竜騎士王子のお嫁さん!

林優子

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08.ティータイム②(詰んでることが判明)

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 王子が熱烈にやりたがったので食べさせて貰ったが、下手だ。
 この人、ケーキ分かってない。
 こぼしそうになるので、餌付けされる方も大変だった。
「旨いか?」
 と期待した感じで問われた。
「美味しいけど、緊張しました」
「そうか、俺も緊張している」
「はあ、こういうの初めてですか?」
 聞くと王子は首肯した。
「初めてだと思う」



 ケーキを食べている最中にテレンス様が部屋を出て行き、そしてすぐに戻ってくる。
 入室するとテレンス様は王子に報告した。
「王子、結局ゲルボルグが触れることを許したのは、エルシー様のみでした」
「そうか」
「あんなにいたのに私一人ですか……」
 あの場にいた若い女性は、八百人以上だったのではないだろうか。
 なのに私だけか。

「はい。これでお妃はエルシー様に決まりです」
 うーん、二号がいたらどうだっただろうか。
 一時間くらい前は熱烈に仲間が欲しかったが、今はどうだろう。
 私と王子とそしてこの場にもう一人はなんか想像し辛くなっていた。

 いやいや、と私は首を振る。
 私の気持ちなんてどうでも良い。
 これは結構困ったことになったのではなかろうか。
 もう一人でも合格者がいれば王子の子供が出来る確率は倍になる。
 何なら一〇人くらいいてもいい。
 そういうお妃様選び大会であったはずだ。

「殿下はどうですか?残念でしたか?」
 いや、もう合格者なしなんだから聞いても仕方ないけど、なんかこう、聞いてしまった。

「…………」
 王子は眉をひそめる。
 今まで一番オーラ出てる感じでにらまれた。
「エルシーは何故俺を殿下と呼ぶ?グレンと呼べと言ったはずだ」
「いや、やっぱりちょっと慣れてなくて」
「妃となるのは、お前と決まったのだ。慣れろ」
「はあ、じゃあグレン様」

 王子はぷいと横を向いて黙り込んだ。
 機嫌悪そうだから、私はアラン様に尋ねた。
「それにしてもすごいですね、ゲルボルグ。そんなに女子嫌いですか?」
「嫌いですね。王子の周りにちょっとでも女性の匂いがするだけでも駄目です。そのため王子の世話は全て男性がします」
 そこまで徹底してるのか……。
 私はふと気付いて聞いた。
「従僕ぽいお仕事も騎士様がなさるんですね」
「ここは王城でも本宮殿と呼ばれる主棟ではなく、竜舎に近い別棟ですので従僕の仕事も騎士が代わりに致します」
 体格良さそうな騎士の人ばかりに囲まれてると、確かに柔らか系に飢えるかも。
 変態呼ばわりして悪かったか、と少し反省した。

 しかし柔らか系と言えば、女子だけでない。
「猫とか飼っちゃ駄目だったんですか?」
「ああ、王子、動物に嫌われてます。竜の側にいる我々竜騎士は匂いが移るのか怖がられるんですよ」
 王子、隙なく気の毒だな。


 紅茶を飲んでいるとアラン様に改まった様子で見つめられた。
「エルシー様、お尋ねしてもよろしいですか」
「もちろんです」
「エルシー様は王子のこと、怖くないんですか?王子、基本喋らないし怒ると男でも怖がるものですが」
「ああ、本気で怒ってないのは分かりますし、うち家族多いですから誰かがちょっと機嫌悪いって良くあることですし、だから気にしないっていうか……」
 兄弟多いと受け流す力が鍛えられるのだ。
 現に王子は怒ってるというわりには私にケーキ食べさせようとしてくる。
 目の前に突き出されたチョコレートケーキを食べながら私はアラン様に答えた。


「エルシー様、何人兄弟ですか?」
「姉が三人で兄二人、弟一人です」
「ご兄弟多いですね」
「そうですね、多めですね」
「王子、良かったですね、多産なお嫁さんにバンバン産んで貰えますよ」
 とアラン様は王子に声を掛ける。

 王子はまだ怒ってるのか、機嫌悪そうに言った。
「そんなことを言っては失礼だろう」
「失礼よりですけど、うちは兄弟多いの見込まれて姉達も子爵家の割には結構良いところにお嫁に行きましたから、気にしないでください。大事なことですし」
 姉達はそれぞれ伯爵家だとか、子爵家でも長子であるとかまあそこそこのところに縁づいている。
 姉達個人の魅力もあるだろうが、多産の家系というのもプラスになっているはずだ。

 貴族は家の存続が第一義なのだ。
 子供が出来ないことは離縁の理由になり得る。
 子供が少ない貴族は愛人こさえてまで家を継ぐ子を作る。
 なのに、王子の兄弟は国王陛下である兄が一人だけ。
 王家は貴族の感覚だと怖いくらい子供がいないのだ。
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