されれば、まだ息のあるジェナスはもちろんの事。
助けに来たペイディがその巻き添えなる可能性もある。
ミイラ取りがミイラになる事態は避けたい。
「セイジさん!避けて!」
遅かった。ペイディの声だ。
ペイディの実力はわかってはいたが、底知れない”このムルト”。
四肢の自由を奪ってから対処法を考えたいが、そんな余裕があるだろうか。
思慮を巡らせながらバックステップで距離を取る。
その前を、一発の弾丸が通り過ぎる。
ぺちゃ。
白銀の麗人から放たれた弾丸は、やる気の削ぐ音と共にムルトに着弾した。
避けなかったのか。避けられなかったのか。
定かではないがとにかくムルトにヒットしていた。
一瞬光ったと思うと、被弾した 擬人装甲は両ひざを地面に突き、
そのままうつ伏せに倒れ込む。
「なんだよ。いまの」
「企業秘密です。少しすれば意識を取り戻すと思いますので、
先にジェナス先輩を起こしますね」
なんだよ企業秘密って。
つーか動かねえけど。死んでねえよな?
念の為見張っておいてくださいと言われ、指示に従う中年男性。
対処法もわからず、右往左往と悩んでいた自分があほらしくなった。
と、沈み込んでもいられない。
《ミツコ、聞こえるか?》
《あら、ペイディちゃんが連絡してくれるものだと思ってたわ》
悪かったな。使えない中年男性で。
《そっちはどうだ?》
《今のところ異常はないわ。何かあった?》
《ジェナス君とムルトが 接続解除したら、
急いで学園から離れろ。事情は後で説明する》
どうもパーティの内容が気がかりだ。
ブラフにしては手際の良すぎる引きだ。
現実で今だ何もない事が、逆に不安を駆り立てる。
《わかった。レオ君の体も運ぶわね》
《そうしてくれ》
ミツコとの 個別通信を終えると、レオの体が光に分解されていく。
気付けばフロスの体も消えていた。
彼女もメダーラケーブルを抜かれたのだろう。
「ペイディ君、ジェナス君起きたらすぐに 接続解除しろ。
ムルトは俺が見とくから」
「わかりました。もし”別のムルト先輩”だったら 個別通信で呼んでください」
なんだよ、わかってて対処したのかよ。
単に自由奪ったわけじゃねえってわけね。
それを見越したうえでのってことか。
そうこうしているうちにジェナスが気が付く。
出血が多かった割にやたら機敏に起き上がる。
またペイディが何かしたのだろう。
2人はすぐに 接続解除していった。
流石に疲れたな。
主に脳が。
何とか終息に向かっていることを実感したセイジは、
擬人装甲に身を包んだまま腰を下ろす。
ろくに戦闘もしていないのにこの疲弊感。
年齢からくるものもあるのだろうか。
そろそろ世代交代も考えなければいけないのかもしれない。
ムルトを見ながら感慨に浸る。
そろそろ起きてくれねえかな。
パーティの参加は出来ればしたくねえ。
想いが通じたのか。
指が動くのが見え、声を掛ける。
「遅刻だぞ、ムルト」
「うぐ。お、親父?なんでここに」
正気に戻ったことを確認し 擬人装甲を解く。
「今は何も聞くな。説明してる暇はねえ。
接続解除したらミツコと一緒に家に来い。いいな」
ラボの事を昨日の事のように思い出したセイジは、少し冷たく言い放つ。
相変わらず慰めるのが下手だった。
だからタイムリミットと言う言い訳を盾に、最低限の事だけ。
それだけを今は伝える。
ムルトの 接続解除を確認し、セイジも 仮想を後にする。
誰も居なくなった 出発地点は、戦闘の跡を微塵も感じさせない。
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