世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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白衣の治癒師3

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「こんにちは、治癒師のカオリと言います。ギルドマスターのドルチェさんから出張診療所の許可を頂いたのですが、どこか一角をお借りしてもよろしいですか?」
「はい。ギルマスから話は聞いていますよ。併設されている酒場のテーブルを一台使ってもいいとの事でしたので、ご自由にお使いください。」
「ありがとうございます。」

午前10時。香織達が冒険者ギルドに入ると、アレクシスから聞いていた通り、その場は閑散としていた。受付嬢が暇そうに座っており、酒場には仕事にあぶれた冒険者数人が酒を飲んでいる。男臭いギルドに突然現れた美女に、男達の視線は香織に集中した。
香織はその視線を一切無視し、収納魔法から看板を取り出すとテーブルの横に設置した。

『カオリ出張診療所 
 治療費1回銀貨5枚』

「そんなもの持ってたのかよ。」
「昨日作りました。値段とか書いてあった方が分かりやすいでしょ?」
「まあな。確かに看板もなく座ってるだけじゃただの客だな。」

香織は看板の角度を調整し、椅子に座った。

「アレクシスさんの言う通り、あまり人がいませんね。明日からは午後からにしようかな。」
「そうだな。何もせずただ座っているのは退屈だからな。」
「俺じっと座ってんの苦手なんだよ。飯でも食ってようかなー。」
「さっき遅めの朝飯を食べたばかりだろう。」
「まだまだ食えるぜ。おーい、このきのこのアヒージョってやつくれ!あとパンも。」
「あいよー。」

今の時間は人も少ないので、酒場には店主しかいない。エドワードの注文に緩く返事をし、店主は調理にとりかかった。

「お待たせ。アヒージョだよ。」
「お!美味そうじゃん。この酒場はあたりだな。」
「見ない顔だな、旅の途中か?」
「まあな。」
「ゆっくりしてけよ。ま、こんな辺鄙な街、見るもんなんて何もねーけどよ。」

そう笑うと店主はカウンターの奥に戻っていった。

「ま、山盛りあるからつまみながら客を待とうぜ。」
「そうだな、美味そうな匂いだ。」
「えっと、じゃあ私も。」

ニンニクの良い香りに抗うことができず、香織は仕事開始早々、休憩してしまった。



「暇そうだなあ、姉ちゃん。昼間からつまみ食って良いご身分じゃねえか。」
「酒飲んでるお前に言われたくねーよ。」

(嬢ちゃんじゃなくて姉ちゃんって言われた…!)

酒場の席で一人飲んだくれていた男に絡まれた香織だったが、その不快さよりもちゃんと大人に見られていることへの安堵の方が勝った。

「男二人も侍らせてよお、良いよな女は。男に金払わせて生活できるんだから。」
「別にお金に困っていないので自分で払いますよ。」
「はは、そんな強がったってよお、そんな値段で治療する治癒師なんて実力もたかが知れてんだろお?」
「おいお前、カオリに失礼なことを言うな。彼女の腕は確かだ。善良な治癒師だからこの値段なのだ。」

強面のアレクシスが睨みをきかせながら抗議すると、男は一瞬怯んだがまたヘラヘラと口を開いた。

「…す、すまねえな兄ちゃん。お前のコレだったのか?でも贔屓目は良くねえよ。悪いもんは悪いって言ってやらなきゃ姉ちゃんも成長しねえだろ?」
「だから違うっつーの!」
「まあまあ。そんなにお疑いでしたらどこか治して差し上げましょうか?後払いで結構ですよ。」
「お?そうかい、へへへ。そうだなあ、この右足の古傷が治せたら治療費を払ってやってもいいぜ。まあ無理だろうけどな。この足で俺は冒険者生命を絶たれたんだ。治してくれるなら金貨50枚だって払ってやるぜ。」
「ふうん…膝の靭帯が損傷してますね。じゃあ治しますね。『ハイヒール』」

香織が男の膝に手をかざし魔法を唱えると、男の膝は淡く発光し、しばらくして消えた。

「治りましたよ。」
「なあに言ってんだ…」
「動かしてみてください。どこか変なところはありませんか?」
「…お、おお…?な、治ってる…」

男は足踏みをしたり屈伸したりと、膝の動きを確認した。今まで少し動かしただけでも痛みが走り、グラグラしていた膝が、今はもう何ともなかったかのように動く。男は慌てた様子でズボンの裾をまくり上げて膝の傷跡を確認した。

「傷もねえ…」
「ね?治ったでしょう?はい、治療一回銀貨5枚です。」
「ね、姉ちゃん!!ありがとう、ありがとう!コレで俺はまた戦えるのか!馬鹿にしてすまなかった、銀貨5枚、いや、金貨50枚だって払う!分割になるが!」
「いいえ、銀貨5枚と決まっていますので。」
「あ、ああ…姉ちゃん、あんたは恩人だ。本当にありがとう。」

男は香織の前に跪き、涙を流しながら感謝の言葉を言い続けた。しばらくして気が済んだのか、男は涙を拭き立ち上がった。

「久しぶりに討伐依頼でも受けてみるよ。肩慣らしに弱いやつだけどな。姉ちゃん、この恩は忘れねえ。困った時は声をかけてくれ。こう見えて知り合いは多いんだ。」
「じゃああなたのように古傷で困っている人がいたらここを紹介してください。見ての通り、閑古鳥なので。」
「ははは。姉ちゃんが暇してるのは確かに勿体ねえな。分かった。知り合いに声をかけてみるさ。俺の膝を見れば皆信じるだろ。」
「よろしくお願いします。あまり無理はしないでくださいね。」
「ああ、もう薬草採取専門なんて二度とごめんだからな。」

そう笑い、男はヒラヒラと手を振りながら依頼板に向かっていった。

「薬草採取?」
「怪我をして戦えなくなった冒険者は、薬草採取でわずかばかりの金を稼いで暮らす。読み書きができればギルド職員として雇ってももらえるが、学のないやつの方が多いからな。俺は読み書きができるが利き手が潰れては文字も書けん。あの男の姿は、カオリに出会わなかった未来の俺だ。」
「そうなんですね…」

薬草採取は本来新人の仕事だ。今まで魔物を狩っていたような冒険者が新人の依頼専門に堕ちるなど、彼らにとっては耐えがたい事だろう。しかし冒険者というのは、元々まともな仕事にあぶれた者がなるような職業だ。余程の常識人でない限り、今更他の職につく事はできない。彼らは冒険者としてのプライドを捨てなければ生きることもできないのだ。
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