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フローレン侯爵家
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騎士に死体の始末と使用人の見張りを命じたソロモンは執務室にいた。
「湯を運ぶ使用人が扉の握りがおかしいことに気づき、開いたところ居室のソファの上に掛け布を被せた人が見えた…夕食には手をつけていなく、声をかけても返事がない…そして布をめくると死体があった…これが一番はじめに見つけた者の証言です」
ハウンドの言葉にソロモンは頷く。
「布を掛ける意味は?」
「時間稼ぎ…です…ドレスも…まさか…」
ソロモンの問いにアプソが答える。
「ああ…少しでもこちらの動きを遅らせたかった…エルマリアはシモンズに戻っていない。ザザが連れ去ったと考えるのが自然だ」
「はい。旦那様」
「しかし…なぜ…ザザは…」
アプソの呟きにハウンドは考えていたことを口にする。
「…ザザは…エルマリア様が嫁がれてから…忠実なしもべのように…着替えから風呂まで世話を」
「下人が貴族令嬢を奪った?追われることを承知でか?」
「旦那様、エルマリア様は……世間で言われているような贅沢好きの傲慢な令嬢ではありません。ザザとカイナの身分が低くとも…心を寄せ信頼していました。そんな状況になるべくだとしても…身分など一切気にしていなかったのです。ザザの気持ちは理解はできます…今回は襲われていますし…シモンズへ戻しても…」
ハウンドは不器用ながらもエルマリアのために働く二人を見てきた。
「下人には触れることのできない存在か」
「奴には好機だった」
レイモンドの言葉にソロモンの執務室にいる者が口を閉ざした。
「奴は…エルマリアに献身的に尽くしているように見せて…狙っていたんだ」
レイモンドの脳裏にはエルマリアの白い裸体に湯をかける男の姿があった。
「アプソ、ハウンド…レイモンドと話がある」
ソロモンは手を振り二人を下がらせる。
「レイモンド、お前に話すことは契約違反だがここまできたのならもう意味がないから話す」
「なんです?」
「アイザック・シモンズとの契約にエルマリアに対する事項があった。エルマリアを傷つけるな、冷遇するな…私は簡単なことだと軽く考えサインした。持参金は金貨十万枚…鉱山採掘初期費金貨五万枚…」
「…十万枚…」
レイモンドはエルマリアの持参金の額を知らなかった。
「私は莫大な持参金と話しただろう?私が言いたいのは…エルマリアへの待遇だ…初夜から仕える使用人が酷い仕打ちをした…エルマリアがシモンズへ戻り…アイザック・シモンズに話してしまえば…鉱山採掘の全権利はシモンズ子爵家に渡る」
レイモンドはソロモンの言葉を理解するのに時間がかかった。
「エ…エルマリアを大切にしろと再三言っていたのは…」
「ああ…その契約の一文のせいだ。お前に話せばよかったと言うだろうが…当人たちには言わない約束をした。アイザック・シモンズはお前のフェリシアに向ける思いとこの邸の状況を知っていたと思う…だからその一文を加えた。あの男の思惑どおりに進んだわけだな…鉱山を手に入れ…娘も戻る…これがあの男の目的だった…そう思うほど…お前と使用人が動いた…」
レイモンドは急激に冷えていく自身の体に震えた。
「俺が…フローレンを…没落…させ」
「そうだが…そうじゃない。フローレンなど陛下の心一つでできた家…浪費するアンジェルを強く諌めなかった私の責任だろう」
「このままなにも…せずに?」
「エルマリア…ザザを追うが…シモンズ子爵にいつ話すか…漏れる前に…正直に話せばいいか…悩んでいる」
「エルマリアが自分の意思であの男に付いていったと子爵に話してみては?」
ソロモンは愚かなレイモンドを見つめる。
「…そう言ったとしてもなにも変わらないぞ。あの男に付いていくほどエルマリアは傷ついていたと言われたらなんて答える?こちらに非があるんだ…頭を使え…馬鹿者…エルマリアが見つかって…無理やり連れていかれた状態だったらと考えないか?嘘はもう…うんざりだ」
ソロモンとレイモンドの頭にフェリシアが過る。
「…申し訳ありません」
「はあ…とっととフェリシアに純潔の証明書を持たせて邸から出す。宿代くらいは出してやるが持っていくものはアプソに精査させる」
「本当にフェリシアが関与を?」
「レイモンド、もうそんなことはどうでもいい。私はもうフェリシアのことは考えたくない…同じ邸にいると思うだけで吐き気がする」
レイモンドはソロモンがフェリシアを可愛がっていたことを知っている。傲慢なアンジェルと正反対のフェリシアに癒されていたことも。
「ハンナはどこへ…?」
「お答えできません。フェリシア様」
アプソは宝石箱と目録を見比べる。
「ずいぶん宝飾品が失くなっていますが理由を話してください」
「え…?そうなの?最近は出掛けることを禁じられているから着けなかったの」
「箱を開けてもいなかったと?」
フェリシアは頷く。
「誰かが盗んだのかしら?お金に困っていたのかしら…」
アプソは宝石箱を閉じ騎士に渡す。その行動をフェリシアは首を傾げて見つめる。
「フェリシア様、騒ぎを聞きましたか?」
「ええ、少しだけど…悲鳴がしたって…何があったの?」
フェリシアはルイスの死を知らなかった。誰かに探らせようと思っても下手に動いては疑われると思い部屋で報せを待っていた。
「エルマリア様が消えました」
「え!?」
アプソの言葉を予想していなかったフェリシアは本当に驚いた。
「消えた…?なぜ…シモンズへ帰ったの?」
フェリシアは襲われたショックで出ていったと思い内心浮かれた。
「お答えできません」
「アプソ…どうして騎士が私のドレスを持ち出しているの?」
アプソの背後で騎士が華美なドレスをフェリシアの部屋から出していた。
「明日、純潔の証専門医師が訪れます。フェリシア様の証明書です。それをお持ちになり宿へ行ってもらいます」
フェリシアは眉間にしわを寄せて首を傾げる。
「なんて?」
「明日、この邸から出て行ってもらいます」
「いきなりだわ!どういうこと!?」
アプソは眼鏡越しにフェリシアを見つめる。
「理由を話しても認めないでしょうし、レイモンド様は納得していると言っても信じないでしょう?」
アプソの馬鹿にしたような言い方にフェリシアは憤る。
「アプソ!レイを連れてきて!あなたでは話しにならないわ!」
「旦那様の命でここにいます」
「アプソ!」
フェリシアがアプソに掴みかかろうと迫るが騎士が止めた。
「離して!触らないで!」
「フェリシア様、使用人服を着てレイモンド様の部屋へ行こうなど考えないでください」
アプソの言葉にフェリシアの体は固まる。
「レイモンド様から聞いております。旦那様はフェリシア様に失望されました」
「だって…レイと…会えないなんて…耐えられない」
「耐えられない…農地と山が多いランド男爵領より首都の侯爵家が好きだった」
アプソが語り始めフェリシアは体を震わせる。
「少女の年から奥様に媚び、旦那様には軽く甘え、レイモンド様の庇護欲を刺激し、使用人に気を使った。さぞ疲れたことでしょう…その努力をエルマリア様が簡単に奪った」
フェリシアは唇を震わせて叫びそうになる心を耐えた。
「愛を囁くレイモンド様はエルマリア様に惹かれ始め、フェリシア様がいなくなったあと本当の夫婦になろうとまで言った」
「嘘よ!嘘!レイがあの女にそんなこと言うわけないわ!あんな淫らでいやらしい!紅を塗りたくった女と夫婦!?下人と交わるような女!父親に頼る!金だけの女!レイのことは特に……」
フェリシアの叫びは廊下まで響き、遠巻きに使用人が見ていた。
「エルマリア様はレイモンド様についてフェリシア様になんと?」
フェリシアは感情のままに発した言葉に狼狽える。
「フェリシア様はいつエルマリア様に会ったのですか?」
フェリシアは首を振り口を閉ざした。 アプソは棚の奥に隠されるようにしまわれていた使用人服を騎士から受け取る。
「下級使用人の服…帽子まで…これで人目につかず動いていたわけですね」
アプソは持っていけと服を騎士に渡す。
「テラスは開けられないよう外から施錠します」
アプソはうつむいたまま動かないフェリシアを置いて部屋を出ていった。
「湯を運ぶ使用人が扉の握りがおかしいことに気づき、開いたところ居室のソファの上に掛け布を被せた人が見えた…夕食には手をつけていなく、声をかけても返事がない…そして布をめくると死体があった…これが一番はじめに見つけた者の証言です」
ハウンドの言葉にソロモンは頷く。
「布を掛ける意味は?」
「時間稼ぎ…です…ドレスも…まさか…」
ソロモンの問いにアプソが答える。
「ああ…少しでもこちらの動きを遅らせたかった…エルマリアはシモンズに戻っていない。ザザが連れ去ったと考えるのが自然だ」
「はい。旦那様」
「しかし…なぜ…ザザは…」
アプソの呟きにハウンドは考えていたことを口にする。
「…ザザは…エルマリア様が嫁がれてから…忠実なしもべのように…着替えから風呂まで世話を」
「下人が貴族令嬢を奪った?追われることを承知でか?」
「旦那様、エルマリア様は……世間で言われているような贅沢好きの傲慢な令嬢ではありません。ザザとカイナの身分が低くとも…心を寄せ信頼していました。そんな状況になるべくだとしても…身分など一切気にしていなかったのです。ザザの気持ちは理解はできます…今回は襲われていますし…シモンズへ戻しても…」
ハウンドは不器用ながらもエルマリアのために働く二人を見てきた。
「下人には触れることのできない存在か」
「奴には好機だった」
レイモンドの言葉にソロモンの執務室にいる者が口を閉ざした。
「奴は…エルマリアに献身的に尽くしているように見せて…狙っていたんだ」
レイモンドの脳裏にはエルマリアの白い裸体に湯をかける男の姿があった。
「アプソ、ハウンド…レイモンドと話がある」
ソロモンは手を振り二人を下がらせる。
「レイモンド、お前に話すことは契約違反だがここまできたのならもう意味がないから話す」
「なんです?」
「アイザック・シモンズとの契約にエルマリアに対する事項があった。エルマリアを傷つけるな、冷遇するな…私は簡単なことだと軽く考えサインした。持参金は金貨十万枚…鉱山採掘初期費金貨五万枚…」
「…十万枚…」
レイモンドはエルマリアの持参金の額を知らなかった。
「私は莫大な持参金と話しただろう?私が言いたいのは…エルマリアへの待遇だ…初夜から仕える使用人が酷い仕打ちをした…エルマリアがシモンズへ戻り…アイザック・シモンズに話してしまえば…鉱山採掘の全権利はシモンズ子爵家に渡る」
レイモンドはソロモンの言葉を理解するのに時間がかかった。
「エ…エルマリアを大切にしろと再三言っていたのは…」
「ああ…その契約の一文のせいだ。お前に話せばよかったと言うだろうが…当人たちには言わない約束をした。アイザック・シモンズはお前のフェリシアに向ける思いとこの邸の状況を知っていたと思う…だからその一文を加えた。あの男の思惑どおりに進んだわけだな…鉱山を手に入れ…娘も戻る…これがあの男の目的だった…そう思うほど…お前と使用人が動いた…」
レイモンドは急激に冷えていく自身の体に震えた。
「俺が…フローレンを…没落…させ」
「そうだが…そうじゃない。フローレンなど陛下の心一つでできた家…浪費するアンジェルを強く諌めなかった私の責任だろう」
「このままなにも…せずに?」
「エルマリア…ザザを追うが…シモンズ子爵にいつ話すか…漏れる前に…正直に話せばいいか…悩んでいる」
「エルマリアが自分の意思であの男に付いていったと子爵に話してみては?」
ソロモンは愚かなレイモンドを見つめる。
「…そう言ったとしてもなにも変わらないぞ。あの男に付いていくほどエルマリアは傷ついていたと言われたらなんて答える?こちらに非があるんだ…頭を使え…馬鹿者…エルマリアが見つかって…無理やり連れていかれた状態だったらと考えないか?嘘はもう…うんざりだ」
ソロモンとレイモンドの頭にフェリシアが過る。
「…申し訳ありません」
「はあ…とっととフェリシアに純潔の証明書を持たせて邸から出す。宿代くらいは出してやるが持っていくものはアプソに精査させる」
「本当にフェリシアが関与を?」
「レイモンド、もうそんなことはどうでもいい。私はもうフェリシアのことは考えたくない…同じ邸にいると思うだけで吐き気がする」
レイモンドはソロモンがフェリシアを可愛がっていたことを知っている。傲慢なアンジェルと正反対のフェリシアに癒されていたことも。
「ハンナはどこへ…?」
「お答えできません。フェリシア様」
アプソは宝石箱と目録を見比べる。
「ずいぶん宝飾品が失くなっていますが理由を話してください」
「え…?そうなの?最近は出掛けることを禁じられているから着けなかったの」
「箱を開けてもいなかったと?」
フェリシアは頷く。
「誰かが盗んだのかしら?お金に困っていたのかしら…」
アプソは宝石箱を閉じ騎士に渡す。その行動をフェリシアは首を傾げて見つめる。
「フェリシア様、騒ぎを聞きましたか?」
「ええ、少しだけど…悲鳴がしたって…何があったの?」
フェリシアはルイスの死を知らなかった。誰かに探らせようと思っても下手に動いては疑われると思い部屋で報せを待っていた。
「エルマリア様が消えました」
「え!?」
アプソの言葉を予想していなかったフェリシアは本当に驚いた。
「消えた…?なぜ…シモンズへ帰ったの?」
フェリシアは襲われたショックで出ていったと思い内心浮かれた。
「お答えできません」
「アプソ…どうして騎士が私のドレスを持ち出しているの?」
アプソの背後で騎士が華美なドレスをフェリシアの部屋から出していた。
「明日、純潔の証専門医師が訪れます。フェリシア様の証明書です。それをお持ちになり宿へ行ってもらいます」
フェリシアは眉間にしわを寄せて首を傾げる。
「なんて?」
「明日、この邸から出て行ってもらいます」
「いきなりだわ!どういうこと!?」
アプソは眼鏡越しにフェリシアを見つめる。
「理由を話しても認めないでしょうし、レイモンド様は納得していると言っても信じないでしょう?」
アプソの馬鹿にしたような言い方にフェリシアは憤る。
「アプソ!レイを連れてきて!あなたでは話しにならないわ!」
「旦那様の命でここにいます」
「アプソ!」
フェリシアがアプソに掴みかかろうと迫るが騎士が止めた。
「離して!触らないで!」
「フェリシア様、使用人服を着てレイモンド様の部屋へ行こうなど考えないでください」
アプソの言葉にフェリシアの体は固まる。
「レイモンド様から聞いております。旦那様はフェリシア様に失望されました」
「だって…レイと…会えないなんて…耐えられない」
「耐えられない…農地と山が多いランド男爵領より首都の侯爵家が好きだった」
アプソが語り始めフェリシアは体を震わせる。
「少女の年から奥様に媚び、旦那様には軽く甘え、レイモンド様の庇護欲を刺激し、使用人に気を使った。さぞ疲れたことでしょう…その努力をエルマリア様が簡単に奪った」
フェリシアは唇を震わせて叫びそうになる心を耐えた。
「愛を囁くレイモンド様はエルマリア様に惹かれ始め、フェリシア様がいなくなったあと本当の夫婦になろうとまで言った」
「嘘よ!嘘!レイがあの女にそんなこと言うわけないわ!あんな淫らでいやらしい!紅を塗りたくった女と夫婦!?下人と交わるような女!父親に頼る!金だけの女!レイのことは特に……」
フェリシアの叫びは廊下まで響き、遠巻きに使用人が見ていた。
「エルマリア様はレイモンド様についてフェリシア様になんと?」
フェリシアは感情のままに発した言葉に狼狽える。
「フェリシア様はいつエルマリア様に会ったのですか?」
フェリシアは首を振り口を閉ざした。 アプソは棚の奥に隠されるようにしまわれていた使用人服を騎士から受け取る。
「下級使用人の服…帽子まで…これで人目につかず動いていたわけですね」
アプソは持っていけと服を騎士に渡す。
「テラスは開けられないよう外から施錠します」
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