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第四章:全国との戦い

第51話:ライバル

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 高校麻雀選手権・東東京代表決定戦。西東京代表と違い、23区を中心とした東東京は優勝校と準優勝校が全国大会へのチケットを手に入れられる。
 大将戦の南4局オーラス
 “高校生現役最強雀士”“最速の男ファステスト・ワン”と言われる足立区私立新海田高校部長・少井しょうい貴春の親番だ。親はアガれば子の1.5倍の得点を得られる代わりに、逆に子にツモアガリされた時は子の倍の点棒を支払うことになる。
 だから、これは逆にチャンスだ。少井への満貫直撃はいざとなったらベタオリすればいい状況だけにまず不可能だが、ハネ満の親っかぶりをさせれば、逆転トップに立てるのだ。
 そしてトータルポイントでも優勝が決まる。
 しかし───久我崎高校部長・麗美は手なりでの役無し聴牌テンパイが精いっぱいの状況だった。
 9巡目。ツモったのは、4枚目の四萬である。

(どうせ和了アガられたら負ける。それならば、私は攻める!)

「カン」

 四萬を暗槓すると、新たなる表示牌は三萬。つまりはこの時点で満貫が確定したのだ。

「リーチ」

 リー棒の1,000点を卓に置く麗美。
 麗美の打牌の直後、一瞬にして場の空気が張り詰めたのを感じ取る。当然だ。麗美がドラを4枚も持っていることを示している上に、リーチ宣言しているのだから。
 優勝の可能性が完全に消えた下家シモチャは場を乱さぬようにしようと、現物を合わせてくる。
 3位をキープすればトータルポイントで優勝が決まる少井だけに、ここは慎重になった。その様子を見ながら麗美は、内心ため息をつく。

(………本人が自分で言って、周囲に持ち上げられてるだけだよねこの人の“最速”って。一打一打にさっきから何秒かかってんの……)

 それは麗美だけではない。実はここにいる全員が思っている事だ。
 が、今や麻雀雑誌にすら『新しい麻雀界の顔』として売り出されている少井を批判出来る者など、自分も含めて誰もいない事など麗美は理解している。
 長考の末、少井が切ったのは現物だった。

(あれだけ考えてようやく出すのが現物とか。カンベンしてよね………)

 12巡目。

「ツモ」

 麗美は静かにツモ牌を置いた。今の時点でリーチ・ツモ・ドラ4のハネ満である。
 裏ドラをめくると、表示牌は九索であった。
 偶然要素の重なった勝利だが、インタビューや動画などで事あるごとに「麻雀に運や流れなんて存在しない」を強調している少井だけに、文句を言う訳にもいかなかった。
 結局麗美の合計9翻の倍満で、久我崎が東東京代表地区予選決勝の逆転優勝を勝ち取った。昨年のU-17個人優勝と合わせて、これが彼女にとっての2個目のタイトルである。
 しかし麗美の心は、全くと言っていいほど晴れなかった。

(こんな勝負をしたくて、表で打ってるんじゃないんだけどなぁ私………)

 綾乃の脳裏に浮かんだのは、トレーニングマッチで戦ったあの少年───竜ヶ崎和弥だった。

(綾乃のとこのあの子、強かったなぁ………。新一さんの息子だけあるよね)

 今度はガチンコ勝負をしたい。
 麗美は自分の中に青白い炎が灯り、それが大きくなっていくのを感じ取っていた。
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