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シバの村9
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毒餌を撒いたその日の夜。香織はベッドの中でマップを広げていた。
「うまくいってるかなあ。」
グリーンウルフを示す赤い点は、夜の訪れと共に活発に動き回っていた。群の拠点となっているであろう森の奥地には、常に30匹程度の赤点が留まっているが、それ以外は餌を求め、森の中を彷徨っていた。
『早く寝なければ明日の活動に支障をきたしますよ。』
「でも気になって…毒に気付いたグリーンウルフが逆上して村を襲ってきたらどうしよう。」
『私が夜通し監視しておきますから。不測の事態が起きたらマスターを起こします。ですから安心してお休みください。』
「う、うん…あ!明日の分のポーション作るの忘れてた!」
『マスターが寝ている間に私が作っておきますから。』
「本当?なんか悪いな…アイを夜通し働かせるなんて…」
『私に睡眠という名の休息は必要ありませんのでお気になさらず。それではお休みなさい。眠れないようでしたら『スリープ』をおかけしましょうか?』
「う、ううん!自分で眠れる、眠れるよ…本当はすごく疲れてたんだ。ずっと走り回ってたから…ふああ。」
『おやすみなさい、マスター。』
「おやすみ、アイ…」
香織は目を閉じると、すぐに夢の世界に入っていった。香織の意識が沈んだのを確認して、アイは宣言通りポーションを作り始めた。
ーーーーーーーーー
翌朝、日の出と共に香織は野営地に向かった。村の中を歩きながらマップを確認すると、群の数は随分と減っている様だった。
「よかった、うまくいったみたい。」
香織はホッと胸を撫で下ろし、野営地に向かって足を進めた。
「おはようございます。」
まだ早朝にも関わらず、野営地では既に防具を身につけたアレクシス達が出撃の準備を整えていた。
「おはよう。森の様子は見たか?」
「はい。だいぶ減ってますね。今残ってるのは30匹くらいでしょうか。」
「ジェイスの見立てと同じだな。それくらいなら俺達だけでも充分殲滅可能だ。今から森に入り、群に突撃するつもりだが、フローラはどうする?」
「私も参加させてください。」
「わかった。今回はパーティー単位で戦闘を行う予定なんだ。フローラはどういう位置付けにしようか…」
「それなら後方支援をさせてください。私が変に加われば皆さんの戦闘の邪魔になるでしょうから。怪我をした場合の治療と、戦闘に加わっていないグリーンウルフを遠くから狙い撃ちします。」
「それが良いな。あと、これを。」
そう言うと、アレクシスは一本の短剣を香織に手渡した。
「短剣…」
「もしもの時のために持っておくと良い。咄嗟のことなら、魔法を唱えるより身体を動かした方が早い場合もある。」
「そうですね。ありがとうございます。」
香織は短剣を受け取ると、ワンピースの上からベルトを巻きそこに引っ掛けた。
「では行くぞ。」
「はい。」
アレクシスの号令で、一同は森の中に入っていった。
「もう直ぐ接触します。」
「ああ。」
香織がマップを見ながら報告する。生き残った30匹のグリーンウルフは、相変わらず森の奥に留まったままだ。
アオオオォーン
森の奥から狼の遠吠えが聞こえる。それに呼応するように、次々と遠吠えが森に響き渡った。
「気付かれたか。」
「じゃあもうコソコソする必要もねえな。突っ込んで良いか?」
「まあ待て。『ビースト』は群の後ろに回って奇襲を仕掛けてくれ。気配を消すのはお前達の方が上手いだろう。」
「わ、分かった…」
マリオはコクンと頷くと、残り2人を連れ茂みの奥に消えていった。
「俺達も行くぞ。」
「おう!」
「フローラは後方で好きに動いてくれて良い。」
「分かりました。」
「危なかったら大声を出せ。すぐに駆けつける。」
「はい。」
「行くぞ!」
アレクシスとエドワードが武器を手に群に突撃していく。まもなくすると戦闘音が香織の耳に届き始めた。
「私はどこに隠れてようかな?」
香織はキョロキョロと辺りを見渡した。身を隠す茂みは多くあるが、この距離だと鼻の効くグリーンウルフが香織の存在に気付く可能性がある。
『木の上に登るのが最適かと。』
「木の上!?」
『カイルを見てください。木の上から前衛組の援護をしています。』
アイがマップに印を付けカイルの居場所を知らせる。香織が印の場所に視線を移すと、確かにカイルは木の上から矢を放っていた。
「すごい。あんなところから攻撃できるんだ。」
『グリーンウルフは木に登れませんから。安全に遠距離攻撃をするのならあれが最適解でしょう。弓使いは魔法使いのように防御魔法は使えませんし、かといって機動性を損なう重い鎧も付けられません。ですのでなるべく敵に見つからないよう、あのように影で攻撃を放つのです。』
「へえ…」
『マスターも木にさえ登れれば、そこが一番良いと思いますよ。』
「うっ…登れるかなあ。」
香織は近くにあった木に触ってみる。木肌はザラザラとしていて、表面には枝が折れた跡のような凹凸がある。木登り経験のない香織でもなんとか登れそうだ。
「よいしょ…」
香織は拙いながらもなんとか木を登っていく。以前の花道香織にはできなかった事だろう。今の身体は、前とは比べ物にならないくらい運動神経が良かった。
「ひえ~高いよ怖いよ…」
香織は太くて安定しそうな枝を選び、そこに座った。手足は木の幹にしがみついたままだ。枝の上で片膝をつき弓を引くカイルとは大違いだ。不格好ではあるが、武器も杖も使わない香織にとって、特に不都合はなかった。
集団戦闘のノウハウのない香織は、闇雲に攻撃する前にまずカイルとジェイスの戦い方を観察してみる事にした。どうやらカイルはエドワードの、ジェイスはアレクシスのサポートをしているようだ。どちらも敵が背後に回らないよう上手くあしらっている。彼等のチームワークは安定しており、香織の助けなど必要としていないようだった。
「だったら戦いに参加してない奥のウルフ達をやっつけちゃおうかな…」
香織はマップを見ながら呟いた。群の中心部分に、一塊になった十数匹の赤点があった。戦闘が始まっても、それらは特に動きを見せていない。香織はマップを頼りにその姿を探した。
「うまくいってるかなあ。」
グリーンウルフを示す赤い点は、夜の訪れと共に活発に動き回っていた。群の拠点となっているであろう森の奥地には、常に30匹程度の赤点が留まっているが、それ以外は餌を求め、森の中を彷徨っていた。
『早く寝なければ明日の活動に支障をきたしますよ。』
「でも気になって…毒に気付いたグリーンウルフが逆上して村を襲ってきたらどうしよう。」
『私が夜通し監視しておきますから。不測の事態が起きたらマスターを起こします。ですから安心してお休みください。』
「う、うん…あ!明日の分のポーション作るの忘れてた!」
『マスターが寝ている間に私が作っておきますから。』
「本当?なんか悪いな…アイを夜通し働かせるなんて…」
『私に睡眠という名の休息は必要ありませんのでお気になさらず。それではお休みなさい。眠れないようでしたら『スリープ』をおかけしましょうか?』
「う、ううん!自分で眠れる、眠れるよ…本当はすごく疲れてたんだ。ずっと走り回ってたから…ふああ。」
『おやすみなさい、マスター。』
「おやすみ、アイ…」
香織は目を閉じると、すぐに夢の世界に入っていった。香織の意識が沈んだのを確認して、アイは宣言通りポーションを作り始めた。
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翌朝、日の出と共に香織は野営地に向かった。村の中を歩きながらマップを確認すると、群の数は随分と減っている様だった。
「よかった、うまくいったみたい。」
香織はホッと胸を撫で下ろし、野営地に向かって足を進めた。
「おはようございます。」
まだ早朝にも関わらず、野営地では既に防具を身につけたアレクシス達が出撃の準備を整えていた。
「おはよう。森の様子は見たか?」
「はい。だいぶ減ってますね。今残ってるのは30匹くらいでしょうか。」
「ジェイスの見立てと同じだな。それくらいなら俺達だけでも充分殲滅可能だ。今から森に入り、群に突撃するつもりだが、フローラはどうする?」
「私も参加させてください。」
「わかった。今回はパーティー単位で戦闘を行う予定なんだ。フローラはどういう位置付けにしようか…」
「それなら後方支援をさせてください。私が変に加われば皆さんの戦闘の邪魔になるでしょうから。怪我をした場合の治療と、戦闘に加わっていないグリーンウルフを遠くから狙い撃ちします。」
「それが良いな。あと、これを。」
そう言うと、アレクシスは一本の短剣を香織に手渡した。
「短剣…」
「もしもの時のために持っておくと良い。咄嗟のことなら、魔法を唱えるより身体を動かした方が早い場合もある。」
「そうですね。ありがとうございます。」
香織は短剣を受け取ると、ワンピースの上からベルトを巻きそこに引っ掛けた。
「では行くぞ。」
「はい。」
アレクシスの号令で、一同は森の中に入っていった。
「もう直ぐ接触します。」
「ああ。」
香織がマップを見ながら報告する。生き残った30匹のグリーンウルフは、相変わらず森の奥に留まったままだ。
アオオオォーン
森の奥から狼の遠吠えが聞こえる。それに呼応するように、次々と遠吠えが森に響き渡った。
「気付かれたか。」
「じゃあもうコソコソする必要もねえな。突っ込んで良いか?」
「まあ待て。『ビースト』は群の後ろに回って奇襲を仕掛けてくれ。気配を消すのはお前達の方が上手いだろう。」
「わ、分かった…」
マリオはコクンと頷くと、残り2人を連れ茂みの奥に消えていった。
「俺達も行くぞ。」
「おう!」
「フローラは後方で好きに動いてくれて良い。」
「分かりました。」
「危なかったら大声を出せ。すぐに駆けつける。」
「はい。」
「行くぞ!」
アレクシスとエドワードが武器を手に群に突撃していく。まもなくすると戦闘音が香織の耳に届き始めた。
「私はどこに隠れてようかな?」
香織はキョロキョロと辺りを見渡した。身を隠す茂みは多くあるが、この距離だと鼻の効くグリーンウルフが香織の存在に気付く可能性がある。
『木の上に登るのが最適かと。』
「木の上!?」
『カイルを見てください。木の上から前衛組の援護をしています。』
アイがマップに印を付けカイルの居場所を知らせる。香織が印の場所に視線を移すと、確かにカイルは木の上から矢を放っていた。
「すごい。あんなところから攻撃できるんだ。」
『グリーンウルフは木に登れませんから。安全に遠距離攻撃をするのならあれが最適解でしょう。弓使いは魔法使いのように防御魔法は使えませんし、かといって機動性を損なう重い鎧も付けられません。ですのでなるべく敵に見つからないよう、あのように影で攻撃を放つのです。』
「へえ…」
『マスターも木にさえ登れれば、そこが一番良いと思いますよ。』
「うっ…登れるかなあ。」
香織は近くにあった木に触ってみる。木肌はザラザラとしていて、表面には枝が折れた跡のような凹凸がある。木登り経験のない香織でもなんとか登れそうだ。
「よいしょ…」
香織は拙いながらもなんとか木を登っていく。以前の花道香織にはできなかった事だろう。今の身体は、前とは比べ物にならないくらい運動神経が良かった。
「ひえ~高いよ怖いよ…」
香織は太くて安定しそうな枝を選び、そこに座った。手足は木の幹にしがみついたままだ。枝の上で片膝をつき弓を引くカイルとは大違いだ。不格好ではあるが、武器も杖も使わない香織にとって、特に不都合はなかった。
集団戦闘のノウハウのない香織は、闇雲に攻撃する前にまずカイルとジェイスの戦い方を観察してみる事にした。どうやらカイルはエドワードの、ジェイスはアレクシスのサポートをしているようだ。どちらも敵が背後に回らないよう上手くあしらっている。彼等のチームワークは安定しており、香織の助けなど必要としていないようだった。
「だったら戦いに参加してない奥のウルフ達をやっつけちゃおうかな…」
香織はマップを見ながら呟いた。群の中心部分に、一塊になった十数匹の赤点があった。戦闘が始まっても、それらは特に動きを見せていない。香織はマップを頼りにその姿を探した。
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