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開戦
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今で感じた事の無い高揚感と、形容しがたい衝動を伴いカインが居間に現れた。
その様子にガヌートやボーガーが眉を顰める。
1人薄ら笑いを浮かべるブラドに、ボーガーが小声で尋ねた。
「ブラド、カイン君どうしたんじゃ? なんか知っとるようじゃが?」
「んー? なに、思ったより単純みたいだなぁ」
「それじゃあ答えになっとらんぞ」
口を割りそうに無いと諦めて前を向く。
そこには緊迫した様子のユスリハと、昨日の青年2人が立っていた。
「気合いが入っている様で結構です。少々予定外の事が起きまして、申し訳ありませんが少しばかり早く迎えに上がりました」
「それは呪いに何かあったという事でよろしいでしょうか?」
ブラドの質問に苦悶の表情を浮かべる森の子供達。
絞り出す様な声でユスリハが答えた。
「今朝方から呪いの影響が強くなり……。兄を抑えていた兄弟達が何人か、取り込まれました。どうにか持ち直しましたが、何時まで持つか分かりません。出来れば早急に兄の元へ行きたいのですが、準備の方は?」
緊張に空気が固まる。
唯一よく分かっていなさそうなネイでさえ、周りの空気を読み不安そうにしている。
背中に冷たい汗が流れるのをカインは感じた。
「カインは大丈夫だな?」
ブラドから話を振られると思っていなかったカインだったが、どうにか冷静でいる事に成功した。
「だ、大丈夫です!」
真剣な面持ちで頷いて、ユスリハを真っ直ぐ見つめるブラド。
「それでは行きましょう。こちらの準備は整っています」
そう告げてユスリハが扉に手をかける。
開いた扉の外。
カインの目に入ってきたのは、不安な顔をした沢山の亜人達であった。
何時も狩りに出掛ける男を、不安も無く待つ女や子供達。
そして命をかけて狩りに出掛ける男達ですら、不安や恐怖と行った感情を隠し切れていない。
それが今自身達を脅かす脅威に対してか、部外者に自身の未来を託す苦々しさか。
もしくはそれ以外の感情か。
それはカインに察する事は出来なかった。
ただ自分達の戦いの行方が、目の前にいる人達の命運を握っている事だけは理解する事が出来た。
一度後ろを振り返る。
ガヌートにネイ、イリオーネが見守っている。
そしてライラ。
美しい黒の瞳には、一切の不安や恐怖は無かった。
ただ強い眼差しがそこにはあった。
家宝の巨剣シンユ・ムグラムを手に取る。
手から伝わる鉱物の冷たさ。
そして途方も無い重量感が、カインの沸き立つ感情を抑えつける。
「行ってきます」
それだけ告げて、カインはブラド達を追い外へと踏み出した。
※※※※※※
木々が意思を持つかの様に避けてゆく。
鬱蒼と茂った森に瞬く間に道が作られてゆく。
そうそうお目にかかれない光景だと言うのにも関わらず、カインの顔は違う事に引きつっていた。
扉を開けてカインが外に出ると、不思議な事に気付いた。
亜人達の固まりの中に不思議な空間があるのだ。
そしてそれに気付いた瞬間、緑色の物体がカインに飛びかかった。
現在カイン達は全員、その緑色の物体に乗って先を急いでいる。
まるで生の卵を板に置いた様な、中心部だけが丸く、それを中心にだらっと広がった不思議な形。
さわり心地は苔の様で、まるで大きな卵の形をした苔の固まりに乗っている様に思えた。
それが至る所から触手を伸ばし、カインの身体に絡みついている。
顔が引きつるのは仕方が無い事であった。
ブラドが過去に暗黒大陸で見た事があると述べると、ユスリハは今乗っている物体がそれの元だろうと語った。
探索者の間ではこの緑の固まりを、緑の巨像エスメラウスという魔獣として扱っているらしい。
なんでも実態は魔力を持った特殊な地衣類で、大きさに個体差はあるものの大きいモノだと山一つに根を張り、巨大な人の形で動き回るのだという。
元々魔獣はその名の通り、魔力を持った獣だ。
とはいえ確認されている動物や昆虫など、どれもこれもが多かれ少なかれ魔力を持っているのだが。
例に漏れず植物も魔力を持っているが、中でも大きな魔力を持つ植物は動物の様に動き回る種が存在する。
そう言ったモノは長年の議論の末、現在では魔獣に属する様に決められているが、数はハッキリ言ってごく僅かだ。
そしてエスメラウスはその中でも、特に珍しい種である。
「この子は父が小さい頃から育てているのです。何かの拍子に遠くまで身体の一部が運ばれていたのですね。しかし珍しいです。この子が私たち以外の生物にここまでじゃれているのは、数百年生きてきて初めてですよ」
「こ、これ、じゃれてるんですか?」
扉を開けた勢いは既に消えており、半分涙目になりながらカインが尋ねた。
「ええ、殆ど甘えていると言って良いほどですよ。別に危害を与えたりはしませんから、宜しければそのまま甘えさせてあげて下さい」
ユスリハに頼まれ、カインは諦める事にした。
確かに痛みなどは感じない、ただただくすぐったいだけだ。
だがよく分からない生物に身体を弄くられ、どうにもならない状況にカインは遂に目を瞑った。
※※※※※※
エスメラウスに身体を弄くられ続けていると、段々と森に充満する魔力が濃くなっていくのを感じた。
「もうすぐ兄の元に着きます。ミドリ、いい加減に甘えるのを止めなさい」
安直な名前に少し空気が軽くなる。
ただ漂う魔力はあからさまに濃度が濃くなってきた。
一瞬緩んだ空気が瞬く間に緊張感に染まる。
木々が道を作る速度が徐々に遅くなっていく。
そして密度も増していき、物質的な圧迫感が増してゆく。
道を進めば進むほどに青々と茂っていた葉が枯れているのをカインは確認した。
まるで呪いに蝕まれない為に自決したかの様に。
周りの木々が枯れ始めて暫く走ると、突然開け放たれた空間に飛び出る。
ぽっかりと空いた空間はそれ程面積は広くないモノの、辺りに生えている木々が全て枯れている為に、面積以上に広く感じる。
その木々の中に何人もユスリハ達と同じ服をした男女が、苦しそうに顔を歪ませながら空間の中央を凝視していた。
カイン達が彼らが見ている方向に視線をやった。
半分枯れかけた、それでいて不規則かつ膨大な魔力を脈動させる巨木が寒々しくそこには生えていた。
ミドリと呼ばれた魔獣がその柔らかい身体を揺らし、カイン達を地面に降ろす。
「あれが兄です。どうやら今は落ち着いているようですね」
カインが驚愕する。
目の前にあるのは魔力こそカルカンに負けず劣らずの強大なものであるが、どう見ても枯れかけた巨木である。
「あ、あれがですか? 木にしか見えませんが……」
カインがそう口にした瞬間、ブラドが口を挟む。
「カイン。前に話したが大魔王や魔王と言った超越者は、自身の魂や魔力に見合った身体に成った者達だ。言い換えれば姿形は魂や魔力の在り様に作用されるんだ。多分エンテ自身何かしら木々に近い姿をしてるんだろう。そしてそれは、その子供達にも受け継がれている。そうじゃないですか、ユスリハさん?」
「ええ、その通りです。私達も本来であれば多少の差違はありますが、植物の姿をとっておりますし、そちらの方が力を十分に発揮出来ます。この姿は謂わば魔法によって創り上げた仮初めの様なもの。ただ、本来の姿に戻るとより父に近づいてしまうので、呪いの影響が強くなってしまいます」
目の前の綺麗な女性の本当の姿が木であると言われ、驚くカイン。
化粧一つでガラッと印象が変わるとは言うが、それの比では無い。
「申し訳ありません、話は後にしましょう。兄が身体を枯らして攻撃を通りやすくしてくれています。声を出す余裕も無いのでしょう。お願いします、早く兄を呪いから解放してあげて下さい!」
ユスリハの悲痛な叫びと共に、ブラドとボーガーの魔力が強くなる。
カインもそれに遅れぬ様、巨剣を両手に持ち構えた。
それと共に体中に激痛が走る。
「それじゃあ、まず俺が行く。仕留めきれなかったらボーガー、そしてカイン。頼んだぞ!」
ブラドの魔力が爆発的に増加し、そして熱を帯び出す。
カルカンと戦っていた時とは違い、自由自在に蠢く炎では無く、ただただ破壊力だけを求めた炎を練り上げる。
ブラドの掌に火球が発生するが、目の前の巨木を燃やし尽くすには心許ない大きさだ。
だが、その密閉された火球の中、まるで地獄の極炎とでもいうべき熱が踊り狂っている様にカインには感じた。
ブラドが唸り声を上げながら更に魔力を火球に込めた瞬間、その掌から音も無く巨木に向かって破壊そのものが発射された。
枯れかけの巨木目掛けて一直線に濃縮された炎が突き進む。
その場にいた全ての者が直撃を直感した瞬間、巨木の目の前の地面を突き破り、分厚い何かが飛び出した。
火球がそれに激突する。
まるで身体がバラバラになるかと錯覚するほどの轟音が鳴り響き、漏れ出した熱気がカインの肌をピリピリと焼こうと襲いかかる。
炎の光と熱で目を開けていられずにカインは目を瞑った。
熱が弱くなりカインが目を開けると、黒く焦げた巨大な穴が目に飛び込んできた。
地面を突き破って出てきた物体が、地面もろとも焼かれたのだろう。
そして目線をその先、巨木があった方向に向ける。
そこには依然として巨木が立っていた。
とはいえ半分近くが焼き尽くされており、見る影も無いと言った様子だ。
ただその残った部分は先ほどと違い、生命力に溢れた緑を茂らしていた。
ボーガーとカインが両足に力を込め走り出そうとした瞬間、木に異変が起きた。
グズグズと焼けた部分から繊維が伸び、元の形へと戻っていく。
それと同時に不自然な突起が起こり、徐々に人の顔へと変わっていった。
先に我を取り戻したのはボーガーであった。
地面を砕く勢いで前に飛び出す。
ワンテンポ遅れてそれに続くカイン。
2人の足下が盛り上がり、極太の根が飛び出してくるが、ボーガーは年齢にそぐわぬ動きでスイスイと躱しながら前に進んでいく。
経験不足のカインはそうも行かず、どうにか躱してはいるものの少しずつ距離が離れていき、ボーガーが先に巨木へと辿り着く。
担いでいた戦斧を振り下ろそうとした瞬間、巨木から生えた枝がボーガー目掛けて迫り来る。
どうにかそれを避けたものの、その枝に隠れて迫っていた枝に強かに打ち付けられはじき返された。
根っこに悪戦苦闘していたカインにぶち当たり、そのまま2人とも元いた付近へと戻されてしまう。
地面に激突する瞬間、何かに支えられる2人。
見てみればユスリハがその腕を、細い枝に変えて受け止めていた。
「不味いですね。どうやら少し遅かったようです」
見る見るうちに半分焼けていた巨木はその体積を増やし、生命力に溢れる木へと変貌していた。
その様子にガヌートやボーガーが眉を顰める。
1人薄ら笑いを浮かべるブラドに、ボーガーが小声で尋ねた。
「ブラド、カイン君どうしたんじゃ? なんか知っとるようじゃが?」
「んー? なに、思ったより単純みたいだなぁ」
「それじゃあ答えになっとらんぞ」
口を割りそうに無いと諦めて前を向く。
そこには緊迫した様子のユスリハと、昨日の青年2人が立っていた。
「気合いが入っている様で結構です。少々予定外の事が起きまして、申し訳ありませんが少しばかり早く迎えに上がりました」
「それは呪いに何かあったという事でよろしいでしょうか?」
ブラドの質問に苦悶の表情を浮かべる森の子供達。
絞り出す様な声でユスリハが答えた。
「今朝方から呪いの影響が強くなり……。兄を抑えていた兄弟達が何人か、取り込まれました。どうにか持ち直しましたが、何時まで持つか分かりません。出来れば早急に兄の元へ行きたいのですが、準備の方は?」
緊張に空気が固まる。
唯一よく分かっていなさそうなネイでさえ、周りの空気を読み不安そうにしている。
背中に冷たい汗が流れるのをカインは感じた。
「カインは大丈夫だな?」
ブラドから話を振られると思っていなかったカインだったが、どうにか冷静でいる事に成功した。
「だ、大丈夫です!」
真剣な面持ちで頷いて、ユスリハを真っ直ぐ見つめるブラド。
「それでは行きましょう。こちらの準備は整っています」
そう告げてユスリハが扉に手をかける。
開いた扉の外。
カインの目に入ってきたのは、不安な顔をした沢山の亜人達であった。
何時も狩りに出掛ける男を、不安も無く待つ女や子供達。
そして命をかけて狩りに出掛ける男達ですら、不安や恐怖と行った感情を隠し切れていない。
それが今自身達を脅かす脅威に対してか、部外者に自身の未来を託す苦々しさか。
もしくはそれ以外の感情か。
それはカインに察する事は出来なかった。
ただ自分達の戦いの行方が、目の前にいる人達の命運を握っている事だけは理解する事が出来た。
一度後ろを振り返る。
ガヌートにネイ、イリオーネが見守っている。
そしてライラ。
美しい黒の瞳には、一切の不安や恐怖は無かった。
ただ強い眼差しがそこにはあった。
家宝の巨剣シンユ・ムグラムを手に取る。
手から伝わる鉱物の冷たさ。
そして途方も無い重量感が、カインの沸き立つ感情を抑えつける。
「行ってきます」
それだけ告げて、カインはブラド達を追い外へと踏み出した。
※※※※※※
木々が意思を持つかの様に避けてゆく。
鬱蒼と茂った森に瞬く間に道が作られてゆく。
そうそうお目にかかれない光景だと言うのにも関わらず、カインの顔は違う事に引きつっていた。
扉を開けてカインが外に出ると、不思議な事に気付いた。
亜人達の固まりの中に不思議な空間があるのだ。
そしてそれに気付いた瞬間、緑色の物体がカインに飛びかかった。
現在カイン達は全員、その緑色の物体に乗って先を急いでいる。
まるで生の卵を板に置いた様な、中心部だけが丸く、それを中心にだらっと広がった不思議な形。
さわり心地は苔の様で、まるで大きな卵の形をした苔の固まりに乗っている様に思えた。
それが至る所から触手を伸ばし、カインの身体に絡みついている。
顔が引きつるのは仕方が無い事であった。
ブラドが過去に暗黒大陸で見た事があると述べると、ユスリハは今乗っている物体がそれの元だろうと語った。
探索者の間ではこの緑の固まりを、緑の巨像エスメラウスという魔獣として扱っているらしい。
なんでも実態は魔力を持った特殊な地衣類で、大きさに個体差はあるものの大きいモノだと山一つに根を張り、巨大な人の形で動き回るのだという。
元々魔獣はその名の通り、魔力を持った獣だ。
とはいえ確認されている動物や昆虫など、どれもこれもが多かれ少なかれ魔力を持っているのだが。
例に漏れず植物も魔力を持っているが、中でも大きな魔力を持つ植物は動物の様に動き回る種が存在する。
そう言ったモノは長年の議論の末、現在では魔獣に属する様に決められているが、数はハッキリ言ってごく僅かだ。
そしてエスメラウスはその中でも、特に珍しい種である。
「この子は父が小さい頃から育てているのです。何かの拍子に遠くまで身体の一部が運ばれていたのですね。しかし珍しいです。この子が私たち以外の生物にここまでじゃれているのは、数百年生きてきて初めてですよ」
「こ、これ、じゃれてるんですか?」
扉を開けた勢いは既に消えており、半分涙目になりながらカインが尋ねた。
「ええ、殆ど甘えていると言って良いほどですよ。別に危害を与えたりはしませんから、宜しければそのまま甘えさせてあげて下さい」
ユスリハに頼まれ、カインは諦める事にした。
確かに痛みなどは感じない、ただただくすぐったいだけだ。
だがよく分からない生物に身体を弄くられ、どうにもならない状況にカインは遂に目を瞑った。
※※※※※※
エスメラウスに身体を弄くられ続けていると、段々と森に充満する魔力が濃くなっていくのを感じた。
「もうすぐ兄の元に着きます。ミドリ、いい加減に甘えるのを止めなさい」
安直な名前に少し空気が軽くなる。
ただ漂う魔力はあからさまに濃度が濃くなってきた。
一瞬緩んだ空気が瞬く間に緊張感に染まる。
木々が道を作る速度が徐々に遅くなっていく。
そして密度も増していき、物質的な圧迫感が増してゆく。
道を進めば進むほどに青々と茂っていた葉が枯れているのをカインは確認した。
まるで呪いに蝕まれない為に自決したかの様に。
周りの木々が枯れ始めて暫く走ると、突然開け放たれた空間に飛び出る。
ぽっかりと空いた空間はそれ程面積は広くないモノの、辺りに生えている木々が全て枯れている為に、面積以上に広く感じる。
その木々の中に何人もユスリハ達と同じ服をした男女が、苦しそうに顔を歪ませながら空間の中央を凝視していた。
カイン達が彼らが見ている方向に視線をやった。
半分枯れかけた、それでいて不規則かつ膨大な魔力を脈動させる巨木が寒々しくそこには生えていた。
ミドリと呼ばれた魔獣がその柔らかい身体を揺らし、カイン達を地面に降ろす。
「あれが兄です。どうやら今は落ち着いているようですね」
カインが驚愕する。
目の前にあるのは魔力こそカルカンに負けず劣らずの強大なものであるが、どう見ても枯れかけた巨木である。
「あ、あれがですか? 木にしか見えませんが……」
カインがそう口にした瞬間、ブラドが口を挟む。
「カイン。前に話したが大魔王や魔王と言った超越者は、自身の魂や魔力に見合った身体に成った者達だ。言い換えれば姿形は魂や魔力の在り様に作用されるんだ。多分エンテ自身何かしら木々に近い姿をしてるんだろう。そしてそれは、その子供達にも受け継がれている。そうじゃないですか、ユスリハさん?」
「ええ、その通りです。私達も本来であれば多少の差違はありますが、植物の姿をとっておりますし、そちらの方が力を十分に発揮出来ます。この姿は謂わば魔法によって創り上げた仮初めの様なもの。ただ、本来の姿に戻るとより父に近づいてしまうので、呪いの影響が強くなってしまいます」
目の前の綺麗な女性の本当の姿が木であると言われ、驚くカイン。
化粧一つでガラッと印象が変わるとは言うが、それの比では無い。
「申し訳ありません、話は後にしましょう。兄が身体を枯らして攻撃を通りやすくしてくれています。声を出す余裕も無いのでしょう。お願いします、早く兄を呪いから解放してあげて下さい!」
ユスリハの悲痛な叫びと共に、ブラドとボーガーの魔力が強くなる。
カインもそれに遅れぬ様、巨剣を両手に持ち構えた。
それと共に体中に激痛が走る。
「それじゃあ、まず俺が行く。仕留めきれなかったらボーガー、そしてカイン。頼んだぞ!」
ブラドの魔力が爆発的に増加し、そして熱を帯び出す。
カルカンと戦っていた時とは違い、自由自在に蠢く炎では無く、ただただ破壊力だけを求めた炎を練り上げる。
ブラドの掌に火球が発生するが、目の前の巨木を燃やし尽くすには心許ない大きさだ。
だが、その密閉された火球の中、まるで地獄の極炎とでもいうべき熱が踊り狂っている様にカインには感じた。
ブラドが唸り声を上げながら更に魔力を火球に込めた瞬間、その掌から音も無く巨木に向かって破壊そのものが発射された。
枯れかけの巨木目掛けて一直線に濃縮された炎が突き進む。
その場にいた全ての者が直撃を直感した瞬間、巨木の目の前の地面を突き破り、分厚い何かが飛び出した。
火球がそれに激突する。
まるで身体がバラバラになるかと錯覚するほどの轟音が鳴り響き、漏れ出した熱気がカインの肌をピリピリと焼こうと襲いかかる。
炎の光と熱で目を開けていられずにカインは目を瞑った。
熱が弱くなりカインが目を開けると、黒く焦げた巨大な穴が目に飛び込んできた。
地面を突き破って出てきた物体が、地面もろとも焼かれたのだろう。
そして目線をその先、巨木があった方向に向ける。
そこには依然として巨木が立っていた。
とはいえ半分近くが焼き尽くされており、見る影も無いと言った様子だ。
ただその残った部分は先ほどと違い、生命力に溢れた緑を茂らしていた。
ボーガーとカインが両足に力を込め走り出そうとした瞬間、木に異変が起きた。
グズグズと焼けた部分から繊維が伸び、元の形へと戻っていく。
それと同時に不自然な突起が起こり、徐々に人の顔へと変わっていった。
先に我を取り戻したのはボーガーであった。
地面を砕く勢いで前に飛び出す。
ワンテンポ遅れてそれに続くカイン。
2人の足下が盛り上がり、極太の根が飛び出してくるが、ボーガーは年齢にそぐわぬ動きでスイスイと躱しながら前に進んでいく。
経験不足のカインはそうも行かず、どうにか躱してはいるものの少しずつ距離が離れていき、ボーガーが先に巨木へと辿り着く。
担いでいた戦斧を振り下ろそうとした瞬間、巨木から生えた枝がボーガー目掛けて迫り来る。
どうにかそれを避けたものの、その枝に隠れて迫っていた枝に強かに打ち付けられはじき返された。
根っこに悪戦苦闘していたカインにぶち当たり、そのまま2人とも元いた付近へと戻されてしまう。
地面に激突する瞬間、何かに支えられる2人。
見てみればユスリハがその腕を、細い枝に変えて受け止めていた。
「不味いですね。どうやら少し遅かったようです」
見る見るうちに半分焼けていた巨木はその体積を増やし、生命力に溢れる木へと変貌していた。
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