世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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白衣の治癒師8

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「おお、あの子じゃないか?」

香織がギルドに入ると、昨日と違って酒場には結構な人数がいた。香織はいっせいに男達の視線を集めることになったが、そこに物珍しさや下世話な要素は感じられない。皆期待のこもった眼差しで香織をチラチラと見ていた。

「…?」

香織は不思議に思いながら、昨日と同じ席につき看板を出した。それを見届け、男たちは次々に席を立ち始めた。

「やっぱりそうだぞ!」
「本当なのか?」
「ボブの脚を見ただろ!おれは信じる。」
「お、俺も…」

「…どうやら昨日の薬草採取の冒険者が話を広めたらしいな。」
「ああ、なるほど。」

「姉ちゃん、今日は来ないかと思ったぜ。昼前から待ってたんだ。」
「すみません、客足が悪かったので、午後からやる事にしたんですよ。」
「そうだったのか。いや、気にしないでくれ。俺たちが勝手に待ってただけなんだ。その…ボブから話を聞いて…あいつの脚を治したと…」
「あなたもどこか怪我を?」
「あ、ああ…これだ。手がうまく動かなくなっちまって…」

男が腕をまくって見せたのは、前腕にある大きな傷跡だった。アレクシスの怪我を思い起こさせる。アレクシス本人もその傷跡を見て、ピクリと微かに反応を見せた。

「大丈夫ですよ、今治しますね。『ハイヒール』」

にこりと笑って、香織は魔法を唱えた。暖かい光が男の腕を包み、それが消える頃には傷跡は随分と薄くなっていた。

「う、うごく、動くぞ…!あいつの言っていたことは本当だったんだ…ありがとう、ありがとう姉ちゃん!」
「いいえ。お代は銀貨5枚になります。」
「ああ、ちゃんと用意してきた!受け取ってくれ!」
「ありがとうございます。」

その男をきっかけに、酒場にいた男達が次々と香織の元に駆け寄り、香織は順番に男達を癒してやった。泣き出す者、感謝する者、様々いたが、皆一様に笑顔でギルドを去っていった。酒場に集まっていた男達がいなくなる頃には太陽も傾き、現役の冒険者達が続々と戻ってきていた。

「お、昨日の姉ちゃん。」
「こんにちは。」

昨日の評判が広まったのか、今日は軽い怪我をした冒険者達が次々と香織の元を訪れた。この程度の傷なら、寝ていても癒せる。香織は流れ作業のように次々と傷を癒していった。


ーーーーーーーーー



窓からさす日差しが茜色になった頃、事件は起きた。

「すまねえ!すまねえ!」

そう叫びながら傷だらけの男がギルドに駆け込んできた。香織は状況が掴めずにいたが、他の者はそうではなかった。謝り続ける冒険者の男を見て、受付嬢は即座にギルドマスターを呼びに駆け出した。たまたまギルドにいた上位ランクだと思われる冒険者が声を荒げて傷だらけの男に詰め寄った。

「馬鹿野郎!状況は!?」
「レ、レッドオークの群だ…!あと三人、こっちに向かっているが、多分ここまでは辿りつかない!」
「数は!」
「あ、あいつらの集落に入っちまったんだ…!50、いや、それ以上かも…」
「クソ!」

香織が困惑していると、アレクシスがこの状況を説明してくれた。

「引き連れ帰還だ。」
「??」
「下級冒険者がたまにやる。手に負えない相手を刺激し、そのまま街に逃げ込むんだ。すると魔物は獲物を追って、街を襲撃しにやってくる。」
「レッドオークって…」
「…グレートベアに匹敵する強さを持つ。厄介なのは、奴らは単独行動のグレートベアと違い、群を形成するという点だ。刺激しなければ、奴らは森の奥で静かに暮らしているだけなんだが…あの男、欲をかいて幼体を殺しでもしたか。」
「えっと、街は大丈夫なんですか?」
「…かなり厳しいな。小さな街だ。Cランク以上のパーティーが何組いるか…」
「そんな…」


「お前ら、緊急依頼だ!標的はレッドオーク、数は50位上!現在この街に向かっている。戦える者は武器を取れ!戦わなければ皆死ぬぞ!」
「「おお!」」

ギルドマスターのドルチェが現れ、声を荒げて動揺する冒険者達に発破をかける。男達の呼応に、ギルド内はビリビリと揺れた。ドルチェはアレクシスの姿を見つけると、彼の元に駆け寄った。

「『夜明けの星』はBランクだったな。貴重な戦力だ。協力してくれるか。」
「当たり前だ。カオリ、すまない。護衛はここまでだ。俺は討伐に向かう。それが冒険者の義務だからな。」
「わ、分かりました。気をつけてください。」
「ん?お前、カオリか?あの?」
「え?は、はい。雰囲気変えてるので分からないですよね、あのカオリです。」
「ちょうどよかった!カオリ、頼む、ここで怪我人の治療をしてくれないか?もちろん後でギルドから金は払う!金貨10枚でどうだ?」
「良いですよ。ここじゃなくて門の前で待機しましょうか?」
「いや、それじゃあ危ねえ。確かに門からここまでは距離があるが安全第一だ。」
「私、自分の身は自分で守れるくらいの実力はあります。」
「なに?」
「ギルマス、カオリは単独でグレートベアを瞬殺する。」
「マジかよ…討伐に参加してほしいくらいだ。冒険者じゃねえから頼めねえが…そういう事なら頼む。」
「任せてください。死んでさえいなければ、どんな傷だって治してみせます。」
「はは!頼もしいな。おうお前ら!!治癒師の同行が決まった!とびきり腕の良い治癒師だ!安心して突っ込め!」
「「おおー!」」

「カオリ、実力があるのは知っているが、くれぐれも無理はするなよ。危なくなったらすぐ逃げるんだ。回復支援者の鉄則だ。」
「分かりました。アレクシスさんも無理はしないでくださいね。怪我をしたらすぐに来てください。」
「ああ、分かっている。」

武器を持ち駆け出していく冒険者達を見送り、香織も動き出した。まずは床に転がっている怪我人の治療。香織は泣きながら謝り続ける男に手をかざし傷を癒した。

「うう、すまねえ、すまねえ…!」
「はい、治りましたよ。貴方も討伐に参加したらどうですか?皆行っちゃいましたよ。」
「あ、ああ…!」

男はヨロヨロと立ち上がり、そのまま走って行った。

「ふう…じゃあそろそろ私も行こうかな。ちょっと怖いけど…アイが守ってくれるよね?」
『勿論です。何かあればマスターのお身体、お借りしますね。』
「うん、頼りにしてるよ!私の仕事は怪我を治す事!一人でも多くの人を治そう。」
『頑張ってください。』

香織がギルドを出ると、街中は話を聞いた市民達でざわめき立っていた。しかし大きな混乱は見られない。今まで魔物が襲撃してきても、街を囲む堅牢な壁に阻まれ、街中にまで魔物がやってくることはなかった。その為市民達は、特に慌てる事なく戸締りをし自宅に篭るといった対策をとることができていたのだ。
香織は人の隙間を縫って大通りを駆け出した。
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