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04.レッスン1:キス②
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私は王子の両方の頬に軽くキスした。
この国の女性は挨拶の時、ハグの後こうして両頬にキスする。
男女でも友人や親戚ならする。
しかし男性同士の場合、握手かハグのみでキスすることはあまりない。
従って、女性はキスすることに慣れているのだ。
本当なら見知らぬ若い男に未婚の女性が必要もなく触れるのは、はしたないこととされているが、王子に乞われては仕方ないだろう。
王子はとても感動した様子だった。
「これがキスか」
うっとりと王子は囁いた。
彼の目は潤んでいた。
「そうです」
私は首肯した。
大変に良いことをした気分です。
「えー、違います」
アラン様が言った。
「何が違うというのですか?」
と私は彼に尋ねた。
「エルシー様、ぶちゅっと唇にしてあげて下さいよ」
「唇ですか」
それは少し躊躇う。
一般的にそういうキスはとても親しい間柄でのみする。
具体的には夫であるとか恋人であるとか実の兄弟に対してする。
私も兄や弟にする。
「唇……」
と彼は呟いた。
期待した目つきだった。
王子は兄のみ。
姉妹がいたなら当然唇にキスもする。
しかし、彼にはいない。
兄弟も親戚も多い私は何だかそれが気の毒に思えたのだ。
「良いですよ、しましょう」
私は彼の両頬を両手で挟み、兄にするようにちゅっと唇にキスした。
しかし私の兄はこんなにでかくもごつくも美形でもない。
少しキュンとした。
彼は、しばらく私を見つめ、涙ぐんだ。
「これが、キス」
「もう一回」
と彼は催促してきた。
私は首を横に振る。
「いえ、一度です」
「何故?」
美形男は問い詰めるように私に尋ねた。
きゅっと目がつり上がり真面目な顔をすると美形度は上がるが、背後から何か黒いものが立ちのぼる。
王族の怒りオーラか。
こんなところで出さなくてもいい。
彼は家族の常識は知らないのかも知れない。
私はとても親切に教えてあげた。
「キスは挨拶だからですよ。挨拶は最初と最後の一回ずつではないですか」
「だが、これはすごくいい。とても柔らかい。それに一瞬で何だか分からなかった」
「それはそういうものです。ちゅっとするものです、挨拶ですから。そして回数は一回です」
「エルシー様、夫婦はいっぱいするのです」
そう言ったのはアラン様だ。
アラン様は……いくつだ?
男の方の年齢は分からないが、二十六歳という王子と同じくらいに見える。
「そうなのですか?」
「そうです。それに夫婦はもっと長くするのです」
「長くですか?」
私は戸惑った。長くって……。
メリットが分からない。
長くしてどうだというのだ。唇と唇が塞がっていたら話も出来ぬではないか。
「エルシー様、挨拶から離れて下さい。では俺がお二人に教えてあげます」
アラン様が言った。
***
十秒間、私と王子は唇を合わせた。
「どうですか?」
とアラン様に感想を尋ねられる。
「ドキドキしました」
「俺もだ」
と王子が言った。その声はとても近い。
彼は私を抱きしめて離さない。
私も小娘であるから分からないが、彼の抱き方は、男女が抱きしめ合うのと多分違う。
猫を抱いている抱き方に近い。
今の私はしつこい飼い主に抱かれてケッという顔でぷらーんとしている猫だ。
その証拠に彼は時々私の頭を自身のほっぺたでスリスリした。
彼はうわごとのように呟きつつ、私の匂いを嗅いだ。
「ああ、柔らかい、可愛い、癒やされる。ふにふにしている」
やはり猫である。
「息が吸えなくて」
「そうか、俺は感動でだ」
と彼は相変わらず目が潤んでいる。
「良かったですね」
ケッと思いながらも私が逃げないでいるのは、王子がとても幸せそうだからだ。
「ああ、唇がこんなに柔いと思わなかった」
と泣きそうに喜ぶ美形。
良かったねと思いながら、なんかガッカリですよ。
ええ、騎士様で美形の王子様って評判でしたから。
どんな方かなってちょっと憧れてました。
「普通だと思いますよ」
と私は答えた。
もっとも私が逃げようとしても彼の腕から逃れることは多分無理だ。かなり要領よくガッチリと押さえ込まれている。
騎士は、一般人と捕縛のスキルが違う。
身じろぎも難しいレベルで私は確保されていた。
「では次はベロチューです」
ベロチューとは何だと聞くと、今度はテレンス様が言った。
「舌を絡めるのです」
「どういうことか分かりません」
二人は「お待ちください」と言うと後ろを向いてひそひそし始めた。
「びっくりして舌噛んだりしたらマズイですね」
「王子もやりすぎるかもしれんしな」
やがて二人は言った。
「練習からしましょう」
舌を出せという。
「はあ……?」
そう思いながらも出した。
年長者には逆らわないで、つとめて従順であるのがデキる貴族の令嬢である。
しかし王子に舌を出す私。
あり得ないレベルでの不敬ではないだろうか。
テレンス様は言った。
「王子、エルシー様の舌を舐めるんです」
「ひゃ?」
何だそれ?
この国の女性は挨拶の時、ハグの後こうして両頬にキスする。
男女でも友人や親戚ならする。
しかし男性同士の場合、握手かハグのみでキスすることはあまりない。
従って、女性はキスすることに慣れているのだ。
本当なら見知らぬ若い男に未婚の女性が必要もなく触れるのは、はしたないこととされているが、王子に乞われては仕方ないだろう。
王子はとても感動した様子だった。
「これがキスか」
うっとりと王子は囁いた。
彼の目は潤んでいた。
「そうです」
私は首肯した。
大変に良いことをした気分です。
「えー、違います」
アラン様が言った。
「何が違うというのですか?」
と私は彼に尋ねた。
「エルシー様、ぶちゅっと唇にしてあげて下さいよ」
「唇ですか」
それは少し躊躇う。
一般的にそういうキスはとても親しい間柄でのみする。
具体的には夫であるとか恋人であるとか実の兄弟に対してする。
私も兄や弟にする。
「唇……」
と彼は呟いた。
期待した目つきだった。
王子は兄のみ。
姉妹がいたなら当然唇にキスもする。
しかし、彼にはいない。
兄弟も親戚も多い私は何だかそれが気の毒に思えたのだ。
「良いですよ、しましょう」
私は彼の両頬を両手で挟み、兄にするようにちゅっと唇にキスした。
しかし私の兄はこんなにでかくもごつくも美形でもない。
少しキュンとした。
彼は、しばらく私を見つめ、涙ぐんだ。
「これが、キス」
「もう一回」
と彼は催促してきた。
私は首を横に振る。
「いえ、一度です」
「何故?」
美形男は問い詰めるように私に尋ねた。
きゅっと目がつり上がり真面目な顔をすると美形度は上がるが、背後から何か黒いものが立ちのぼる。
王族の怒りオーラか。
こんなところで出さなくてもいい。
彼は家族の常識は知らないのかも知れない。
私はとても親切に教えてあげた。
「キスは挨拶だからですよ。挨拶は最初と最後の一回ずつではないですか」
「だが、これはすごくいい。とても柔らかい。それに一瞬で何だか分からなかった」
「それはそういうものです。ちゅっとするものです、挨拶ですから。そして回数は一回です」
「エルシー様、夫婦はいっぱいするのです」
そう言ったのはアラン様だ。
アラン様は……いくつだ?
男の方の年齢は分からないが、二十六歳という王子と同じくらいに見える。
「そうなのですか?」
「そうです。それに夫婦はもっと長くするのです」
「長くですか?」
私は戸惑った。長くって……。
メリットが分からない。
長くしてどうだというのだ。唇と唇が塞がっていたら話も出来ぬではないか。
「エルシー様、挨拶から離れて下さい。では俺がお二人に教えてあげます」
アラン様が言った。
***
十秒間、私と王子は唇を合わせた。
「どうですか?」
とアラン様に感想を尋ねられる。
「ドキドキしました」
「俺もだ」
と王子が言った。その声はとても近い。
彼は私を抱きしめて離さない。
私も小娘であるから分からないが、彼の抱き方は、男女が抱きしめ合うのと多分違う。
猫を抱いている抱き方に近い。
今の私はしつこい飼い主に抱かれてケッという顔でぷらーんとしている猫だ。
その証拠に彼は時々私の頭を自身のほっぺたでスリスリした。
彼はうわごとのように呟きつつ、私の匂いを嗅いだ。
「ああ、柔らかい、可愛い、癒やされる。ふにふにしている」
やはり猫である。
「息が吸えなくて」
「そうか、俺は感動でだ」
と彼は相変わらず目が潤んでいる。
「良かったですね」
ケッと思いながらも私が逃げないでいるのは、王子がとても幸せそうだからだ。
「ああ、唇がこんなに柔いと思わなかった」
と泣きそうに喜ぶ美形。
良かったねと思いながら、なんかガッカリですよ。
ええ、騎士様で美形の王子様って評判でしたから。
どんな方かなってちょっと憧れてました。
「普通だと思いますよ」
と私は答えた。
もっとも私が逃げようとしても彼の腕から逃れることは多分無理だ。かなり要領よくガッチリと押さえ込まれている。
騎士は、一般人と捕縛のスキルが違う。
身じろぎも難しいレベルで私は確保されていた。
「では次はベロチューです」
ベロチューとは何だと聞くと、今度はテレンス様が言った。
「舌を絡めるのです」
「どういうことか分かりません」
二人は「お待ちください」と言うと後ろを向いてひそひそし始めた。
「びっくりして舌噛んだりしたらマズイですね」
「王子もやりすぎるかもしれんしな」
やがて二人は言った。
「練習からしましょう」
舌を出せという。
「はあ……?」
そう思いながらも出した。
年長者には逆らわないで、つとめて従順であるのがデキる貴族の令嬢である。
しかし王子に舌を出す私。
あり得ないレベルでの不敬ではないだろうか。
テレンス様は言った。
「王子、エルシー様の舌を舐めるんです」
「ひゃ?」
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