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アランサイド
アランは静かな寝息を立て始めた(ノ)エルの横顔を見ながら旅の途中で聞いた話を思い出した。
母が亡くなり、すぐに父が後妻を連れてきて、妹が出来たこと。それから自分の居場所を作るために勉強と仕事を頑張ってきたが、一念発起して新天地で自分を試すんだと明るく笑っていた。
しかし本当は飛び出さざるを得なかったのだろう。家族には居場所を教えないようにとギルド長に頼み、先ほども甘え方がわからないと言っていたくらいだから。
自分も家族に見切りをつけ、母国を出てここまでやってきた。なんとなく、彼の境遇に感じるものがあり、気にはなっていた。
金で雇っているからと護衛に偉そうな態度を取る人間もいる中、彼は非常に友好的で一緒に旅をするのも楽しく、相手が気に入らないと徹底的に不愛想を貫くオムロもあれこれと世話を焼き、エルを気に入ったようだった。
そんなエルが盗賊に襲われているのを見て咄嗟に腕を切り落としたはいいが、エルに血しぶきがかかり盗賊の手首から先がエルの腕に残ってしまった。
声も立てずに気を失ってしまったエルに心が痛んだ。
一大決心をして国を出た彼の幸先を血にまみれたものにしてしまったのだから。
意識を取り戻したエルは真っ蒼な顔で、盗賊に掴まれた腕の痕を無意識にさすっていた。おまけにこちらの不手際で盗賊に出くわすことになったというのに自分のせいだと言い、アランやオムロのことを気遣ってくれる心根の優しさにも驚いた。
アランが同室にいることを了承し、一度は眠りについたものの悪夢で目を覚ましたエルに、少しでも恐怖心が和らいでくれたらと酒を勧めてみた。
嘗めるだけで顔が赤くなり断念したエルに、一緒にベッドに入っていいか聞く。
アランが初めて人を殺めた時。
相手が犯罪者であっても罪悪感と恐怖と、手に残る感触が恐ろしくて眠れずに頭を抱えてうずくまっていると、傭兵として生計を立てている師匠が
「まあ初めてだからしょうがないがな。相手を可哀そうだとか、罪悪感を抱えるくらいなら護衛や傭兵なんぞになろうなどと思わないことだ」
口ではきつい事を言いながら、背中をずっと優しくなでてくれた。
そしてその日は身を寄せ合って眠ったのだ。
そばに寄り添ってくれることがどれだけその時の自分を助けてくれたかわからない。
だからエルにも一緒に寝ようと提案してみたのだ。
実際、ほっとしたように表情をやわらげたエルは瞼を閉じ、
「こんな優しくされたこともない……ありがとう」
眠そうな小さい声でつぶやき眠りに落ちていった。
無意識に身を寄せるエルにアランは心をぎゅっと掴まれてしまった。
これまでどんな高貴な貴族や裕福な商人、美男美女の依頼人相手でもこのような気持ちになったことはなかった。
あくまでも仕事であり、言い寄られても、どれだけ気心が知れたように思ってもそこには一定の線を引いていた。それらが煩わしくてぼさぼさに前髪をおろしていた。
今だってやましい気持ちなど一切なかった。
ただ本当に殺人の現場を目の当たりにして不安にさいなまれるエルが気の毒で、せめてそばにいてやろうというくらいの気持ちだった。
しかし、今、遠慮するように……それでいて助けを求めるようにアランの服のすそをぎゅっと握って寄り添うエルが健気で、可哀そうで、愛しくて……自分の中に初めて湧き上がる感情に自分でも驚いた。
明日で任務は終了だと思っていたが、幸いにも彼から依頼の延長を申し出てくれた。それだけ信用してくれていると思えばうれしい。
メイドや使用人を雇うまでとエルは言っていたが、二人の生活くらいアラン一人で事足りる。
その間にエルをうんと甘やかそう。甘える事を知らないこの子に、甘える事を教えてあげよう。
他に頼るものがいないのら何の遠慮もいらない。
ひなを見守る親のような庇護欲なのか、もう一歩踏み込んだ想いなのか。誰にも譲りたくないようなそんな気持ちになった。
エルが笑顔で暮らせるように自分が守り、慈しもう。
これまで刹那的に生きてきたアランに初めて目的が出来たのだ。
アランは口角をあげるとそっとエルの頭にキスをした。
母が亡くなり、すぐに父が後妻を連れてきて、妹が出来たこと。それから自分の居場所を作るために勉強と仕事を頑張ってきたが、一念発起して新天地で自分を試すんだと明るく笑っていた。
しかし本当は飛び出さざるを得なかったのだろう。家族には居場所を教えないようにとギルド長に頼み、先ほども甘え方がわからないと言っていたくらいだから。
自分も家族に見切りをつけ、母国を出てここまでやってきた。なんとなく、彼の境遇に感じるものがあり、気にはなっていた。
金で雇っているからと護衛に偉そうな態度を取る人間もいる中、彼は非常に友好的で一緒に旅をするのも楽しく、相手が気に入らないと徹底的に不愛想を貫くオムロもあれこれと世話を焼き、エルを気に入ったようだった。
そんなエルが盗賊に襲われているのを見て咄嗟に腕を切り落としたはいいが、エルに血しぶきがかかり盗賊の手首から先がエルの腕に残ってしまった。
声も立てずに気を失ってしまったエルに心が痛んだ。
一大決心をして国を出た彼の幸先を血にまみれたものにしてしまったのだから。
意識を取り戻したエルは真っ蒼な顔で、盗賊に掴まれた腕の痕を無意識にさすっていた。おまけにこちらの不手際で盗賊に出くわすことになったというのに自分のせいだと言い、アランやオムロのことを気遣ってくれる心根の優しさにも驚いた。
アランが同室にいることを了承し、一度は眠りについたものの悪夢で目を覚ましたエルに、少しでも恐怖心が和らいでくれたらと酒を勧めてみた。
嘗めるだけで顔が赤くなり断念したエルに、一緒にベッドに入っていいか聞く。
アランが初めて人を殺めた時。
相手が犯罪者であっても罪悪感と恐怖と、手に残る感触が恐ろしくて眠れずに頭を抱えてうずくまっていると、傭兵として生計を立てている師匠が
「まあ初めてだからしょうがないがな。相手を可哀そうだとか、罪悪感を抱えるくらいなら護衛や傭兵なんぞになろうなどと思わないことだ」
口ではきつい事を言いながら、背中をずっと優しくなでてくれた。
そしてその日は身を寄せ合って眠ったのだ。
そばに寄り添ってくれることがどれだけその時の自分を助けてくれたかわからない。
だからエルにも一緒に寝ようと提案してみたのだ。
実際、ほっとしたように表情をやわらげたエルは瞼を閉じ、
「こんな優しくされたこともない……ありがとう」
眠そうな小さい声でつぶやき眠りに落ちていった。
無意識に身を寄せるエルにアランは心をぎゅっと掴まれてしまった。
これまでどんな高貴な貴族や裕福な商人、美男美女の依頼人相手でもこのような気持ちになったことはなかった。
あくまでも仕事であり、言い寄られても、どれだけ気心が知れたように思ってもそこには一定の線を引いていた。それらが煩わしくてぼさぼさに前髪をおろしていた。
今だってやましい気持ちなど一切なかった。
ただ本当に殺人の現場を目の当たりにして不安にさいなまれるエルが気の毒で、せめてそばにいてやろうというくらいの気持ちだった。
しかし、今、遠慮するように……それでいて助けを求めるようにアランの服のすそをぎゅっと握って寄り添うエルが健気で、可哀そうで、愛しくて……自分の中に初めて湧き上がる感情に自分でも驚いた。
明日で任務は終了だと思っていたが、幸いにも彼から依頼の延長を申し出てくれた。それだけ信用してくれていると思えばうれしい。
メイドや使用人を雇うまでとエルは言っていたが、二人の生活くらいアラン一人で事足りる。
その間にエルをうんと甘やかそう。甘える事を知らないこの子に、甘える事を教えてあげよう。
他に頼るものがいないのら何の遠慮もいらない。
ひなを見守る親のような庇護欲なのか、もう一歩踏み込んだ想いなのか。誰にも譲りたくないようなそんな気持ちになった。
エルが笑顔で暮らせるように自分が守り、慈しもう。
これまで刹那的に生きてきたアランに初めて目的が出来たのだ。
アランは口角をあげるとそっとエルの頭にキスをした。
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