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九話、声はまだ遠く
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*セレスタ視点
馬に揺られながら、つい王城を振り返ってしまう。
「どうした?」
隣の殿下が、不意に声をかけてきた。
「い、いえ……」
少し、陛下のことが気になっただけ……なんて、口にするのは何だか恥ずかしい。
本人の前ではむしろ堂々としてしまうのに、不思議だ。
「気を引き締めるのだな」
ヴァルセリアス様が、代わりにニヤリと笑う。
……これは、バレてるなあ。
雨上がりで、道端のルミナリアは色も光も薄れている。
それでも空は、徐々に明るさを取り戻しつつあった。
……よかった。
土砂降りの中じゃ、体力を奪われてしまう。
それに――
今回の任務は、騎士団の平時の仕事の一つ。
なのに、ヴァルセリアス様と二人きりというだけで、どうしても緊張してしまう。
いつぞやのパーティよりはずっと気楽なはずなのに。
馬を走らせ、国境付近へと向かう。
このあたりは、火山からもまだ遠く、緩やかな平地が続いている。
畑も点在しているが、人の住まいは少ない。
だからこそ――
魔物に狙われやすい。
少人数の人間や、非力な加護持ちを襲うには、うってつけの場所なのだ。
しばらくして、小さな見張り小屋――と言っても、見張り台に宿泊施設もついているからまあまあ大きい――に到着する。
今回は泊まり込み任務。
馬を繋ぎ、荷物を見張りの騎士に預けたあと、さらに奥へと進む。
その先は、竜の尾に続く緩やかな斜面。
黒い岩の露出する地帯を避けつつ、殿下の背を追いかける。
二人きりになるや否や、殿下が唐突に尋ねてきた。
「で、なぜ男の姿に?」
「えっと……幼い頃から、力が人より強すぎて。男の姿なら、多少は“力自慢”くらいに見られるかなって思って……。それと……その力のせいで、今よりずっと自分に自信がなかったんです」
たいした理由じゃない。
叔父様に頼んで、変身魔法を施してもらった。
……まさか、精神干渉まで仕込まれているとは知らずに。
外に“セレスタ”として出ないよう、制限していたのかもしれない。
本当に――変な愛情表現だ。
「自信がない? 可愛らしいのに、か?」
「え、ええ……」
予想もしなかった言葉に、つい動揺してしまう。
……でも、陛下が毎度のように甘い言葉をくれるおかげで、以前よりずっと、まっすぐに受け止められるようになった。
「でも、今はもう大丈夫です」
全部は言わない。
けれど、確かに伝わるように。
「そうか。妹のおかげだな」
……言ってないのに。
少し、恥ずかしくなる。
陛下も言っていたけれど、この人にも何か“わかってしまう”ものがあるのかもしれない。
「それに、力など――竜だから強いだけだろう?」
「……当時は、知らなかったので」
「まあ、それもそうか。“声”が聞こえないからな」
……声?
それは何だろう。第六感のようなもの?
けれど、後半は独り言のようで、問い返すタイミングを逃す。
「とにかく。我の前では、普通にしておればよい」
その言葉に、私は頷き――変身を解く。
レイから、セレスタへ。
耳飾りが、きらりと音を立てた。
「うんうん」
満足そうな声に、どこか照れてしまう。
任務中に“セレスタ”の姿でいるのは、これが初めてだ。
……軽装の鎧でよかった。
「ああ、声について教えていなかったが……」
殿下が目を細める。
「“それら”は、そういうのも教えてくれる」
馬に揺られながら、つい王城を振り返ってしまう。
「どうした?」
隣の殿下が、不意に声をかけてきた。
「い、いえ……」
少し、陛下のことが気になっただけ……なんて、口にするのは何だか恥ずかしい。
本人の前ではむしろ堂々としてしまうのに、不思議だ。
「気を引き締めるのだな」
ヴァルセリアス様が、代わりにニヤリと笑う。
……これは、バレてるなあ。
雨上がりで、道端のルミナリアは色も光も薄れている。
それでも空は、徐々に明るさを取り戻しつつあった。
……よかった。
土砂降りの中じゃ、体力を奪われてしまう。
それに――
今回の任務は、騎士団の平時の仕事の一つ。
なのに、ヴァルセリアス様と二人きりというだけで、どうしても緊張してしまう。
いつぞやのパーティよりはずっと気楽なはずなのに。
馬を走らせ、国境付近へと向かう。
このあたりは、火山からもまだ遠く、緩やかな平地が続いている。
畑も点在しているが、人の住まいは少ない。
だからこそ――
魔物に狙われやすい。
少人数の人間や、非力な加護持ちを襲うには、うってつけの場所なのだ。
しばらくして、小さな見張り小屋――と言っても、見張り台に宿泊施設もついているからまあまあ大きい――に到着する。
今回は泊まり込み任務。
馬を繋ぎ、荷物を見張りの騎士に預けたあと、さらに奥へと進む。
その先は、竜の尾に続く緩やかな斜面。
黒い岩の露出する地帯を避けつつ、殿下の背を追いかける。
二人きりになるや否や、殿下が唐突に尋ねてきた。
「で、なぜ男の姿に?」
「えっと……幼い頃から、力が人より強すぎて。男の姿なら、多少は“力自慢”くらいに見られるかなって思って……。それと……その力のせいで、今よりずっと自分に自信がなかったんです」
たいした理由じゃない。
叔父様に頼んで、変身魔法を施してもらった。
……まさか、精神干渉まで仕込まれているとは知らずに。
外に“セレスタ”として出ないよう、制限していたのかもしれない。
本当に――変な愛情表現だ。
「自信がない? 可愛らしいのに、か?」
「え、ええ……」
予想もしなかった言葉に、つい動揺してしまう。
……でも、陛下が毎度のように甘い言葉をくれるおかげで、以前よりずっと、まっすぐに受け止められるようになった。
「でも、今はもう大丈夫です」
全部は言わない。
けれど、確かに伝わるように。
「そうか。妹のおかげだな」
……言ってないのに。
少し、恥ずかしくなる。
陛下も言っていたけれど、この人にも何か“わかってしまう”ものがあるのかもしれない。
「それに、力など――竜だから強いだけだろう?」
「……当時は、知らなかったので」
「まあ、それもそうか。“声”が聞こえないからな」
……声?
それは何だろう。第六感のようなもの?
けれど、後半は独り言のようで、問い返すタイミングを逃す。
「とにかく。我の前では、普通にしておればよい」
その言葉に、私は頷き――変身を解く。
レイから、セレスタへ。
耳飾りが、きらりと音を立てた。
「うんうん」
満足そうな声に、どこか照れてしまう。
任務中に“セレスタ”の姿でいるのは、これが初めてだ。
……軽装の鎧でよかった。
「ああ、声について教えていなかったが……」
殿下が目を細める。
「“それら”は、そういうのも教えてくれる」
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