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10話 誰にも言えない
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すがすがしいほど晴れ渡る朝。
島に高級クルーザーが接岸する。
「社長、ご足労頂き、恐縮です」
「足元お気を付けください。先日の豪雨でぬかるんでまして」
「そうみたいだな」
先に到着して迎えに出た部下らしい中年に言われ、高級スーツの裾が汚れそうだが気にもしないで桟橋をさっさと進む。センターわけの髪はふんわり流れ、30代半ばごろの風貌の男。木製の段を降りると自然の岩場に砂浜だった。
「なんだ?これは」何かに気づき、視線を下げる。
足元の乾いた岩場には布に包まれた女性の姿があった。
「は、未明に、持ち込まれたようで」
「え、じゃあ、これがその…」
「ええ、たぶん」
二人は奇妙な表情を見せた。
「本当にあるんだな、初めて見た」
「私も初めて見ました」
「警察は今いるのか」
「いえ、まだ…。どうやら県警と本庁で足並みがそろわなくて揉めてるようです」
「まったく…人を呼びつけておいて。…じゃあ、これはどうするんだ」男は苦々しく言葉を吐き捨てた。
「…どうすればよいものか。警察に届けるしかないですよね」
「困るんだよなあ、勝手に。だが、この子、そんな風に見えないな。…どうなってるんだろうなあ。」
「通報したとして、ヘリでやってくるのでしょうか」
「待機場がないんだよな。山岳救助隊レベルに。だから海路で来てるんだが」
船着き場と言ってもさして開けているわけではなく、ほんの少しの白浜に、ごつごつとした岩場、つる性の葛やヒョウタンのような植物が覆い茂りその後方は既に木立であった。人為的に広場を作らなければヘリポートには適さない。
「帰りの船に乗せて運ぶわけにいかないだろうしな。」
「さようでございますね。島に置かれていたと言って、すんなり信じてもらえるかどうか。」
「説明しないといけないよなあ。こっちも何も知らないのに。二重に警察に世話になることになる。変な疑いをかけられてもなあ。」
「う~~ん…」社長は顎に手を当て考え込んだ。
「…俺が預かっておくわ。あとで警察に渡そう」
「恐れ入ります」
「上にあげておいてくれ」
「かしこまりました」
微かに道が続くその先に階段があり、上を見上げれば建物につながっていた。男はそこを進んでいく。
見た目は、別荘に遊びに来た富豪の男性、といったところか。
島には、高級ヴィラを含む建物が断崖を覆うように建っていた。
「おはよう。目、覚めた?」
明るく、軽やかな声がして、 香苗が目を開けると、窓の向こうに海が見えた。 男は、ソファに腰かけていた。 シャツの襟元は少し開いていて、ネクタイはしていない、私服のいでたちだ。 だが、姿勢は崩れていない。
ゆっくりと立ち上がると、「驚いたかな。俺もキミに驚いたが。ここ、ちょっと特殊な場所なんだ」 笑った。目元に皺が寄る。 その笑みは柔らかいが、どこか“見透かしている”ような気配があった。
香苗は、言葉が出なかった。
「何か飲む? 炭酸でいい?」こくり頷く。奥の部屋から氷入りグラスを持ってきた。「えーと、私…」なんて言ったらいいのだろうか。記憶の破片がまとまらない。ちかっと頭痛が走る。指名手配犯のようによみがえるあの男の顔。白い髪。ピアス。
「俺は……。まあ、ここの管理人みたいなもんかな。常駐じゃないけどね」
その言葉も、笑顔も、優しい。 でも一瞬背筋が冷えた。
「私…」船に乗せられてたような…? 暗闇の中、運ばれて…記憶がざわめく。
無意識に体を触ってほっとした。服、着てる…。毎度おなじみしま○らの上下だ。
豪邸だった。モダンなシャンデリア、大理石の床。広すぎる部屋。大きな窓の向こうは果てしない水平線。
「ええ…?」
言葉は、消えた。記憶に残る…ここは、天国か地獄か。たぶん、そんな台詞だった…、頭がちかちかして思い出せない。
天国か地獄かで言えば天国…イケメン管理人付きの。なんなのだろうか、ここは。
島に高級クルーザーが接岸する。
「社長、ご足労頂き、恐縮です」
「足元お気を付けください。先日の豪雨でぬかるんでまして」
「そうみたいだな」
先に到着して迎えに出た部下らしい中年に言われ、高級スーツの裾が汚れそうだが気にもしないで桟橋をさっさと進む。センターわけの髪はふんわり流れ、30代半ばごろの風貌の男。木製の段を降りると自然の岩場に砂浜だった。
「なんだ?これは」何かに気づき、視線を下げる。
足元の乾いた岩場には布に包まれた女性の姿があった。
「は、未明に、持ち込まれたようで」
「え、じゃあ、これがその…」
「ええ、たぶん」
二人は奇妙な表情を見せた。
「本当にあるんだな、初めて見た」
「私も初めて見ました」
「警察は今いるのか」
「いえ、まだ…。どうやら県警と本庁で足並みがそろわなくて揉めてるようです」
「まったく…人を呼びつけておいて。…じゃあ、これはどうするんだ」男は苦々しく言葉を吐き捨てた。
「…どうすればよいものか。警察に届けるしかないですよね」
「困るんだよなあ、勝手に。だが、この子、そんな風に見えないな。…どうなってるんだろうなあ。」
「通報したとして、ヘリでやってくるのでしょうか」
「待機場がないんだよな。山岳救助隊レベルに。だから海路で来てるんだが」
船着き場と言ってもさして開けているわけではなく、ほんの少しの白浜に、ごつごつとした岩場、つる性の葛やヒョウタンのような植物が覆い茂りその後方は既に木立であった。人為的に広場を作らなければヘリポートには適さない。
「帰りの船に乗せて運ぶわけにいかないだろうしな。」
「さようでございますね。島に置かれていたと言って、すんなり信じてもらえるかどうか。」
「説明しないといけないよなあ。こっちも何も知らないのに。二重に警察に世話になることになる。変な疑いをかけられてもなあ。」
「う~~ん…」社長は顎に手を当て考え込んだ。
「…俺が預かっておくわ。あとで警察に渡そう」
「恐れ入ります」
「上にあげておいてくれ」
「かしこまりました」
微かに道が続くその先に階段があり、上を見上げれば建物につながっていた。男はそこを進んでいく。
見た目は、別荘に遊びに来た富豪の男性、といったところか。
島には、高級ヴィラを含む建物が断崖を覆うように建っていた。
「おはよう。目、覚めた?」
明るく、軽やかな声がして、 香苗が目を開けると、窓の向こうに海が見えた。 男は、ソファに腰かけていた。 シャツの襟元は少し開いていて、ネクタイはしていない、私服のいでたちだ。 だが、姿勢は崩れていない。
ゆっくりと立ち上がると、「驚いたかな。俺もキミに驚いたが。ここ、ちょっと特殊な場所なんだ」 笑った。目元に皺が寄る。 その笑みは柔らかいが、どこか“見透かしている”ような気配があった。
香苗は、言葉が出なかった。
「何か飲む? 炭酸でいい?」こくり頷く。奥の部屋から氷入りグラスを持ってきた。「えーと、私…」なんて言ったらいいのだろうか。記憶の破片がまとまらない。ちかっと頭痛が走る。指名手配犯のようによみがえるあの男の顔。白い髪。ピアス。
「俺は……。まあ、ここの管理人みたいなもんかな。常駐じゃないけどね」
その言葉も、笑顔も、優しい。 でも一瞬背筋が冷えた。
「私…」船に乗せられてたような…? 暗闇の中、運ばれて…記憶がざわめく。
無意識に体を触ってほっとした。服、着てる…。毎度おなじみしま○らの上下だ。
豪邸だった。モダンなシャンデリア、大理石の床。広すぎる部屋。大きな窓の向こうは果てしない水平線。
「ええ…?」
言葉は、消えた。記憶に残る…ここは、天国か地獄か。たぶん、そんな台詞だった…、頭がちかちかして思い出せない。
天国か地獄かで言えば天国…イケメン管理人付きの。なんなのだろうか、ここは。
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