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護衛がつきます4

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「遅かったな。」
「ごめんなさい。」
「どこまで行っていた。」
「厨房まで。」
「料理人か。」
「うん。」
「何か収穫はあったのか?」
「私が魔法を使えないのは私がまだ幼女だからかもしれない事と、オネエの精神攻撃は魔法よりすごいって事。」
「楽しかったようだな。」
「うん!」

私はご機嫌でレオの膝によじ登った。レオの膝に座るのも慣れたものよ。私はすぐにベスポジを見つけると、レオの硬いお腹に寄り掛かった。
遠出したから疲れたな。どれどれ、昼食の時間まで少しお昼寝でもするか。

「リナ様。」

うとうとしている私を起こすようにサムエルが声をかけた。

「…なあに?」
「少しは歩かれましたか?人間の生態を少し調べましたが、健康を保つためにはバランスの良い食事と適度な運動が必要なようですね。」
「そうだねー。」
「それで、歩かれましたか?厨房までは距離がありましたから、ご自分で歩かれたのであればさぞかし疲れたことでしょう。」
「…抱っこしてもらってました。」

そうだよね、少し前までは当たり前のように歩いていた筈なのに、気がついたら全然自分で歩いてないや。確かに子供ってすぐ退化しちゃうし、このままだと筋力が落ちて本当に歩けなくなるかも。

「ミーア、あなたもあまり甘やかさず歩かせてください。」
「はい、申し訳ありませんでした。」
「ごめんなさい。」

しゅんとする私の頭頂部を見ながらレオが口を開いた。

「健康を害するとどうなるんだ。」
「体力がなくなり、病気に罹りやすくなったりします。」
「病気に罹るとどうなるんだ。」
「発熱、倦怠感、食欲減退などの症状が出て、最悪の場合死に至ります。」
「ふむ…」

ちょと待って。この言い方だと、まるでレオは今まで病気に罹った事がないみたいじゃない。

「レオは病気した事ないの?」
「魔族は病気になど罹らん。」
「良いなあ。」
「お前はあるのか。」
「うん。風邪くらいしかないけど…熱が出て、でも誰も看病してくれる人がいなかったから自分でご飯準備したり…大変だった。」
「ふむ…リナ、今から俺以外の者に抱きかかえられることを禁じる。自分で歩け。」
「はーい。」

ま、そりゃそうなるか。私は素直に頷いた。

「サムエル、大陸一の医者を呼び寄せ城に住まわせろ。」
「かしこまりました。」

いや、そこまでしてもらわなくてもいいんだけど。だってまだ風邪すら引いてないし。一日全裸だった日もあるのにまだ一度も体調を崩してない。この身体頑丈じゃない?勇者だからなの?今度ケンジさんに風邪引いたことあるか聞いてみよう。

それより今のやりとりですっかり目が覚めてしまった。昼まで暇だな。レオの仕事の邪魔するのも悪いし、大人しくしてなきゃ…ぐう。


ーーーーーーーーー


「…ナ、リナ。起きろ。」
「むにゃ…」
「餌の時間だぞ、起きろ。」
「ふぁい…」

寝ちゃった。目が覚めたとか言ってすぐ寝ちゃったよ。子供ってこんなに寝るものなの?それともこの身体がロングスリーパーなだけ?
お腹に手を当ててみると、キュルルと鳴った。こんなに寝てばかりでも、腹は減る。

「お待たせいたしました。」

ミーアが持ってきてくれたご飯は、今までとは違っていた。小さく切られた野菜がたっぷり入ったミネストローネに、千切りキャベツのミニサラダ。ドレッシングはすり下ろし人参?大皿にはハンバーグ、エビフライ、チキンライス。そして丸いチキンライスの頂上には、手作りの小さな旗。
お子さまランチ。まごう事なきお子さまランチ。子供の憧れ、お子さまランチ!すごく嬉しい。子供の頃は貧乏だったから、お子さまランチなんて頼めなかった。大人になったら自分のバイト代でお子さまランチくらい買えたんだけど、大の大人が頼むの恥ずかしいし、年齢制限ある所が多いんだよね。だから憧れでも一度も食べた事がなかった。それが今、目の前に!まさか異世界でお目にかかれるとは。ケンジさんありがとう!

「わあい、いただきます!」

量も子供向けだったので、私はペロリと完食した。お皿に残った旗を拾い上げて眺めてみる。黒い背景に、赤い星が3つ並んでいるシンプルなデザインだ。

「これ何の旗?」
「大魔王国の国旗ですよ。」
「え、このシンプルなのが?獅子とかドラゴンとかじゃないの?」
「人間の国はそのようなものが多いですね。そもそも人間の文化ですから。人間の国とやり取りするのに国旗があった方が格好がつくという事で、先代の魔王様が1分で考えたデザインです。」
「おおう…」

レオにも国旗作れって言ったらこんな感じの作りそう。先代も似たような人だったのかな?

「それよりデザートがございますがいかがなさいますか?」
「食べるー。」

ミーアが持ってきてくれたのはプチケーキの盛り合わせ。ショートケーキ、モンブラン、フルーツタルト、等々。一つ一つは小さいけど、こうも集まればすごい量だ。子供のデザートってレベルじゃない。それにこのクオリティ…ケンジさん、さてはこれ、レオの為に作ったな。

「レオ、食べきれないから一緒に食べよう?」
「仕方ないな。」

レオは執務机から私の座るソファに移動した。私はレオの膝によじ登り、小さくかじったケーキをレオの口に丸ごと放り込んだ。

「美味しい?」
「甘いな。」

素っ気ない返事だけど、差し出したケーキは全部食べてくれたところを見るに、レオも食事を楽しんでるんじゃないかな。

「はい、最後の一個。フルーツタルト。」

タルト生地が硬くてフォークが上手く刺さらない。でも手で持って食べさせるのはお行儀が悪い気がしたので、フルーツとカスタード部分にフォークを刺しそーっとレオの口元に運ぶ。

ぽと

「あ。」

いや少し考えればわかるよね、落ちるよねそりゃ。思考回路も幼女化してしまったのか私は。重力に従いまっすぐに落ちた愛しのフルーツタルトは、レオの上等な黒い服を鮮やかに彩った。

「ご、ごめんなさい…」

魔王の服を汚すなんて…なんたる不敬。捨てられてもおかしくない所業。私は慌ててナプキンでグシャグシャになってしまったタルトを取り除いた。でもカスタードは取りきれなくて白い染みと甘い匂いが残ってしまった。涙目でゴシゴシ擦ろうとした私をレオの大きな手が止めた。

「これくらい問題ない。」

レオがパチンと指を鳴らせば、レオの服は時間が巻き戻ったかのようにあっという間に綺麗になった。

「すごい…それも魔法?」
「そうだ。だから気にするな。」
「うん…」

私は安心してレオにギュッと抱きついた。レオはガシガシと頭を撫でてくれる。頭はボサボサになったけど、やっぱりレオの手は暖かくて落ち着く。
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