君に、炎を捧ぐⅢ〜偽りの剣と、真実の愛〜

みらい

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十二話、優しさの仮面が触れた夜

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*ヴェラノラ視点


 ……また、眠れない。
 喉の奥に痞えたような違和感と、耳の奥に微かに残る、あの「ぶぅぅん……」という音。

 けれど、それも今は静かになっていた。
 ゆっくりと上半身を起こし、ベッドの縁に腰を下ろす。
 カーテン越しに、夜の空気が肌を撫でていく。

 ――雨は上がっていた。
 雲の切れ間から、淡く冴えた月が覗いている。
 光を受けて、庭のルミナリアもまた静かに咲きはじめていた。
 さっきまでしぼんでいた花々が、いまは蒼と紅の光を小さく灯している。

 その色の並びが、まるで“彼女”を象っているようで――
 私は胸に手を置いた。

 今ごろ、セレスタは“竜の尾”の向こう側にいるのだろう。
 兄と共に。

 また、笑顔で報告をしてくれるだろうか。
 時折冗談を交えながら、任務を振り返る、あの少し誇らしげな声で。

 ――コン、コン。
 小さく、控えめなノック音。

「ん……?」

 こんな夜更けに?
 水でも持ってきてくれたのかと思い、立ち上がろうとしたそのとき――

「女王様」

 レイの――いや、セレスタの声。
 あの凛として、どこか優しさを帯びた低い声。

 討伐任務で泊まり込みと聞いていたのに?
 ……また、私を驚かせに来たのか。
 最近、少しそっけなかったのも、その布石?

「ふふ……あなたらしいわね」

 自然と、頬が綻ぶ。
 私は扉へと向かい、ゆっくりと開いた。

「すみません……お休み中でしたか?」
「いいえ、一度目が覚めたところ。どうぞ、入って」

 そう促すと、彼女は一歩、部屋に足を踏み入れ――
 そして、扉が閉まったその瞬間だった。
 抱きしめられた。

「……っ」

 衝動のような強さ。
 けれど、傷つけるものではない。
 求めるように、すがるように、私を包みこむその腕。
 帝国での戦い以来、こんなふうに強く抱かれることはなくなっていた。
 気恥ずかしいのだろう。
 彼女らしくて、微笑ましかった。

 ――でも、やっぱり。
 たった一日でも、離れていたことが寂しかったのかもしれない。
 その証拠のように、額の上に落ちる低い声。

「……今日は、ゆっくりお休みなさい」

 そうして、熱のこもった息が髪を撫でていく。

「ありがとう」

 囁くように返すと、彼女はそっと私を抱きかかえ、ベッドに運んでくれた。
 その腕のぬくもりに、心がほどけていく。

 気づけば、あの耳鳴りも、遠のいていた。
 ベッドサイドに腰を下ろし、彼女は私の髪を撫でる。
 ほんのりと冷たい指先。
 心地よい風のようだった。

 まぶたが重くなる。
 どこか遠くから、蒼と黒の灯が私を見守っているような、そんな安心感に包まれる。

「俺がちゃんと、見てますから――
 ……いい夢を、見てください」

 やさしい声が、月のしずくのように胸に落ちる。
 壁際のルミナリアが、紫に淡く揺れていた。

 静かに、確かに――私たちを、見守るように。


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