83 / 124
シバの村1
しおりを挟む翌朝軽い朝食を済ませると、一同は早々に野営地を発った。
「なるべく早くこの森から離れよう。馬には負担をかけるけど、今日はちょっとスピードをあげよう。そうすれば夜には目的の村に着くかな。」
サイモンの指示で、馬車はいつもより速いスピードで平原を駆け抜けた。途中馬の休憩を挟み、昼も簡単に済ませる。
昨夜の見張りの際、暇だからとせっせと握った具入りおにぎりが早速役立った。調理場を作る必要がなく、おにぎりを配るだけなので、食事の時間は準備も含めて10分ほどで済んでしまった。
出発前に、ミドは馬が飲んでいる水桶にポーションを流し込んだ。
「馬にポーションをあげるんですか?」
「はい。長く走らせると足を痛める事もありますから。疲れも取れますし。常用は馬によくないんですけど、非常時なので。」
「へえ。」
真っ直ぐの道を突き進み、森をもう一つ抜けたところで村が見えてくる。強行のかいもあり、日が沈みきる前に一同は目的地にたどり着くことができた。
「明日の昼に着く予定だったけど、なんとか今日中に着いたね。」
「もう門が閉まってるぞ。」
「今夜は村の前で野営をして明日の朝入ろう。」
日中は慌ただしかった分、夜は手をかけて食事を作りたい。香織は昨日の昼にアレクシスが狩ったホーンラビットを取り出した。
「なに作ろうかなあ…誰か何かリクエストありますか?」
「そうだね…今日は珍しく冷えるから、体が温まるものが食べたいな。」
「ならシチューですかね?分かりました!」
ホーンラビットの肉を大鍋に入れ、焼き目をつける。野菜を入れてホーンラビットから出た脂を絡めたらブイヨンのポーションと水を鍋の半分くらい入れる。具材が柔らかくなったら牛乳と、煮込んでいる間に準備したブールマニエを入れてトロミがつくまで煮込んでいく。
次に厚切りにしたレッドオークのロース肉を取り出し、フライパンで焼いていく。シンプルな塩胡椒、ニンニクたっぷり、醤油で甘辛く。色々な味付けで何枚か焼き、それぞれ大皿に盛れば完成だ。
「ああ~腹が減る匂いだ。カオリ、まだか?」
ニンニクや焦げた醤油の香ばしい匂いが皆の腹を刺激する。香織は最後の肉を皿に乗せると、今にも涎を垂らしそうなエドワードにシチューの入った器を渡した。
「はい、完成です!シチューとステーキ。今日はパンが合うと思います。」
「うまそうだ!」
香織は給食当番のようにシチューを配っていく。初めはセルフサービスにしていたのだが、どうしても取りすぎる者が出てきて平等に行き渡らなかったので、最終的にこのスタイルに落ち着いた。『ビースト』は相変わらず遠慮して鍋に近寄らないので彼らの取り分が少なくなってしまうのだ。
獣人の彼らにも同じ量のシチューを配り、香織は自分の食事を持って『夜明けの星』に合流した。
「冒険者の皆さんは村の中には入れないんでしたっけ。」
「そうだな。」
「食事は村の人からもらえるんですか?」
「いや、この村はそれもないな。あまり裕福な村ではないから…サイモン達をもてなしてギリギリじゃないか?」
「そうなんですか。」
「それにこの村はロドルグの街とトルソンの街の間にあるからな。商人もよく立ち寄るし、だから行商に来てもそこまでありがたみはないんだ。前の村は辺境にあって商人の移動ルートから外れていたから歓迎されたが。」
「へえ、そういうものなんですね。」
「ま、村の奴らにとっちゃ俺たち冒険者なんて皆乱暴者だからな、積極的に関わり合いになんてなりたくねえんだろ。」
「乱暴者なんかじゃないのに…」
「気にすんなよ、これが普通なんだから。それにカオリは村に入れるだろ。遠慮せずにベッドで休めよ。」
「じゃあ、食事だけ作りにきますね。」
「おう!」
ーーーーーーーーー
「おお、クレール商会の皆さん、よくいらっしゃいました。」
「朝早くに申し訳ありません。昨晩門が閉まった後に着いたものですから。」
「いえいえ、とんでもない!また広場をお使いになりますか?」
「はい、お願いします。」
「サイモンさんはいつものように私の家に。あの、その女の子は…」
「ああ。この子もうちの見習いなんですよ。村の中に滞在しても?」
「ええもちろん!こんな小さな子供を冒険者達と野宿させるわけにはいきませんからな。」
「助かります。」
「あ、ありがとうございます。」
サイモン達を出迎えたのは、シバの村の村長と名乗る男だった。彼と数人の役人が手早く香織達の滞在先を決めていく。
「まだ朝も早いですし、露店の準備をしてから滞在させていただける家に伺います。」
「分かりました。家の者にも伝えておきますので。それでは私はこれで。何かあれば村役場に来てください。」
「ありがとうございます。」
王子様風の営業スマイル全開なサイモンは村長達を見送ると、馬を引いて村の広場に向かった。そこで3台の馬車を並べ、馬達は馬屋に連れていく。荷台の側面は大きく開くように出来ていて、そこを開いて店として使うのだ。
「カオリ、薬はできたかい?昨日は慌ただしくて薬草採取もできなかっただろう?」
「はい、予定よりは少ないんですけど、一応これだけ作れました。」
「うん、とりあえず初日はこれで充分だよ。ここには三日滞在する予定だから、なくなりそうならまた作ってくれるかな?薬草採取は外にいるアレク達に頼んでさ。」
「分かりました。」
「あ、勿論、売り上げは君の物だよ!」
「でも場所代とかは…」
「あはは、ないない。質の高い薬を売ればうちの信用も上がるしね。僕から提案したことなんだし。」
「いいんでしょうか…」
「いいのいいの。若いうちは沢山甘えなきゃ。人生損するよ。」
「ふふ、そうですね。じゃあお言葉に甘えて。ありがとうございます。」
「うん!それじゃあここが薬屋コーナーね。一応外から仕入れてきたって事にしておいてね。今の君は本当にまるきり子供だから…」
「確かに、子供が薬師を名乗ってたら怪しくて誰も買いませんね…分かりました。」
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】私は聖女の代用品だったらしい
雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。
元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。
絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。
「俺のものになれ」
突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。
だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも?
捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。
・完結まで予約投稿済みです。
・1日3回更新(7時・12時・18時)
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる