くるみの木のパン屋さん

雪村みおり

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「家の住所じゅうしょは、とちのき村の一丁目いっちょうめ十四番地じゅうよんばんち。大きなとちの木の家だよ! じゃ、おねがいしますよ~」

「ちょっと……」


 プツン……。

 また、切れてしまいました。


「本当にもう……! いそがしいんじゃなければ、自分で買いに来ればいいのにねえ」

 くるみおばさんは、大きなためいきをつきました。


 さて、こまりました。

 メロンネさんから、ミックスクリームパン三つ。
 アップルさんから、レンゲハチミツパン三つ。
 どちらも今すぐです。

「早く行けるかしら……」

 くるみおばさんがつぶやいていたその時……。


 チリリーン!


 ドアのベルがなって、たくさんのおきゃくさんが入ってきました。

 おきゃくさんたちは「このパンもいい」、「あのパンもいい」と大さわぎです。
 くるみおばさんは、すっかりこまりはててしまいました。

「こんなに大ぜいのおきゃくさんじゃ、パンをとどけに出かけられないわねえ。どうしましょう」


 まっさきにレジに来たのが、きつねのスイートさんです。にこにこしながら、話しかけてきました。

「こんにちは、くるみさん。今日はこの、ドングリフランスパンを一つくださいな」

「ええと……、二百円です」


 くるみおばさんは、あせってきました。

「なんとしてでも、早く行かなきゃ……」

 何度なんども自分に、そう言い聞かせました。
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