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七話、赤き髪を探して
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任務は、王都の街区の警備と巡回。
平静を装ってはいたが、心の中はずっとざわついていた。
昨夜のあの一言――
『貴様、私の伴侶にならんか?』
その時の、女王の真紅の瞳が頭を離れない。
思い出すたびに、胸の奥が熱く疼く。
(……忘れろ。いつも通り、騎士の務めに集中しろ)
そう言い聞かせながら歩を進める中、ふと視線が吸い寄せられた。
通りすがった赤髪の青年。
年も背格好も、どこか“あの頃”の少年に似ていた。
(……まさか)
一瞬、鼓動が跳ね上がる。
だが、その耳元に探し求めていた“証”――金のイヤリングはなかった。
がっかりしたわけじゃない。
もう何百回と繰り返してきたことだ。
それでも、ほんの少しだけ胸が冷えるのを止められない。
(……あの人は、どこにいるんだろう)
私は歩きながら、目の前だけを見据える。
けれど、街角を曲がるたびに視線が泳いでしまう。
赤い髪、赤い瞳。
どうしても、あの色に誰かを重ねてしまう。
それは、女王の色。
そして、イグニス王国の民すべてが持つ、炎のような色――。
赤。
赤。
街に溢れるすべての“赤”が、私の胸をざわつかせる。
同時に、この国の広さと、あの背中が背負っているものの重さを突きつけてくる。
(……私は、その背中を守りたい)
思わずこみ上げた想いを振り払うように、口を開いた。
「ここは私が見る。控えとけ、カイル」
「はいはい。肩の力抜けよ」
軽口と共に、カイルが後ろからついてくる。
ルミナリアの花をくるくると指先で弄びながら。
石畳の下を馬車の車輪が通り、どこかからパンの焼ける匂いが漂ってくる。
商人の声。子どもの笑い声。
この、何気ない日常。
私が守ると誓った“日常”。
……そう、思っていたはずだった。
しばらく歩いたところで、カイルの愚痴が始まる。
「いやー、歩くの早い~。もう疲れたぁ」
「何を言ってるんだ……」
呆れながら振り返る。
いつも通り、めんどくさい男だ。
けれどその軽さに救われている部分もある。
(……ありがたいと思ってるのは、秘密にしておこう)
「警備は“見せる”ものでもある。だらけて見えるのは問題だ」
「……へいへい、了解でーす」
カイルが投げやりに応じる。
そのやりとりに、ほんの少しだけ気が緩んだ。
まだ気持ちの整理はつかない。
でも、こうして歩けるうちは――大丈夫。
平静を装ってはいたが、心の中はずっとざわついていた。
昨夜のあの一言――
『貴様、私の伴侶にならんか?』
その時の、女王の真紅の瞳が頭を離れない。
思い出すたびに、胸の奥が熱く疼く。
(……忘れろ。いつも通り、騎士の務めに集中しろ)
そう言い聞かせながら歩を進める中、ふと視線が吸い寄せられた。
通りすがった赤髪の青年。
年も背格好も、どこか“あの頃”の少年に似ていた。
(……まさか)
一瞬、鼓動が跳ね上がる。
だが、その耳元に探し求めていた“証”――金のイヤリングはなかった。
がっかりしたわけじゃない。
もう何百回と繰り返してきたことだ。
それでも、ほんの少しだけ胸が冷えるのを止められない。
(……あの人は、どこにいるんだろう)
私は歩きながら、目の前だけを見据える。
けれど、街角を曲がるたびに視線が泳いでしまう。
赤い髪、赤い瞳。
どうしても、あの色に誰かを重ねてしまう。
それは、女王の色。
そして、イグニス王国の民すべてが持つ、炎のような色――。
赤。
赤。
街に溢れるすべての“赤”が、私の胸をざわつかせる。
同時に、この国の広さと、あの背中が背負っているものの重さを突きつけてくる。
(……私は、その背中を守りたい)
思わずこみ上げた想いを振り払うように、口を開いた。
「ここは私が見る。控えとけ、カイル」
「はいはい。肩の力抜けよ」
軽口と共に、カイルが後ろからついてくる。
ルミナリアの花をくるくると指先で弄びながら。
石畳の下を馬車の車輪が通り、どこかからパンの焼ける匂いが漂ってくる。
商人の声。子どもの笑い声。
この、何気ない日常。
私が守ると誓った“日常”。
……そう、思っていたはずだった。
しばらく歩いたところで、カイルの愚痴が始まる。
「いやー、歩くの早い~。もう疲れたぁ」
「何を言ってるんだ……」
呆れながら振り返る。
いつも通り、めんどくさい男だ。
けれどその軽さに救われている部分もある。
(……ありがたいと思ってるのは、秘密にしておこう)
「警備は“見せる”ものでもある。だらけて見えるのは問題だ」
「……へいへい、了解でーす」
カイルが投げやりに応じる。
そのやりとりに、ほんの少しだけ気が緩んだ。
まだ気持ちの整理はつかない。
でも、こうして歩けるうちは――大丈夫。
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