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グレートベア4
しおりを挟む村の広場には各家から持ち出されたテーブルと椅子が並べられ、テーブルには様々な熊肉料理が並んでいた。広場の中心には、なんとキャンプファイヤーが設置されており、村の男達がその周りで踊っている。
「カオリ、こっちよ。」
「あ、リラ。」
見慣れぬ光景に呆然とする香織に声をかけてくれたのはまたしてもリラだった。何も知らない香織に、リラはこの祭りの作法を教えてくれた。
「肉祭りはね、解体した肉を各家庭で思い思いに調理して、それを自分ちのテーブルの上に並べるの。村人達は気になる料理を勝手に取り分けて食べるシステムよ。最初にお皿が空になった所の家が、村一番の料理上手って言われるのよ。だから年頃の娘がいる家庭なんかはすごく張り切るの、いつでも嫁に出せますよってアピールね。」
「なるほど~。確かに、どれも美味しそう…」
「今回はサリサさんが不参加だからみんな張り切ってるわ。いつもはサリサさんの一人勝ちなの。」
「へえー。確かにサリサさんのご飯はいつも美味しいね。」
「ふふ、うちも年頃の娘が二人いるからってお婆ちゃんがすごく張り切ってたわ、お母さんもね。もちろん私も手伝ったけど、アンはずっと広場で騒いでたわね。」
「あはは、それ想像できる!リラ達の料理、食べてみたいな。」
「ふふ、こっちよ。この祭りの最大の功労者なんだからたくさん食べてね。」
香織はリラの家のテーブルから熊肉の串焼きを一本とり、豪快にかぶりついた。熊肉を食べるのは初めてだったので、どうせならシンプルなもので肉の味を確認したかった。
「ん~!スパイスがたくさん効いてて美味しい!!」
「よかった。それ私が作ったのよ。」
「リラは料理上手だね。今すぐにでもお嫁に行けちゃう。」
「ふふ、そういうこと言うとお父さんが泣いちゃうのよ。」
「そういえばゲイリーさんが森の中で同じようなこと言ってたなあ。それにしても全然硬くないし脂がすごいね。野生の獣の肉なのに…」
「あら、知らないの?魔物に関しては、強ければ強いほど美味しいのよ。魔力がお肉を美味しくしてるってこの村では言われてるわ。知らないの?」
「あう、そういえばそんな事を聞いたことがあるような…私の村では強い魔物なんて滅多に出ないから…もしかしたら旅の途中食べた美味しいお肉とかは全部魔物の肉だったのかな…」
「ふふ、カオリってばしっかりしてるのにたまに抜けてるわね。」
「えへへ…」
その後はリラと共にテーブルを周り、色んな熊肉料理に舌鼓を打った。
「カオリ、楽しんでるか。」
「あ、村長さん、エリックさん。お疲れ様です。」
「カオリもお疲れ様、大変だったね。オリバーの事、聞いたよ。僕の息子が本当に迷惑をかけた。すまなかったね。そして、息子の命を救ってくれてありがとう。」
「いえそんな…たまたま行きあっただけですから。」
「いや、それでもだ。カオリ、君がこの村を訪れていなかったら、オリバーだけでなく色々な人の命が奪われていたはずだ。まったく…初めてカオリにあった時にワシはなんて態度で…思い出すだけでも恥ずかしいぞ。」
「ふふ。私見た目は子供みたいですもんね。気にしないでください。」
「カオリ~!楽しんでるう~?いえーい!」
「ア、アン?どうしたの?まさか酔ってるの?」
「酔ってなんかいないよ~!一緒に踊ろうよ~!ずんどこずんどこ~」
「カオリ、アンは素面よ、お酒は飲んでないわ。」
「ええ…」
「勇者カオリ~!飲んでるかー?うおおー!俺は酔ってるぜええ?」
「知ってます。さっき酒樽に頭突っ込んでるの見ましたから。」
「あれは目に染みたぜ~!いえーい!」
「お父さんがごめん。いつもはもう少しまともなんだけど…お母さんが元気になったからはしゃいでるみたい。」
「「いえーい!」」
「アンはお父さん似なんだね…」
お腹が満たされた香織は、リラと別れ村長宅に戻った。祭りは夜通し行われると言っていたが、騒がしいのは少し苦手だ。今日はいろいろあったし、早めに休もう。
玄関に入っても、サリサの出迎えはない。きっとまだオリバーの部屋にいるのだろう。確かにあの血だらけのオリバーは衝撃的だっただろうが、傷はもう治ったし、あの豪快なサリサがここまで心配するとは思わなかった。少し違和感を感じながらも、香織は母親の気持ちは分からないのでそんなものかと思い直し、自分の部屋に戻った。
「お風呂勝手に使うのも悪いし、今日はクリーンだけかけて寝よう。」
服も下着も替えはないが、洗浄魔法で綺麗にするから問題ない。ついでに歯も磨かなくても大丈夫。
「なんか便利すぎてダメになりそう…」
香織はワンピースを脱ぎ下着姿でベッドに入った。
コンコンコン
「カオリ、カオリ。」
「むにゃ…」
もう朝だろうか?アイに目覚ましを頼んだのに…そう思いながら目を開ける。外はまだ暗く、遠くから祭りの喧騒が聞こえてくる。
「アイ、今何時?」
『2時32分です。』
「こんな時間になんだろう…はーい、今開けます。」
香織は急いでワンピースを着ると、寝ぼけ眼でドアを開けた。
「ああ、カオリ。こんな時間に起こしちまって悪いね。実はオリバーが熱を出しててね…」
「大丈夫ですよ。ちょっと診てみますね。」
「すまないね…」
部屋に入ると、オリバーはまだ寝ていた。額からは玉のような汗が噴き出て、眉間にシワを寄せてうなされている。
「うう、かあちゃん、クマ、クマが…」
「オリバー、母ちゃんはここにいるよ、もう大丈夫だ。安心おし。」
オリバーの寝言に手を握って答えるサリサ。香織はその横でオリバーの身体を調べた。
「…これは精神的なものだと思います。身体にはなんの異常もありません。」
「精神的なもの…」
「子供ってショックな事が起きると、熱を出すことも多いんです。病気ではないので安心していいんですが、そうなると回復魔法は効かないですね。」
「そうなのかい。でもこんなに苦しそうで…」
「うーん、熱冷ましの薬なら効くかもです。後で作って持ってきますね。それまでは冷たい水で濡らした布をおでこに乗せてあげると良いですよ。私が氷水出すので、桶と布を持ってきてください。」
「すぐ持ってくるよ!」
サリサは台所に行き必要な物を取ると、急いでオリバーの元に戻った。
「氷水出てこい、『ウォーター』」
香織が魔法を唱えると、氷水が桶に満たされた。サリサはそれで布を濡らすと、ギュッと絞ってオリバーのおでこに乗せた。
「これでいいかい?」
「はい。じゃあちょっと待っててくださいね。」
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