君に、炎を捧ぐⅢ〜偽りの剣と、真実の愛〜

みらい

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五話、指先のぬくもり

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「ん……」

 眉間に皺寄せて、身じろぎする。
 頭を撫でていた手に寄り添う。
 うっすらと目を開けるレイ。
 私の姿がしっかり見えたらしい。
 すぐに目を見開く。

「……へ? あ、アッシュ様?!」

 ガバッと起き上がる。

「おはよう」
「お、おはよう、ございます……」

 今から土下座するくらいの勢いだ。
 まあ、側から見ればサボりでもあるから。

「その、もうやることなくて……もうすぐ、あがりなので」
「ふ、そうか」

 起き抜けの回らない頭で弁解しようとしている。
 これは久しぶりだな。

 最近、甘えることに慣れてしまったのか、初期の彼女を見ることがなくなったからこれも一興だ。
 ――と、言うことは本人には言わない。
(どこまで言い訳するかな)

「えーーっと。その、隊長には内緒でお願いします……」

 ぺこりと頭を下げる姿がいじらしくて、思わず微笑みがこぼれた。

「ふふ……そうするわ」
「あ、自室までお連れします……」
 と、手を差し伸べる。
「ありがとう」

 その手を取る。
 そうして、しばらく並んでルミナリアの通路を歩いた。
 誰もいないのをいいことに、取った手をそのまま繋いで。

 目覚めたばかりの朝の空気は澄んでいて、どこか懐かしい気配すらある。
 それでも、少し……物足りない。

「最近、全然……来ないのね」

 何気なく、でも確かに聞こえる声で呟いた。

「……え?」

 ちょっと嬉しそうな表情。
 おそらく珍しく私から誘っているからにやけているのだろう。
 こら、と叱りつけるように、ぎゅ、と手を握る。

「し、失礼しました……」

 小声で謝る彼女に、私は続けた。

「夜。部屋に、よ」

 前は、毎晩のように顔を出してくれた。報告のついでと言いながら、紅茶を淹れてくれたり、世間話をしたり。
 私の指先が彼女の髪に触れるたび、安心したように目を細めてくれていたのに。

「……すみません。最近、騎士団の仕事も増えてて……。それに、なんか……王城で寝ると、やっぱり緊張しちゃって。その後の仕事で、怠さが続いてしまって」
「そう……」

 もう気にしていないと思っていたけれど、まだ慣れていないらしい。
 しかし、それだけではない気もする。
 今の彼女の表情は、甘やかしてしまいたくなるほど素直で、どこか、少し……遠い。

「今夜くらい、一緒に眠ってもいいのよ?」

 ふと、思ったまま口にしていた。

「……え」
「今は、早朝とはいえ当直明けでしょう? 一人で眠るのも寒いでしょうし」
「そ、それは……! でも、今日はこのまま報告書まとめて……たぶん夜にはまた王城の巡回が……!」

 言い訳が、続く。
 いつもの彼女なら、何も言わずに頷いてくれていた。
 それが……少しずつ、すれ違っているように感じる。
 ――いや。今撫でたときの感触は、いつも通りだった。それに今もニヤニヤしている。

 そんなに嬉しいなら、受けてくれたらいいものを。
 ……いじらしい子。
 私の勘違いだろうか。
 確かにまた魔物討伐も多くなっている。忙しいのは本当のことだろう。

 私も……疲労からか、ずっと耳鳴りが治らない。
 じぃぃ……という音が、頭の奥にしつこく居座っている。

 だが――今はやんわりと、断られたこと。
 その事実に、心の奥がじんわりと冷えた。
 けれど、それを悟られぬよう、私は静かに微笑んだ。

「……そう。じゃあ、また今度ね」
「はい……!」

 ゆっくり歩いたつもりが、もう自室前に着いていた。
 繋いでいた手の温もりが、離れていく。
 とっさに返ってきた声が、どこか焦っているようにも思えた。

「では、また!」

 その瞳を、私はまっすぐに見つめる。
 そして、彼女は耳飾りを揺らして元来た道を戻っていった。

 そばの黄金と黒のルミナリアの花々が、淡く揺れた。



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