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そのころのオランジェ家
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妻に殴られ昏倒していたオランジェ子爵は幸いにも命を取り留めていた。
しかし、知らぬ間にノエルは異国の貴族の養子となり、オランジェ家から籍を抜かれていた。
しかも、ノエルに対する虐待と搾取に対する慰謝料まで請求をされるわ、トマスがいつの間にかノエルを攫うようにつれて帰って捕まっているわと、ゴーチェは何が起こったのかわからず混乱していた。
心当たりのない虐待や搾取については当然猛抗議をした。
だがノエルを勝手に養子にしたという侯爵家が外交問題も辞さない勢いで一歩も引かなかったのだ。
悔しいことに自分たち家族がノエルを冷遇していた証人はいくらでもいるうえに、あちらは虐待されていた証拠だと医師の診断書まで示してきた。
ゴーチェは慰謝料を払うために屋敷を売り払い、資産もなく信用も失って爵位ですら取り上げられる羽目に陥っていた。
しかしそんな状況であるにもかかわらず、ゴーチェとキーラは平民街の中でも裕福な商人たちが暮らす区域で暮らしていた。
というのも、ゴーチェを花瓶で殴り騎士団に捕らえられていた夫人の生家から、どうか娘のしたことを事件として扱わないで欲しいと懇願されたのだ。自分の娘が夫を殴り殺そうとしたなど噂が流れればその生家も無事では済まない。
下手をすれば降爵となり、社交界にも居場所を失い、孫たちの婚姻や事業にも関係が及ぶのを恐れたのだ。
ゴーチェは、多額の慰謝料とその後の支援と引き換えにそれを受け入れ、妻のサルメを訴えることなく離縁し、夫人は無罪放免となったのだ。
その金で、暮らすことはできたのだが、ノエルのお金で贅沢三昧をしていた時の暮らしを忘れることはできず、キーラを貴族に嫁がせて再び貴族に返り咲くことをあきらめてはいなかった。
隣国からも自国からも目をつけられて平民になった元子爵家に貴族から縁談が来ることはあり得ないのだが、ゴーチェには秘策があった。
ノエル誘拐で捕まっているアレオン家のトマスだ。
アレオン家も嫡男のトマスが罪を犯したことにより降爵されるかもしれないが、ノエルに訴えを取り下げさせればトマスはまた侯爵家の嫡男に返り咲く。そうすれば恩を着せ、トマスにキーラを嫁がせることができる。
それにノエルは本来子爵家のものである多額の資産を持って出ていった、その金は回収する権利はあるはずだ。理不尽にも慰謝料まで取られたが、訴え返せばすべてを取り戻せるのではないかと希望を持っていた。
ノエルは自分たち家族の愛情を求めていたのだから、喜んで戻ってくるはず。
「だからキーラ、お前はノエルを迎えに行ってきなさい」
「いやよ! お父様が行けばいいじゃない」
「私は頭の傷が痛むから長旅は無理だ。可愛いお前が行けばオハナ侯爵も快く迎えてくださるだろう。ノエルにはえらくかっこいい婚約者がいるそうだが、もしかしたらトマス殿のようにお前を見初めるかもしれないぞ」
「まあ!」
ゴーチェはトマスとキーラが結婚させようと思いながらも、もっとうまくいけばオハナ侯爵家や公爵家のノエルの婚約者に見初められるかもしれない。そうすればより権力も資産も手に入る。
自分がノエルを返せと言ってもおそらく門前払いどころか、下手をすれば捕らえられる。可愛いキーラなら手荒な事をされる心配はないし、あわよくば……どちらに転んでもよかった。
ゴーチェは自分はリスクを負うことなく益を得ようとしているのだ。
「もちろんしっかりと護衛はつけるから、頼まれてくれるか」
「わかりました!」
単純で浅はかなキーラは父の無責任な発言にその気になってしまい、意気揚々と隣国へと旅立ったのだった。
しかし、知らぬ間にノエルは異国の貴族の養子となり、オランジェ家から籍を抜かれていた。
しかも、ノエルに対する虐待と搾取に対する慰謝料まで請求をされるわ、トマスがいつの間にかノエルを攫うようにつれて帰って捕まっているわと、ゴーチェは何が起こったのかわからず混乱していた。
心当たりのない虐待や搾取については当然猛抗議をした。
だがノエルを勝手に養子にしたという侯爵家が外交問題も辞さない勢いで一歩も引かなかったのだ。
悔しいことに自分たち家族がノエルを冷遇していた証人はいくらでもいるうえに、あちらは虐待されていた証拠だと医師の診断書まで示してきた。
ゴーチェは慰謝料を払うために屋敷を売り払い、資産もなく信用も失って爵位ですら取り上げられる羽目に陥っていた。
しかしそんな状況であるにもかかわらず、ゴーチェとキーラは平民街の中でも裕福な商人たちが暮らす区域で暮らしていた。
というのも、ゴーチェを花瓶で殴り騎士団に捕らえられていた夫人の生家から、どうか娘のしたことを事件として扱わないで欲しいと懇願されたのだ。自分の娘が夫を殴り殺そうとしたなど噂が流れればその生家も無事では済まない。
下手をすれば降爵となり、社交界にも居場所を失い、孫たちの婚姻や事業にも関係が及ぶのを恐れたのだ。
ゴーチェは、多額の慰謝料とその後の支援と引き換えにそれを受け入れ、妻のサルメを訴えることなく離縁し、夫人は無罪放免となったのだ。
その金で、暮らすことはできたのだが、ノエルのお金で贅沢三昧をしていた時の暮らしを忘れることはできず、キーラを貴族に嫁がせて再び貴族に返り咲くことをあきらめてはいなかった。
隣国からも自国からも目をつけられて平民になった元子爵家に貴族から縁談が来ることはあり得ないのだが、ゴーチェには秘策があった。
ノエル誘拐で捕まっているアレオン家のトマスだ。
アレオン家も嫡男のトマスが罪を犯したことにより降爵されるかもしれないが、ノエルに訴えを取り下げさせればトマスはまた侯爵家の嫡男に返り咲く。そうすれば恩を着せ、トマスにキーラを嫁がせることができる。
それにノエルは本来子爵家のものである多額の資産を持って出ていった、その金は回収する権利はあるはずだ。理不尽にも慰謝料まで取られたが、訴え返せばすべてを取り戻せるのではないかと希望を持っていた。
ノエルは自分たち家族の愛情を求めていたのだから、喜んで戻ってくるはず。
「だからキーラ、お前はノエルを迎えに行ってきなさい」
「いやよ! お父様が行けばいいじゃない」
「私は頭の傷が痛むから長旅は無理だ。可愛いお前が行けばオハナ侯爵も快く迎えてくださるだろう。ノエルにはえらくかっこいい婚約者がいるそうだが、もしかしたらトマス殿のようにお前を見初めるかもしれないぞ」
「まあ!」
ゴーチェはトマスとキーラが結婚させようと思いながらも、もっとうまくいけばオハナ侯爵家や公爵家のノエルの婚約者に見初められるかもしれない。そうすればより権力も資産も手に入る。
自分がノエルを返せと言ってもおそらく門前払いどころか、下手をすれば捕らえられる。可愛いキーラなら手荒な事をされる心配はないし、あわよくば……どちらに転んでもよかった。
ゴーチェは自分はリスクを負うことなく益を得ようとしているのだ。
「もちろんしっかりと護衛はつけるから、頼まれてくれるか」
「わかりました!」
単純で浅はかなキーラは父の無責任な発言にその気になってしまい、意気揚々と隣国へと旅立ったのだった。
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