会長にコーヒーを☕

シナモン

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8話 そして神戸

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「なんで私、神戸まで来て掃除やらされてるの……」

 呟いたところで、現実は変わらない。
 香苗はもんもんと片づけに手を動かす。

 美影は事件発生とかで「すみませーん」と軽く言い残して出て行った。
 残された不破了はというと、黙々とゴミ袋を詰めている。

 紙くず、ペットボトル、弁当の空……
 彼は妙にきれい好きらしく、その手つきは無駄がなかった。

 時計はいつの間にか深夜0時を回っている。

 冷蔵庫にあった麦茶は、さすがに手をつける気になれず、
 不破が買ってきたコンビニの飲み物とパンで小腹を満たすことに。

「はぁ……久しぶりに女と夜を過ごすってのに、
 よりによって参考人相手で、こんなゴミ部屋かよ。最悪~」

 言葉こそ乱暴だが、動作は冷静そのもの。
 本気で“掃除男子”らしい。
 ……香苗はむかついた。

「すみませんねぇ。匂い嗅ぎたいなら、介抱してくれてもいいんですけど?」

「気になるんだよ、その匂い。……まだ残ってんな」

 ドキッとする香苗。

 シャワー、借りた…くても無理だ。
 バス・トイレにもゴミが詰まってるこの部屋では。

 ある意味、これもホラーだ。

(ていうか、私、逃げてもいいよね?)こんな拘束、拒めるはずだ。

「あんたのつけてる香水ならわかるんだけどなあ」

「え?」

「Demeterのチャイティ。スイーツ好きか」

 おー当たってるわ。香水を言い当てられ、香苗は頷いた。
 拍手したいところだがあいにく両手が埋まってる。
 パンと飲み物、ごみの上に置きたくはない。
 クリームパンといちごみるく…張り込みの定番あんパンと牛乳の女子バージョンだろうか?

「何なんですか、マトリって。刑事と別なんですか」

「うーん。まあ、薬物関連の公務員てとこ。」

「美影さんは…」

「刑事と協力して組むことがあるわけ。…あの女が少々あれなのは○暴専門みたいなもんだからな、まあしゃあないね、ここら辺は組長が住んでるしな」ガハハと笑う。香苗はぞっとした。

(ヒー、そうなんだ。)

 そして東灘区だと教えてくれた。

「灘って、お酒で有名な、あの灘?」

「ああ、そう。有名な酒蔵があるよ」

「へー」

 そっち行けばよかったかな。香苗は後悔し始める。ヤーーは怖いけど、昼間から抗争始めないだろう。
 失敗した。そうすればこんな男に捕まることもなかったのだ。
 香水の存在にも気づかず、今頃は実家の布団ですやすや…。

 残念な妄想しつつ黙々と作業に没頭する。
 そうしてるうちに、あの不破了かどうか確かめたくなった。

「不破さん…誰かにID貸したことないですか」

「誰かって?」早々に詰まる香苗。

(やばい、また余計なことして怒られるか? )高広は名前を隠してよくわからない行動をしていたのだ。九条なんて名字出したら一発で連れ戻される。

「えーと、その、高・・・」彼の返答はない。「たっ、た、たたた…」意味がないわ、本名を名乗った可能性はきわめて低い。あのやろー。と怒りがにじみ出る。

「あんた、俺にカマかける気か?」

(いけね、怒らせちゃった。)険悪なムード…かと思いきや。香苗は押し倒されてしまった。

 ぎゃっ。

 かぶさる寸前で止まった


 …いぃぃぃぃぃ…


 長めの髪がバサッと降りかかる…


 ぎりぎり毛先が触れ、びりびり感情を揺さぶる。

 ドキドキ鼓動がうるさい。

 男の熱気だけが伝わる。

 貯っ…。

 …やだやだ、こんなごみ屋敷でっ、かいちょ~・・・。助けて涙。

 いまだかつてこんなことはなかった、付き合ってた時でさえ…

 信じられない―――。


 顔は高広だが中身はどこかのだれかさんというややこしい男、ふわりょうは必死に耐えてる様子。

 ただ震える香苗、…なんなんだ、ちきしょ、私が悪いというか、あのへんな瓶の中身のせいだ――。

 熱い、暑い、熱いーー……。

 震える身体をふりほどくように、彼は上体をあげた。

「ヤッバ、何だよ、この匂い。新手の媚薬か?困るんだよな~」

 男の様子を見て、効果は数時間というメモ書きを思い出す香苗。

 そうか、女子にはわからないけど、狭い部屋で匂いがこもった?

 さすが麻薬取締官、ギリギリで耐えたようだ…魔法の誘いに。


 …よく考えたら変ですよね? こいつ…善良な市民にこんなことして…。

「は~~、俺、ごみを運ぶことにするわ。しばらく外で張ってよう。…しっかし、あの女にはあきれるぜ、腹立つー。いつでも人を呼べる部屋にしておけよ。この部屋のどこで化粧してるんだか?」

 不破はブツブツ言いながらまとめたごみを運んでいた。香苗はじっと見つめる。…そのシルエット、声、誰かに似てるなあ…。特に声。
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