123 / 124
護衛アル10
しおりを挟む
「でもおねえちゃん…」
「ナナ、お前が自分で行くって決めないと、大人が勝手にお前を孤児院に入れるぞ。」
「行く。おねえちゃんの村に、行く!」
「分かった。じゃあ俺が責任持って村まで守ってやる。」
「うん…」
「ナナちゃん、ありがとう。ちゃんとナナちゃんが慣れるまで、一緒にいるから。」
「うん…」
アルの参戦で、話し合いは無事終わった。その結果はサイモンの思うところではなかったため複雑な心境ではあったが、子供を連れて旅を続けると香織が言い出さなかっただけ良かったと、自分に言い聞かせた。サイモンは無理やり気持ちを切り替え、笑顔で口を開いた。
「よし、話はまとまったね。じゃあ予定通り馬車を手配するよ。いつ出発する?」
「ありがとうございます。そうですね…明日か明後日はどうですか?」
「一応馬車は確保してあるから、明日にでも。」
「じゃあ明日にお願いします。」
「了解。ラダ山脈の麓までで良い?」
「あ、それは…」
「トルソンの街までで良い。」
「アル。君がいれば確かに安心だけど…足がないんじゃ困るだろう?特に小さい子を連れての旅なんだから…」
「問題ない。村の掟で詳しくは言えないが、安全に村まで行くルートがあるんだ。それを使えば、馬車より早く着くはずだ。」
「ふうん…」
サイモンは少し考え込む素振りを見せた。馬車より早く、安全に。地下道か、それとも転移魔法か。名もない辺境の村がそのような技術を持っているなど、普通なら笑い話として流されるところだ。
香織の規格外の魔法技術を見るに、彼女の故郷は普通の村ではないのだろう。香織に秘密が多いことは分かっている。きっとそれは村の秘密に繋がるのではないか。そう考えると、アルの話も信憑性を増してくる。サイモンは元々は合理主義者だ。自分の提案を断られたからと言って機嫌を悪くしたりもしない。良い方法があるのなら、そちらを利用したほうがいいに決まっている。
「詳しくは聞かない。馬車より安全な移動手段があるというのなら、それを使うにこしたことはない。」
「じゃあ、そういうことで頼む。」
「わかったよ。」
そう言うとサイモンは商会の店員に馬車の手配を頼むため、ダイニングを後にした。
「ふう、なんとか決まって良かったよ。旅の準備をしないとね。」
「そうだな。」
ミドとファールも席を立ち、ダイニングに残ったのは香織達だけだった。冒険者組は人見知りのナナに気を使い、二階から降りてこない。このままここにいて彼らに不自由な思いをさせるのは悪いと、香織はナナとアルを連れ自室に戻った。
三人で過ごすには些か狭い室内で、香織とナナはベッドに、アルはライティングデスクの椅子に腰掛けた。
「何が必要かな。トルソンの街まで行けば、後はすぐだよね?」
「とりあえず食糧。あとでかいテントは必要だな。カオリのは一人用だろ?」
「そうだね。それとナナちゃんの服も買わなきゃ。」
「あと村の手土産でもあれば喜ばれるかもな。あそこは他の街とほとんど交流がないみたいだから。」
「じゃあ自分では作れない様なもの…服…ううん、布とかいいかな?」
日本人の感覚で考えると衣服が良いかと思った香織だったが、この世界の人々は布を買う事が多い。自分のサイズに合った服を家庭で作る方が安く済むのだ。今から向かう村に何歳くらいの子供がいるのかも分からない現状では、服そのものよりその材料を買っていく方が喜ばれるだろう。いざとなれば香織が魔法で服を作ることもできる。
「じゃ、それで決まりだな。買いに行くか。もう今日しか時間ねえし。」
「そうだね。行こうか、ナナちゃん。」
「う、うん…」
自分から村に行くと宣言して以降、ナナは明らかに気落ちしていた。自分を保護してくれた存在と離れると言うことは、親の記憶をなくした幼子にとっては、親元を離れる事と同義だった。その心情を香織も理解できない訳ではなかったが、それでもこの計画を中止する気はなかった。あまりこちらに依存されても困るのだ。なんせ香織には人に言えない秘密が多すぎる。
「ナナちゃん、元気出して。ナナちゃんもきっと私達の村を気にいると思うから。」
(行った事ないんだけどね…ごめん、ナナちゃん。)
そう、サイモン達に自分の故郷だと豪語したは良いが、香織はその村とも言えない集落に、一度も行った事がなかった。アイから話を聞いただけでは、どんな所なのかイメージすらわかない。そんなわけの分からない所にナナを置いていくことに若干の罪悪感を感じながらも、アイの言葉通りなら絶対に気にいる筈だと、香織は自分自身に言い聞かせた。
(良い所…なんだよね?)
『はい。隣街の孤児院より、余程余裕のある生活をしています。野菜を育てる畑があり、肉はラダ山脈の魔物を狩っています。少なくとも食事の心配はいりません。受け入れている子供の特性上閉鎖的ではありますが、一度受け入れられれば家族として過ごす事ができるでしょう。』
(そっか…よかった。幸せになれるよね?)
『それは彼女しだいですが、集落に住む子供達は皆幸せそうにしいます。』
アイのフォローで罪悪感も薄れてきた所で、香織達は買い物に出かけることにした。
「よし、じゃあまずはナナちゃんの服を買いに行こうか。可愛いワンピースを買ってあげるよ。」
「ほんとう!?」
「ナナちゃんは何色が好き?どんな服が良いかな。」
「えーっとえっとね…」
記憶をなくしていても7歳の女の子だ。可愛いワンピースというフレーズで、大分機嫌が良くなったナナは、香織と手を繋いで商会の寮を後にした。
「ナナ、お前が自分で行くって決めないと、大人が勝手にお前を孤児院に入れるぞ。」
「行く。おねえちゃんの村に、行く!」
「分かった。じゃあ俺が責任持って村まで守ってやる。」
「うん…」
「ナナちゃん、ありがとう。ちゃんとナナちゃんが慣れるまで、一緒にいるから。」
「うん…」
アルの参戦で、話し合いは無事終わった。その結果はサイモンの思うところではなかったため複雑な心境ではあったが、子供を連れて旅を続けると香織が言い出さなかっただけ良かったと、自分に言い聞かせた。サイモンは無理やり気持ちを切り替え、笑顔で口を開いた。
「よし、話はまとまったね。じゃあ予定通り馬車を手配するよ。いつ出発する?」
「ありがとうございます。そうですね…明日か明後日はどうですか?」
「一応馬車は確保してあるから、明日にでも。」
「じゃあ明日にお願いします。」
「了解。ラダ山脈の麓までで良い?」
「あ、それは…」
「トルソンの街までで良い。」
「アル。君がいれば確かに安心だけど…足がないんじゃ困るだろう?特に小さい子を連れての旅なんだから…」
「問題ない。村の掟で詳しくは言えないが、安全に村まで行くルートがあるんだ。それを使えば、馬車より早く着くはずだ。」
「ふうん…」
サイモンは少し考え込む素振りを見せた。馬車より早く、安全に。地下道か、それとも転移魔法か。名もない辺境の村がそのような技術を持っているなど、普通なら笑い話として流されるところだ。
香織の規格外の魔法技術を見るに、彼女の故郷は普通の村ではないのだろう。香織に秘密が多いことは分かっている。きっとそれは村の秘密に繋がるのではないか。そう考えると、アルの話も信憑性を増してくる。サイモンは元々は合理主義者だ。自分の提案を断られたからと言って機嫌を悪くしたりもしない。良い方法があるのなら、そちらを利用したほうがいいに決まっている。
「詳しくは聞かない。馬車より安全な移動手段があるというのなら、それを使うにこしたことはない。」
「じゃあ、そういうことで頼む。」
「わかったよ。」
そう言うとサイモンは商会の店員に馬車の手配を頼むため、ダイニングを後にした。
「ふう、なんとか決まって良かったよ。旅の準備をしないとね。」
「そうだな。」
ミドとファールも席を立ち、ダイニングに残ったのは香織達だけだった。冒険者組は人見知りのナナに気を使い、二階から降りてこない。このままここにいて彼らに不自由な思いをさせるのは悪いと、香織はナナとアルを連れ自室に戻った。
三人で過ごすには些か狭い室内で、香織とナナはベッドに、アルはライティングデスクの椅子に腰掛けた。
「何が必要かな。トルソンの街まで行けば、後はすぐだよね?」
「とりあえず食糧。あとでかいテントは必要だな。カオリのは一人用だろ?」
「そうだね。それとナナちゃんの服も買わなきゃ。」
「あと村の手土産でもあれば喜ばれるかもな。あそこは他の街とほとんど交流がないみたいだから。」
「じゃあ自分では作れない様なもの…服…ううん、布とかいいかな?」
日本人の感覚で考えると衣服が良いかと思った香織だったが、この世界の人々は布を買う事が多い。自分のサイズに合った服を家庭で作る方が安く済むのだ。今から向かう村に何歳くらいの子供がいるのかも分からない現状では、服そのものよりその材料を買っていく方が喜ばれるだろう。いざとなれば香織が魔法で服を作ることもできる。
「じゃ、それで決まりだな。買いに行くか。もう今日しか時間ねえし。」
「そうだね。行こうか、ナナちゃん。」
「う、うん…」
自分から村に行くと宣言して以降、ナナは明らかに気落ちしていた。自分を保護してくれた存在と離れると言うことは、親の記憶をなくした幼子にとっては、親元を離れる事と同義だった。その心情を香織も理解できない訳ではなかったが、それでもこの計画を中止する気はなかった。あまりこちらに依存されても困るのだ。なんせ香織には人に言えない秘密が多すぎる。
「ナナちゃん、元気出して。ナナちゃんもきっと私達の村を気にいると思うから。」
(行った事ないんだけどね…ごめん、ナナちゃん。)
そう、サイモン達に自分の故郷だと豪語したは良いが、香織はその村とも言えない集落に、一度も行った事がなかった。アイから話を聞いただけでは、どんな所なのかイメージすらわかない。そんなわけの分からない所にナナを置いていくことに若干の罪悪感を感じながらも、アイの言葉通りなら絶対に気にいる筈だと、香織は自分自身に言い聞かせた。
(良い所…なんだよね?)
『はい。隣街の孤児院より、余程余裕のある生活をしています。野菜を育てる畑があり、肉はラダ山脈の魔物を狩っています。少なくとも食事の心配はいりません。受け入れている子供の特性上閉鎖的ではありますが、一度受け入れられれば家族として過ごす事ができるでしょう。』
(そっか…よかった。幸せになれるよね?)
『それは彼女しだいですが、集落に住む子供達は皆幸せそうにしいます。』
アイのフォローで罪悪感も薄れてきた所で、香織達は買い物に出かけることにした。
「よし、じゃあまずはナナちゃんの服を買いに行こうか。可愛いワンピースを買ってあげるよ。」
「ほんとう!?」
「ナナちゃんは何色が好き?どんな服が良いかな。」
「えーっとえっとね…」
記憶をなくしていても7歳の女の子だ。可愛いワンピースというフレーズで、大分機嫌が良くなったナナは、香織と手を繋いで商会の寮を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる