君に、炎を捧ぐ〜偽りの剣と、真実の愛〜

みらい

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二十三話、揺らいだ瞳、強さの証

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*レイ(セレスタ)視点


 お茶会から、少し時が経った頃。
 バリストン邸の庭先。

 今日は騎士団の任務はない。
 だが、叔父様との手合わせの約束があり、私はレイの姿になっていた。

 ぴったりとした黒装束は、少しだけ恥ずかしい。
 でも、動きやすさは段違いで、重い鎧よりずっと楽だ。

「もう、頭痛はよいか?」

 青いルミナリアを指先で撫でていたところへ、突然、頭をひと撫で。
 そして、指がパチンと弾かれた。

 はっとして顔を上げると、そこに叔父様の姿。

「……大丈夫です」

「ふむ。で、お茶会はどうだった?」

「……正直、あまり覚えてなくて」

 と言いながら、つい頬が熱くなる。
 本当はよく覚えている。
 ふわふわして、どうにかなりそうだった。

 頭を抱える私に、叔父様は小さく眉を寄せる。

「ほう……」

 少し不機嫌そうだ。
 浮ついた表情を見せてしまったせいかもしれない。

 慌てて話題を変えるように口を開くが、私兵が近づいてきて、やめた。

「バリストン卿、少々、任務に関して――」

「ん?」

 私兵が一人、頭を下げながら近づいてくる。
 なぜか、私に対してもやたらと低姿勢なのが少しむず痒い。

(影で“あの方”呼びされてるらしいし……後継者、なのかな。私なんかが、ね)

 でも、私も丁寧になりがちで、結局お互いぺこぺこすることに。
 それで叔父様が笑う――のが、いつもの流れ。

 ……けれど、今日は違った。

 珍しくその笑いがない。
 どうやら、この任務は少し立ち入ったものらしい。

(とはいえ……この表情。企んでるな)

 叔父様の悪戯の気配に警戒する。
 もしかして、今日の手合わせで何か仕掛けてくる気だろうか。
 それとも私兵の件がよほど重要で、今日は中止?

 忙しいなら、と提案しようとした、そのとき。

「叔父様……今日は――」

「後で話をしよう。――大丈夫だ。問題ないよ、レイ。始めよう」

 私の言葉をさえぎるように、黒い剣が抜かれた。
 木刀などではない、本気の手合わせ用の真剣だ。

「本気でいいからね、レイ」

「……は」

 私兵たちは隅で見学するらしい。
 その目が異様に輝いているのは、気のせいではない。

 対する叔父様は――隙がない。
 剣先は私に向けず、静かに構えている。
 攻めでも、威嚇でもない。

 ――あれは、守る型だ。

 昔からそうだった。
 初めて剣を持ったときも、稽古で転びそうになったときも。
 叔父様は、いつもその構えで、私の前に立っていた。

 “誰かを傷つけないための剣”
 言葉ではなく、その背中が教えてくれたこと。

 私も、その構えを真似て、ゆっくりと腰を落とす。

 けれど……このままでは、永遠に始まらない。
 思い切って先手を取る。

 三階の自室が見えるほど宙へ舞い上がり、逆光の中から振り下ろす――

「逆光を狙ったのか? 流石、私のレイ」

 眩しそうに目を細めながら、叔父様は一太刀でそれを弾く。

 そして、転んだ私に追撃の一撃。
 ためらいなく、鋭い突きが地面を抉る。

「て、手加減してください!」

「君にか? ……流石に無理だよ」

 楽しそうな声。
 昨晩、お茶会の話をしたときは少し険しい顔をしていたのに――
 こうして元気そうで、ほっとする。

 体勢を整え、再び剣を構える。
 薙ぎ払う横斬り。
 ぎりぎりで交わされる。

「今のは危なかったな」

 二撃、三撃と続けるも、すべて見切られた。

「ハァッ……! ハア……」

「ふう。これで今日はやめよう。ふふ……これ以上は私が持たないよ」

 結局、今日も勝てなかった。
 でも、乱れた叔父様の前髪。
 私の変身が解けたことを考えれば、きっとそれなりには追い詰めたはず。

(……叔父様も、ちょっと切羽詰まってた?)

 少し得意げに顔を上げる。

「……変身、切れちゃいました」

 ぴったりした黒衣の装束。
 ふわりと広がる銀の髪。
 まぎれもなく、セレスタの姿――

 その瞬間、叔父様の瞳がわずかに揺れた。

 いつもは決して動じないはずの氷のような瞳。
 今だけ、陽の光を受けたように、白く淡く、ほんの少しだけ……

「……お疲れ様」

 一拍置いて、静かな声が落ちる。
 けれど目は――やはり、私を見ていない。

 私はルミナリアの咲く花畑に、ぺたりと腰を下ろした。

(……これも、私が少しずつ強くなってる証かも)

 そう思ったら、ちょっとだけ自信が湧いてきた。

(よし。また、生垣に行ってみよう。今度こそ、“休息”のために)

 そう自分に言い聞かせながら、頬にそっと触れた。
 ――あの時、陛下の手が触れた場所に。
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