世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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ロドルグの街14

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「わ、別れるつもりは…ないんですが…」
「でも現実的に考えて、旅をしている者同士が細かい約束もせずに合流するのは不可能に近い。それに、君達二人で旅をするとなると、防犯面で不安がある。子供の二人旅なんて、変な奴に目をつけられるに決まってるよ。」
「それは、私が治癒師の時の格好をして…」
「それの方がトラブルになりそうだ。」
「うう…」
「カオリ、君があの子を助け出したからと言って、その後の全ての責任まで負わなくてもいいんだ。ロドルグ領では難しいかもしれないけど、次のディアス侯爵領にまでいけば、彼女を追う者もいなくなるだろう。次の街で、彼女を衛兵に引き渡せばいい。虐待を受けていた子供を助けたってね。」
「…それってその後はどうなるんですか?」
「うーん、事情を聞いた後は、孤児院に引き取られる事が多いね。でもあの子は喋れないし…12歳くらいだと、孤児院の手伝いの側に回ることになる。喋れないなら仕事にも支障が出るだろうから…誰か優しい人が引き取ってくれれば話は簡単なんだけどね。」
「そ、そんな無責任な事、できません。ナナちゃんは今まで辛い目にあってきたんです。折角抜け出せたんだから、良い環境でゆっくり心の傷を癒してほしい…」
「それは僕だってそう思うよ。でも現実は厳しいんだ。あの子が喋れさえすれば、うちで見習いとして雇ってもよかったんだけど…接客業で声が出ないのは致命的だ。」
「だから私の村で…」
「だからそれは無謀だって。」
「…」
「…」

二人とも、お互いの言い分は理解できている。しかしどちらにも譲れないものがあった。香織はナナを安全な地に送り届けると決めていたし、サイモンはサイモンで香織の身の安全が保証されない限り許すつもりはなかった。その後も何度かお互いに説得を試みたが、話は平行線を辿った。決して譲らない姿勢を崩さない香織を前に、先に折れたのはサイモンだった。

「はあ…そもそもカオリは、別行動を取るのに僕の許可は必要ない。僕が君を雇っているわけじゃなく、ただ旅に同行しているだけなんだから。元々はトルソンの街で別れる予定だったし。」
「それは、そうですが…」
「僕が君を引き止めるのは、君が心配だからだ。カオリは成人したといってもまだ15歳だろう?そしてそれまでは小さな村に篭っていた。この世界にどれだけ悪人がいると思う?世間知らずな女の子なんて、悪い男に簡単に食べられてしまう。」
「…はい。」
「僕だけじゃない。アレクやエド、他の奴らだって、皆カオリの事を心配してるんだ。仮に今僕が納得して見せたとしても、アレク達が猛反対すると思うけど。カオリをあの屋敷に残して帰ってきた時のアレクとエドの切れようったらなかったよ。僕自分の護衛に殺されるのかと思ったもん。」
「そ、その節はご迷惑を…」
「はは、まあそれは良いとして、つまり僕達全員を納得させるのは不可能だって事だよ。」
「でも…」
「だけど君は本来は何にも縛られていない。つまり誰がなんと言おうが、君は自分のしたい事をする権利があるんだ。」
「サイモンさん、それって…」
「勘違いしないでほしい。僕は決して賛成したわけじゃない。今だって大反対だよ。でもカオリはこう見えて意志が強いのもこの前の件でよく分かったから…僕達がここで反対し続けたら、夜中に抜け出すくらいの事はするだろう?」
「…まあ、最終手段として考えてはいましたけど…」
「あはは、ほらね。そうなるともう僕達がサポートするのは難しい。それよりは今認めちゃって、カオリが安全に旅ができるように手配した方が良いと思ったんだ。」
「サイモンさん…」
「こっちで馬車を手配するよ。馬車で村まで行くのは難しいけど…こっち側の麓くらいまでなら乗っていけるよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「まあカオリは僕達が思っているよりもずっと強いのかもしれないけど…世の中は強さだけではやっていけない。悪どい手を使えば、弱者が強者に勝つことだってできるんだ。それだけは覚えていてほしいな。」
「はい、肝に銘じます。」
「じゃあ、話はここまで。アレク達の説得は自分でなんとかしてね。」
「は、はい、頑張ります…」
「ナナも待ちくたびれてるかもしれない。早く行ってあげて。」
「はい、ありがとうございます!」

香織はそう言うと、席を立ち一礼して去っていった。扉がパタンと音を立てて閉じ、応接室にはサイモンだけが残された。サイモンは大きな溜息を吐いてソファにもたれかかった。

「はあ…僕はどうしたいんだ?いずれ別れることになるのは分かっているのに…」

サイモンの呟きに応える者はいなかった。


ーーーーーー


「お、お待たせ、ナナちゃん。それじゃあ行こうか。」
「…!」

ナナが待っているという部屋に入るなり、香織はそう切り出した。ナナはベッドに腰掛けていたが、その言葉を聞いてバッと立ち上がった。

(12歳…小学六年生か。こっちの世界ではこれくらいの子が働きに出るのは普通みたいだけど、まだまだ子供なんだ。親に会いたいって思うのは当たり前だよね。)

今まで不安そうに硬直していたナナの表情も、実家に帰れると分かり和らいでいる。しかしこの後更なる絶望に落とされる事を香織は知っていた。いや、ナナも知っているはずなのだ。今朝、香織はナナに家族は既に死んでいると確かに伝えたのだから。彼女の脳がそれを認めるのを拒否しているのか、ナナは今朝の発言を完全になかったものとしていた。今から家族に会えるという期待の表情は、決して偽りの物ではなかった。

この少女を今から絶望に落とすのは自分だ。香織はそう思うと、自身の足が鉛の様に重くなっていくのを自覚した。
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