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5歳

レイモンド3

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「今日は昨日兄様が言っていた研究者の書いた本が読みたいの!」
「ぼくも今日はそれを読もうと思って探しておいたんだ。研究者の名前はカスパー=サリード。著書は『魔法属性について』の一冊だね。」

翌日、幾分か表情が和らいだレイモンドと共にローゼリアは魔法の勉強を再開した。

「サリードによると認知されていない属性は3つ。空間、雷、そして…氷。」
「兄様は氷っぽいね!」
「はは、簡単に言うね。」
「でも、今までも雷魔法とか氷魔法とかあるんだよね?」
「よく覚えてたね。雷魔法は風属性の、氷魔法は水属性の上位魔法だね。この本によると、それらは真の属性の模倣に過ぎず威力も低い、だって。」
「どう違うの?」
「氷属性で言うと、氷魔法は単に水魔法で出した水の温度を下げて凍らせているだけだけど、氷属性の魔法は分子に直接働きかける事で温度を下げ、結果としてものが凍るんだって。水に限らず、様々な物体に影響を及ぼす事ができるらしいよ。何だか難しい話だね、大丈夫?」
「うーん、よく分からないけど、兄様の周りの空気が冷えてるんだからやっぱり兄様は氷属性なんじゃない?」
「そうだね、まあそもそもそんな属性が存在すれば、の話だけどね。サリードはこの本を書いた事で猛烈な批判を受けて研究の世界から姿を消したらしいよ。」
「じゃあ会ってお話を聞くこともできないのね。」

ローゼリアは内心驚いていた。この時代に、ここまで詳細に全ての属性を把握しているとは。余程の天才か変態か、或いは前世の記憶持ちか…。
世の中とは大きな変化を受け付けないものである。この星が球体であるという説も、世界は太陽を中心に回っているという説も、唱えられた当初は異質なものとして否定された。この様な大きな発見は、後世にやっと認められるものなのだ。カスパー=サリードもまた、真理に触れ追放された。新しきを排するこの風潮が文明を停滞させ、神々に飽きられたのだ。

「ねえ、汎用型なら全ての属性の魔法が使えるんだよね?どうして今まで発見されなかったのかな。」
「それがこの3つの属性に関しては発動する条件が厳しいらしくて、特化型にしか使えないらしいんだ。そのせいで今まで発見されなかったんだって。」
「その属性の魔力がある人は、魔力なしって言われちゃうんだもんね。」
「掘り下げて読んでみると、本当にあるような気がしてくるね、この3属性。」
「やってみようよ!」
「え?」
「兄様に氷属性の魔力があるなら、きっとできるよ!なんか凍らせてみようよー!」
「ははは、無茶を言うね。でも…ちょっと練習してみようかな。前例がないから手探りだけど、やってみるよ。でも今はローゼリアの勉強の時間だから、後でね。」
「えー!じゃあ、できたら教えてね!私、兄様は絶対に氷属性だと思うもの!」
「魔法の練習なんて久しぶりだな。まあ頑張ってみるよ。」


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「きっかけは作りましたわよ。あとは本人の努力次第ですけれど、独自に氷属性魔法を会得するのも時間の問題かと思いますわ。彼は色々な事をよく勉強してますもの。感覚を掴むのも早いのではないかしら。」
「そうか…彼奴の眼から希望の光が消えた時、私達は何もしてやる事が出来なかった。ありがとう。ありがとう、ローゼリア。やはり君は女神様なのだな。」
「いやですわ、こんな簡単な事、蟻に餌をやるようなものですわよ。レイモンド兄様と仲良くなれたんですもの、こちらも得るものがありましたわ。才能開花ゲームは2日で終わってしまいましたけれど、素直な子で良かったですわ。
そうそう、あなたも氷属性魔法、練習してみては如何かしら?室温を下げるだけなら今も無意識にしているわけですし、意識してやってみたら意外と上手くいくかもしれませんわよ?そうすれば夏場は魔道具要らずですわね。」

この歳で新しい事を始めるなど思いもしなかったが、成る程言われてみればできるような気がしてきた。少ない魔力ながら、未練がましく魔力操作の訓練は欠かしていない。室温を下げる程度なら、出来るようになるかもしれない。幸いアルドリックには宰相という地位に上り詰めるために蓄えた様々な分野における膨大な知識がある。イメージも作りやすいだろう。

「そうだな。この歳で新たな挑戦をするなど、心が躍るな。息子に負けないように私も頑張るとしよう。」
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