世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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護衛アル4

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「じゃあガントレットボウガンと、矢も買っていくといい。小型ボウガン用の短い矢は普通の武器屋は扱ってないからな。使ったら、出来るだけ回収しろよ。」
「分かりました。」
「こっちの金属矢の方が持ちが良いぞ。」
「じゃあそれで。」
「魔法使いだったな。収納魔法は持っているか?」
「はい。」
「金は?」
「そこそこ。」
「なら50本くらい買うと良い。」
「はい。」

カイルが口を挟んでこないという事は、押し売りされているわけでもなさそうだと、香織は店主の言う通りに買い物をした。

「うちは防具も揃ってるが、どうする?」
「防具ですか…」

防具の知識も弓同様、皆無に等しい。香織はチラリとカイルの顔を見上げた。カイルは香織の意を汲み取り、前に出た。

「ここで揃えていくといい。フローラのサイズに合うのがあればだが…」
「うちのはベルトで調節するタイプだからな、なんせ俺がサイズで困った口だ。奥から着れそうなものを見繕ってくる。」
「ありがとうございます。」

店主がカウンターの奥に消え、カイルと二人きりになったところで香織が口を開いた。

「防具って、アレクシスさん達みたいな金属の鎧とかでしょうか…?私体力ないのであまり重くないと良いんですけど…」
「ははっ。あれは前衛用の装備だ。俺の装備を見た事あるだろう?攻撃を受けないのが基本の後衛は、魔物の革を使った防具が一般的だ。それにこの店はアーチャーショップ。弓使いの身軽さを損なうような重い防具はないさ。」
「そうなんですね。」
「最低限の防具で急所だけ守って、後は敵に狙われないように立ち回るのが基本だからな。」
「へえ~。」

「待たせたな。」

店の奥から顔を出した店主が持ってきたのは、先程カイルが言った通り、革の防具だった。

「胸当て、グローブ、後は脛当てだな。マントは持ってるか?」
「はい、普通のやつですけど。」
「充分だ。グローブは…ガントレットがあるからいらないか。ボウガンだと胸当ては本来必要ないんだが、まあ防具として使っても良いだろう。一応急所を守っている。とりあえずこの胸当てを付けてみてくれ。後ろのベルトで調節できるようになってる。」
「分かりました。」

店主が手渡した胸当ては、弓道の胸当てのような形をしており、柔らかい革でできていた。一見すると防御力のなさそうな装備だったが、ワニ革のようなそれは防御力に定評のあるブラックサラマンダーの革で出来ている。そこらにいる魔物の爪では、傷一つつける事はできないであろう。
香織はそれを手に取り、自分の胸に当てた。それを見ていたカイルが、何かを思い出したように声をあげた。

「あ。」
「どうしたんですか?」
「フローラ、お前はその…あれだろう?その…サイズが、本来は違うんじゃないか?」
「あ。わ、忘れてました。」
「なんだ?どうした。」
「えっと…あの…」

香織は今は12歳の子供の振りをしている。そのために、彼女の豊満な胸部はサラシできつく潰されているのだ。この状態でサイズ調整を行えば、サラシを取ったら付けられなくなる可能性が高い。その事を今更思い出した香織は、しかし男性である店主に正直に胸を潰していると伝えることができないでいた。

「あの、そのー。」
「なんだ?問題があるなら言ってくれ。一度締めちまうと、自分で直すのは難しいぞ。」
「えっと、私、今胸をですね…こう、潰してまして…」
「…なるほど。ちょっと待ってな。」

香織の発言に特に気まずくなるでもなく、店主は再び店の奥に消えていった。階段を登る音がしたので、おそらく二階の居住スペースに移動したのだろう。香織は胸当てを手に持ったまま、店主の帰りを待った。しばらくすると、店主がひょこりと顔を出した。

「お嬢さん、二階に上がってきな。うちの女房が見てくれるってよ。」
「良いんですか?」
「ああ。おっと、野郎は一階で待ってな。勿論俺もだが。」

店主に促され、香織は一人階段を上っていく。手すりもない急な階段を慎重に登った先は、こじんまりとした住居スペースがあった。二人がけのソファーとローテーブルが置かれたリビングスペースに、奥にはキッチンとダイニングテーブルが見える。階段を上り切った香織を待っていたのは、店主と同世代の優しそうな女性だった。

「いらっしゃい。防具の調整だって?」
「は、はい。あの、すみません。お手数おかけします。」
「良いのよ。あなたくらいの年頃じゃあおじさんに触られるのは嫌よね。えっと、今は胸を潰してるんだっけ?今後も戦闘中は胸を潰すんならこのままサイズを合わせても良いんだけど…」
「あ、これはもうしばらくしたら解くつもりなので、元の大きさで合わせて欲しいです。」
「分かったわ。それじゃあ胸を元の大きさに戻して。」
「はい。」

ここには女性しかいない。香織は遠慮なくワンピースを脱いでキャミソール姿になり、サラシを解いた。自由になった胸がたゆんと揺れる。

「あら。大きいのね。確かにさっきのままサイズ調整していたらキツかったわ。じゃあその上にワンピースをきて…そうそう、はい、失礼するわね。」

店主の妻はそう言うと香織に胸当てを着けた。後ろに周り、調節用のベルトを閉めていく。

「うちの人は冒険者にしては小柄でしょう?だから現役時代はよくぴったりの防具がないって嘆いていてね…それで私が既製の防具にこうやってベルトを付けて、調節できるようにしていたのよ。」
「そうなんですね。私からしたら充分長身でしたけど。」
「そうね。貴方も小柄だからこの先苦労するわよ。自分で手を加えられるだけの技量を今のうちから身につけておくと良いかもしれないわね。」
「そうですね。この防具を参考に、がんばってみます!」
「ふふ。このベルト付き防具の良いところはね、成長してサイズが変わっても買い換えなくて良いところにあるの。あなた若いから、きっとまだまだ成長するわよ。」

おしゃべりをしながらも、彼女の手は忙しなく動き続けている。手際良く胸当てのベルトを閉め、ついでにと脛当てのサイズ調整もされた。

「はい、できたわ。似合ってるわよ。」
「ありがとうございます!」

防具を脱ぎ、再びサラシで胸を潰す。店主の妻にもう一度礼を言って、香織はサイズ調整の終わった防具を手に一階に降りた。

「お待たせしました。」
「サイズは大丈夫だったか?」
「はい。ありがとうございます。」

ボウガンと一緒に防具も全て購入し、香織はカイルと店を後にした。
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