世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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護衛アル10

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「でもおねえちゃん…」
「ナナ、お前が自分で行くって決めないと、大人が勝手にお前を孤児院に入れるぞ。」
「行く。おねえちゃんの村に、行く!」
「分かった。じゃあ俺が責任持って村まで守ってやる。」
「うん…」
「ナナちゃん、ありがとう。ちゃんとナナちゃんが慣れるまで、一緒にいるから。」
「うん…」

アルの参戦で、話し合いは無事終わった。その結果はサイモンの思うところではなかったため複雑な心境ではあったが、子供を連れて旅を続けると香織が言い出さなかっただけ良かったと、自分に言い聞かせた。サイモンは無理やり気持ちを切り替え、笑顔で口を開いた。

「よし、話はまとまったね。じゃあ予定通り馬車を手配するよ。いつ出発する?」
「ありがとうございます。そうですね…明日か明後日はどうですか?」
「一応馬車は確保してあるから、明日にでも。」
「じゃあ明日にお願いします。」
「了解。ラダ山脈の麓までで良い?」
「あ、それは…」
「トルソンの街までで良い。」
「アル。君がいれば確かに安心だけど…足がないんじゃ困るだろう?特に小さい子を連れての旅なんだから…」
「問題ない。村の掟で詳しくは言えないが、安全に村まで行くルートがあるんだ。それを使えば、馬車より早く着くはずだ。」
「ふうん…」

サイモンは少し考え込む素振りを見せた。馬車より早く、安全に。地下道か、それとも転移魔法か。名もない辺境の村がそのような技術を持っているなど、普通なら笑い話として流されるところだ。
香織の規格外の魔法技術を見るに、彼女の故郷は普通の村ではないのだろう。香織に秘密が多いことは分かっている。きっとそれは村の秘密に繋がるのではないか。そう考えると、アルの話も信憑性を増してくる。サイモンは元々は合理主義者だ。自分の提案を断られたからと言って機嫌を悪くしたりもしない。良い方法があるのなら、そちらを利用したほうがいいに決まっている。

「詳しくは聞かない。馬車より安全な移動手段があるというのなら、それを使うにこしたことはない。」
「じゃあ、そういうことで頼む。」
「わかったよ。」

そう言うとサイモンは商会の店員に馬車の手配を頼むため、ダイニングを後にした。

「ふう、なんとか決まって良かったよ。旅の準備をしないとね。」
「そうだな。」

ミドとファールも席を立ち、ダイニングに残ったのは香織達だけだった。冒険者組は人見知りのナナに気を使い、二階から降りてこない。このままここにいて彼らに不自由な思いをさせるのは悪いと、香織はナナとアルを連れ自室に戻った。
三人で過ごすには些か狭い室内で、香織とナナはベッドに、アルはライティングデスクの椅子に腰掛けた。

「何が必要かな。トルソンの街まで行けば、後はすぐだよね?」
「とりあえず食糧。あとでかいテントは必要だな。カオリのは一人用だろ?」
「そうだね。それとナナちゃんの服も買わなきゃ。」
「あと村の手土産でもあれば喜ばれるかもな。あそこは他の街とほとんど交流がないみたいだから。」
「じゃあ自分では作れない様なもの…服…ううん、布とかいいかな?」

日本人の感覚で考えると衣服が良いかと思った香織だったが、この世界の人々は布を買う事が多い。自分のサイズに合った服を家庭で作る方が安く済むのだ。今から向かう村に何歳くらいの子供がいるのかも分からない現状では、服そのものよりその材料を買っていく方が喜ばれるだろう。いざとなれば香織が魔法で服を作ることもできる。

「じゃ、それで決まりだな。買いに行くか。もう今日しか時間ねえし。」
「そうだね。行こうか、ナナちゃん。」
「う、うん…」

自分から村に行くと宣言して以降、ナナは明らかに気落ちしていた。自分を保護してくれた存在と離れると言うことは、親の記憶をなくした幼子にとっては、親元を離れる事と同義だった。その心情を香織も理解できない訳ではなかったが、それでもこの計画を中止する気はなかった。あまりこちらに依存されても困るのだ。なんせ香織には人に言えない秘密が多すぎる。

「ナナちゃん、元気出して。ナナちゃんもきっと私達の村を気にいると思うから。」

(行った事ないんだけどね…ごめん、ナナちゃん。)

そう、サイモン達に自分の故郷だと豪語したは良いが、香織はその村とも言えない集落に、一度も行った事がなかった。アイから話を聞いただけでは、どんな所なのかイメージすらわかない。そんなわけの分からない所にナナを置いていくことに若干の罪悪感を感じながらも、アイの言葉通りなら絶対に気にいる筈だと、香織は自分自身に言い聞かせた。

(良い所…なんだよね?)
『はい。隣街の孤児院より、余程余裕のある生活をしています。野菜を育てる畑があり、肉はラダ山脈の魔物を狩っています。少なくとも食事の心配はいりません。受け入れている子供の特性上閉鎖的ではありますが、一度受け入れられれば家族として過ごす事ができるでしょう。』
(そっか…よかった。幸せになれるよね?)
『それは彼女しだいですが、集落に住む子供達は皆幸せそうにしいます。』

アイのフォローで罪悪感も薄れてきた所で、香織達は買い物に出かけることにした。

「よし、じゃあまずはナナちゃんの服を買いに行こうか。可愛いワンピースを買ってあげるよ。」
「ほんとう!?」
「ナナちゃんは何色が好き?どんな服が良いかな。」
「えーっとえっとね…」

記憶をなくしていても7歳の女の子だ。可愛いワンピースというフレーズで、大分機嫌が良くなったナナは、香織と手を繋いで商会の寮を後にした。
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