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決別
レオンとの別れを決意したミシェルは、最後に話しあってけじめをつけようと翌日レオンと会うことにした。
レオンが仕事から帰る時間を見計らって、二人で家を訪ねた。
「子供はどうしたんだ?」
姿の見えない子供にフレデリクは聞いた。
「可哀そうですが、孤児院で預かってもらいました。母親が重い罪で出てくる見込みがなく、身寄りもないので」
「お前を父と呼んでいたあの子が可哀そうだな」
「それはっ!」
気まずそうにミシェルをレオンは見たが、ミシェルは無表情のままレオンを見つめるだけだった。
「俺には……どうしてあげようもありません。ひと時、保護しただけの関係ですから」
「一年も一緒に暮らしておいて……ひと時なんだ」
ミシェルはどこかあきらめたような面持ちでそう言った。
そんなミシェルの様子にレオンは焦りを見せる。
「お願いだ、本当に俺はミシェルだけを愛している。こちらに呼ぶまでに家を用意して不自由のない暮らしをさせたかったから仕事に集中したくて……」
「……なのに女性や子供は招き入れたんだね」
ミシェルはボソッと漏らす。
「そ、それは。可哀そうに思って……その時は二人とも本当におびえていたように見えたんだ!」
「じゃあなぜすぐに騎士団やら国へ保護を求めなかったの? それはレオンがすることだった?」
「数日で出ていくと思っていたんだ。しかしそのうち、激務で疲れ果てて帰った時に食事を用意してくれていたり、部屋を暖めてくれていたり、出迎えてくれる人がいる暖かさに慣れてしまって……一人で孤独を感じていた分、その……ずるずると。それにミシェルにはもっといい生活ができるようになってから一緒に暮らしたかったけど、彼らには気を遣う必要もなかったから……それは本当に悪かったと思っている」
「一人が寂しかったなら、僕を呼んでくれればよかった。僕だってどんな生活だってよかったよ。レオンは僕より彼女を取ったんだ。だからこのまま婚約は解消したままにしてください。もう今日限りで二度と会うつもりはありません」
「待って、ミシェル‼ 違うんだ! 俺は情けない自分をミシェルには見せたくなかったんだ!ごめん、本当に。でも大好きなんだ、ミシェルだけが。学生の頃から君と一緒になれるのだけをずっと夢見ていたんだよ!」
「僕もだよ。でもそれを壊したのは……レオンだ」
ミシェルはそういってレオンの家を後にした。
家の中からレオンの泣き声のようなミシェルの名を叫ぶような声が聞こえていた。
それでもミシェルは振りむくことなく宿へ向かった。
宿に到着してから、ずっと元気なくソファーで丸まるミシェルにフレデリクはお茶を入れた。
「……僕大丈夫だよ。兄様、食事に行って来ていいよ。僕は寝てるから」
「僕も別に空いていない。欲しければ後で買ってくるから心配するな」
「なんだか疲れたから、ちょっと横になるね」
ミシェルは疲れ切った顔でベッドにもぐりこんだが、その中から押し殺したような泣き声が聞こえてきた。
その堪えるような泣き声にフレデリクまで苦しくなる。
しばらくすると、疲れ切ったのか、心が限界を迎えたのか静かになり、眠りについたようだった。
「ミシェル……僕がいる。お前がレオンをきっぱりと諦めたのなら必ず幸せにする」
一度はあきらめた。
レオンが騙されていたと分かればミシェルは彼のもとへと戻ると覚悟していた。
しかしミシェルからレオンに決別の言葉を告げた。
今は悲しくて苦しくて先のことなど考えられないだろうが、これからは自分がミシェルを大切に大切にする。いつかミシェルがこちらを見てくれるまで。
騎士団での聴取も終わり、諸々のことが片付いてようやく領地へ戻れる日が来た。
同じように聴取のために王都にとどまっていたリシャールと最後にもう一度顔を合わせることになった。
あの時、悲しげな顔をしていたリシャールは、今日はすっきりとした顔をしていた。
「ようやく、全てが終わりました。リアンが戻ってくることはありませんが、敵は取れたのではないかと思います。連絡をいただかなければ今も彼が本当に殺されたのかも分からず、ずっと苦しむところでした。本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそあのような手紙を信じていただいてありがとうございました。おかげで、元とはいえ弟の婚約者を救うことができました」
「……ミシェル様、どうぞお幸せになってください。不思議な縁でしたがあなたの将来が輝かしいものになるようお祈りしております」
「あの、リシャール様も……」
「はい。リアンは死んでも私のことを心配してくれていました。ずっと悲しみと憎しみにとらわれてきましたが、彼は魂だけになっても私のことを心配してきてくれた。彼の思いに応えるためにもいつまでも泣いていられない、私もこれから頑張りますよ」
そういってリシャールは帰っていった。
「ミシェル」
涙を落すミシェルをフレデリクが心配する。
「リシャール様がお気の毒で……」
「そうだな。自分が連れてきた女のせいで自分の大切な人が死んだと分かって辛いだろうな。それでも真実がわかってよかったと思うよ。彼なら苦しい思いを抱えながらもリアン様のために前に進むはずだ。だって、魂というものが証明されたんだからね、いずれ会える日のために恥ずかしくない生き方をされると思う」
「うん、そうだね。いつか絶対会えるよね」
「ああ。きっと大丈夫だ。さあ、僕たちも帰ろうか。……最後にもう一度レオンに会わなくていいか?」
「……うん。大丈夫」
そういうミシェルの目から涙が静かに流れる。
「あれ? どうしたんだろ? リ、リシャール様のことが気になるのかな?」
フレデリクはハンカチで涙を吸い取ってやった。
「兄様……」
「思いきり泣けばいい。人の心はそう簡単に割り切れるようなものではないのだから」
唇をゆがめて泣き出すミシェルをフレデリクは抱き寄せた。
そんなフレデリクに腕を回し、ミシェルはレオンへの想いをすべて洗い流すように泣いた。
レオンが仕事から帰る時間を見計らって、二人で家を訪ねた。
「子供はどうしたんだ?」
姿の見えない子供にフレデリクは聞いた。
「可哀そうですが、孤児院で預かってもらいました。母親が重い罪で出てくる見込みがなく、身寄りもないので」
「お前を父と呼んでいたあの子が可哀そうだな」
「それはっ!」
気まずそうにミシェルをレオンは見たが、ミシェルは無表情のままレオンを見つめるだけだった。
「俺には……どうしてあげようもありません。ひと時、保護しただけの関係ですから」
「一年も一緒に暮らしておいて……ひと時なんだ」
ミシェルはどこかあきらめたような面持ちでそう言った。
そんなミシェルの様子にレオンは焦りを見せる。
「お願いだ、本当に俺はミシェルだけを愛している。こちらに呼ぶまでに家を用意して不自由のない暮らしをさせたかったから仕事に集中したくて……」
「……なのに女性や子供は招き入れたんだね」
ミシェルはボソッと漏らす。
「そ、それは。可哀そうに思って……その時は二人とも本当におびえていたように見えたんだ!」
「じゃあなぜすぐに騎士団やら国へ保護を求めなかったの? それはレオンがすることだった?」
「数日で出ていくと思っていたんだ。しかしそのうち、激務で疲れ果てて帰った時に食事を用意してくれていたり、部屋を暖めてくれていたり、出迎えてくれる人がいる暖かさに慣れてしまって……一人で孤独を感じていた分、その……ずるずると。それにミシェルにはもっといい生活ができるようになってから一緒に暮らしたかったけど、彼らには気を遣う必要もなかったから……それは本当に悪かったと思っている」
「一人が寂しかったなら、僕を呼んでくれればよかった。僕だってどんな生活だってよかったよ。レオンは僕より彼女を取ったんだ。だからこのまま婚約は解消したままにしてください。もう今日限りで二度と会うつもりはありません」
「待って、ミシェル‼ 違うんだ! 俺は情けない自分をミシェルには見せたくなかったんだ!ごめん、本当に。でも大好きなんだ、ミシェルだけが。学生の頃から君と一緒になれるのだけをずっと夢見ていたんだよ!」
「僕もだよ。でもそれを壊したのは……レオンだ」
ミシェルはそういってレオンの家を後にした。
家の中からレオンの泣き声のようなミシェルの名を叫ぶような声が聞こえていた。
それでもミシェルは振りむくことなく宿へ向かった。
宿に到着してから、ずっと元気なくソファーで丸まるミシェルにフレデリクはお茶を入れた。
「……僕大丈夫だよ。兄様、食事に行って来ていいよ。僕は寝てるから」
「僕も別に空いていない。欲しければ後で買ってくるから心配するな」
「なんだか疲れたから、ちょっと横になるね」
ミシェルは疲れ切った顔でベッドにもぐりこんだが、その中から押し殺したような泣き声が聞こえてきた。
その堪えるような泣き声にフレデリクまで苦しくなる。
しばらくすると、疲れ切ったのか、心が限界を迎えたのか静かになり、眠りについたようだった。
「ミシェル……僕がいる。お前がレオンをきっぱりと諦めたのなら必ず幸せにする」
一度はあきらめた。
レオンが騙されていたと分かればミシェルは彼のもとへと戻ると覚悟していた。
しかしミシェルからレオンに決別の言葉を告げた。
今は悲しくて苦しくて先のことなど考えられないだろうが、これからは自分がミシェルを大切に大切にする。いつかミシェルがこちらを見てくれるまで。
騎士団での聴取も終わり、諸々のことが片付いてようやく領地へ戻れる日が来た。
同じように聴取のために王都にとどまっていたリシャールと最後にもう一度顔を合わせることになった。
あの時、悲しげな顔をしていたリシャールは、今日はすっきりとした顔をしていた。
「ようやく、全てが終わりました。リアンが戻ってくることはありませんが、敵は取れたのではないかと思います。連絡をいただかなければ今も彼が本当に殺されたのかも分からず、ずっと苦しむところでした。本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそあのような手紙を信じていただいてありがとうございました。おかげで、元とはいえ弟の婚約者を救うことができました」
「……ミシェル様、どうぞお幸せになってください。不思議な縁でしたがあなたの将来が輝かしいものになるようお祈りしております」
「あの、リシャール様も……」
「はい。リアンは死んでも私のことを心配してくれていました。ずっと悲しみと憎しみにとらわれてきましたが、彼は魂だけになっても私のことを心配してきてくれた。彼の思いに応えるためにもいつまでも泣いていられない、私もこれから頑張りますよ」
そういってリシャールは帰っていった。
「ミシェル」
涙を落すミシェルをフレデリクが心配する。
「リシャール様がお気の毒で……」
「そうだな。自分が連れてきた女のせいで自分の大切な人が死んだと分かって辛いだろうな。それでも真実がわかってよかったと思うよ。彼なら苦しい思いを抱えながらもリアン様のために前に進むはずだ。だって、魂というものが証明されたんだからね、いずれ会える日のために恥ずかしくない生き方をされると思う」
「うん、そうだね。いつか絶対会えるよね」
「ああ。きっと大丈夫だ。さあ、僕たちも帰ろうか。……最後にもう一度レオンに会わなくていいか?」
「……うん。大丈夫」
そういうミシェルの目から涙が静かに流れる。
「あれ? どうしたんだろ? リ、リシャール様のことが気になるのかな?」
フレデリクはハンカチで涙を吸い取ってやった。
「兄様……」
「思いきり泣けばいい。人の心はそう簡単に割り切れるようなものではないのだから」
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