世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

文字の大きさ
21 / 124

グレートベア5

しおりを挟む
香織は自室に戻るとアイを呼んだ。

「ねえアイ。」
『はい、なんでしょう。』
「熱冷ましの薬は一般的な薬だよね?造血剤みたいに問題にならないよね?」
『はい。熱冷ましの薬は下級ポーションと同じく多くの家庭で用いられている薬で値段も安価です。』
「じゃあ作ろう!今まで集めた素材で作れる?」
『熱冷ましの薬に関する情報を表示します。』
「なになに…うん、全部この辺に生えてた薬草だね!えーっと、全部刻んで魔力水で煮ながら調薬魔法で魔力を注ぐ…簡単!」
『下位の薬師でも作れる簡単な薬です。』
「よし、じゃあぱぱっと作っちゃおう。『調薬』!」

香織が魔法を唱えれば、緑色の光と共に面倒くさい作業は全て省略して熱冷ましの薬が現れる。

「サリサさんの所に持って行こう!」




「オリバー、オリバーちょっと起きとくれ。熱冷ましの薬だよ。」
「ん…かあ、ちゃん…喉渇いた…」
「ほら、果実水があるよ。薬飲んだらあげるから。腹は減ってないかい?」
「…減ってない…。ん、苦い…」
「我慢しな、薬飲んだら甘いのあげるから。」
「うん…」

オリバーはサリサの用意したオレンジの果実水を飲み干すと、ベッドに倒れ込むようにしてまた眠ってしまった。

「カオリ、オリバーは大丈夫なのかねえ。こんなに熱が出て…」
「大丈夫、直に良くなりますよ。それよりサリサさんもそろそろ休んでください。貴方まで倒れてしまいますよ。」
「でも…」
「心配だったら私が朝まで変わりますから。」
「…」

サリサは高熱で真っ赤になったオリバーの頬を愛おしげに撫でる。昼過ぎから今まで、ずっとオリバーの側について自分の食事も取っていない。これではいけないという事は頭では分かってはいる。でも足がどうしても動かないのだ。

「…おかしいかい?私がこんなに取り乱すなんて…」
「え?いや、えっと…少し、心配にはなります…」
「オリバーにはね、妹がいたんだ。」
「え?」
「オリバーの5つ下の可愛い子でね。2年前の冬に風邪を拗らせて…あっという間に逝ってしまった。」
「…」
「…あの時は悲しくて悲しくて、もう何も手が付けられなくてね。村の女達が代わる代わるうちに来てさ、色々世話を焼いてくれたよ。」
「…そうだったんですか。」

そうだ。初めて会った時、サリサはこの村では人はすぐ死ぬと、風邪を拗らせただけで死んでしまうと言っていた。

「珍しい事じゃないのさ。この村ではお年寄りや子供は簡単に死んじまうからね、だからたくさん産むんだ。…でも、沢山いるから一人くらい良いじゃないか、なんて気持ちにはなれなかったね。
…今のオリバーを見てるとあの時の事を思い出しちまってね。…このまま目が覚めないんじゃないかって思って…怖いんだ。情けないね。」
「そんな事ないですよ。そう思うのも仕方ない事です。」
「はは、そうかい…」
「でも!今のサリサさんの状態は治癒師として見過ごせません。今のあなたに必要なのは食事と睡眠です!あなたが倒れたりしたら、オリバー君が元気になった時誰が美味しいご飯を作ってあげるんですか?
こういう時は周りの皆に頼らないと。一人で全部やろうとすれば、絶対に無理が出ますよ。」
「…そうだね…うん、分かったよ。何か食べて、少し寝かせてもらおうかね。」
「是非そうしてください!」

香織に説得されたサリサが部屋を出ていくと、ドアのすぐ側でエリックの声が聞こえた。

「サリサ~。やっと出てきてくれたんだね。オリバーは勿論だけど、君の事も皆心配していたんだ。僕達が変わると言っても聞かなかったのに…カオリはどんな魔法を使ったんだい?」
「心配かけて悪かったね。ちょっと冷静になっただけさ。何か軽く食べて、今日はもう寝ることにするよ。」
「うんうん、そうしなよ。サリサのために祭りの料理をいくつか持ってきてたんだ。流石グレートベアの肉、すごく美味しいよ!」

「…サリサさんだけにオリバー君の看病やらせて、他の皆は何してるんだと思ってたけど、そういう事かあ。皆二人のこと心配してたんだね。いいなあ、家族。」

香織は元の世界に残してきた両親のことを思い出した。幼い頃から二人とも仕事に忙しく、普段はあまり構ってもらった記憶はない。でも休みの時はいろんな場所に連れて行ってくれたし、愛情は沢山もらった。子供の頃のように親が恋しくて涙するような歳ではないが、これから沢山親孝行する予定だったのにそれができなくなってしまったのが心残りだ。でも、きっと本物の花道香織がしてくれるだろう。

「うん、心配ないない。それに、私にはアイがいるから!」
『光栄です。』
「ふふ。今はアイが私の家族だね。」
『いつまでもお側におります。』

オリバーの熱は薬のおかげもあってか徐々に下がり、日が昇る頃には平熱に戻っていた。苦しそうだった寝息も、いまではスヤスヤと平和な音がする。

「そろそろ何か食べたりしたほうがいいと思うんだけど…まだ起きないのかな?寝起きで私がいたら緊張しちゃうかな、サリサさんに変わろうかな…」

サリサを呼ぼうと香織が席を立ったと同時に、部屋の扉が開きサリサが入ってきた。

「あ、ちょうどいいところに。今呼ぼうかと思ってたんですよ。」
「オリバーに何かあったのかい?」
「いえ、薬も効いてこの通りスヤスヤですよ。そろそろ起こして何か食べた方がいいんじゃないかなって思って。水分もあまり取れてないですし。私が起こしたら驚かせちゃうかなって…」
「ああ、じゃあ私が起こそうか。カオリはこの後寝るかい?」
「オリバー君が起きたら少し様子を見させてもらって、問題なければ二度寝しようかな。」
「それがいいよ。下に行けばご飯があると思うから食べちゃいな。」
「はい、ありがとうございます。」
「こっちこそカオリのおかげでよく休めたよ、ありごとう。」

香織は自室に戻り身嗜みを軽く整えてから、一階に降りた。少し焦げ臭い匂いと共に彼女を出迎えてくれたのは、エプロンを締めたエリックだった。

「あ、おはようカオリ。オリバーの看病までやらせてしまってすまないね。」
「いえ、サリサさんが休めたようで良かったです。あの…エリックさんが調理を?」
「ああ、サリサも今大変だからね、ご飯を作る余裕はないと思って、僕が作ってるんだ!カオリも食べるよね?」
「はい、いただきます!」
「すぐ出せるから座ってて。」

エリックが作ったのは昨日と同じく目玉焼きにベーコン。でも所々焦げていて、黄身はカチコチだ。 

「はは、ちょっと焼きすぎちゃったかな。目玉焼きとベーコンくらいなら簡単だと思ったんだけど…釜戸に火を入れるのも一苦労さ。サリサはこんなこと毎日一人でやってるんだからすごいよね。」
「ふふ、でもサリサさんきっと凄く喜んだでしょうね。」
「ああ。焼き過ぎだなんだって文句言いながら、嬉しそうに食べてくれたよ。」
「愛情がこもってて美味しいですよ!」
「はは、ありがとう。」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

処理中です...