世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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仕事3

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香織は目を閉じてイメージを固めた。セッケン草を、何世代にも渡り栽培し温暖な気候に強い株を掛け合わせていく。それを続ければ、温暖な気候でも育つセッケン草の完成だ。
香織は手に乗せたセッケン草の種に魔力を注いだ。

『品種改良』

香織の新たな魔法で、セッケン草の品種改良は成功した。


ーーーーーーーーー


「え?畑を貸して欲しい?野菜でも育てる気かい、カオリ。」
「いえ、ちょっと育ててみたい草があって…隅っこの方でいいんですけど、ちょっと土を貸してもらえないかなって。」
「ふむ…だったらダマルさんとこの畑をそのまま使ったらどうだい?診療所はカオリが使ってるし、その隣の畑も使ったって誰も文句は言わないさね。」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「ただ何年も手付かずだったから、土を耕すところから始めないといけないけどねえ。それでも良いかい?」
「はい、大丈夫です!ちょっと植えるだけですから。」
「そうかい、なら自由に使うと良いよ。家の畑道具、好きに使って良いからね。」
「ありがとございます!」

香織は早速スコップ片手に診療所に向かい、自分の畑を見に行った。

「ここ空き地だと思ってたけど、畑なんだね。」

畑は背の低い雑草が一面に生茂っており、緑の絨毯を作りだしていた。色とりどりの小さな可愛らしい花を咲かせた雑草も多く、香織は診療所の窓からその景色をよく眺めていた。

「皆抜いちゃうのは可哀想だから、一角だけ貸してね。」

一畳分のスペースもあれば充分かと、香織はぶちぶちと雑草を抜き始めた。

「カオリお姉ちゃん、何してるのー?お野菜作るの?」
「ちょっと育ててみたい植物があるんだ。それでこの畑を使わせてもらってるの。」
「手伝おうか?私達みんなお家の畑のお世話してるから上手よ!」
「本当?私土を耕したりした事ないから、ぜひお願いしたい!」
「任せて!じゃあクワ持ってくるから待っててね!」

香織を王子様と崇める村の女の子達が加わり、その後男の子達もわらわらと集まってきた。結局、一畳分のスペースの予定だったのがあっという間に畑一面耕されてしまったのだった。

(花が…まあいっか!今から小さい花がたくさん咲くもんね。)

優秀なアイが種を大量に複製してくれていたので、それを子供達一人一人に渡す。

「私も育てた事がない種だから、どう蒔くのが正解かわからないの。皆思い思いに蒔いてね。」
「「はーい!」」

子供達はあーでもないこーでもないと、ワイワイと種蒔をしていく。一つの穴に何個種を入れるか、間隔はどうだなどと専門的な事を議論していて、香織にはよく分からない。香織自身も、自分のスペースにスコップで適当に種を埋めると、皆が終わるのを待った。

空がオレンジ色に染まる頃、種蒔は無事終わった。

「お姉ちゃん、何が生えてくるの?キレイなお花?」
「ふふふ、良いものよ!きっと村の皆が喜ぶよ。特に女の人。」
「えー?なんだろう。どれくらいで育つ?やっぱり1ヶ月は待たないとダメかなあ。」
「ふっふっふ。私を誰だと思ってるの?」
「あ!魔法を使うの!?見たい見たい!」
「正解ー。『成長促進』!」

香織が魔法を唱えると、茶色一色だった畑からみるみる芽が伸び、一面を緑に染めた。その後もセッケン草はどんどん成長し、紫色の小さな花を咲かせた。

「うん、こんなものかな。」

香織は魔力を注ぐのをやめると、満足げに頷いた。その横では子供達が目を輝かせている。

「す、すごい!魔法だ!」
「こんなすごいの、初めて見た!これが本当の魔法なんだ!」
「きゃー!もうお花が咲いたよ!?」

喜ぶ子供達に収穫を手伝ってもらい、半数程を収穫すると香織はまた成長促進の魔法を使った。小さな花はみるみる枯れて、種ができる。それを全て集めて、今日の仕事は終わりだ。

「結局何に使うの?普通の雑草に見えるけど…」
「ふふ。これはね、セッケン草と言って、石鹸の代わりに使えるのよ!今使ってる石鹸よりもずっと良い匂いで、汚れもよく落ちるの。」
「えー、本当?この草が?」
「本当だよ!いい?こうして水に濡らしてしばらく揉むと…」
「わ!アワアワになった!それに良い匂いー。」
「でしょ?これで手を洗えば、ほらこの通り!ピッカピカの良い香りになりました~。」
「「わあー!!」」

初めて見たキメの細かい泡に興味津々の子供達にお土産としてそれぞれに1束ずつセッケン草を持たせると、香織は残りのセッケン草と種をしまって皆と別れた。

試しに少しだけ育ててみるつもりが、随分と大掛かりなことになった。予定より時間がかかってしまったので、夕食の時間に遅れないよう、香織は小走りで家路についた。


ーーーーーーーーー


「畑は使えたかい?」
「はい、村の子供達が手伝ってくれまして。ちょっとだけ耕すつもりが、畑一面使っちゃいました。」
「あはは、じゃあやっぱりダマルさんの畑を丸々使えてよかったね!」
「そうですね。」

夕食を食べながら香織達の会話を聞いていたエリックが首を傾げる。

「カオリ、何か育てるつもりなのかい?商隊はそう遠くないうちにやってくると思うけど…」
「ああ、もう育て終わったんですよ。収穫もできたし、種もたくさん撮れました!」
「もしかして魔法かい?いやあ、本当に便利だね。それにしても、野菜を山ほど持っているカオリが育てた物ってなんなんだい?」
「セッケン草です!」
「セッケン草って、前にカオリがくれたあの草かい?あれは本当に良い物だね!食器も身体も、なんだってピカピカさ!あれを使うと、もう元の石鹸には戻れなくてねえ。カオリがいなくなった後のことを思うと憂鬱だったんだよ。」
「そうだと思って、この村で栽培できないかなって試してみてたんです。」
「なるほどね。それでどうだったんだい?本来はもっと寒い所に生えてる物なんだろう?」
「バッチリです!ちゃんと育ちましたよ。北の方の、少し暖かい地域に生えていたのを試しに植えてみたんですがうまく適応できたみたいですね。子供達に手伝ってもらったおかげで種がたくさん手に入ったので、村の皆さんで分けて各家庭で育てたら良いと思うんですけど。どうでしょう?」
「うむ。良い考えだと思うぞ。…本当にカオリには感謝してもしきれないな。何かワシらにも礼ができれば良いんだが…」
「そんな、気にしないでください。皆さんにはすごくよくしてもらってますし。」
「じゃあ伝説の治癒師の名前でカオリの銅像を立てても良いかい?村の皆で崇め奉ろう!」
「やめてくださいね。」

エリックのぶっ飛んだ提案をなんとか止め、楽しい夕食の時間は終わりを迎えた。
因みに食べ盛りのオリバーとグレイは、常に口に物が詰め込まれているため、普段からあまり食事中の会話はしないのだとか。



その日、多くの家で主婦達の歓喜の声が挙がったのは言うまでもない。


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