7 / 63
六話、閉ざされた瞳
しおりを挟む
*セレスタ視点
陛下に会ってから帰ってきたため、既に疲労は回復している。
雲一つない朝の空。
道端のルミナリアも、嬉しそうに輝いていた。
私は変身を解除する。
「ただいま戻りました!」
そのまま、バリストン邸のドアを強く引く。
――が、もう壊れることはない。
力加減も、だいぶ調整できるようになってきた。
「せ、セレスタ……」
珍しく、礼服を着込んだ叔父様。
髪も整えてある。
ちょうど外出するところだったらしく、ドアに手をかけていた。同時に子供たちが群がる。
こちらから開ける形になってしまい、少し驚いたような顔。
「えへへ……おはようございます!」
「……元気だな」
その声とは裏腹に、叔父様はどこか元気がない。
朝が弱いせいもあるだろう。
けれど、私の名前を呼んではいても――その瞳は。
今の快晴とは正反対の、真っ黒で。
つまり。
また、自己暗示で“殻”に閉じこもっている状態だ。
「はあ……」
本心を知った今、私の前では解いたままでいてくれると思っていたのに。
――いや。
何十年も、こうして自分を守ってきたのだ。
そんなに簡単に変われるわけ、ないのかもしれない。
少しだけ、寂しかった。
「今から出るんだが……」
視線を逸らされたまま、小さく呟かれる。
「叔父様、そろそろ……自己暗示ってやつ、解いてみませんか?」
「……」
返事はない。
やっぱり難しい。
どうしたら、ちゃんと“親子”になれるのだろう。
――“家族”として。
帝国で見た、手を繋ぐ親子の姿が脳裏をよぎる。
考えながら、子どもたちの頭を撫でているうちに、叔父様はそっと私の横をすり抜けて、外へ出ていってしまった。
「い、行ってくる」
「あっ……」
……また、逃げられてしまった。
けれど、玄関先で足を止める。
私の方は見ず、背を向けたままで――。
「……しばらく帝国にいる」
「わかりました。家は、任せてください」
「姉の墓参りと、外交と――……その、おみやげは……」
ぽつぽつと、背中で話してくる。
その姿が、少し前の“陛下に慣れていなかった頃の私”に、よく似ていた。
抑えきれず、口元が綻ぶ。
「甘いものを買ってきてください」
「……わかった」
「私は魔物討伐ばかりなので、頑張ります! 叔父様も、頑張ってくださいね」
「――ッ、あ、ああ」
眼帯をしている方を振り向いて、何か言いかける。
残念ながら、目を見て話せない。
けれど、その仕草に、少し胸が熱くなる。
きっと、“魔物が強くなってきている”ことを心配してるんだ。
私のことを。
……ほんとうに、不器用な人だ。
「大丈夫ですよ! 殿下と一緒ですし。――いってらっしゃい」
「……いってきます」
陛下に会ってから帰ってきたため、既に疲労は回復している。
雲一つない朝の空。
道端のルミナリアも、嬉しそうに輝いていた。
私は変身を解除する。
「ただいま戻りました!」
そのまま、バリストン邸のドアを強く引く。
――が、もう壊れることはない。
力加減も、だいぶ調整できるようになってきた。
「せ、セレスタ……」
珍しく、礼服を着込んだ叔父様。
髪も整えてある。
ちょうど外出するところだったらしく、ドアに手をかけていた。同時に子供たちが群がる。
こちらから開ける形になってしまい、少し驚いたような顔。
「えへへ……おはようございます!」
「……元気だな」
その声とは裏腹に、叔父様はどこか元気がない。
朝が弱いせいもあるだろう。
けれど、私の名前を呼んではいても――その瞳は。
今の快晴とは正反対の、真っ黒で。
つまり。
また、自己暗示で“殻”に閉じこもっている状態だ。
「はあ……」
本心を知った今、私の前では解いたままでいてくれると思っていたのに。
――いや。
何十年も、こうして自分を守ってきたのだ。
そんなに簡単に変われるわけ、ないのかもしれない。
少しだけ、寂しかった。
「今から出るんだが……」
視線を逸らされたまま、小さく呟かれる。
「叔父様、そろそろ……自己暗示ってやつ、解いてみませんか?」
「……」
返事はない。
やっぱり難しい。
どうしたら、ちゃんと“親子”になれるのだろう。
――“家族”として。
帝国で見た、手を繋ぐ親子の姿が脳裏をよぎる。
考えながら、子どもたちの頭を撫でているうちに、叔父様はそっと私の横をすり抜けて、外へ出ていってしまった。
「い、行ってくる」
「あっ……」
……また、逃げられてしまった。
けれど、玄関先で足を止める。
私の方は見ず、背を向けたままで――。
「……しばらく帝国にいる」
「わかりました。家は、任せてください」
「姉の墓参りと、外交と――……その、おみやげは……」
ぽつぽつと、背中で話してくる。
その姿が、少し前の“陛下に慣れていなかった頃の私”に、よく似ていた。
抑えきれず、口元が綻ぶ。
「甘いものを買ってきてください」
「……わかった」
「私は魔物討伐ばかりなので、頑張ります! 叔父様も、頑張ってくださいね」
「――ッ、あ、ああ」
眼帯をしている方を振り向いて、何か言いかける。
残念ながら、目を見て話せない。
けれど、その仕草に、少し胸が熱くなる。
きっと、“魔物が強くなってきている”ことを心配してるんだ。
私のことを。
……ほんとうに、不器用な人だ。
「大丈夫ですよ! 殿下と一緒ですし。――いってらっしゃい」
「……いってきます」
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる