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喧騒
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「それで、何時始めるんでしょうか?」
ブラドが尋ねた。
「出来るだけ早く。兄が呪いに抵抗出来る時間も、そう長くは無いでしょう。とは言え何の準備もしていない状態で、今からと言うのも無理でしょうから、出来れば明日の内に行動出来れば」
「カイン、それで良いか?」
ユスリハの言葉を聞いて、ブラドがカインに尋ねた。
「しっかり寝ましたし、僕は大丈夫です。どうせ用意なんて栄養を摂って寝るくらいしか無いですから」
「そうか、分かった」
カインの返答を聞き、ユスリハに向き直すブラド。
「それでは明日で。時間はいつ頃でしょうか? また私たちが用意するものや、人員は?」
「準備ができ次第、こちらから使いをよこします。必要な物は戦える身体だけで結構です。どうにか他の兄弟で兄の動きを阻害しますので、そこを討って頂けたら。後、兄の力は父には劣りますが強大です。下手に人数がいても、失礼ながら足手まといになるのが御の字と言った所。カインさんとブラドさん意外はそちらで決めて貰って結構ですが、場合によってはこの集落に襲いかかる可能性もありますので、守りを固めていただく方が良いかと」
ユスリハの冷静な言葉を聞き、ブラドが頷いた。
「もう一つ確認が。森の奥で暮らす亜人達に連絡などは?」
「残念ながら呪いが発動してからは、兄を止めるので精一杯でして。どうにか隙を見て父の命令通りにここまでは来られましたが……」
「分かりました。それではこの後話し合って決めておきます」
「了解しました。それでは私たちはこの辺で失礼させて頂きます。後、兄のせいで狩りに行けてないのでしょう? 直にもう1人一緒にここまで来た兄弟が食料を持ってくるので、しっかりと栄養を摂っておいて下さい」
それだけ告げてユスリハと2人の青年は立ち上がった。
見送る為にカイン達が立ち上がろうとするが、それをユスリハが制止する。
そしてそのまま扉を開けて、外へと出て行った。
少しの間を置いて、ネイ以外その場にいた全員がため息を吐いた。
ガヌートに至っては椅子からずり落ちかけている。
暫くその状態で惚けていたが、ライラが初めに口を開いた。
「あー疲れた……。何が何だか訳分からないわ。後、カイン。腹立つのは分かるけど、もうちょっと自重してよね。死ぬかと思ったわ。相手は大魔王の子供よ」
ライラの言葉にカインが身体を小さくする。
「まあそう言ってやるな、気持ちが分かるがな。しかしカインが鍵ってのはどういうことだ? 色々とエンテは知っている様だが」
カインの怒りも理解できたために、ブラドはライラを宥めた。
とはいえブラド自身も、カインがユスリハに食って掛かった時に心臓が止まる思いをしたのだが。
そんななやり取りを無視してボーガーが切り出した。
「まあカイン君の事なんかは話した所で結論が出んだろ。それより誰が行くかだ。ブラドとカイン君は決定してるとして、他はどうする?」
「お前はどうするんだ、ボーガー」
ブラドが真剣な面持ちになってボーガーに尋ねる。
「そりゃあ行くに決まっとるだろ。儂はこの集落の長だ、ここで行かねば何が長だ。まあ歳だからそう役に立てるか分からんがな。盾代わり位なら何てことは無い」
「よく言うぜ」
ブラドが鼻を鳴らして、薄ら笑いでボーガーを見た。
ボーガーもニヤリと笑い返す。
ライラは自分とネイの力について考え込み、押し黙っている。ネイはいつも通りだ。
ただガヌートだけが下を向いて、黙りこくっている。
それに気付いたブラドが話しかけた。
「どうした、ガヌート。お前はどうする?」
ブラドに話しかけられて顔を上げるガヌート。
その顔は悲壮感に彩られていた。
「暫く離れてましたが、ここは俺の故郷です。本当ならいの一番に行くと言わなきゃ為らないのに、怖くて仕方が無いんです。魔神の時はネイに逆らいがたくって行けましたが……」
そこまで言ってガヌートが黙る。
ブラドが何か言おうとした瞬間、扉が勢いよく開く音がした。
ズンズンと歩いてくる音が聞こえる。
姿を現したのは顔を赤くしたイリオーネであった。
「何言ってんの! あんたが行くって言っても私が止めるわよ。そもそも行った所で役に立つわけ無いじゃ無いの。大人しくここで待ってなさい」
「ちょ、イリ姉ちゃん! 聞いてたのかよ!?」
「途中からね。化け物と戦いに行くなんて言ったら、殴ってでも止めるから! 良いわね!」
そう言ってイリオーネは鼻息荒く自室へと歩いて行った。
余りの事に固まる一同。
沈黙を破ったのは苦笑いを受けたブラドであった。
「探索者として相手の力量を測ってどう行動するかは、生死を分ける重要な問題だ。相手が相手だ。戦えないと言っても、誰も気にしねえよ。というか、お前の選択は当然の事だ。それにユスリハさんも言ってただろ、集落に攻めてくる可能性もあるって。ここにいてもやるべき事は幾らでもあるんだ。そっちを頑張ってくれ」
「ホント、すいません」
か細く謝って、ガヌートはまた俯いた。
「それじゃあ、儂は集落の者に説明してくる。時間は無いが、多少なりとも守りを固めんとな」
「分かった、そっちは任せる」
それだけ告げてボーガーが家を出て行った。
※※※※※※
ボーガーが家を出て直ぐ、集落が騒がしくなり始めた。
なにせ大魔王エンテの子供の1人が、集落に襲ってくる可能性があると告げられたのだ。
集落にいる亜人達はすでに襲われているもののその時点では正体が掴めて折らず、改めてその事実を知らされたら驚くのも当然だ。
ただ騒いだ所でどうなるわけでも無い事を理解していたのだろう。騒ぎは短時間で収まり、先ほどとは違う意味で喧騒が起こり始めた。
戦える者達は戦う準備を。
肉体自慢の種族は念入りに剣や斧を磨き、魔法が得意な者達は少しでも魔力を練り上げようと集中する。
既に届いていたのだろう。腹が減っては戦は出来ぬと、女達がユスリハ達が持ってきた食料を調理し始める。
その中にはイリオーネに連れられたライラとネイもいた。
戦いに向いていない亜人達は集落の外壁を修理し、子供達は出来る範囲でそれらの手伝いに追われている。
生きるための騒がしさだ。
そんな中カインとブラド。それにガヌートとボーガーは、他種族の長達と話し合いをしていた。
「と、いうことだ。戦いには俺とボーガー、それにカインが行く。相手が相手だ、正直どうなるかは分からん。最悪こっちに襲いかかってくる場合もある。そん時はあんた等が頼りだ。頼むぞ」
ブラドの言葉に、オーガの集落に逃げてきた他種族の亜人の長達は、真剣な面持ちで頷いた。
話し合いを終えて長達は家を出て行く。
彼らもまた戦士だ。自身の武器を研ぐ必要がある。
それを見送った後、ブラドはガヌートを見やる。
「頼んだぞ、ガヌート。もし何かあった時、この集落でライラとネイを守れるのはお前だけだ。信頼しているからな」
少し前の騒動もあるし、この集落で完全にライラとネイの味方は残念ながらガヌートだけだ。
イリオーネも信頼して良いだろうが、彼女はこの集落の長の血縁と言う事もあり、少々しがらみが多すぎる。
ブラドの真剣な眼差しにガヌートは重々しく頷いた。
「必ず守って見せます。その代わり、絶対帰ってきて下さいよ」
「任せとけ!」
ブラドが力強く答え、カインも頭を縦に振る。
「それじゃあ俺も色々と準備をして来ます。ここ数日斧の手入れも出来てませんでしたし」
そう告げてガヌートが扉から出て行く。
残されたのはブラドとボーガー、そしてカインだけとなった。
「カイン……」
重々しい口調でブラドがカインに話しかける。
「はい、なんでしょうか?」
「色々と気になる事はあるだろうが、冷静になれよ。エンテの言葉通りだと、今回の戦いはお前にかかっている。どういう意味かは分からんが。前回は暴走の矛先がカルカンに向かったから良いものの、万が一俺たちに向かった場合、正直お前を止められる自信はない。それに……」
ブラドがカインのフードで隠れた額を凝視する。
「前回に比べて近づいた今、戦いの際どういった変化が出るか想像もつかん。頼んだぞ」
カインの超越者化は前回の戦いで明らかに進んでいる。
それが今回の戦いでどう影響するか、ブラドにも分からなかった。
ただ、病の副作用からくる力に対して多少抵抗は強くなっているだろうという予想はつく。
そしてそれが今回、どういう方向に転がるかは分かるはずも無い。
流石に超越者化についてはボーガーにも話していなかった様で、怪訝な表情を浮かべる。
ただガーラと面識があった事からカインの戦い方については予想できたようだ。
「やっぱりカイン君も、ガーラみたいに戦うのか? 前の戦争の時は酷かったからなあ。人間と言うより獣に近かった」
昔の事を思い出し、ボーガーが目を瞑る。
カイン自身、カルカンの戦いは途中から殆ど記憶が無く、どう戦っていたのか覚えていないので笑って誤魔化す事になった。
「ああ、凄えぞ。きっとガーラと見間違うと思うぜ」
「ふむ。性格なんかは似とらんと思っとったが、そこら辺は似るんじゃのう……」
2人の昔話が長引きそうなので、断って外に出るカイン。
実際の所、カインもガヌートと同じく恐怖で一杯一杯だ。
ただ病をどうにかする為にここまで来たのだ。普通なら話す事などあり得ない大魔王に色々聞けるとあっては、嫌が応にも戦いに参加するほかは無かった。
集落全体が明日の準備の為、騒がしい中当てもなく歩くカイン。
気付けば匂いに誘われて、調理現場に足を運んでいた。
「カインどうしたの? まだ料理は出来てないわよ。明日大変なんだし、そこら辺で座ってなさいよ」
ふらふらと歩いてきたカインに気付いたライラが声を掛ける。
「あ、すいません。何かする事ありますか?」
気付けば口から出ていた。
「何言ってんの。明日に備えて休んどきなさいって」
「それも考えたんですけど、静かにしてたら嫌な事ばっかり考えてしまって……。きっと身体動かしてた方が楽だと思うんです……」
うつむき加減に答えるカインを、じっと見た後ライラは後ろを向く。
「それじゃあこき使ってあげるわ。先ずは……」
そう言いながらライラは調理場へと進んでいく。
カインも恐怖から逃げる様に、その後へと続いた。
ブラドが尋ねた。
「出来るだけ早く。兄が呪いに抵抗出来る時間も、そう長くは無いでしょう。とは言え何の準備もしていない状態で、今からと言うのも無理でしょうから、出来れば明日の内に行動出来れば」
「カイン、それで良いか?」
ユスリハの言葉を聞いて、ブラドがカインに尋ねた。
「しっかり寝ましたし、僕は大丈夫です。どうせ用意なんて栄養を摂って寝るくらいしか無いですから」
「そうか、分かった」
カインの返答を聞き、ユスリハに向き直すブラド。
「それでは明日で。時間はいつ頃でしょうか? また私たちが用意するものや、人員は?」
「準備ができ次第、こちらから使いをよこします。必要な物は戦える身体だけで結構です。どうにか他の兄弟で兄の動きを阻害しますので、そこを討って頂けたら。後、兄の力は父には劣りますが強大です。下手に人数がいても、失礼ながら足手まといになるのが御の字と言った所。カインさんとブラドさん意外はそちらで決めて貰って結構ですが、場合によってはこの集落に襲いかかる可能性もありますので、守りを固めていただく方が良いかと」
ユスリハの冷静な言葉を聞き、ブラドが頷いた。
「もう一つ確認が。森の奥で暮らす亜人達に連絡などは?」
「残念ながら呪いが発動してからは、兄を止めるので精一杯でして。どうにか隙を見て父の命令通りにここまでは来られましたが……」
「分かりました。それではこの後話し合って決めておきます」
「了解しました。それでは私たちはこの辺で失礼させて頂きます。後、兄のせいで狩りに行けてないのでしょう? 直にもう1人一緒にここまで来た兄弟が食料を持ってくるので、しっかりと栄養を摂っておいて下さい」
それだけ告げてユスリハと2人の青年は立ち上がった。
見送る為にカイン達が立ち上がろうとするが、それをユスリハが制止する。
そしてそのまま扉を開けて、外へと出て行った。
少しの間を置いて、ネイ以外その場にいた全員がため息を吐いた。
ガヌートに至っては椅子からずり落ちかけている。
暫くその状態で惚けていたが、ライラが初めに口を開いた。
「あー疲れた……。何が何だか訳分からないわ。後、カイン。腹立つのは分かるけど、もうちょっと自重してよね。死ぬかと思ったわ。相手は大魔王の子供よ」
ライラの言葉にカインが身体を小さくする。
「まあそう言ってやるな、気持ちが分かるがな。しかしカインが鍵ってのはどういうことだ? 色々とエンテは知っている様だが」
カインの怒りも理解できたために、ブラドはライラを宥めた。
とはいえブラド自身も、カインがユスリハに食って掛かった時に心臓が止まる思いをしたのだが。
そんななやり取りを無視してボーガーが切り出した。
「まあカイン君の事なんかは話した所で結論が出んだろ。それより誰が行くかだ。ブラドとカイン君は決定してるとして、他はどうする?」
「お前はどうするんだ、ボーガー」
ブラドが真剣な面持ちになってボーガーに尋ねる。
「そりゃあ行くに決まっとるだろ。儂はこの集落の長だ、ここで行かねば何が長だ。まあ歳だからそう役に立てるか分からんがな。盾代わり位なら何てことは無い」
「よく言うぜ」
ブラドが鼻を鳴らして、薄ら笑いでボーガーを見た。
ボーガーもニヤリと笑い返す。
ライラは自分とネイの力について考え込み、押し黙っている。ネイはいつも通りだ。
ただガヌートだけが下を向いて、黙りこくっている。
それに気付いたブラドが話しかけた。
「どうした、ガヌート。お前はどうする?」
ブラドに話しかけられて顔を上げるガヌート。
その顔は悲壮感に彩られていた。
「暫く離れてましたが、ここは俺の故郷です。本当ならいの一番に行くと言わなきゃ為らないのに、怖くて仕方が無いんです。魔神の時はネイに逆らいがたくって行けましたが……」
そこまで言ってガヌートが黙る。
ブラドが何か言おうとした瞬間、扉が勢いよく開く音がした。
ズンズンと歩いてくる音が聞こえる。
姿を現したのは顔を赤くしたイリオーネであった。
「何言ってんの! あんたが行くって言っても私が止めるわよ。そもそも行った所で役に立つわけ無いじゃ無いの。大人しくここで待ってなさい」
「ちょ、イリ姉ちゃん! 聞いてたのかよ!?」
「途中からね。化け物と戦いに行くなんて言ったら、殴ってでも止めるから! 良いわね!」
そう言ってイリオーネは鼻息荒く自室へと歩いて行った。
余りの事に固まる一同。
沈黙を破ったのは苦笑いを受けたブラドであった。
「探索者として相手の力量を測ってどう行動するかは、生死を分ける重要な問題だ。相手が相手だ。戦えないと言っても、誰も気にしねえよ。というか、お前の選択は当然の事だ。それにユスリハさんも言ってただろ、集落に攻めてくる可能性もあるって。ここにいてもやるべき事は幾らでもあるんだ。そっちを頑張ってくれ」
「ホント、すいません」
か細く謝って、ガヌートはまた俯いた。
「それじゃあ、儂は集落の者に説明してくる。時間は無いが、多少なりとも守りを固めんとな」
「分かった、そっちは任せる」
それだけ告げてボーガーが家を出て行った。
※※※※※※
ボーガーが家を出て直ぐ、集落が騒がしくなり始めた。
なにせ大魔王エンテの子供の1人が、集落に襲ってくる可能性があると告げられたのだ。
集落にいる亜人達はすでに襲われているもののその時点では正体が掴めて折らず、改めてその事実を知らされたら驚くのも当然だ。
ただ騒いだ所でどうなるわけでも無い事を理解していたのだろう。騒ぎは短時間で収まり、先ほどとは違う意味で喧騒が起こり始めた。
戦える者達は戦う準備を。
肉体自慢の種族は念入りに剣や斧を磨き、魔法が得意な者達は少しでも魔力を練り上げようと集中する。
既に届いていたのだろう。腹が減っては戦は出来ぬと、女達がユスリハ達が持ってきた食料を調理し始める。
その中にはイリオーネに連れられたライラとネイもいた。
戦いに向いていない亜人達は集落の外壁を修理し、子供達は出来る範囲でそれらの手伝いに追われている。
生きるための騒がしさだ。
そんな中カインとブラド。それにガヌートとボーガーは、他種族の長達と話し合いをしていた。
「と、いうことだ。戦いには俺とボーガー、それにカインが行く。相手が相手だ、正直どうなるかは分からん。最悪こっちに襲いかかってくる場合もある。そん時はあんた等が頼りだ。頼むぞ」
ブラドの言葉に、オーガの集落に逃げてきた他種族の亜人の長達は、真剣な面持ちで頷いた。
話し合いを終えて長達は家を出て行く。
彼らもまた戦士だ。自身の武器を研ぐ必要がある。
それを見送った後、ブラドはガヌートを見やる。
「頼んだぞ、ガヌート。もし何かあった時、この集落でライラとネイを守れるのはお前だけだ。信頼しているからな」
少し前の騒動もあるし、この集落で完全にライラとネイの味方は残念ながらガヌートだけだ。
イリオーネも信頼して良いだろうが、彼女はこの集落の長の血縁と言う事もあり、少々しがらみが多すぎる。
ブラドの真剣な眼差しにガヌートは重々しく頷いた。
「必ず守って見せます。その代わり、絶対帰ってきて下さいよ」
「任せとけ!」
ブラドが力強く答え、カインも頭を縦に振る。
「それじゃあ俺も色々と準備をして来ます。ここ数日斧の手入れも出来てませんでしたし」
そう告げてガヌートが扉から出て行く。
残されたのはブラドとボーガー、そしてカインだけとなった。
「カイン……」
重々しい口調でブラドがカインに話しかける。
「はい、なんでしょうか?」
「色々と気になる事はあるだろうが、冷静になれよ。エンテの言葉通りだと、今回の戦いはお前にかかっている。どういう意味かは分からんが。前回は暴走の矛先がカルカンに向かったから良いものの、万が一俺たちに向かった場合、正直お前を止められる自信はない。それに……」
ブラドがカインのフードで隠れた額を凝視する。
「前回に比べて近づいた今、戦いの際どういった変化が出るか想像もつかん。頼んだぞ」
カインの超越者化は前回の戦いで明らかに進んでいる。
それが今回の戦いでどう影響するか、ブラドにも分からなかった。
ただ、病の副作用からくる力に対して多少抵抗は強くなっているだろうという予想はつく。
そしてそれが今回、どういう方向に転がるかは分かるはずも無い。
流石に超越者化についてはボーガーにも話していなかった様で、怪訝な表情を浮かべる。
ただガーラと面識があった事からカインの戦い方については予想できたようだ。
「やっぱりカイン君も、ガーラみたいに戦うのか? 前の戦争の時は酷かったからなあ。人間と言うより獣に近かった」
昔の事を思い出し、ボーガーが目を瞑る。
カイン自身、カルカンの戦いは途中から殆ど記憶が無く、どう戦っていたのか覚えていないので笑って誤魔化す事になった。
「ああ、凄えぞ。きっとガーラと見間違うと思うぜ」
「ふむ。性格なんかは似とらんと思っとったが、そこら辺は似るんじゃのう……」
2人の昔話が長引きそうなので、断って外に出るカイン。
実際の所、カインもガヌートと同じく恐怖で一杯一杯だ。
ただ病をどうにかする為にここまで来たのだ。普通なら話す事などあり得ない大魔王に色々聞けるとあっては、嫌が応にも戦いに参加するほかは無かった。
集落全体が明日の準備の為、騒がしい中当てもなく歩くカイン。
気付けば匂いに誘われて、調理現場に足を運んでいた。
「カインどうしたの? まだ料理は出来てないわよ。明日大変なんだし、そこら辺で座ってなさいよ」
ふらふらと歩いてきたカインに気付いたライラが声を掛ける。
「あ、すいません。何かする事ありますか?」
気付けば口から出ていた。
「何言ってんの。明日に備えて休んどきなさいって」
「それも考えたんですけど、静かにしてたら嫌な事ばっかり考えてしまって……。きっと身体動かしてた方が楽だと思うんです……」
うつむき加減に答えるカインを、じっと見た後ライラは後ろを向く。
「それじゃあこき使ってあげるわ。先ずは……」
そう言いながらライラは調理場へと進んでいく。
カインも恐怖から逃げる様に、その後へと続いた。
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