24 / 46
計画
しおりを挟む
夜の帳が降りて辺りはシンと静まりかえっている。
まだ季節は春真っ盛りだというのにも関わらず、部屋の中は寒かった。
広い部屋だ。
調度品は少ない物の、そのどれもが一目で一級の品と理解出来る物ばかりである。
中でも特に重厚感漂う机を挟んで、二人の男が向かい合っている。
厚い毛皮のコートを纏った長身の男は立派な椅子に腰掛けて。
右の拳に痛々しい包帯を巻いた男は、足跡が残りそうな絨毯の上で膝を付いて。
「ふむ、お前が1人で帰ってきたところを見ると失敗したか?」
「申し訳ありません」
そう言って黒い衣装に身を包んだ仮面の男は一層頭を下げた。
まるで主の顔を見るのを恐れているかの様に。
毛皮を纏った男が立ち上がり、背にした窓へと歩いて行く。
窓から射す月光に男の白金色をした長髪が煌めいた。
「まさかカルカンが付いていて失敗するとは予想外だったな。やはりブラド・ヴァルフレンを少々舐めすぎていたか……」
「その事でお話が」
仮面の男、ニギの一言に男が振り向く。
耳まで覆う仮面によってその顔は見えないが雰囲気からして、怒りは無い様だ。
「どうした、何かあったのか? 言って見ろ」
ニギが恭しく言葉を紡ぐ。
「まずはあのガーラ・ビッグゲートの孫が、ブラドと共に現れました」
その言葉に男は少し驚いた声を出す。
「それは本当か? それでどうだった?」
「想像以上の力です。私の右手も奴に攻撃した時に潰されました。正直使えるかと……」
「そうかそうか。あの子を連れ帰る事が出来なかったのは少々不味いが、計画を少し弄くればどうにかなりそうだな」
そう言って男は考えるそぶりを見せる。
そこでまたニギが口を開く。
「後もう一つ、お話があります」
「何だ、言ってみろ」
男は考えるのを中止し、ニギの方を見た。
「ネイ様の力は既に解放されている様です。程度の方は分かりませんが」
男はそれを聞いて黙り込む。
少しして独り言の様に呟き始める。
「それはかなり不味いな。力に目覚めるのは暫く先だと思っていたのだが。そうするとカルカンはネイがやったのか?」
「申し訳ありません。ネイ様の力が解放しているのを見てそのまま逃げてきましたので、そこまでは確認しておりません」
「ふむ、そうか。確かに確認していたらお前がここにいる事無いだろうからな、当然の事を聞いて済まなかった」
「そんな! お気になさらないで下さい」
男が会話を止めて、暫し考え込む。
「しかし幾ら力に目覚めていてもあの子の年ではまだ完全に力を使いこなせないだろう。精神的に不安定とはいえカルカンも魔神。恐らく死んではいないと考えた方が良いか……」
しばらくの間どちらも口を開かず、沈黙が続く。
先に話したのは男の方であった。
「分かった、それでは一度計画を立て直そう。ニギ、暫くしたらまた動いて貰う事になる。それまでは確り休んでその傷を治せ、行って良いぞ」
「はっ、ありがたきお言葉。それでは失礼します、シュラヴィカ様」
音も無くニギがその場からいなくなる。
それを見届けてからシュラヴィカと呼ばれた男は、また窓に近づき外を眺めた。
「あの子を逃がした私が、あの子の力を利用しようとしているのを見たら母上は何と言うだろうな……。ふふふっ、しかし厄介な事になったがガーラの孫がそこそこ使えると分かったのは幸いだ」
男が窓を開ける。冷たい空気が部屋に入り込んでくる。
窓から顔を出し下を眺めると人の営みが作り出す明かりが地上を照らしている。
「人も亜人も、魔神さえも利用させて貰おう。私の計画のために」
そう言って仮面を取り机の上に置いた。
薄紫の瞳と少し伸びた耳が露わになる。
一層強い風が部屋に入り込み、白金色の髪を靡かせた。
まだ季節は春真っ盛りだというのにも関わらず、部屋の中は寒かった。
広い部屋だ。
調度品は少ない物の、そのどれもが一目で一級の品と理解出来る物ばかりである。
中でも特に重厚感漂う机を挟んで、二人の男が向かい合っている。
厚い毛皮のコートを纏った長身の男は立派な椅子に腰掛けて。
右の拳に痛々しい包帯を巻いた男は、足跡が残りそうな絨毯の上で膝を付いて。
「ふむ、お前が1人で帰ってきたところを見ると失敗したか?」
「申し訳ありません」
そう言って黒い衣装に身を包んだ仮面の男は一層頭を下げた。
まるで主の顔を見るのを恐れているかの様に。
毛皮を纏った男が立ち上がり、背にした窓へと歩いて行く。
窓から射す月光に男の白金色をした長髪が煌めいた。
「まさかカルカンが付いていて失敗するとは予想外だったな。やはりブラド・ヴァルフレンを少々舐めすぎていたか……」
「その事でお話が」
仮面の男、ニギの一言に男が振り向く。
耳まで覆う仮面によってその顔は見えないが雰囲気からして、怒りは無い様だ。
「どうした、何かあったのか? 言って見ろ」
ニギが恭しく言葉を紡ぐ。
「まずはあのガーラ・ビッグゲートの孫が、ブラドと共に現れました」
その言葉に男は少し驚いた声を出す。
「それは本当か? それでどうだった?」
「想像以上の力です。私の右手も奴に攻撃した時に潰されました。正直使えるかと……」
「そうかそうか。あの子を連れ帰る事が出来なかったのは少々不味いが、計画を少し弄くればどうにかなりそうだな」
そう言って男は考えるそぶりを見せる。
そこでまたニギが口を開く。
「後もう一つ、お話があります」
「何だ、言ってみろ」
男は考えるのを中止し、ニギの方を見た。
「ネイ様の力は既に解放されている様です。程度の方は分かりませんが」
男はそれを聞いて黙り込む。
少しして独り言の様に呟き始める。
「それはかなり不味いな。力に目覚めるのは暫く先だと思っていたのだが。そうするとカルカンはネイがやったのか?」
「申し訳ありません。ネイ様の力が解放しているのを見てそのまま逃げてきましたので、そこまでは確認しておりません」
「ふむ、そうか。確かに確認していたらお前がここにいる事無いだろうからな、当然の事を聞いて済まなかった」
「そんな! お気になさらないで下さい」
男が会話を止めて、暫し考え込む。
「しかし幾ら力に目覚めていてもあの子の年ではまだ完全に力を使いこなせないだろう。精神的に不安定とはいえカルカンも魔神。恐らく死んではいないと考えた方が良いか……」
しばらくの間どちらも口を開かず、沈黙が続く。
先に話したのは男の方であった。
「分かった、それでは一度計画を立て直そう。ニギ、暫くしたらまた動いて貰う事になる。それまでは確り休んでその傷を治せ、行って良いぞ」
「はっ、ありがたきお言葉。それでは失礼します、シュラヴィカ様」
音も無くニギがその場からいなくなる。
それを見届けてからシュラヴィカと呼ばれた男は、また窓に近づき外を眺めた。
「あの子を逃がした私が、あの子の力を利用しようとしているのを見たら母上は何と言うだろうな……。ふふふっ、しかし厄介な事になったがガーラの孫がそこそこ使えると分かったのは幸いだ」
男が窓を開ける。冷たい空気が部屋に入り込んでくる。
窓から顔を出し下を眺めると人の営みが作り出す明かりが地上を照らしている。
「人も亜人も、魔神さえも利用させて貰おう。私の計画のために」
そう言って仮面を取り机の上に置いた。
薄紫の瞳と少し伸びた耳が露わになる。
一層強い風が部屋に入り込み、白金色の髪を靡かせた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる