君に、炎を捧ぐ〜偽りの剣と、真実の愛〜

みらい

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二十四話、秘めた焔、膝にほどける

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 夕陽が、生垣に差し込んでいた。
 ルミナリアの影が、ゆらゆらと伸びていく。

 今日は任務もない休みの日。
 だというのに、私はまた――レイの姿で、ここに来てしまっていた。

 剣も鎧も置いてきた。
 けれど、落ち着かない。
 手合いのあとだというのに、体は妙に熱っぽくて、心はもっと落ち着かない。

 ……来るだろうか。
 いや、何を期待している。そんなはずはない。

 しばらく謁見もないし、あの方がこんな場所に現れるとも思えない。

 それでも――

 気づけば、一週間だった。

 あのお茶会から。
 あの、夢みたいなひとときから。

(……陛下は、どう思われておられるのか)

 頭からも、体からも、抜けきらなかった。
 紅茶を飲ませてくれたことも。
 お菓子を食べさせてくれたことも。
 撫でられた……いや、私が、手に擦り寄ったことも。

 全部、覚えている。
 忘れようと思っても、思い出してしまう。
 あれは、まるで――夢のようだった。

 いや。
 夢だったのかもしれない。
 こんなにもすれ違うのなら、本当に……。

(……それでも、来てしまうなんて。まるで中毒だな)

 はあ、と深く息を吐いて、ルミナリアに身を沈めた。

(……帰ろう)

 明日も早い。
 もう、今日は。

 そう思って、片膝をついた、その時だった。

「――ああ。いたのか」

 背後から、聞き慣れた声がした。
 咄嗟に振り返る。

「へ、陛下……!」

「ふっ」

 思わず乗せすぎた声に、陛下が小さく噴き出す。
 しまった。あまりにも感情が表に出すぎた。

 片膝をついたまま、俯く。
 この方の前では、どうしても――

「ぐ、偶然ですね……」

 ……違う。

 私は、待っていたのだ。

「ん? お前、今日は休みだったろう?」

 ……バレている。
 完全に、バレている。

 無言でいると、陛下は明らかににやにやしながら、わざとらしく問いを重ねてくる。
 そのまま話題を変えるように、通路の隙間を指さした。

「ここから、通っていたのだな」

「は、はい」

 私が潜ってきた生垣の隙間。
 陛下は、ためらいなく私の隣へ。
 膝を抱えて座った。

 真紅のドレスの裾が、私の肩に触れる。
 ――近い。

「なんだか、秘密基地のようで良いな」

「ええ。私も……それが、気に入ってます」

 少しでも冷静を装おうと、いつもの調子を取り戻す努力をする。

 ――が。

「ここでなら、お茶会同様に、甘えてよいぞ」

 その一言で、口がぽかんと開いたまま、動かなくなった。

 ……甘えて、いい?

 いや、それよりも先に――

「その前に……先日は、無礼を――」

 と、謝罪を口にしかけたところで、ひらりと手が翳される。
 言葉を制するように。

「謝罪は不要。気に入った。もっと愛でてやろう。……そもそも、ここへ来る人間などいない。存分に構わん」

 そのまま、あろうことか、膝を――自身の腿を、ぽんぽんと叩いた。

「……っ」

 きょとんとする私に、にこりと笑う。

「なんだ。騎士様は膝枕も知らないのか? それとも、私にしてくれるのか?」

「……」

 どちらも、無理だ。

 騎士としても、レイとしても、セレスタとしても。

「命令しようか?」

「い、いえ……っ。私は今日、休みでしたので……」

 なんとか言い訳を絞り出す。
 暗に、やんわりと断ったつもりだった。

 が。

「ほう。疲れてない、と?」

「ええ。ですので――」

「私は執務に疲れている」

「……っ。お、お疲れ様です……」

「……ならば、枕になれ」

「……ぁ」

 ……逃げ場は、ない。

 観念して、片膝を外し、正座……いや、それでは高すぎる。

 足を前に伸ばし、できるだけ枕になりやすい姿勢を整える。
 もう、こうなったら徹底的に枕としての務めを果たすしかない。

「真面目だな」

 小さく笑って、陛下は私の腿に、ぽふりと頭を預けた。

「……心地よい」

「――……っ」

 見下ろすと、目を閉じている。
 うっとりとしたその顔。

 騎士として、少しでも主の安らぎになれるのなら――そう思う。
 けれど、これは、あまりにも。

 膝から伝わるあたたかさ。
 どこか心地よくて、眩しくて。

 じっと見つめていると、もう目を開けていた。
 金と紅の、綺麗な瞳。

 ばっちりと目が合ってしまう。

 ――しまった。

 反射的に顔を背ける。
 腕で覆って、できるだけ隠す。

「くくく。お前はいつも俯くだろう? これで、俯いた時の顔が見られるな」

(うあああああ……! 落ち着け、セレスタ!!)

 頭の中でもう一人の自分が絶叫している。
 レイを演じるには、あまりにもこれは……

「ほら。可愛い顔を見せなさい」

 そう言って、腕をぐいぐいと引き剥がそうとされる。
 抵抗する。が、心のどこかで思ってしまう。

 ――ああ、こんな時間が、ずっと続けばいいのに。

 ……と、その時だった。

 腹に、別の温かさを感じた。
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